ニュースは将来体験になる。
朝日新聞が作る未来の報道とは?
VRでニュースも変わるのか。
クラウドファンディングから分散型動画メディアまで、時代の先端をいくデジタルプラットフォームを次々と立ち上げている朝日新聞社。媒体社として核となる「ニュース配信」においてもテクノロジーを取り入れた新メディアにチャレンジしている。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
ニュースは見るから体験へ
新サービスがスタートしたのは3か月ほど前の2017年6月29日。ニュースが起きている現場の様子を、360度の空間で報道発信するスマートフォンアプリメディア「NewsVR」をリリースしたのだ。
堀江新聞部数が減っていることは事実ですが、ニュースに対する需要は減ってないと思います。情報を知りたいというニーズ自体は不変で、情報の伝わり方が変わってきているだけ。そんな中もっとも注目されているのは、VRでしょう。
難民キャンプの様子をニューヨーク・タイムズがアプリで360度動画で発信していました。ご覧になった方も多いと思いますが、VRを通してだと文字を読むよりはるかに多くのことを知覚できる。
情報を伝えて人の心に働きかけ、行動につなげてもらうためには、『見る報道』を超えて体感してもらうことを考えなければいけないと思っています。
そう話すのは、NewsVRを運営する同社「メディアラボ」室長、堀江隆氏。堀江氏は続けて、ニューヨーク・タイムズが自社アプリのリリースとともに定期購読をしている全世帯にスマホ用VRゴーグルを配布したことにも触れ、いかに「体感できるニュース」のニーズが高まっているかを強調する。
NewsVRの紹介コピーでも『「見る」報道から「体験する」報道へ』を掲げているだけでなく、「報道現場の全体像を“即時性を持って”視聴者に伝えることが可能になった」と銘打っている。
というのも、見て楽しむことを目的に作られている360度映像は、編集に時間をかけてより美しいものに仕上げるのが一般的だが、ニュースである以上、ホットなうちに配信することは必須条件だからだ。
そのためカメラマンは、通常の一眼レフでの撮影と同時に、NewsVR用に十数台の360度カメラを用いた撮影をおこなうなどして、編集した映像をできるだけ早く視聴者に届けるようにしている。現在コンテンツは週2、3本配信中だ。
課題はまだまだ多い。報道にVRを取り入れるという取り組みは、日本ではNHKが2016年より開始。やはり映像媒体社には一日の長がある。
デジタルメディアが先行している海外ではニューヨーク・タイムズの他、CNN、ウォール・ストリート・ジャーナル、USAトゥディなど先達は多い。VRを使ったサービスで他から抜きん出るためにはなんらかの工夫が必要だ。
そこで朝日新聞社はいくつかの施策を試みている。そのうちの一つが、「プレイステーションVR(PSVR)」での映像配信だ。
PSVRは、VRヘッドセットをかぶることによって、360度全方向を取り囲む3D空間の中でゲームをプレイできるコンシューマー機器だが、ゲーム以外にミュージックビデオや360度実写映像などの多彩なコンテンツも楽しめる。
製造元であるソニーのゲーム子会社、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、9月19日に品川インターシティホテルで開催された「2017 PlayStation® Press Conference in Japan」において、VR向けコンテンツの種類を増やすと発表。
朝日新聞社の他、ニコニコ動画の映像なども見られるようになることから、今後ますますVRが我々の生活に浸透してくることが予想される。
また、東京・上野で10月9日まで開催中の「ボストン美術館の至宝展」(朝日新聞社など主催)においても新しい試みを実施中だ。
会場に用意されたVRゴーグルを装着して作品を鑑賞すると、描かれた人物や動物が画面から飛び出してくるという体験イベントだ。「美術展を主催することが多い新聞社ならではの施策に取り組みたかった」と堀江氏。
新聞という紙から3Dへと変遷を遂げただけでなく、ニュースの枠を超えて様々なことにチャレンジし続ける姿勢には目を瞠る。事業の要となるマネタイズについてはどう考えているのか。
堀江現状、VRコンテンツの前後にVR広告を流すことや、コンテンツ内に画像や広告動画を挿入することを考えています。また、本紙の紙面広告と連動したVRを提供することで、マネタイズにつなげることも模索中です。
とはいえ、まだまだデバイスの普及には時間がかかると思うので、まずはNewsVRの認知度を高めることが最重要課題です。
先日のマーケッター・高広伯彦氏へのインタビューでは、CNNのVR動画ニュースについて触れ、「コンテンツの途中で高級自動車が走りこんでくる広告などがありうる。
考えるだけでエキサイティング。こういう新しい取り組みを一緒にやりましょう、と媒体社は売りに行ってほしい」とコメントしていた。VRコンテンツの没入感から考えるに“広告”という印象を超えた“広告”が生まれる可能性がある。
動画空間という表現領域が最も多彩なVR。メディア形態としては極北に達した感がある。この極みを獲るのは意外にも紙媒体社かもしれない。
こちらの記事は2017年10月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
松本 玲子
編集
海老原 光宏
連載ビヨンド・リアリティー(BR)
5記事 | 最終更新 2017.10.06おすすめの関連記事
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