リーダーは「Do」を急ぐな。
意外に知らない、正しいPDCA活用術
- TEXT BY KYOZO HIBINO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
リーダーのメイン業務はメンバーマネジメントじゃない
この連載も後半に入りますが、前半は「描く」ことにフォーカスした内容のものばかりでした。
小林そうですね。ミッション、戦略、目標達成までの道筋……それらを「描く」ことに焦点を当ててきたのは、ベンチャー企業では、そうしたスキルが不十分なマネジャーが多いと感じるからです。
プレイヤーとして実績をあげたからマネジャーになる、あるいは、会社自体が成長してポストを増やさざるを得なくなった結果、まだ未熟だけどもマネジャーに抜擢されるということがよくあることもその一因だと思います。マネジャーという立場になって何がいちばん変わるかというと、メンバーを持つことですよね。
そうなると、ついメンバーの方ばかりを向いてしまい、やる気をどう引き出すかなどメンバーマネジメントに注力しようとしてしまいがちなんですが、結局は自分が経験したことしか教えられないし、エネルギーをメンバーに向け過ぎることで自身のリーダーとしての成長も止まってしまう。
本来は、自分が任された部署の目標や役割を果たすことが最も重要なことであって、メンバーのやる気を引き出したり、チームビルディングをしたりというのは、そのための手段のはずなのに、そちらが主になってしまうという主従逆転が起こりがちです。
だからこそ、リーダーとしてまず身につけるべき重要なスキルは「描く」ことですよ、という点にフォーカスしてお伝えしてきました。
ここからは描いた後、どう実践するのかというところに入っていく。
小林はい。描いたものに基づいて、自らが動き、メンバーを動かさなければ意味がありませんから。実際にやってみると、描いたとおりにはいかないということがわかってきます。
つまり、皆さんもよくご存知のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルをどう回していけばいいのかということが今回のテーマになります。
私たちは、リーダーを「ゴールや道筋を設定し、周囲を巻き込み、実現まで導く」という言葉で定義しているわけですが、最後のゴールの達成までやり抜くことを考えた時、結局はPDCAをどれだけ的確に回し続けられるかという話になります。
そのうちの「P」が前半でお話ししてきた「描く」の部分。あとは、残りの「D」「C」「A」を丹念に回していけばいいのですが、実はこれが簡単に見えて意外と難しい。
Doを急ぐな!PDCAの成否は「P」で決まる
何が障害になるのでしょうか。
小林「D」ができない原因としては2つあって、1つは「P」に問題があるパターンです。「こういう方針でいきましょう」ということまでは描けているけれども、具体的な行動計画やアクションプランにまで落とし込めていない、もしくはアクションを絞りこめていない。
そうなると「で、何をすればいいんだっけ?」というところで立ち止まってしまったり、「こんなに全部やりきれない」と実践できなくなってしまいます。もう1つは、しっかりと具体的な「P」は描けているのに動かない、というパターンです。
「やればいいだけなのに、なぜ動かないの?」と不思議に思われるかもしれませんが、そういうことがよく起こってしまう。本当にこれで大丈夫なのだろうか、失敗するんじゃないかと不安になったりして動けなくなってしまうのです。
「C」と「A」はセットにして考えてよいと思いますが、これについても同様に2つのパターンがあります。1つは、やはり「P」に問題がある。プランを描く段階で、いつ何をチェックポイントにして検証するのかということがきちんと定められていないわけです。
これでは検証しようにも、何をどのように検証すればいいかがわからなくなってしまいます。そしてもう1つが、せっかく「P」を描いたにもかかわらず「C」がおざなりにされ、やりっ放しになってしまうパターン。
ここで一つ言えるのは、結局は「P」がしっかり描けていないと「D」も「C」も機能しないわけで、PDCAサイクルのうちの半分ぐらいは「P」の完成度や具体性によって決まるということ。
そうならないよう、Specific(具体的な)・Measurable(測定可能な)・Achievable(達成可能な)・Related(経営目標に関連した)・Time-bound(時間制約がある)の頭文字をとった「SMART」の観点でプランが描けているかをチェックしておくことが大事です。
連載でずっとお伝えしたきた「描く」ことは、それぐらい重要なものだということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
うまくいってもいかなくても「C」「A」を欠かさない。それが生産性を上げるヒント
と同時に、描き出した「P」を着実に実行に移していくことも大切ですね。
小林もちろんです。メッセージとしてはあまりにシンプルですが、「P」を決めたのであれば「D」のステップは「迷わずにやる」ことが大原則。そして「C」の段階ではそれとは反対に「多面的に、疑いの目を向ける」ことを心がけてください。
定期的な検証(C)と、その結果に基づく改善(A)が十分でないと、ゴールに対して間違った方向に進んでいてもそれに気づくことができず、リソースが無駄になってしまう危険性があります。
的外れな登山ルートを歩いていたとしても、「C」「A」の機会がなければ、永遠に頂上にたどり着くことはできないわけですから。
PDCAサイクルの「C」と「A」の部分だけを切り出すと、結局は「問題解決」の連続であるということに気づきます。
ある「C」の時点における「目指す姿」と「現状」の間には、ほとんどの場合、何らかのギャップが生まれます。そのギャップこそが「問題」であり、その「問題」の原因を探り、取り組むべき課題を特定し、「解決」することで正しい方向へと歩み直していくことが可能となります。
それを繰り返すことでゴールまでの最短ルートに近づいていき、生産性が飛躍的に向上することになります。
小林便宜上「問題」という言葉を使っていますが、「C」の時点における「目指す姿」と「現状」のギャップは、必ずしも「悪いこと」だけではありません。あるプロジェクトがスタートしてから1カ月の時点での目標が「売上1億円」だったけれども、やってみたら3億円もの売上を達成できたということもあるでしょう。
また、目標とぴったりの1億円を売り上げることができたケースだってある。そういう場合でも「C」を省くのではなく、いいほうのギャップはなぜ生まれたのか、目標どおりの数字を出せたのはなぜなのかをしっかりと検証することはやはり重要です。
そこで順調な理由を明確にすることが、その先のPDCAをより効率的なものにしていくヒントになる。
PDCAのスキルアップはフィードバックがカギ
なるほど。PDCAの中では、「P」に加えて「C」もかなり重要な歯車だと言えそうですね。
小林「P」と「D」に終始してしまっている人は多いと思います。その先の「C」「A」をどのようにやっていけばいいかということについて補足すると、これはいわば筋トレのようなものだと考えるべきでしょう。
本を読めばできるようになるわけではなく、実践してこそ身についていくスキルだと言えます。一つのやり方としては、「C」の段階に来た時に、「目指す姿」と「現状」を見比べて、何がギャップ(問題)で、その原因は何なのか、取り組むべき課題と解決策は何か、といったことをとにかく紙に書き落としてみる。
自分の頭でわかっていないことは書き表すこともできないので、目の前にアウトプットしてみることは非常に重要な作業です。迷いながらも形にすることができたら、それを上司に見せ、フィードバックをもらいましょう。
そのフィードバックを受けて修正したものを、もう一度見てもらう。これをできるだけ短期間に、最低2回は繰り返すのがよいと思います。こうしたトレーニングを重ねることが成長につながっていきます。
問題は上司が……。
小林そう、PDCAや問題解決に対してきちんと理解している上司がいるかどうかですよね(笑)。残念ながら、必ずしもそうした直属の上司がいない場合も多いでしょう。となれば、社内を見渡して、この領域に強いと思える、ロールモデルとなる人のところへ持っていくべきです。
「直属の上司がよく思わないのではないか」といった配慮は本質的ではありません。組織行動学者のコルブが提唱した「経験学習モデル」というものがありますが、その中でも、「実行した結果に対するフィードバックがあること」、「それを修正する機会があること」の重要性が指摘されています。
まさしく筋トレのように、その手順を繰り返すことによって、リーダーとして必要なスキルを身につけ成長していくこと、そしてゴールまでたどり着くことこそが本質だと思います。
もう一つ、ポイントを挙げるなら、フィードバックと修正はできるだけ短期間に、ぎゅっと凝縮して行うこと。期間が空くと、日々の業務の中で記憶がどうしてもあいまいになり、「前回はどんな指摘をしたんだっけ?」「どんなアドバイスをもらったかな」と思い出す時間が必要になってしまいます。
短期集中的にフィードバックを受け、問題解決を重ねていくことで、高い成果が得られるはずです。PDCAや問題解決といったテーマは決して新しいものではありませんし、できる気になっている人が多い。
今回は基本的な話が中心ですが、実はリーダーにとって不可欠なスキルであることに気づくきっかけになればいいなと思っています。
こちらの記事は2018年04月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
日比野 恭三
写真
藤田 慎一郎
連載20代リーダーの教科書
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