あなたは「活躍する人?しない人?」──急成長スタートアップのCEO3名に訊く、成果をあげる人材の条件
成長著しいスタートアップは、外部から華やかに見えるかもしれない。
しかしその中で、どのような人材が活躍しているか──スキルセットや歩めるキャリアパスが明確に打ち出されることはそう多くない。特に会社としてのフェーズが浅い間は、“何でも取り組む姿勢”や“ハードワーク”が求められると思われていることも多い。
2月8日に開催された、スタートアップに特化したキャリアイベント「Startup Aquarium by Coral Capital」のパネルディスカッションでは、この部分にフォーカスが当てられた。登壇したのは、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を続ける3社のCEO。SmartHRの宮田昇始氏、カケハシの中尾豊氏、そしてHolmesの笹原健太氏だ。
彼らが考えるスタートアップで働く魅力と求める人材、さらには年収や必要となる経験など、働く上でのリアルが語られた。
- TEXT BY SATOSHI HINUMA
- EDIT BY EMI KAWASAKI
難問に立ち向かえる人、謙虚に学ぶ人が活躍する
3社とも右肩上がりに事業を拡大し、従業員数も増やし続けているスタートアップだ。単なる数だけで規模は測れないが、SmartHRは創業7年目で従業員数200人以上、カケハシは4年目で100人台、Holmesは3年目で50人まで拡大している。
セッション冒頭、まずは、それぞれの企業でどのような人が働いているのか、そしてどのような人が活躍しているのかを、モデレーターを務めたCoral CaptalのJames Riney氏は問いかけた。
宮田創業当初は、荒くれ者が多かったですね(笑)。みんな自慢できるような職歴も学歴もなく、CTOも金髪でしたし、僕もでかいピアスをつけてお客さんのところに行っていました。ただ、いまは人も増えて、いわゆるエリートキャリアなメンバーもどんどん増えてきています。
向いている人でいうと、難しいチャレンジが好きな人でしょう。マネージャー達に「どういうときにテンションが上がるか」を聞いたときも、全員から「難しい問題があるとき」と言われました。
大きなチャレンジをするにあたっては、いろいろなことを学んだり、実行したりしなければいけません。SmartHRにはそうした学びと実行のサイクル自体に楽しさを覚えられる人が多いのだと思います。
宮田氏の言葉を受け、中尾氏も「学ぶ姿勢」の重要性をあげた。
中尾カケハシの場合、活躍している人とそうでない人の差は、前職での成果ではなく、“謙虚さ”にあらわれています。
謙虚な人ほど、僕らが関係する領域の医療保険や薬剤の業界に詳しい人へ徹底的にヒアリングして学び、解像度高くアウトプットする。そういう人は、成果が出ていると感じます。
一方、過去の成功体験や経験則、ルールに固執している人はなかなか活躍しにくいですね。医療という多くのしがらみがある領域で新たな道筋を切り開いていく僕らの事業において、「ルールがないから、どうしよう」では難しい。
社内的なルールも社外的なルールも、どうやったら変えられて、もっと良くできるか。そういう思考が欠かせないと思います。
個人よりも組織の成長が圧倒的に早い
とはいえ、学ぶ姿勢を強く持てる人であれば、あらゆる業界や企業においても成果を出せる可能性があるのではないか。その中でもあえてスタートアップを選ぶべき理由はどこにあるのか。
James氏は続いて、「スタートアップにジョインするメリット・デメリット」を登壇者に問いかけた。三者が語ったのは一貫して「変化」に対する意識だった。
宮田スタートアップの場合、会社の成長や変化はとても早い。自分が解くべき課題が変わっていくこともありますし、課題の難易度も上がっていきます。自らが成長しなければ会社の成長に追いつけません。
会社の成長より早く成長できる人は全体の1~2割くらいで、だいたいの人がついていくのがやっと、という印象ですね。
スタートアップの世界では変化がつきもの。会社の方針が急に変わることは、大企業よりも多いかもしれません。変化が激しい分、自分にも変化が求められる。それが楽しいと思える人には向いていると思います。
求める人材として、会社の成長と変化に、個人の能力が適応できるかという点は、笹原氏も強く実感しているという。
笹原新しいチャレンジや変化そのものを楽しめる人には向いていると思います。会社の成長にともなってメンバーが増えていくと、マネジメント人材が必要になります。会社側は、元々プレーヤーで成果を出している人のなかから、マネジメントに向いていそうな人を選ぶことが多い。
ですが、プレーヤーとマネジメントは求められるものが違いますよね。プレーヤーとしてがんばればマネジメントとしての素養が身に付くわけではないし、役割の変化についていけない人は苦労があるかもしれません。
中尾氏は、業界の先端を走ったり新産業に挑んだりするスタートアップでは、「(一般的な)社内での出世とは、異なる達成感が得られること」を魅力だと語る。特に大企業より「変化の中心にいる」感覚が強いという。
中尾我々の場合、薬局・薬剤の業界のスタンダードを作っている感覚を強く持っています。
たとえば、今までにない営業手法を考え広めていけば、業界内では「カケハシ方式」と呼ばれるでしょう。先人を切る挑戦を繰り返しているからこそ、こうした機会を手にできる。これは大きな魅力ではないでしょうか。
ただ、業界の大手企業と比べると、短期的には収入が減る傾向にあるのは事実です。とはいえ、カケハシの平均年収は600万円以上ですし、1,000万円以上の人もいる。加えて全員にストックオプションも付与しているので、中長期視点では資産面のリスクはあまりないと思っています。
情報をオープンにするカルチャーが意外な効果を生んだ
続けて各社のカルチャーや、社内事情を問うJames氏。宮田氏のSmartHRでは、情報をオープンにする方針のおかげで、思わぬ“副次的効果”もあったという。
宮田SmartHRでは情報をオープンに保つことを重視しています。経営会議で話した内容をすべて議事録に残し、全社員が見られるようにしていて、銀行口座の残高も明らかにしています。社員に「SmartHRの一番変わってほしくないところは何か」と意見を集めたとき、ぶっちぎりで多かった回答が「情報の透明性」でした。
社外にもなるべくオープンにしたいと考えているので、面接のときに候補者に見てもらう会社説明の資料もWebで公開しています。この資料の公開後、応募数は一気に5倍くらい増えました。
数が増えると会社に合わない人からも応募があるかと思ったのですが、逆に、以前よりも会社に合う人からの応募が増えました。
情報をオープンにするというカルチャーが、広報的なメリットだけではなく、採用時のフィルターの役割としても役立った。これは思わぬ効果でした。
企業の成長に合わせてカルチャーを定義していくべき、と話すのは笹原氏。従業員がおよそ50人にまで増え、これから本格的にその作業をしていきたいとしながらも、すでに社員から評価されている慣習はひとつあるとした。
笹原メンバーがいいと言ってくれるのが、「承認する・される」という文化です。月1回の成果発表会では、メンバーの成果を皆で讃える。企業のカルチャーを作っていくためには、そういう集まりや社内イベントを開くのもひとつの手ですよね。
それに対して中尾氏は、現在の社風をあえて変化させていく必要性を感じているという。採用時の判断基準を「自分が崖から落ちそうなときに手を差し伸べてくれるか」としてきた中尾氏は、現在のカケハシの課題を率直に語った。
中尾カケハシには優秀で「いい人」が多いんですね。これは喜ばしいことですが、会社にとっては危険信号でもある。ある意味、お人好しすぎるのでアグレッシブさが足りなくなってきたと感じているんです。
会社が目標を掲げたときに「それよりもっとやっていこうぜ」みたいな勢いがあるといい。リスクヘッジや工数を考慮して、現実的な目標を掲げることも大事なんですけど、「攻め」の雰囲気を作る必要があるフェーズなのかなと思います。
ジョインしてほしいのは、大きなチャレンジをしたい人、ワクワクできる人
最後の質問は、各社が今どのような人材を採用したいと考えているか。5~10年先を見据えて、それぞれの思いを語った。
中尾カケハシのプロダクトは現状で「Musubi」のみですが、今いろいろなプロジェクトが進んでいます。まさに新しい事業を始めようとしているフェーズ。
事業を0から始めた、あるいは1から伸ばした経験があって、今度はその経験を社会課題の解決のために生かしてみたい、という人にぜひ来てほしいです。
これまでは、薬や病気について相談したいとき、病院や薬局へ行くのが当たり前でした。5年後は自分に合った医療従事者へすぐ相談できる世界に、10年後はそれが当たり前になっている世界を実現したいと考えています。
笹原今後、“契約”そのものが大きく変わる初めての時代になるのではないでしょうか。人事、営業、会計だけでなく、今後は契約においても必ず生産性が求められるはずです。
5〜10年後、そうなったときにしっかり未来の価値を創り出していかなければなりません。そのために、1から組織を作ることにワクワクして、楽しめるという人に来てもらいたいと思っています。
宮田やはり難しい問題を解くことが好きな人に来てほしいですね。これから難易度の高い大きなチャレンジをしたいと思っていて。これに立ち向かいたい! という方を望んでいます。
5年後の目標は「100万社に1社」の企業になること。日本にある企業の1,000社に1社が上場企業で、時価総額1,000億円の上場企業は5,000社に1社です。さらにそのなかで創業10年以内で現在も時価総額1,000億円を超えているのは、3社だけ。つまり130万社に1社という割合なんです。
「100万社に1社」の企業になるのは難しいチャレンジですが、僕たちはそれをつかめる場所にいる。そういう環境にチャレンジできるのは一生に一度のチャンスではないかと思います。
成長し、常に変化し続けるスタートアップには、大企業では得られないやりがいがあることは間違いない。しかし、その成長・変化の速度は、起業する前から社会経験を積んでいる創業者であっても戸惑うレベルであることが窺える。
厳しい環境に身を置いて、柔軟に変化を受け入れ、学び、自ら成長していけるか。ハードルは決して低くないが、会社としての成功にしっかりコミットできれば、自分のキャリアとしての成功もきっと手にすることができるはずだ。
こちらの記事は2020年04月07日に公開しており、
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北海道生まれ。Footprint Technologies株式会社代表取締役。なんでもやる系ライターとして、モバイル、オーディオ・ビジュアル、エンタープライズ向けソリューションなどのテクノロジー分野のほか、オートバイを含むオートモーティブ分野やトラベルといったジャンルもカバーする。
編集
川崎 絵美
編集者。メディアの立ち上げや運営をしています。2006年インプレス入社後、企画営業、雑誌・ムックの編集者を経て、ニュースサイト『Impress Watch』の編集記者に。2014年ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン入社後、スポンサードコンテンツのディレクション、編集、制作に従事。2019年に独立。現在は「ランドリーボックス」などを手がける。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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