メルペイ、SmartHR、KAKEHASHI、Zehitomoが明かす「勝てるスタートアップのつくり方」──転職イベント「500 Career Fair」より
「スタートアップで働きませんか!」──500 Startups Japan代表兼マネージングパートナーJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏による咆哮で、イベントの火蓋が切って落とされた。先日FastGrowで予告記事を出した、500 Startups Japanの有力投資先18社が一堂に集う大型転職イベント「500 Career Fair」での一コマだ。
「必ず社員9名と採用面接を行わせる」「心からカルチャーに共感していないと給料が下がる旨を面接時に伝える」「10ヶ月で5回合宿を開催した」–––500 Startups Japanの投資先コミュニティ「500 Family」所属企業をはじめとした登壇企業の人事施策からは、ユニークながらも本質的な経営ノウハウが見てとれた。過熱するスタートアップシーンで優秀な人材を採用し続けるための戦略から、入社後のパフォーマンスを最大限まで高める手法まで、本イベントで語られた「勝てるスタートアップのつくり方」をダイジェストでお届けする。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- EDIT BY NAOKI TAKAHASHI
必ず社員9名と面接。苛烈な競争環境を勝ち抜くための、ユニークな採用戦略
イベントは、500 Startups JapanのJames Riney氏のモデレーションによるパネルディスカッションからはじまった。登壇者には、毎月20%ペースで社員が増えているという株式会社SmartHR代表取締役CEO・宮田昇始氏、毎月3名ほどが入社するという株式会社Zehitomo共同設立者/CEO・Jordan Fisher(ジョーダン・フィッシャー)氏、半年で社員数が倍増したKAKEHASHI, Inc.取締役COO・中川貴史氏、そしてスペシャルゲストとして株式会社メルペイ代表取締役・青柳直樹氏を迎え、『勝てるスタートアップのつくり方』というテーマのもと議論が交わされた。
最初のトピックは、「いかにして優秀な人材を採用するか」。魅力的な企業がひしめくスタートアップ採用市場において、4社はなぜ優秀な人材を着実に採用し続けることができているのだろうか。各社の採用戦略の方針を伺った。
宮田100名近い規模にも関わらず各メンバーが大きな裁量を持てる点が、転職希望者に刺さっているのではないでしょうか。例えば、もともとカスタマーサポート職に就いていたメンバーを希望に応じてプロダクトマネージャーに抜擢したり、マーケティングメンバーの提案を受け入れて予算が大きいテレビCMを打ち始めたり、かなり大胆に裁量を渡しています。
Fisherいつ何が起こるかわからないスタートアップだからこそ、柔軟性の高いメンバーを採用するようにしています。各部署のマネージャーが、何回も面談を行なって判断していますね。
中川書類選考を通過した時点で、経営陣との面談の場をみっちり1時間半とっています。そこでカルチャーや事業内容を丁寧に説明し、その人のモチベーションをしっかりと聞き出し、弊社にフィットするかどうかを判断しています。
その上で、社員全員に平等に採用権限を与え、合計で9人のメンバーに会ってもらっています。これにより、社員は組織づくりに関して強いオーナーシップを持てます。採用候補者としても現場のメンバーから話を聞いて、自分が働く環境を鮮明にイメージできるので、カルチャーのミスマッチが起きにくくなるんです。
青柳10名ほどの採用専門のチームを組み、情報発信やイベント運営に取り組んでいます。さらに、自然と良い人材が集まってくる状態を目指すため、毎月社員へのヒアリングを行っているのですが、特に「自分の友人にこの会社を紹介したいですか」という項目のスコアを重視していますね。このスコアが必ず10点満点で8以上になるように、「どうすればより勧めたくなりますか?」とフィードバックを集めて改善しています。
「バリューを体現できないと、給料上がりませんよ?」カルチャーのミスマッチを防ぐための工夫
続いて、話題は「カルチャーのミスマッチを防ぐための工夫」に移った。「カルチャー」という曖昧模糊とした概念との適合度を見極めるために、各社が施している工夫が明かされた。
宮田弊社の採用面接では、カルチャーを明文化して、それにマッチする行動などを聞き出していたのですが、みんな“それっぽいこと”を言ってくるので意味を感じなくなり、そういった質問をするのはやめました。
代わりに、「バリューへのマッチ度が評価制度に組み込まれているから、価値観が合わないと給料上がらなくて損しますよ」としっかりと説明するようにしています。結構強めに、「本当に給料が上がらないので、心から共感してないならやめたほうがいいです。合うと思ったら、その場合は上がりやすいと思います」と念を推していますね(笑)。結果、ちゃんとカルチャーフィットする人を採用できています。
中川その人のモチベーションの優先度をはかるため、「今まで仕事をしていて一番ワクワクした瞬間は何ですか?」という質問はできるだけ聞くようにしています。自身の成長、メンバーとの相性の良さ、事業成長へのコミット、社会貢献など、人によってモチベーションの源泉は異なります。その人の内なる想いが、弊社に入社した際にプラスに働くかどうかは、かなり重点的に見ています。
Fisherカルチャーをしっかりと明文化して応募者をフィルタリングした上で、できるだけ多くの社員に会ってもらっています。さまざまなタイプの社員に話を聞くことで、自分がそこで働く姿をより鮮明にイメージできると思うので。
青柳メルカリグループ全体で、「Go Bold」「All for One」「Be Professional」という3つのバリューへの共感度を重要な採用基準として設定しているのですが、メルペイは特に「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションへの共感度にこだわっています。
ここが不明瞭な場合は必ず僕が面談の場に出ていき、納得するまで深掘りする。実現したい社会についてじっくりと議論し、会話のキャッチボールがどのくらい弾むか、どのくらい高揚しているかを見て、「新しい社会を創りたい」という想いの本気度を見極めています。
10ヶ月で5回合宿。採用効果を最大化するためのオンボーディング手法
採用についての議論が終わると、その後のオンボーディングにまで話が及んだ。労力をかけて採用したメンバーにしっかりと戦力となってもらうため、いかなる工夫をしているのだろうか。
宮田正直に言うと、もともとオンボーディングにはあまり力を入れていませんでした。しかし、今年5月に株主や、初期からアドバイスをいただいている方々にご協力いただき、社員全員と1on1ミーティングを行なってニーズや要望を吸い上げてもらったところ、「オンボーディングをもっとしっかりとやってほしかった」という意見が多く上がってきたんです。
その結果を受け、意識的にオンボーディングに取り組むようになりました。経営陣がカルチャー、財務、ビジネスモデルについてレクチャーする機会を設けるようにしたり、入社直後は1on1を多めに行なったり。1on1については特に重視していて、僕も入社3ヶ月目までのメンバーとは必ず毎月実施していますし、各チームのメンバーや上司にも2週間に1回は行っています。
Fisher強みや弱みは人それぞれなので、メンバーごとのメンタリングを丁寧にすることを意識しています。オンボーディング資料も作成してはいるのですが、組織の変化が早いがゆえに2ヶ月も経つと使えなくなってしまいますね。
中川うちも1on1は定期的に行なっています。また、弊社はフラットな組織のためマネージャーと部下といった関係性はなく、「一人ひとりのメンバーが支え合う」ことを大事にしているので、少し前に入社した社員をメンターとしてアサインするなど、全社でオンボーディングに取り組む意識を醸成しています。
青柳メルペイは目新しい事業内容ということもあって、オンボーディングはそれ専門のチームを組んで重点的に行なっています。あとは入社後1ヶ月後に必ず面談をしたり、入社して最初のウェルカムランチに僕も参加したり。メンバーの目線をすり合わせるための合宿も頻繁に行なっていて、10ヶ月間で5回開催しました。
以上で第1部のパネルディスカッションは幕を閉じた。
白熱した議論の後、イベントは第2部に移り、カスタマーサクセスの管理ツールを開発するHiCustomer株式会社、国際物流の最適化プラットフォームを提供する株式会社Shippio、食品工場の生産管理アプリを開発するユリシーズ株式会社など、500 Startups Japan投資先の有力スタートアップ18社によるエレベーターピッチが行われた。
イベントを締めくくる交流会では、ピッチに参加した18社がそれぞれブースを設けて来場者と交流を行なった。カジュアルな雰囲気の中でスタートアップのメンバーとイベント参加者の対話が交わされ、新たなスタートアップコミュニティが形成されていく様子が見て取れた。「500 Family」を皮切りに、国内スタートアップ市場がさらなる熱狂を見せることに期待したい。
こちらの記事は2018年11月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
編集
高橋 直貴
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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