VCこそコンテンツを発信せよ。
メディアを活用した新しいスタートアップ支援のかたち【Coral Capital×FastGrow】

登壇者
James Riney
  • Coral Capital Founding Partner & CEO 

Coral Capital 創業パートナーCEO。2015年より500 Startups Japan 代表兼マネージングパートナー。シードステージ企業へ40社以上に投資し、総額約100億円を運用。SmartHRのアーリーインベスターでもあり、約15億円のシリーズB資金調達ラウンドをリードし、現在、SmartHRの社外取締役も務める。2014年よりDeNAで東南アジアとシリコンバレーを中心にグローバル投資に従事。

2016年にForbes Asia 30 Under 30 の「ファイナンス & ベンチャーキャピタル」部門で選ばれる。ベンチャーキャピタリストになる前は、STORYS.JP運営会社ResuPress(現Coincheck)の共同創業者兼CEOを務めた。J.P. Morgan在職中に東京へ移住。幼少期は日本で暮らしていた為、日本語は流暢。

西川 ジョニー 雄介

モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中。

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国内スタートアップの資金調達額が大きく伸びている。2009年に総額700億円ほどだった調達総額は、2018年には3,800億円を突破。ベンチャーキャピタルのみならず、銀行や大企業が手がけるCVC、エンジェル投資家まで、資金調達の手段も多様化が進んだ。同時に、手段を用意する「カネの出し手」には、資金援助にとどまらない支援が求められはじめているようだ。

そうした潮流のなか、アーリーステージスタートアップのPRまわりを支援すべく、自社メディアでの投資先の情報発信にコミットするベンチャーキャピタルがある。SmartHRやKAKEHASHIなど40社以上の国内スタートアップへ投資を行ってきたCoral Capitalだ。500 Startups Japanの創業メンバーによって設立され、2019年3月に50億円規模の2号ファンドを組成している。

2019年4月、FastGrowはスタートアップへの支援手法を探るイベント「"コンテンツ" による新しいスタートアップ支援のかたち」をCoral Capitalと共同開催。登壇したのは、Coral Capital創業パートナーCEOのJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏と、FastGrow編集長の西川ジョニー雄介だ。

VCが取り入れるべきメディア運営戦略から、「長く続ける」だけでメディアが影響力を持てる理由、コンテンツづくりに必要な「共感を得る力と柔軟な思考力」が明かされた。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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LPとの談話から、起業家からの悩み相談まで。Coral Capitalがブログ発信を続ける理由

ブログ 『Coral Insights』による情報発信、起業家を集める勉強会や、投資先企業が一斉に採用を行うイベント『Career Fair』を定期開催するなど、コンテンツを通じた「PR」や「採用」の支援にコミットするCoral Capital。起業家やスタートアップで働いている人向けに実用的なノウハウを発信するだけでなく、スタートアップやVCを認知していない人びとや業界のステークホルダーである事業会社や政府関係者までを対象に、スタートアップに関する情報を広く発信している。

「シリコンバレーでは多くのVCがブログやTwitterでコンテンツを発信しています。起業家がさまざまな情報を得やすい一方、日本では情報の非対称性がある」とJames氏は指摘する。

Coral Capital 創業パートナーCEO James Riney氏

Jamesスタートアップエコシステムを拡大するためには、ノウハウを共有し、起業家をレベルアップさせていくことが大切です。僕の実体験では、資金未調達の起業家の多くは、ベンチャーキャピタルの実態をよく知らない。日本でも透明性の高い情報発信が大切だと考え、3年前に500 Startups Japanを立ち上げたときからブログに力を入れているんです。LPとのミーティングで飛び出た話から、僕が起業家から受けた悩み相談まで、僕が直近で考えているさまざまなトピックを発信することが多いですね。

加えて、Twitterでは英語での情報発信に力を入れるJames氏。その理由について「海外にも日本に興味があるVCはいるが、日本人が英語で発信をしないため、情報を得られない状態だからだ」と話す。日本のスタートアップ市場全体の盛り上がりについて積極的に発信することで、国外からの投資機会を増やす意図があるのだ。

続けてJames氏は「将来的に、海外の人たちが日本のベンチャーへ積極的に投資する文化を生み、国内のエコシステムを拡大させたい」と語る。

James日本のスタートアップ業界の情報は、海外からすればブラックボックスです。その状況を打破すべく英語での情報発信を続けた結果、最近は「Japan Startups」について英語で検索すると僕の名前が出てくるようになりました。トップティアVCであるAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)代表のMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)をはじめ、Peter Thiel(ピーター・ティール)のFounders Fundの方々など、アメリカのエコシステムの重鎮からもフォローされています。「日本のスタートアップ窓口」のような存在感を出せていると思います。

また日本の人たちにとっても、英語で書かれた海外の情報は入手しづらい。海外のコンテンツを読み漁っている僕からすれば当たり前のことも、日本のスタートアップ業界の人たちにとっては初耳なことも少なくない。この業界の役に立てればと思っています。

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「長く続ける」だけで、メディアは影響力を強められる

対してFastGrowでは、事業づくりや経営参画を志向する、キャリアアップへの意識が強い人々へ向けて情報を発信している。編集長のジョニーは「ある領域で突き抜けた活躍をする人物の思考フォーマットを聞き出し、シェアすることで、読者のレベルアップにつなげたい」と話す。

スローガン株式会社 FastGrow事業部 部門長 兼 編集長 西川ジョニー雄介

ジョニー僕自身も過去に起業し、思うように事業を伸ばせなかった経験があって。Elon Musk(イーロン・マスク)の「週100時間働けば事業はうまくいく」という言葉を信じ、とりあえず100時間働いてみたりしたんですが…。その後、FastGrowを立ち上げ、多くの経営者へインタビューするうちに、「1,000億円規模の会社をつくり上げた人と、1億円の売上を生むために四苦八苦している自分では、そもそも根本的な思考法が違ったんだ」と気づいたんです。

彼らの思考フォーマットを世に広めれば、みんなが最短ルートで事業を成長させることができ、エコシステムの拡大にも寄与するんじゃないか──そう考え、今のFastGrowの世界観が固まっていきました。取材記事を発信するのみならず、今回のイベントのようなオフラインの場も交え、「メンターとの出会いが生まれるような場」を創出したいと考えています。

ジョニーも「最短ルートで事業を成長させる」ことを志向するひとりだ。現在のジョニーがFastGrowの事業を手がけるうえで行き詰まったポイントを、相談するかのように有識者へインタビューする企画も立ち上がる。「FastGrow自体がスタートアップ的な成長を志向しているゆえに、自分たちが困っていることを聞けば、誰かにとっての学びになる」とジョニーは話す。

さらにメディアを成長させるための秘訣を聞かれると、「メディアが掲げる世界観に倣い、ひたすらコンテンツを積み上げていくこと」の重要性を説く。

ジョニーメディアを成長させるのって、正直に言って本当に泥臭い(笑)。だからこそ、「続けること」に価値があると感じています。ひとつの記事が多くの人に読まれてもメディアが一気に成長するわけではないし、売上をつくるのも難しい。けれども、世界観のもとにコンテンツを積み上げていくことが大切なんです。それをやれる人は少ないので、長く続けているだけでメディアとしての影響力を持てるのではないでしょうか。

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「内製か外注か」の二項対立ではない。カルチャーマッチしたメンバーに協力を仰げ

キャピタルゲインを得ることで、事業を成立させるベンチャーキャピタル。「コンテンツづくりが事業にどう役立つのか」を問われると、James氏は「シードVCとしてのディールソーシングに大きな効果がある」と答える。

Jamesコンテンツ発信は、VC事業を成立させるための投資先を見つけるうえで大いに役立ちます。もともとはスタートアップ生態系への貢献をするために始めましたが、積極的に情報発信するうちに、多くの起業家がCoral Capitalに連絡してくれるようになりました。

Coral Capitalではシードステージの企業を投資のメインターゲットにしており、業界の誰もが知らない企業を見つけ出さなければいけません。僕たちのような少人数のベンチャーキャピタルは、大規模なファンドのようにプレスリリースや記事を読んで見つけた企業に連絡していく人的リソースがなく、企業から連絡をもらえることがとても大切なんです。

「情報発信は投資先企業にとっても大きなメリットがある」とJames氏は続ける。たしかな発信力を持ったVCが投資先企業についてブログを書けば、採用や他企業とのアライアンス、次ステージでの資金調達にもつながる。

Coral Capitalではコンテンツを社員が内製する場合もあれば、外部に委託する場合もある。「カルチャーマッチしている人であれば、社内外を問わずにコンテンツづくりを任せられる」とJames氏は話す。

Jamesコンテンツを外注するかどうかは、2つのポイントで判断しています。ひとつは、そもそも「社員のリソースがあるかどうか」。純粋に、社内のメンバーの手が空いていなければ、内製は選択肢から外れますよね。もうひとつは、「テーマに沿ったコンテンツが得意かどうか」。たとえばインタビュー記事であれば、相手の人柄を引き出すのが上手な人事のメンバーにお願いすることが多いです。「内製か外注か」はあまり気にせず、仕事をお願いする個人の得意と不得意をもとに判断していますね。

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「誰もが日々コンテンツをつくっている」共感を得る力と柔軟な思考力こそが大切な理由

外注と内製で言えば、FastGrowも外注体制を敷くメディアだ。ビジネスやカルチャーなどの領域を横断するメディア『UNLEASH』をはじめとしたメディア運営に携わる株式会社インクワイアと、ビジネスとテクノロジーの領域を中心にWEBや書籍の制作を手がける株式会社モメンタム・ホースを編集パートナーに迎えている。コンテンツ制作のみならず、2社の代表とジョニーは毎週2時間のミーティングを行い、売上の進捗から目標達成の度合い、チームメンバーの状況まで事業に関わるすべての情報を伝え、ともに事業戦略を練っている。

「その2社は僕らにとって、単純にコンテンツづくりを委託している企業という位置付けではありません。ともに事業成長を目指すパートナーであり、互いに採用を支援し合うこともある」とジョニーは話す。「内製か外注かといった概念に囚われず、社内外を問わず、世界観を共有でき、信頼に足るメンバーと組むのが大切」と続ける。

ジョニー自分たちがやりたいことを真摯に受け止めてくれたうえで、より多くの人たちへコンテンツを届けるためのディスカッションを対等に行えるパートナーであれば、社員かどうかは関係ないと思います。

僕たちも最初は内製していたし、僕自身が記事を書くこともありました。しかし、コンテンツづくりに関しては、プロに任せたほうが良いものが速くできる。お願いすべき領域は任せてしまい、僕は読者へ伝えたい価値観を考え抜くことに専念するのが良い──FastGrowを1年ほど運営してからそう思うようになり、彼らにお願いすると決めました。2社のメンバーたちは、Slackでメッセージを送るとそれこそ社内メンバーよりも即座にレスポンスが返ってくるし(笑)、社内にいなくても全く問題なく一緒に仕事ができています。

一方で、「共感を得る力と柔軟な思考力があれば、ライティングや企画の経験がなくてもすぐに良いコンテンツをつくれるようになる」とジョニーは話す。FastGrowが重視する編集方針のひとつに「ライターの熱を込める」というものがある。インタビュイーの魅力を伝えるために、「書き手にとって印象的だったストーリーを熱量を持って書けるかどうか」こそが大切だとジョニーは考えているのだ。

ジョニー見聞きしたことをどう捉えるかで記事の印象は大きく変わります。物事の面白い側面に目を向けられるポジティブさや、あらゆる読者の視点をもってインタビューできるかどうかという柔軟な思考の有無が、コンテンツの明暗を分けると考えています。それさえできれば、ライティングや編集の仕事を手がけた経験が少なくても、「誰かの心に響き、動かす」という意味での良質なコンテンツはつくれるはずです。

なぜなら、誰もが生活のなかでコンテンツをつくった経験を持っているから。たとえば、会話のなかでお気に入りの飲食店について語るとき、「何が美味しかったのか」や「どういう雰囲気だったのか」をかいつまんで話しますが、それって編集されたコンテンツですよね。

僕は採用面接でも、相手の好きなものを順に聞いていき、そのなかで僕が興味を“持てなかった”ものについて、「僕が興味を持てるように説明してください」とお題を出しています。ある物事への関心が薄い人に対して、その良さを魅力的に話せる人は、FastGrowでも一緒にお仕事したいなと思いますね。

James加えて、Coral CapitalではデータドリブンにPDCAを回せるかどうかを重視していますね。グロースハッカー的なマインドセットで、記事への流入元がどこなのかを分析し、より読者に刺さるコンテンツを提供していくことが大切だと考えています。

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無数のコンテンツ群から選ばれるために、ファンをつくれ

情報が溢れかえる昨今、自分たちのつくったコンテンツに注目してもらうのは一筋縄とはいかない。ジョニーは「ファンになってもらえるコンテンツを生み出せる人の希少性が高まっている」と語る。

ジョニー巧みなストーリーテリングで面白いコンテンツを生み出し、ファンになってもらうのが重要です。山ほどある記事から読者に選んでもらえる期待値が高いからです。多大な労力がかかり、一歩間違えれば炎上する危険もあるなか、優れたコンテンツをつくれる人の価値はかなり高まっているはずです。

2019年3月に、50億円規模の2号ファンドを新たに組成したCoral Capital。ファンドの立ち上げに際し、ますます勢いを加速させたいJames氏は、メディア運営へさらなる意気込みを見せる。「VCゆえに、お金の面を気にせずコンテンツを生み出せる点がひとつの強みだ」とJames氏は話す。

James私たちはメディアで収益を得るつもりはないので、自由にコンテンツを生み出せるのが利点かもしれません。どれだけ見られるのかも大事ですが、ディールソーシングや投資先企業のPRこそが最大の目的です。

これまでは少人数で模索しながらブログを運営してきましたが、新たなファンドを設立し、ますます勢いづくタイミングですし、そろそろプロフェッショナルに手伝ってもらいたい。興味を持った人がいれば、ぜひ一度お話を聞かせてください。

ジョニーしっかり声かけしていて、抜け目ないですね(笑)。FastGrowは「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに、イノベーションのインフラを目指しています。活用してくださる企業を力強く支えたいし、「あの会社って、FastGrowがあったからこそできたよね」といわれる事例ができれば最高です。僕たちの世界観に共感してくれて、「人や企業をつなぐ」、「ノウハウを蓄積し共有する」という観点からスタートアップ業界を一緒に盛り上げたい人は、いつでもお待ちしております。

ベンチャーキャピタルのCoral Capitalが資金面にとどまらないスタートアップ支援を行うのは「スタートアップエコシステムを拡大したい」意志を強く持っているからだった。ファンドがメディアを運営するのは、ディールソーシングをはじめ大きなメリットがあると分かった。

「カネの出し手」に収まらないスタートアップ支援が一般化していけば、ベンチャーキャピタルがメディアを運営するケースも増加していくはずだ。そのためにはカルチャーマッチを重視し、James氏とジョニーがそうしたように、代表者が自ら背中を任せられる仲間を探すのも一手であろう。

こちらの記事は2019年05月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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