メルペイが徹底する「2つの鉄則」──リリース1年半で利用者数500万を達成した急成長組織の裏側
2019年2月のサービス開始以来、125日間で登録者数200万人に到達し、2019年10月現在では利用者数500万(※)を超えるユーザーを抱える『メルペイ』。圧倒的なスピードでの「キャッシュレス革命」を支えるのは、金融や広告など、さまざまな業界から集うトッププレイヤーたちだ。
※メルペイ「電子マネー」の登録を行ったユーザーと、「メルペイコード払い」、「ネット決済」、「メルペイスマート払い」等の利用者の合計
多様な出自を持つプロフェッショナルたちを統率し、スピーディーに事業を推進していくのは容易ではないだろう。FastGrowでは、メルペイ躍進の裏側を明らかにすべく、代表取締役CEO・青柳直樹氏、CPO・伊豫健夫氏、CBO・山本真人氏、VP of Sales & Business Development・金高恩氏を招いてトークイベントを開催。
1年半で数十倍へと組織を急拡大させながら、スピーディーな事業成長も両立させた秘訣に迫った。その鍵は、「ミッションへの共感」と「オープンコミュニケーション」だった。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- EDIT BY MASAKI KOIKE
プロダクトが存在しない状況で、いかにして組織規模を急拡大していったか
まずは代表取締役CEOの青柳氏から、メルペイ躍進の軌跡が語られた。
グリーで取締役CFO、アメリカ法人CEOなどの要職を歴任してきた青柳氏。メルペイの代表に就任したのは、メルカリが約800人規模の組織となり、上場を目前に控えた2017年11月だ。
当時は「決済サービスの立ち上げ」のみが決まっており、事業プランは皆無だったという。青柳氏自身も「銀行のようなものをイメージしており、声をかけてもらった当初はピンときていなかった」。しかし、メルカリCEO・山田進太郎氏と一緒に中国へ赴いたことが、ジョインの決め手となった。
青柳AlipayやWeChatを見て、驚きました。「日本でも、こういうシステムをつくりたい」と思わされましたね。山田が思い描く「金融事業」は、僕の想像を遥かに超えていたんです。
山田氏のビジョンに惹かれ、ジョインを決めた青柳氏。2週間という恐るべきスピードで、会社のミッションやビジョン、事業計画をつくり上げ、メルカリの全社総会で発表を行った。
当時から既に、現在のメルペイが行っている決済サービスの「その先」を見据えていたという──決済サービスを入り口とした、「新たな価値交換の仕組みの構築」である。メルカリや外部のプラットフォームで行われる取引データをもとに「信用」を可視化することで、貨幣が介在しない形の取引を増やし、モノの流動性を高めていくことを構想していたのだ。
青柳氏が次に着手したのが、組織づくりだ。
採用時に何よりも重視していたのが、ミッションへの共感だ。設立から1年ほど経つまでは、青柳氏がほぼすべての最終面接を担当し、その度合いを自らの目で確かめていたという。
青柳メルカリからの転籍者、IT業界、金融業界…プロダクトもまだ存在していない状況で、多様なバックグラウンドを持つメンバーの目線を揃えることは、簡単ではありません。彼らを束ねるためのコンパスとして、ミッションへの共感が最重要だと思いました。
さらに、メルペイの組織を速やかに作り上げるため、7名ほどからなる「採用の専任チーム」を即座に設置。通常の採用活動はもちろんのこと、ミッションを伝えるためのイベントやメディアでの発信も数多く行った。
青柳社外にミッションを積極的に発信していけば、僕らがやろうとしていることの“匂い”を感じ取り、興味を持ってくれた人が集まると期待したんです。
1年半が経ち組織が拡大しても、ミッション重視の経営方針は変わらない。過去2回開催したカンファレンスなど、対外的な情報発信は続けている。
また、ミッションやバリュー、決済の「その先」についての構想といった経営陣の考えを、メンバーにも発信する。年に1回から2回は、経営層をリーダーとする複数のチームを組織し、ミッションを実現するための事業立案コンテストも実施しているという。
「毎日が昨日とは別の世界」激変マーケットで勝ち残るための3要素
続いて、3名の執行役員を招いたパネルディスカッションが行われた。まずは、CBO山本真人氏から、急速に変化する競争環境に対応していくことの困難さが語られた。
山本外部環境の変化が激しいからこそ、自分たちがやろうとしていることが本当に正しいのか、自問自答し続けなくてはなりません。昨日と今日でガラリと方針を変えることもよくあります。その際は、メンバーに方針変更の意義に納得してもらうことも必要になる。即決断し、実行に移す機動力を持ちつつ、メンバーの心が離れていかないようにすることにも気を配りました。
VP of Sales & Business Developmentを務める金高恩氏も、変化するスピードの速さに同意する。
金私が入社したのは今年の3月ですが、その時点では『PayPay』があれだけ世間から注目を集めるなんて、全く予想できませんでした。たった半年ですが、その間にもマーケットは大きく変化しているんです。
一方で、CPOの伊豫健夫氏は、短期的に事業を成長させるだけでなく、長期的にマーケットをリードするポジションを得るためのポイントを3つ挙げた。
伊豫どれか1つではなく、3つ全てを100%やり切ることが、事業を推進するために重要だと考えています。
1つ目は、現場とのコミュニケーションでは、「意思決定の背景まで伝える」こと。現場が経営判断に納得感を持ち、即座に実行へ移すためには、意思決定の内容だけでなく、その根拠までを浸透させていかなければならないという。
2つ目は、常に「一歩先に何があるのか?」を考え続けること。短期的な改善を続ける一方で、未来の事業構想も描き続ける。「思いつきで良いプロダクトはつくれない。常に未来を想像し、現在行っている事業の『その先』を見据えてつくっていかなくてはならない」と伊豫氏は強調した。
そして3つ目は、「優先順位を正しく判断する」こと。限られたリソースと時間の中でプロダクトをつくるためには、開発メンバーとの積極的なコミュニケーションはもちろん、「嫌われる覚悟で優先順位を決めきってしまう」ことが必要な状況もあるという。
メルペイのチームはなぜ「最大8人」なのか?
意思決定と実行のスピードを高めるために、メルペイは経営層と現場のコミュニケーションを重視してきたという。
代表的なのは「頻繁なオフサイトミーティング」だ。青柳氏に至っては、メルカリ本社のオフサイトミーティングも含め、3週間に一度は会社から離れた場所で議論をしているという。
また、意思決定の背景を伝えるために、Slackも最大限活用している。メルペイでは人事情報などの特定のチャンネルを除き、あらゆるチャンネルをオープンにし、意見を述べられるようになっている。
山本意思決定に至るまでの議論の過程を、すべてのメンバーが見られるようにしています。Slackをオープンにすることで、開かれたディスカッションと、意思決定を柔軟に受け入れるカルチャーを築いているんです。
金氏は、一つひとつの背景まで説明することが「意思決定者の責任だ」と語る。経営戦略のコアに関わるOKRも、例外ではない。メルペイでは、OKRを決定するためのミーティングの様子を、Googleハングアウトで配信する。
金外部環境の変化へ、会社はどのように対応しようとしているのか。なぜ昨日言ったことが、今日変わるのか。それらの背景を、メンバー全員に伝えることに気を配っています。我々が感じている危機感を共有することで、一丸となって全力で走れるパワーが生まれていると思います。
また、意思決定までの過程を徹底してオープンにすることで、時に必要とされる「健全なトップダウン」への理解も促進されるという。
伊豫変化の兆しを見逃さず、即座に施策を実行をするために、トップが「これやってみようよ」と方針を打ち立てていくことも重視しています。意思決定に至るプロセスがオープンだからこそ、そのトップダウンも納得感を持って受け入れてもらえるのだと思います。
とはいえ、いくら情報をオープンにしても、日常の業務に追われてキャッチアップできないメンバーも出てくるはずだ。生じる情報格差を補完するために、メルペイは1on1を活用している。頻度は「週次」を推奨するが、最低でも隔週で実施する。
組織の構成人数も、1on1の実施頻度を起点に設計。その頻度を前提とすると、チームの人数は最大でも「8人が限界」だという。よって、メルペイでは1チームの最大人数を8人と定め、組織づくりがなされている。
3年後に始まる「決済の向こう側」への挑戦とは?
イベントの最後にはメルペイの展望が語られた。山本氏は「本当の戦いはこれからだ」と意気込む。「決済戦争」といった言葉がメディアに踊ることも増えたが、メルペイの挑戦は「まだ始まってすらいない」。
山本「払う」という行為自体が見えない世の中をつくりたい。お金を持ちあわせていなくても、「信用がある=この人が誰か分かっている」からサービスを受けられる、そんな世の中を実現していきたいんです。決済が「決済でなくなる」未来に向けた準備として、今は決済を手がけているだけです。
金メルペイがつくろうとしている未来は、まだ形が定まっていません。だからこそ、外的な環境の変化に応じて、常に最適な形を探り続ける必要があります。そのために、変化に強く、自ら変化を起こせる人材が必要です。
伊豫「価値」そのものの意味や動きを変えていくことが、メルペイの事業、そしてメルカリグループが実現できるユニークネス。メルペイを使って支払うことで、「信用」が積み上がっていく。その信用を担保にモノを手に入れ、またメルカリを通じて世の中に還流していくサイクルをつくっていきたいんです。
最後に青柳氏は「あと3年で、メルペイは社会の決済のあり方を変えられる」と自信をのぞかせた。メルカリはローンチから5年で「売ることを前提にモノを買う」文化を定着させ、「所有」のあり方を変化させた。事業開始から半年が経過したメルペイも、あと3年で実現できるという自負だ。それは同時に、3年後には決済の「その先」をつくる挑戦が始まることも意味している。
青柳キャッシュレスが浸透した先に、何を生み出すことができるのか──今はまだお伝えできませんが、それこそが、まさにメルペイの“次”になると思っています。メルペイを立ち上げきって、世の中に定着させたのちに、「その先」を共につくり上げられるような人と共に働きたいですね。
1年半という短期間で組織を急拡大し、決済サービスを代表する存在となったメルペイ。躍進の影には意思決定と実行のスピードを加速させる、緻密なコミュニケーション設計があった。3年後、メルペイは日本の「価値の流れ」を、どのように変化させているのだろうか。
こちらの記事は2019年11月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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