バンダイナムコに聞く
VRで本当に人を感動させる方法!
VR ZONEの秘密
2017年7月、東京・新宿の一画に誕生した「VR ZONE SHINJUKU」。
その名の通りVRを用いて、さまざまなアトラクションが体験できる施設だ。
東京・台場において、2016年4月から10月まで期間限定で設置されていた「VR ZONE Project i Can」に次ぐ施設であり、より多様なコンテンツが用意されている。
施設内にはVRを用いた12のアクティビティだけでなく、VRなしで楽しめるものや本格的なカフェレストランも展開する。
- TEXT BY KEI TAKAYANAGI
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
VR技術を使った実験施設
アクティビティでは、利用者がHTC社のヘッドマウントディスプレイ「VIVE」を装着し、各コンテンツのブースでVR空間を体験。
提供されるコンテンツは、ドラゴンボールやエヴァンゲリオン、マリオカート、ガンダムといった人気作品を元にしたアクティビティや、自転車を漕いで空を飛ぶもの、大きな魚を吊るアクティビティ、ホラー体験を味わうものなど幅広い。連日、多くの利用者が訪れ賑わいを見せている。
同施設の事業主体は、株式会社バンダイナムコエンターテインメント。言わずと知れたゲーム、アミューズメント分野の大企業だ。
「VR ZONE」プロジェクトを推進したAM事業部エグゼクティブプロデューサー 小山順一朗氏は、
小山近年、ゲームセンターを始めとするアミューズメント市場の売り上げが低迷する中、そこにさまざまなゲーム機を提供してきた弊社として、新たに事業の核となるコンテンツの開発が課題となっていました。この施設はVRという技術が、どれだけの人を集め、感動させることができるかを探るための実験施設でもあります。
と話す。
VR技術の導入は、長年培ってきたアミューズメント開発の実績の中で、すでにその下地が出来上がっていた。小山氏がVR技術を用いた機器の開発に初めて取り組んだのは、1990年代(当時はナムコ)という。
巷でもバーチャルという言葉が流行り、ゲーム分野でもその技術が取り込まれ始めていた。
しかし当時はヘッドマウントディスプレイなど高度なデバイスは当然なく、ドーム型のブースに入って映し出される映像で体感するものが主体であった。 このVRの手法は、2006年に発表されたドームスクリーン式の対戦ゲーム「機動戦士ガンダム 戦場の絆」でも見られるものだ。
小山VRという言葉が広く浸透し始めたのは最近で、今多くの人がイメージするのは、ヘッドマウントディスプレイを着けて体験するものでしょう。しかし、本来のVR技術はこの数20年程の間に徐々に進化し、弊社でもその都度、ゲームやアトラクションに取り込むための試みを続けてきました。
それ以外にも自動車教習所に設置されている運転シミュレーターもVR技術を用いたもので、同社製品が大きなシェアを持っている分野でもある。
2015年に頭の動きを感知するヘッドトラッキング技術を導入したヘッドマウントディスプレイが販売されたことをきっかけに、小山氏率いる開発チームの取り組みが加速。今まで溜め込んできた構想の鬱憤とでも言おうか、考えていたエンターテインメントサービスが一気に現実化し、VR ZONEへと至った。
ターゲットはVRを知らない女性
VR技術を使ったアクティビティ施設をつくるにあたりポイントとなったのは「客単価」「ターゲット」そして「VR体験をよりリアルに感じるための仕掛け」だ。
小山現在、ゲームセンターでは多くのアトラクションが100円、高くても500円程度で遊ぶことができます。
低価格でのサービス提供はゲームセンターの経営努力によるものもあると思いますが、開発元としては、多くの資金を投入して開発したコンテンツが本当にその価格で提供されてよいのか、もしくはもっと高単価で受け入れられるコンテンツを開発すべきではないのかという自問自答をすることになります。
一方で、VR ZONEの人気アクティビティである『ドラゴンボール』のアクティビティでは、かめはめ波を放つ体験ができますが、ではその体験は、いくらの価値があるのか。
VRによって実現する新しいコンテンツはこれまでになかった価値を提供するもので、安売りせず、適正な価値を設定していく必要がありました。
同施設の主なチケット料金は、4つのアクティビティが体験できる1day4チケットセットが4400円。グッズや飲食の売り上げも含めた客単価は、一般的なゲームセンターよりも大型アミューズメントパークのそれに近い。
また、訪れている客層に見られる特徴が、女性の多さだ。VR技術を用いたゲームと言えば、数年前までは一部のgeek、オタクがユーザーの中心で、これらのターゲットは最新技術への関心から利用する場合が多く、リピート率も見込めなかった。
一方で女性をメインターゲットに据えた理由は、女性は特別な体験にお金を使うケースが多く、女性が来場すれば男性もそれに伴って来ることを狙ったものだ。
小山VRの市場を広げるには、関心のない層に知ってもらう必要があったため、SNSなどで女性たちが情報を拡散してくれる効果に期待しました。
ヘッドマウントディスプレイを着けた状態を外から見た面白さだけでなく、施設内にインスタ映えする空間デザイン、飲食メニューを用意することでそれを促しています。
現在の来場者の約40%が女性であり、全体の約90%がVR未体験者という数字はその効果の表れだろう。
小山アミューズメントパークは、ユーザーのリピート率がとても重要です。1day4チケットで4つだけ遊べるようにしたのは、また訪れてくれる機会を増やす狙いもあります。もちろん、1つ1つのコンテンツが魅力的であることが前提です。
VRはリアルであってはいけない
さて、この施設のテーマは「さあ、取り乱せ。」だが、取り乱すとはどのような状態を指しているのだろうか。同社の開発チームでは、コンテンツの開発と同時に人間の身体が持つ反射や心理的な機能についての研究を進めたという。
小山人には、例えば転びそうになったら手をつこうとする無条件反射と、酸っぱいものを想像すると唾液が出るような条件反射があります。どちらも頭で考える前に起こるもので、この時、だいたい身体のどこかの筋肉が緊張している。この緊張状態を感じた後に頭が不安や喜びなどをイメージするケースは少なくありません。
この2つの反射状態を生み出す仕掛けをヘッドマウントディスプレイの映像と連動させることで、よりリアリティーのあるVR体験を実現しているというのだ。
具体的には音や光だけでなく、体験者が立っているベースが揺れる仕掛けなどにより無条件反射を刺激。また高所で崩れ落ちていく足場を見せたりすることで、ある種の“不安”を煽り、条件反射を刺激していく。
小山身体が信じると、心も信じてしまうんです。そのためには、リアルなビジュアルをつくったり、過度な演出や新しいルールを与えるのではなく、反射という既に持っている人間の機能にアプローチすることが効果的でした。
取材時に体験した、「極限度胸試し ハネチャリ」というアクティビティでは、羽の付いた自転車を漕いで飛び回ることができるが、冒頭に突然高所感を与える視覚的な効果を持ってくることと共に、肌に感じる吹き抜ける風の演出により、リアリティーのある体験となっていた。
小山各コンテンツはほぼ自社で企画、開発を行っています。VR技術を用いたアクティビティは、従来のゲームのビッグタイトルに比べて、コストが抑えられる点も特徴です。そのため、この施設の建造費もペイできる見通しを持って社内で提案しました。日本発信のアミューズメントで、より感動や驚きを世界にも提供していきたいですね。
と語る小山氏。
VR技術を過信しすぎず、あくまでも一つのツールとして扱う冷静な視点は、高い開発力をベースに持つ同社の開発者ならではと言える。
小山氏は頻繁に研究者の言を引用していた。また人を感動させる10のファクターを手帳に書いてあったことも印象的だった。人の心を揺さぶることは技術・コンテンツの革新性ではない。人間を深く理解した上で、それらをツールとしてぶつけるということで実現するのだ。
遊び心とビジネスを両立させる、同社のVR施設が世界を席巻する日が待ち遠しい。
VR ZONE SHINJUKU
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1
10:00~22:00(最終入場21:00)
無休
こちらの記事は2017年10月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
高柳 圭
編集
海老原 光宏
連載ビヨンド・リアリティー(BR)
5記事 | 最終更新 2017.10.06おすすめの関連記事
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