連載20代リーダーの教科書

「目立たなくていい。カルチャーを作れ」働き方が多様化する現代に求められる、理想のリーダー像を語る

インタビュイー

2000年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。JTBを経て、2003年にリンクアンドモチベーション入社。執行役員として大手企業を中心に組織人事コンサルティングに従事した後、2011年、新機軸の経営コンサルティングファームであるフィールドマネージメントに参画し、ディレクターを務める。航空、Eコマース、食品等、多業界においてマーケティング/ブランド/組織開発/人材育成プロジェクトに従事した後、2015年、HR領域を主軸とするグループ会社として、フィールドマネージメント・ヒューマンリソースを設立し代表を兼任。

西川 ジョニー 雄介

モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中。

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  • TEXT BY KYOZO HIBINO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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テクニックやトレンドに惑わされるな。リーダーシップの本質とは

ジョニー今回は連載の締めくくりとして、ギリギリ20代の私からいろいろと質問させていただきます。時代や流行に左右されない“リーダーシップの本質”に迫れたらいいなと思っています。

小林それはまた、難しいテーマを持ってきましたね(笑)。

ジョニー「サーバントリーダーシップ」だとか、今年であれば「ティール組織」だとか、毎年のように新しいリーダー論や組織論が出てくる。

だけど、やっぱり普遍的なリーダーシップというものがあるんじゃないかと思うんです。「リーダーとはこれだ」という唯一解があるのか、それとも時代とともに変わっていくものなのか。小林さんはどうお考えですか?

小林まず、リーダーとは「リーダーシップを発揮している人」だと考えています。つまり、リーダーシップを発揮してさえいれば、年次や役職にかかわらず、たとえ新入社員であってもリーダーになれる。

また、リーダーシップとは何かと言うと、「ゴールを掲げ、道筋を描き、周囲を巻きこみ実現まで導き続けること」だと私たちは定義しています。

これはあくまで弊社としての定義であって、西川さんが仰るとおり新しい理論が次々と出てきますし、歴史的に見ても、いろいろな学者や経営者がそれぞれのリーダーシップを唱えてきました。

ここで言えるのは、リーダー論に関してはどれが正解でどれが間違っているとは言えないということ。そして、時代や社会の変化とともに求められるリーダー像も変わっていくということです。

たとえば昔は一人のカリスマが強力なリーダーシップを発揮することが、企業の成長を加速させた。それがいまでは、どんどん変わっていく環境に適応できる組織が強いとされ、変革型やサーバント型のリーダーシップが必要だと言われるようになってきました。

ジョニー時代によってリーダー像が変わったんですね。たとえ同じ時代だとしても、企業によっていろいろな考え方があるでしょうし……。

小林そのとおりなんですが、時代によって、あるいは会社や個人によって千差万別だという話になると、「結局はリーダーシップなんて何も実体がないんだ」という結論になってしまう。だから私は、理論や時代ごとのリーダー像とは別に、もっと根幹のところに目を向けることが大事だと考えています。

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原点は「己の信念」を知ることから

小林私たちのリーダーシップの定義を先ほどご紹介しましたが、要は「何とかしたい!」と思った人が自ら立ち上がって行動を起こし、そこに人がついてくれば、最初に立ち上がった人は結果的にリーダーシップを発揮していることになる。

そういう状態は何によってもたらされるかと言えば、根本は「何とかしたい」「自分はこれがしたい」と強く思えるかどうかにかかっています。

世の中に出回っているリーダー論の一つに乗っかってリーダーらしく振る舞おうとしても、人もついてこないし、うわべだけのものになってしまう。そう考えると、やっぱり自分なりの哲学、信念を強く持てるかどうかが根幹にあると思うんです。

さらに言うなら、揺るぎない哲学や信念は自分が大事にしている価値観から生まれてくるものです。「自分はどうあるべきなのか」「どうありたいのか」という価値観をきちんと理解できているからこそ、周囲への影響力も発揮される。

ジョニーまずはとことん自分と向き合う、そういう姿勢が必要だと。

小林そうですね。自分に向き合い、自分のことを正しく理解することは、リーダーシップを発揮するうえでは欠かせないと思います。

自分は何を大事にして生きていくのか。どういうことがしたいのか。そういう価値観は何からできているかと言えば、結局のところ、その人が生きてきた「環境」と、その中での「経験」しかない。

自分が実際に生きてきた環境、そこで得た経験はその人にとって真実であり、その結果として表れた思いに対しては「絶対にこうだ」と自信を持って言い切れますよね。

その価値観をもとにした確固たる哲学が、リーダーシップの根幹となり、そこに人が共感し集ってくる。こうした構図こそが、理論や時代が変わろうとも左右されることのない、リーダーシップの本質ではないでしょうか。

そのことをちゃんと理解したうえでなら、人をどう束ねるかなどのテクニックを知ることには意味があるでしょう。

逆に、その本質を理解せずして「ジャック・ウェルチがこう言ってた」「大前研一の本にはこう書いてあった」と他人を模倣しても、その人自身の根幹から出てきた哲学がないから誰にも響かない、つまりリーダーシップを発揮できないということになるのだと思います。

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リーダー像に正解はない。パーソナリティにあった選択をすべし

ジョニーたとえば著名な経営者を研究して、その人の思考回路をマネてみるのはナシですか? ある人が書いた本を読んで、すごく腹に落ちる感覚があった場合、自分の哲学にも反映させようとするのはおすすめできませんか。

小林まず大前提として、これはリーダーシップの話なので、ビジネスの発想や事業のつくり方といったこととは切り離して考えなければなりません。ビジネスの話と根本的に違うのは、リーダーシップとは、他者に影響力を与え、巻き込み、動かしていくものであって、それゆえにその人のパーソナリティやキャラクターが非常に大きな影響力を持つということです。

考えてみてください。たとえば“ホリエモン”こと堀江貴文さんのリーダーシップを安易にマネしようものなら、いつの間にか自分の周りが敵ばかりになってしまうかもしれません。きついことをズバッと言いながらも、それに一定の評価がなされるのは、堀江さんのキャラクターが確立されているから。だから影響力が発揮できるんです。

本などを読んで、誰かのリーダーシップをなぞってみるのが悪いことだとは思いませんが、そうやって試行錯誤しながら、最終的には自分の価値感やパーソナリティに合ったリーダーシップの発揮の仕方を見つけられることが望ましいのかなと思います。

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今の時代に必要なのは、組織づくりを支援するリーダー

ジョニーこれからの時代、企業などの組織はどんどん小さくなっていくと言われています。数万人規模の従業員をまとめられるような人はいなくてもいい、要はスティーブ・ジョブズのような人がいなくてもいいという見方もある。

その一方で、リーダーシップの必要性が語られなくなることはないですよね。リーダーの形というものは今後、どういうふうに変わっていくのでしょうか。

小林先ほども少しお話ししたように、昔は一人のカリスマリーダーというあり方が機能したんだと思います。トップのかけ声一つで、みんなが一斉に動く。大量生産の時代はそれでよかった。

でもいまは、変化がめまぐるしい時代になり、どれだけイノベーションを起こせるかが問われています。カリスマ型のリーダーシップの難点は、新しいものが生み出しにくかったり、トップの指示が組織の中を伝播して現場が行動に移すまでに時間がかかってしまったりすることです。だからいまの時代では、昔のようなカリスマの必要性が薄れてきていると言えます。

世の中のスピーディーな変化に対応していく組織として必要なのは、現場の一人ひとりがリーダーシップを発揮できるような文化であり、仕組みだと思います。なぜなら現場にいる人たちこそが、誰よりも顧客のことを知っているからです。顧客との接点の中で得た知見や発見を生かして、イノベーションを生み出し、より品質を高めていく。そのサイクルをいかにスムーズに回せるかが重要です。

あまり目立ちはしないけれども、そういう組織文化や仕組みをつくれるリーダーがこれからは求められるのではないでしょうか。牽引するというより、組織づくりを支援するような立場と言えるかもしれません。

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多用な人を巻き込む時代だからこそ、組織の存在意義も重要

ジョニー組織の規模が変わるだけでなく、そこで働く人々の多様性も高まってきています。たとえばフリーランスの方が入ったりすることで、マネジメントが難しくなる部分もあると思います。そういう組織を率いるうえで、リーダーはどんなことに気をつけるべきなのでしょうか。

小林外部の力を借りるということは、簡単に言えば、足りない機能を補いたいからですよね。その時に「この人は必要なスキルを持っているから」という理由だけでチームに加わってもらうのは危険なのかなと思います。

やっぱりまずは組織としてどうあるべきか、どうありたいかというミッションを明確にすることが大事。そのうえで、それに共感してくれる人に協力してもらうのがいい。その部分の共感さえ得られているなら、社員であるとか外部委託であるとかに関わらず、そういったことはもはや関係なくなってくるはずです。

フリーランスなど外部から協力する立場になって考えてみると、同じような仕事はほかの会社でもできるかもしれない。それでもその会社を手伝いたいと思うのは、ただ仕事をすること以外に何か理由があるはずなんです。

その組織が提供しようとしているユニークな価値に共感するからこそ、雇用形態をはじめとするあらゆる違いを乗り越えて、一つのチームが組成できる。

もっと言うなら、顧客とまでも共感でつながっていることがこれからは重要だと思います。これまでは同じ会社の社員だけが共感していればよかったけれども、これからは社外の協力者や顧客とも共感というベクトルを共有し、いわゆるオープンイノベーションを推進しないと新しいものが生み出せなくなっていく。

そういう視点を持ち、共感を集められる組織としての個性や存在意義をしっかりと語れる力が、今後のリーダーには求められるのではないでしょうか。

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「社員かどうか」にこだわらず、ゆるやかなファンを増やす

ジョニー反対に、チームから離れていくメンバーにはどう対処するのがよいのでしょうか。

「やりたいことが見つかりました」と言って独立したり転職したりする人を前にして「よかったね」と言えるのが、リーダーのマインドセットとしてはベストなんでしょうか。

小林極論を言えば、そうだと思いますよ。誰かがいなくなることで仕事が回らなくなるとか、ほかの人にしわ寄せが行くといったことはさておいて、人がやりたいことを見つけて実現できること以上にいいことはない。

「やりたいことが見つかりました」という辞め方はすごくポジティブだし、気持ちよく送り出されれば、辞める人もその会社に対して感謝の念を持ちますよね。それがとても大切なことだと思うんです。

先ほど言ったように、これからの時代は誰もが協力者になり得る。辞めていったからといって、今後その人と何かを生み出すことはないという約束は成り立たないわけです。

そういう意味では、すべての人がその会社のファンであるという状態が理想で、また一緒に何かをしたいなと思ってもらえたら勝ちなんです。

正社員か否か、白か黒かという色分けではなく、これからは濃淡で捉えるべき。強いつながりの中で一緒に何かをする時期もあれば、緩やかな協力関係を結ぶ時期もある。

一つの会社の中で完結するのではなく、そういう働き方をすることで、その人の持っているスキル、人材としてのリソースはより効率的に生かされることになります。大きい視点で考えると、人口が減っていく日本において、生産性を維持するための一つの考え方なのではないかとも思います。

ジョニーリーダーの中には「自分が好きなことをやれ」と言いつつ、誰かが辞めようとすると「何で辞めるんだ」と怒りをあらわにする人も多いような気がします。そういうところは変えていくべきなんでしょうね。

小林辞める理由として「やりたいことが見つかった」と言う人もいますし、それが本当にやりたいことには見えないこともあるので、怒る気持ちも分かるのですが、本当に「こうありたい」「これをやりたい」ということが明確になると、いま所属している会社ではそれが難しい、辞めざるを得ないということは当然起こります。

「こうしたい」という思いを源泉とするリーダーシップが発揮できる会社や働き方を見つけることはその人にとって大事だし、そういう人を無理やり引き留めてリーダーシップが発揮できない状態にしていても会社にとってメリットはあまりない。だからやっぱり、どこかで別れなきゃいけないんだと思います。

私は“健全な代謝”と呼んでいて、一定の人が辞め、また違う人が入ってくる、そうした代謝があることで組織は常に新しいものであり続けられると思います。

離職率0%の会社があったとしても、ガラパゴス化しているとも言えるわけですし、ダイバーシティの対極にあるのかなと思ってしまいますよね。

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共感を呼べば「集まる」時代。職種に関係なく、哲学を発信し続けよ

ジョニー小林さんが出会ってきた中で、優れたリーダーだなと感じる方はいらっしゃいましたか。そういう人たちの共通点などがあれば教えてください。

小林やっぱり「こうありたい」「こうあるべきだ」という自分の哲学を発信して、その実現に向けて余計なことを考えず、真摯に行動している人たちですね。

「こんなことを言うと、周りはこう感じるだろうな」とか「ちょっと難しいかもしれないな」といったことをつい考えてしまうものですけど、彼らは「こうしたい」「こうあるべき」「だからこれをしなきゃいけない」という純粋な思いで走っている。

もちろん組織に属している以上は、やりたくない仕事もある程度はこなしつつ、自分のやるべきことにはきっちりとエネルギーを注いでいます。

多くの人は、やらされている感覚をどうしても捨てきれず、その仕事のせいで「やりたいことをする時間がない」という言い訳をしがち。でも、本当にやりたいと思えば、どうにかしてでもやるものですよ。

ジョニーいま「発信する」ということを仰いましたが、リーダーはSNSをどう活用すべきだと思いますか。

それこそ、賛同だけでなく批判的な意見を集める可能性もあるわけで、二の足を踏んでいる人もいるようですが。

小林自分があまり使っていないので偉そうなことは言いにくいんですが、積極的に活用すべきだと思います。発信するメッセージがぶれるようではダメですけど、自分の中に「こうしたい」という確固たる思いがあるのなら、どんどん発信していくべきです。

いまは一人のスーパーマンが何でもやれる世の中ではなくて、その人に足りないものは周りの協力を得て補完されることで価値が生み出せる世の中だと言えます。

強烈なビジョンを示すことさえできればお金も人も集まる時代なんですから、それを発信し続けることには大きな意義がある。やはり共感を呼ぶ力、その熱量がリーダーには欠かせないということです。

ジョニーありがとうございます。リーダーになるまでの道の出発点が実は「自分は何をしたいのか」を知るところにあるというお話は、とても印象的でした。

小林リーダーシップを突き詰めて考えていくと、どうしてもそこにたどり着くんです。

昔は「自分がどうありたいか」を明確にできたとしても、それを実現することはすごく難しかったと思います。でもいまは、働き方もさまざまになり、SNSを使って発信することもできるし、共感を得て、誰かとつながることで実現することができる世の中になりました。

だから、自分の思いを胸の内に抑え込んでおく必要なんてないし、会社に留まり続ける必要もない。

一人ひとりがリーダーシップを発揮して、自分の哲学や信念をもとにやりたいことを実現させる。これからの時代には、そんなチャンスがあふれていると思います。

こちらの記事は2019年03月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

日比野 恭三

写真

藤田 慎一郎

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