連載急成長スタートアップ3社が語る、勝てるコミュニティサービスを生むためのポイント

あえて直感に反する施策を打て。
急成長スタートアップ3社が語る、勝てるコミュニティサービスを生むためのポイント

登壇者
赤川 隼一
  • 株式会社ミラティブ 代表取締役 

2006年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。「Yahoo!モバゲー」等の立ち上げ後、新卒出身者として初の執行役員に就任し、海外事業の統括やゲーム開発に携わる。2018年2月、「わかりあう願いをつなごう」をミッションに株式会社エモモ(現 ミラティブ)を創業し、日本最大のスマートフォンゲーム配信サービス「Mirrativ」を運営中。

深澤 雄太

1994年生まれ、2013年度東京大学入学。中学時代に独学でプログラミングを習得。大学入学後の2013年に友人らと共に「東大無料塾」を立ち上げた後、大学を休学しfreee株式会社で1年間インターンを経験。個人でのシステム開発の受託などを経て、2016年2月に株式会社AppBrewを設立。コスメのコミュニティアプリ「LIPS」を2017年1月にリリース。

福山 誠
  • マイケル株式会社 Founder, CEO 

早稲田大学大学院修了後、2009年4月に新卒としてグーグル株式会社に入社。2011年8月にシンクランチ株式会社を創業し、2012年12月、Donuts がシンクランチ株式会社の全株式を取得する形で Donuts に参画。動画コミュニティサービス MixChannel の責任者としてプロダクト設計および開発、収益化に従事した。2016年12月にマイケル株式会社を設立し、車に特化したコミュニティアプリの「CARTUNE」を展開。

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「コミュニティ」がビジネスにおけるバズワードとなっている。トレンドに後押しされ、数多くのコミュニティサービスが、生まれては消えていった。

車のコミュニティアプリ「CARTUNE」、コスメのクチコミコミュニティアプリ「LIPS」、スマホだけでゲームの実況配信ができる「Mirrativ」の生みの親たちが、勝てるコミュニティサービスづくりの要諦を徹底議論するイベントが開催された。

FastGrowでは、イベントの様子を、前後編の2回にわたりダイジェストでお届けする。今回は前編として、各登壇者がプレゼンした個別セッションの内容を紹介していく。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
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コミュニティサービス成長のポイントは「反直感」。

最初に紹介するセッションは、株式会社ミラティブの代表取締役・赤川隼一氏による、「Mirrativの初期失敗から見るコミュニティ初期のアンチパターン」。

Mirrativは、「友達の家でドラクエやってる感じ」がコンセプトの、スマホだけでゲーム実況ができるライブ配信サービス。配信のハードルが低く、アクティブユーザーの20%以上が配信者である点が特徴だ。結果として、一人あたりの配信時間・視聴時間がともに1日100分弱と長い。最近では、スマホ1台だけで、誰でもバーチャルYouTuberのようにアバターで生配信・ゲーム実況ができる世界初の機能「エモモ」が新たにリリースされたことで話題になった。

赤川氏によると、コミュニティサービスを成長させるためのポイントは「反直感的」に動くことだという。

赤川直感的にはロジカルでなく見えて正しくなさそうなことでも、コミュニティサービスの場合は正解になるパターンは多いです。今日は、僕が盛大に踏んできた“地雷”を共有しつつ、失敗例から学びを得ていただけたらと思います。

まず、PRについて。赤川氏は、コミュニティサービスの最初期において、PR媒体やインフルエンサーを活用した積極的なマーケティングは成功につながらないことが多いという。初期のコミュニティには、ユーザーに「やっと自分のためのサービスができた」と思われる異常なまでの熱狂と熱量が必要で、反応を見ながら少しずつサービスを改善していくことが重要。大規模なマーケティング施策を打つと、ターゲットユーザー以外も獲得できてしまい、検証の際にノイズが増えてしまうのだ。

続いて、「鶏が先か、卵が先か」問題。多くのコミュニティサービスは、立ち上げ初期に、ユーザーが集まらないためにコンテンツが貯まらず、コンテンツがないためにユーザーが集まらない問題に直面する。

赤川氏によると、投稿者を増やす施策と閲覧者を増やす施策、それぞれを同時並行で注力することも失敗しやすい。最初期に大切にすべきなのは投稿者兼閲覧者、すなわち「バイユーザー」だという。『クックパッド』や『食べログ』の歩みを振り返っても、最初期においては「見る人はいないけれど、書きやすいから書く」「自分が書いたものを見に来てもらうために、足跡をつけにいく」人たちがコミュニティを活性化させていた。

また、高い目標数値を設定し、チームを鼓舞していくやり方も失敗しやすいという。たとえば、「1ヶ月で3万WAU到達」といったKPIは、強引にマーケティング施策を打てば到達するかもしれないが、本質的ではない。

そうではなく、「毎週7%成長」「一人あたり滞在(配信)時間」といった、“成長率”と“熱量”に関わるKPIを追うことが有効なのだ。たとえばMirrativは、初期は伸び悩んだ時期もあったが、熱量のあるユーザーをオーガニックで地道に積み重ねていった結果、ユーザー数と滞在時間が着実に伸びていった。

最後は、アメリカトップクラスのアクセラレータ・Y Combinator(Yコンビネータ)のポール・グレアムの言葉「スケールしないことをしよう」を紹介してセッションを締めてくれた。

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「LIPS」が直面した、コミュニティ立ち上げ時の4つの「壁」

続いて、株式会社AppBrew代表取締役の深澤雄太氏による「LIPSが経験した、コミュニティ立ち上げ時の壁の乗り越え方」。

開発・運営する「LIPS」は、現在急成長中であるコスメのクチコミコミュニティアプリ。総ダウンロード数は150万を突破しており(2018年9月3日現在)、コスメアプリで国内トップのアクティブユーザー数を誇る。

深澤氏は、LIPSをグロースさせる中で、4つの壁にぶつかったと述べる。

まず、赤川氏も言及していた、「リリース後の鶏と卵問題」。LIPSも、初期はこの問題に直面したという。

そこで、想定ユーザーに近いセグメントの有償モニターに投稿してもらいつつ、アプリにフィードバックをもらう施策を取った。5,000近くの投稿を集めた結果、オーガニックの投稿も増えていったそうだ。

2つ目は、「ユーザーが少ない問題」。クチコミは集まったが、リテンションレート(既存顧客の維持率)が低く、ユーザーの流入も不足していた。そこで、リテンションレートが高いと想定される、InstagramやYouTubeを積極的に利用している20代前半のユーザーにアプローチすべく、YouTuberによるプロモーションに多額の資金を投入する賭けに出た。結果、一気に定着率が上がったという。

3つ目は、「データが取れていない問題」。アプリ開発未経験のチームでスタートしたこともあり、ログがしっかりと取れていない、Webと違って即時更新ができないなど、技術面での苦労が多かった。この点については、深澤氏自らが分析基盤を構築することで乗り越えたそうだ。

最後は、「改善できていない問題」。深澤氏は「定性的な仮説から、思いつくままに新機能を作ったが、あまり効果が出ないというサイクルを繰り返す時期があった。振り返ると、多くの人が通過するオンボーディング画面やトップ画面の改善を集中的にまわしていくことが効果的だった」と語る。

また、「マジックモーメント」(ユーザーが定着しやすいプロセス。LIPSの場合は、クチコミ投稿画面が該当する)に焦点を合わせて最適化していくことも有効だという。

これら「4つの壁」の他にも、経営目線からのアドバイスも語った。

深澤状況に応じてKPIを柔軟に変えていくことも重要です。もともとLIPSはSNSとして始めたサービスですが、ユーザー動向を見るとショッピングサービスと似ていることが判明したので、DAU/MAU比率、平日と土日の数値比較など、視点を変えてKPIを設定し直しました。

深澤氏は「コスメアプリとしては国内No.1の座を確立し、マネタイズも予定通り進んでいる」という。今後は「コスメ探しの第一想起」を目指し、オフラインの経路などにも手を広げつつ、新規事業立ち上げも検討していると語った。

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CARTUNEが取り組む、気軽に自慢しあえる「場」づくり

そして、マイケル株式会社代表取締役の福山誠氏による、「CARTUNEのなりたちとこれから」。

福山氏は、もともとコミュニティサービスをつくるのが好きだという。現在注力中の「CARTUNE」以前にも、「ソーシャルランチ」「MixChannel」など複数のサービスを創業した。

CARTUNEは、日本でNo.1の車コミュニティサービスで、車の写真を投稿することでユーザーが交流できる。現在までに55万ダウンロードされ、MAU30万人に対して1日の投稿数は7,000。北海道から沖縄まで、ユーザー同士で自発的にオフ会も開催されている。

福山氏がCARTUNEを通じて実現したいことは、極めて明快だ。

福山シンプルに、気軽に自慢しあえる「場」をつくりたいと思い、CARTUNEの開発をスタートしました。今でもその方針は変わっていません。

スマートフォン普及前も、PCサイト上で車コミュニティは存在したが、20〜30代が気軽に新規利用できるサービスはCARTUNEがはじめてだったという。

また、画像認識技術を応用してクリックされやすい車の角度を検証したり、ナンバープレートを隠す技術を実装するなど、技術面でも意欲的な取り組みをしている。機械学習によって車の写真から属性を判別し、コンテンツをタグ付けする機能もある。

今後はマネタイズに注力していくそうだ。車を改造することは費用がかかるため、もっとリーズナブルに車を「いじれる」ような、独自の経済圏を構築したいという。

本記事では、登壇者3名の個別セッションの様子をお届けした。後編では、3名のパネルディスカッション、さらには来場者の質問への応答の様子をレポートする。

こちらの記事は2018年10月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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2記事 | 最終更新 2018.10.05

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