連載新たなPMのカタチの確立を目指す ──アンドゲートの挑戦

「問題解決をする“方法”のシンクタンクとなる」──PMとして専門家たちの成長を支えるアンドゲート

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インタビュイー
田村 謙介

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科を修了後、2017年8月に株式会社アンドゲートを設立。エンジニア人生で培った泥臭さとテクノロジー、学術に基づいた理論を武器に、プロジェクトのディレクションやマネジメントを行う。知識ではなく方法によって複雑化する世の中をシンプルに解明し、ビジネス社会における構造変革を追求。その独自性が高評価され、すでにメジャーな成長企業の複数プロジェクトで継続的に成果を重ねている。

北川 雅弘

2000年よりウェブ制作会社に勤務し、プロジェクトマネジメントやディレクションを担当。その経験をもとに2013年7月に会社設立。さらに多岐にわたるマネジメントを経験し、次のアクションを模索中に、田村謙介、岸上健太郎との会合に参加し意気投合。株式会社アンドゲートの創立にジョインする。様々な経験から得た「さばき力」によってビジネスの推進、開拓を実現する。

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今、高い専門性を扱う企業で働く人がその専門分野に集中することができない構造になっている。

それは世の中の進歩を阻む壁ではないか?

アンドゲートは、複雑化する世の中を“方法論”によってシンプルに解明することを目指す。

プロジェクトマネジャー(以下、PM)の役割を買って出ることで、専門企業をサポートする同社。

代表取締役である田村謙介は、「僕たち自身は何もできない。でも、問題解決のための“方法”は持っている」と語った。

  • TEXT BY MISA HARADA
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
  • EDIT BY GEN HAYASHI
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エンジニア業界、PM不足の理由とは?

高校時代に小遣い稼ぎでレンタルサーバ業を始めたのをきっかけに起業前はずっとエンジニア畑に身を置いていた田村は、業界のPM不足を指摘する。

田村エンジニアは、エンジニアリングが好きでエンジニアになっているんです。必ずしもプロジェクトマネジメントがやりたいわけではない。

それなのに、ちょっと経験が豊富になり職位が上がってきたら品質チェックや工程管理を任されるのは、おかしな構造ですよね。単純にエンジニアはエンジニア、マネジャーはマネジャーで住み分けした方が、良い結果が生まれるのではないかと思ったんです。

株式会社アンドゲート 代表取締役 CEO 田村 謙介氏

しかし、田村自身は会社員時代にPMを任されたとき、やりがいを感じた。その理由は何かとたずねると「お金が好きなんですよ」と明かした。

田村お客さんの要望が反映されていなかったらどんな素晴らしいシステムを作ってもお金は頂けないですし、お客さんの要望通り作ってもエンドユーザーが使ってくれなければ、それこそ意味がないですよね。

正しい物を正しく作る裏にはビジネスがあって、その先にはお客さんがいて、更にその先にはエンドユーザーがいる。そこを調整するPMという立場はとても面白く感じました。

実は田村は学生時代、お金を稼ぐことが好きなあまり、アルバイトのしすぎで一度大学を中退している。

翌年に夜間大学に入り直して、昼間働く生活を送るようになった。そのため現在29歳にして、社会人生活は10年目。「稼ぐために考えるのが好き」で、過去には年収をどこまで上げられるかに挑戦していたこともある。

田村お金の話をするとがめつい印象があるかも知れませんが、性格は至って温厚です(笑)。お金を目的として捉えるのではなく、やりたいことを実現するための手段として捉えています。

資金が多いほどやりたいことの実現可能性は高まります。それ自体は良いことだと思うので、誠実にお金に向き合うことが大切だと思っています。

そんな田村が27歳のとき大学院に通い始めたのは、働く中で組織マネジメントの難しさに気づいたからだ。そして、働きながら慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科で学ぶことを決断。

田村は、「忙しすぎて地獄の2年間だった」と苦笑するが、その分得たものは大きい。

田村会話をインターフェースと捉えたら、人間同士のことだって一種のシステムなんです。学ぶうちに一見複雑に思える組織のこともプロジェクトのことも、正しい方法さえ知っていればシンプルに解決できるものだと気づきました。その気づきと、エンジニアのことがわかるPMが足りていないという問題意識がつながっていきました。

エンジニアとして泥臭く手を動かしてきた部分と、学術的に学んだ部分が組み合わさって、自分の成すべきことが見えた。大学院を修了して、田村は2017年8月にアンドゲートを設立する。

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PM業を細切れにして、コストカットを実現

企業側から見た時に、フリーのPMやPMOを担当する会社自体は多い。しかし、価格が高いために気軽にオファーできる存在ではない。

一方、アンドゲートは、田村を始めとしてメンバーたちがエンジニアとしてのバックグラウンドも持っていること、そして、“気軽に頼めるPMであること”を強みにしている。どのようにコストカットを実現したのだろうか?

田村PMの作業をどんどん分解していって、手を動かす仕事、つまり代替可能な部分は別のリソースで動かすことにしました。

頭を使う仕事って、ひらめきがあれば時間的な制約はほとんどなかったりしますよね。頭を動かすことが得意な人が生みだしたアイデアを広く伝えていくための、資料作りなどの作業は別の得意な人に切り出して任せてしまうんです。更にエンジニアのバックグラウンドを活かして積極的に自動化しています。

田村は、PMの専門家にプロジェクトを束ねさせることによって、専門企業が他社との調整に使っている時間をより専門分野の知見を究める時間に充てることができると考えている。

有能なエンジニアが取引先との調整に時間をとられ、本業のエンジニアリングに充てる時間を奪われているようではもったいない。アンドゲートが仲介することで専門家たちは自分たちの能力を出し切り、専門性をより一層高められるのだ。

田村専門家たちには新しい技術の研究をどんどん推し進め、専門性を追究してもらった方が社会的に絶対に良い。だから、それぞれの調整役は僕たちに任せてください。なぜならアンドゲートには、複雑なシステムを解決するための“方法論”があるからです。

田村は、知識ベースの管理構造は限界を迎えつつあると指摘する。

産業の発展に伴い、分野ごとの専門性がどんどん深化・細分化している中で、すべての分野を理解してプロジェクトの管理を行うことはもう不可能に近い。そこを解決するのが、彼が繰り返す“方法論”である。

大学院に通う中でさまざまな思考法やフレームワークを学術的に体系立てて学んだ。しかし、これらを正しく理解した上で、ビジネスに適切に落とし込めている人間は少ないのではないか──。

ロジカルシンキングやデザイン思考を組み合わせて、実社会に適合させて活用していく。それが、“方法論”の裏にある考えだ。田村は、「正解を教えてくれるPMが今までのスタンダードでしたが、これからの時代は、“答え自体はわからないが、答えを導く方法は提供できる”というコンセプトがフィットするんじゃないか」と語る。

田村『僕たち自身は何もできません。でも、問題解決のための“方法”は持っています』という立ち位置を極めたいと思っています。そのためには、持っている方法の数をとにかく増やす。お客さんに方法を提供して一緒に答えを見つけていく中で、新しい方法が見つかったら、それはきちんと蓄積していきます。

将来的には、『こういう方法で、こういう問題をこう解決した』というのを引っ張れるデータベースを作りたい。僕らは、解決方法のシンクタンク、メソドロジーファームになりたいんです。

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ゆくゆくはイノベーション・コンサルタントに

分業制でPM業を行うアンドゲートでは、“理想の絵を描く”カタリスト、“正しく物を作る”ディレクター、“新しいものを作る”イノベーターの3つの役割を社員に割り振り、それぞれの役割の中でも何段階かのランク付けをしていく構想を抱いている。

田村違う役割同士は協力関係にありますが、同じポジション同士ではランクの上下で“戦争”を起こしてほしい。それが企業のアウトプットの底上げにつながっていきます。

新卒はまずはディレクターとして資料作りなどの手を動かす業務に携わって社会人としての基礎を学び、その後は「お客さんの問題解決をしたいのか/新しいものを作りたいのか」といった適性判断をする。

あくまで構想とはいえ、かなりシビアなシステムに思う人もいるだろう。しかし、実際のアンドゲートには非常に大らかな人々が集っている。

現在いる社員2名のうち、1人は介護のためリモートで働くことが多く、もう1人は時短勤務で子育て中。田村は、「社員1号、2号がそんな感じだから、もうどんな人が来ても大丈夫。お客さんさえ困らせなければ、働き方は自由です」と笑う。

社内のゆったりとした雰囲気は、代表取締役である田村と、取締役である北川雅弘と岸上健太郎の間にかなりの年齢差があることも関係しているかもしれない。

株式会社アンドゲート 取締役 COO 北川 雅弘氏

若い順から田村、岸上、北川と、それぞれ7つずつ年齢が違う。全員IT業界に身を置いていたところは共通だ。北川はアンドゲートの取締役であると同時に、自身もPMの会社を経営する立場である。その彼が自身のビジネスを続けつつ、アンドゲートにジョインしたのは何故なのだろうか。

北川僕の会社はスケールせず、1人で自分の手の中に収まる範囲のことに注力してきました。だから、同じ領域で、スケールを目指すアンドゲートはどんな感じの企業になるんだろうという興味がまずあって。あとは、メンバーそれぞれ山の上り方は違っても、頂上がどこかを共有できたことも大きいですね。

田村はビジョナリスト、岸上は技術屋、北川は「回してなんぼ」のCOO。創業メンバーは、異なるタイプの人間がバランスよくそろった。

いわゆるスタートアップ的な前のめりの雰囲気はそこまで感じさせないが、そのぶん落ち着きがある。3人のうち最年長である北川は、自分のことを「爺やみたいな感じ(笑)。経験を積んだぶん、そこは危ないと伝えることもできるし、逆に走り出す瞬間をじっと見守るのも役目」と穏やかに語った。

今求めているのは、「これから会社をスケールしていくために、人を円滑にマネジメントできる人材」。また、「方法論に興味を持ってくれる人」だ。

今年30歳を迎える若き経営者である田村は最後に、アンドゲートとして進む未来のイメージを明かしてくれた。

田村人数が増えれば増えるほど社会へ与えられる影響力は増すので、3年後は社員100人くらいの会社に拡大したい。

また、僕たちが企業と企業の媒介をすることで、企業の専門性が高まり、高い技術水準での新たなコラボレーションが生まれていくことを現在ではミッションとしていますが、実はその先のイメージもあるんです。

それは、“イノベーション・コンサルタント”になること。方法論を蓄積することによって、いずれは『イノベーションを起こしたいけれど、イノベーションの起こし方がわからない』という相談にも答えていくつもりです。

既存のビジネスを成長させるだけでなく、誰もが想像していなかった新たな価値提供も行っていく。それがアンドゲートの目指す未来です。

こちらの記事は2018年01月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

編集

早矢仕 玄

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