連載急成長スタートアップ3社が語る、勝てるコミュニティサービスを生むためのポイント
マネタイズよりも、“愛”を優先。
急成長スタートアップ3社が語る、勝てるコミュニティサービスを生むためのポイント
「コミュニティ」がビジネスにおけるバズワードとなっている。数多くのコミュニティサービスが、生まれては消えていった。
車のコミュニティアプリ「CARTUNE」、コスメのクチコミコミュニティアプリ「LIPS」、スマホ一台でゲームのストリーミング配信ができる「Mirrativ」の3つのサービスの生みの親たちが、勝てるコミュニティサービスづくりの要諦を徹底議論するイベントが開催された。FastGrowでは、イベントの様子を、前後編の2回にわたりダイジェストでお届けする。
今回は、各登壇者がそれぞれプレゼンした個別セッションの内容を紹介した前編に引き続き、パネルディスカッションと来場者からの質問への応答の様子をレポートしていく。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
コミュニティサービス成功のポイントは、「マジックモーメント」の見極め
パネルディスカッションの最初のお題は「この領域を選んだ理由」。戦略的に領域を選定した「CARTUNE」福山氏と「LIPS」深澤氏、10代の頃の原体験に突き動かされて選んだ「Mirrativ」赤川氏との対比が印象的だった。
福山トレンド、競合環境、熱量、スマホとの相性といった要因を勘案し、車という領域を導き出しました。僕自身、車は好きですが自分の車は持っていないですし、CTOに至っては免許すら持っていません(笑)。
深澤うちは結果論的な決め方でした。創業後にいくつかサービスを立ち上げたのですが、上手くいかず、初めて軌道に乗ったのがLIPSだったんです。アイデアも共同創業者の松井友里が出してくれたものなので、僕自身の深い思い入れがあったわけではないです。
赤川 僕は高校生の時の「チャットルームに行くと大人たちが知らない音楽を教えてくれる」体験が原体験としてあり、趣味で集まるコミュニティサービスをつくることに決めました。
続いて、赤川氏の個人セッションで話題に挙がった、「投稿者兼閲覧者」(バイユーザー)についての議論。福山氏は、地道だが着実な手法でバイユーザーを増やしていったそうだ。
福山CARTUNEの初期は、Twitterで熱量の高い人にDMを送り、サービスの概要とメリット(特に、ナンバープレートが消せる点)を訴求していました。結果、着実にバイユーザーを集められたと思います。
赤川 初期のLIPSには、バイユーザーは多かったのでしょうか?
深澤CARTUNEやMirrativと比較すると、一番メディア寄りで閲覧者が多めだったかもしれません。ただ、個別セッションでもお話したYouTuberプロモーションは効果的で、熱量の高いバイユーザーが増やせました。
深澤氏が個人セッションで触れていた「マジックモーメント」(「このプロセスを経ると定着しやすい」ポイント)についての話も盛り上がった。話題は、オンボーディングの重要性にまで及んだ。
福山CARTUNEはもともとリテンションレート(既存顧客の維持率)の低さに悩まされていましたが、投稿量が一定以上あるとリテンションレートも上がると気づいてからは、投稿者のリテンションレートをメインに追うようになりました。試行錯誤する中で、「投稿した瞬間にすぐLikeがつく」ことがマジックモーメントだとわかると、そこに向けた施策だけを打つようになりましたね。
赤川 Mirrativはゲーム配信サービスで、すぐ反応がないとライブが終わってしまうので、「コメントされている率」を重点的に追っていました。運営アカウントで地道に話しかけにいくようなこともしていましたね。
深澤LIPSは閲覧のみのユーザーが多く投稿の動機付けが難しかったのですが、特にオンボーディングを重視し、インストールから24時間以内の投稿率を追っていましたね。たとえば、オンボーディング時にしっかりと年齢やお気に入りのブランドを入力してもらい、それに合わせて見せる商品を出し分けたりしていました。
赤川 入力項目を増やして、離脱率は上がらなかったのですか?
深澤意外に上がらなかったですね。自然な流れで入力してもらえば、95%以上は通過してもらえました。
福山うちは入力項目を増やすことはせず、どの広告キャンペーンから入ってきたかによって属性を取得していました。それさえわかれば、動的にオンボーディングフローを変えられます。
Twitter広告はコミュニティサービスと相性良し
マーケティング手法についてのディスカッションも行われた。コミュニティサービスのマーケティングのカギは、Twitter広告だという。
赤川 Mirrativのようなライブストリーミングサービスはそもそも開発・運用コストが高いので、広告費はできるだけかけたくなかった。たとえば、ゲーム会社とコラボし、ゲームにもMirrativを良いものとして宣伝いただくことで、広告費を節約していました。
最近は徐々に広告費を増やしはじめていますが、Twitter広告が特に強い印象です。インフルエンサーマーケティングも当然視野には入れていますが、そのインフルエンサー目当てのユーザーが多いので、CPIは良くてもリテンションレートが低く、結局ペイしない印象があります。
福山YouTuberなどによるプロモーションは、2回目以降に急速に枯れてしまう「焼畑農業」的な側面がありますよね。
深澤同じ人に2回は厳しいですよね。LIPSは、ファン層の被りが出ないように色々なYouTuberさんにお願いしていました。また、Mirrativ同様、Twitter広告は強いですね。
福山コミュニティサービスのマーケティングは、Twitterをいかにハックするかが重要ですよね。MixChannel時代も同じことを思いました。
愛されるコミュニティさえできれば、マネタイズは後からついてくる
最後は、来場者からの質問に3名が答えていくセッション。仔細なUI設計のTipsからマネタイズ戦略まで、鋭い質問が飛び交った。
古参ユーザーが増えてきた時に、どうすれば新規ユーザーが入ってきやすい環境をつくれるのでしょうか?
福山CARTUNEの場合は、新着投稿をメインストリームに出し、新規ユーザーにも平等に機会が与えられるようにしています。
赤川 古参が新規に比べて有利になりすぎるといった上下関係が発生しない環境をつくるのが大事です。ライブストリーミングは他のサービスと比べて仲良くなるスピードが早く、リリース3ヶ月後にはもう「昔は良かった」と言うユーザーが出てきたのですが、短期で熱くなるユーザーは意外にすぐいなくなります。上下関係をつくらず、長期で愛してくれるユーザーを大切にしましょう。
深澤LIPSは、月間でランキングをつくったら荒れてしまったことがあります。紆余曲折を経て、新規ユーザーを目立たせ、ランキングは目立たないように残す方式に落ち着きました。
悪意のあるユーザーに備え、コミュニティの治安を守るための取り組みは行われていますか?
福山利用規約違反はもちろんのこと、車以外に関する投稿が増えないように、パトロールは行なっています。また、画像認識で車かどうかを判別するなど技術面からの工夫もしていますね。
深澤LIPSも、コスメ以外の投稿が出てきて荒れてしまったことがありますが、「雑談」タグを作って棲み分けてもらうことで解決しました。
赤川 個人的には、治安は守りつつも、「ユーザーに踊らされるようなコミュ二ティにする」ことが大事だと思っています。僕の師匠である元ミクシィ副社長の原田明典氏に教えていただいたことでもあるのですが、本来想定していなかった使い方をされていても、ユーザーが楽しんでいるなら、それに対応するタグを追加するなど、ユーザーの行動にあわせて初期の仮説を柔軟に変えていくことを意識していますね。
CARTUNEやLIPSは会員登録せずに使える仕様になっていますが、登録導線がないことによるポジティブな効果はありますか?
深澤LIPSはもともと登録導線があったんですが、途中で「ここで入力してもらっている情報、意味ないな」と気づき、取り払いました。登録導線をなくしたぶん、新しい機能やステップを入れやすくなったと思います。
福山CARTUNEははじめから会員登録なしでも投稿できる仕様だったので、効果についてはなんとも言えないですが、1日以内での会員登録率が60%近くあるので、登録導線がなくても問題ないのではないかと思います。
赤川 お二人の話を聞いて思ったんですが、サービス初期は下手にグロースハックをし過ぎない方がいいのかもしれません。本当にユーザーの熱量が高くて伸びるサービスは、多少ハードルが高くても支障にならないので。細かい登録導線にこだわる前に、まずは本質的な価値提供に向き合った方がいいのではないでしょうか。
ユーザーさん同士のオフ会を促すような施策は行われていますか?
福山特に何も働きかけていません。ただ、オフ会を開催する場合は、CARTUNEという名前も出していいし、コーヒーやステッカーも送るといった後方支援するようにしたら、自然と輪が広がっていきました。
深澤僕も特にこちらからの働きかけはしていませんが、自然とユーザー同士が仲良くなり、一緒にコスメを買いに行ったりコラボして投稿したりするケースは見られます。トップダウンでオフ会を促して、上手くいくイメージはないですね。
赤川 Mirrativも特に何もしていませんが、自然発生的にオフ会が開催されるようになりました。運営側から強制すると、むしろ白けてしまうと思います。ユーザーが自主的にやっている時に、少し油を注いだり支援させていただく形の方が、コミュニティサービスとしては盛り上がるのではないでしょうか。
マネタイズ戦略についてはどうお考えですか?
赤川 ユーザーに愛されるコミュニティさえつくれば、マネタイズは後からつけていけると思っています。たとえばYouTubeも、今でこそ「YouTuber=稼げる職業」といったイメージがつくほど広告収入システムが整備されていますが、リリース当初はGoogle AdSenseとの連携はありませんでした。YouTuberが増えてコミュニティの熱量が高まった段階で、満を持してAdSenseと連携したんです。
「金の切れ目が縁の切れ目」とならないよう、まずは愛されるコミュニティをつくることを第一にしています。とはいえ、マネタイズとコミュニティの熱のどちらを優先するか、残っているキャッシュを見ながら常に比較検討はしていますが(笑)。
福山マネタイズについては模索中です。たとえば、「廃番になった車やパーツが流通する中古品経済圏のようなものをつくれないかな」などと考えたりしています。
広告商品のボリュームの調整が難しいなと思っています。営業観点から見ると広告をたくさん増やして売り上げをアップさせたい反面、プロダクト観点では、オーガニックの信頼性が失われることへの懸念も生じてしまうので。
赤川 あと、以前は「コミュニティ=儲からない」といった言説をよく目にしましたが、最近は反証例がたくさん出てきているなと思っていて。たとえばFacebookは、最初は儲からないと言われていたのに、これだけの大企業になりました。結局、愛されているのに儲からず死んでいったコミュニティサービスはないと思うんです。ニコニコ動画然り、クックパッド然り。
登壇者3名のトークを通じて、コミュニティサービスは「お客様」に何らかの商品を提供する一般的なビジネスとは性質が異なる、という印象を強く受けた。ユーザーを支援することが、コミュニティサービス提供者の使命。マネタイズやグロースハックに頭を悩ますよりも先に、いかにコミュニティへの“愛”を持って熱狂してもらえるかに注力することが、成長への一番の近道なのかもしれない。
こちらの記事は2018年10月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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2記事 | 最終更新 2018.10.05おすすめの関連記事
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