ベンチャー経験、本当にキャリア上で優位になる?35%が「7年目年収800万円以上」とわかった調査で考える、スキル獲得・昇進の捉え方

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ベンチャー企業で働くことで得られるものとは、一体何だろう。「やりがい」「自己成長」「スキル」──。高収入ではなくそうした“目に見えない糧”を得ながら、ベンチャーパーソンは日々仕事に邁進している。そう考えられてきた。

そこで、今一度よく考えてみてほしい。もし裁量の拡大やスキルアップが叶えば、年収や昇進にも影響してくるはずだ。得られるものは決して目に見えないものだけではないのではないか?

その実態を確かめるべく、FastGrowを運営するスローガン株式会社は2023年4月、社会人9年目までの年収や役職の変遷のアンケート調査を実施した。22〜40歳(回答時)のビジネスパーソン106人から回答を得た。そこから見えた傾向とは。

  • TEXT BY AYA SAITO
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年収増も、経営人材化も、今や決して見劣りしないベンチャー出身層

今回の調査結果では、ベンチャー企業経験者は非経験者に比べ、年収の上昇幅が大きい例が決して少なくないことが分かった。また、メンバークラスから経営人材(執行役員含む役員、CxO)に比較的早期に就任している傾向も見て取れた。年収変動の要因を細かく見ていくと、ベンチャー企業を経験した場合、昇進に加え、幅広い業務経験を活かしより高い収入の職種にキャリアチェンジするケースも目立った。

より多くの調査を進めることでようやく「傾向」と言える、まだそのような段階でしかないとも言えるが、一つの指標としては非常に興味深いものと言えるはずだ。ベンチャー企業への就職や転職に対してためらいを感じるという読者にぜひ、将来像をイメージするヒントにしてほしい。

トピックス

  • 外資コンサルからベンチャーを3社経験。9年でCxOに
  • 昇進は全ビジネスパーソンの年収アップに直結。経営人材への近道はベンチャーか?
  • 幅広い業務経験で高年収の職種にキャリアチェンジ
  • 全ビジネスパーソンに告ぐ。まずは目の前の仕事にコミットせよ!

年収と役職やスキルは切っても切れない関係にあることが、FastGrowの読者なら皆お分かりだろう。特定のスキルを徹底的に磨き込み、スペシャリストとしてのキャリアを歩むか。早期にマネジメント経験を積み、ジェネラリストとして市場価値を上げていくか。キャリアの選択肢は様々だ。

いずれにせよ何らかの成果を出すことや、幅広い業務経験を積むことにより、より大きな仕事にあり着きやすくなる。これらは年収の上がる一つの類型といえよう。本記事ではアンケート結果から大まかな傾向を分析していく。

まずは、回答者の中から象徴的な事例を見てみよう。

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事例:外資コンサルからベンチャーを3社経験。
9年でCxOに

回答時37歳のA氏は、2013年に新卒で外資系コンサルティングファームに就職。1年目は年収400万円台のスタートだった。外資コンサルは1年で退職し、日系コンサルとベンチャー数社を経て、社会人7年目には年収1,500万円を超えている。

年収が跳ね上がったタイミングは2021年、コンサルティングファームのCxOに就任したタイミングだ。実に300万円もの大きな幅で年収が上がったという。

そのカギは、キャリアのどこにあったのか?それはおそらく、コンサルタントとしてだけではなく、ベンチャー企業における経営企画や事業開発の経験にある。そうした力が、コンサルティングファームにおいても求められているわけだ。

スキル別に整理すれば、わかりやすいだろう。コンサルタントとしてのデリバリー能力に加えて、セールスとして売上を創出するスキルや、新規顧客や既存顧客へのサービス提案・受注を実現する能力、プロジェクトマネジメント能力を身に着ける経験をしてきたわけだ。さらに、ベンチャー企業における「事業を成長させ続ける」という命題に挑むマインドや、業務遂行のスピード感といった要素が見られたことも容易に想像できる。

どうやらこうしたことが、CxO抜擢の所以となったようだ。

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ベンチャー勤務経験が、高年収に影響するパターンも少なくない

まずは年収を見てみよう。特に象徴的な部分を見るため抜粋して、「年収が800万円を超える割合」に絞ってみた。

ベンチャーを経験した回答者の集団は、1~5年目いずれにおいても、ベンチャー非経験の回答者よりも「年収800万円以上」となる割合が高い傾向が見てとれた。これはやや意外な結果だ。「ベンチャー企業は大企業よりも待遇が悪い」という見方が少しずつ崩れている昨今の流れに沿っていると見ることができる。

また、グラフには記載していないが、ベンチャー経験者の7年目を見るとさらに少し割合が増え、35%が800万円以上となった。ベンチャー経験なしの7年目のデータが乏しかったため比較が難しく、グラフには表現しなかったが、印象的な結果と言えるだろう。

但し、個別の回答を追っていくと、非ベンチャーの回答者は順当に年収が上がっているのに対し、ベンチャー経験者は途中で年収が下がっているケースがある。これは、フェーズの若い企業への転職で、一時的に年収が下がることがあるためだと言えそうだ。もちろん、株あるいはストックオプションを含めたさまざまなインセンティブを含めた報酬設計が考えられるため、年収減が一概にネガティブなものととらえられるわけではないかもしれない。

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「早期に経営層へ」なら、やはりベンチャー経験?

次に、役職について見ていく。

そのポジションの主業務だけでなく、縦割りを超えて拡張したタスクや、さまざまな場面で活きてくるプロジェクトマネジメント能力まで身につくほどの幅広い裁量を若手に与えられるのは、ベンチャー企業ならではだろう。実際に、ベンチャー経験者は、執行役員やCxOを担うようになる例がやはりみられる。

「1年目から執行役員」は、ベンチャー企業ならではと言えるだろう。もちろん、企業規模や事業特性次第で、必ずしも執行役員の待遇が良いとは限らないのだが、一つの目安にはなりそうだ。

さらに細かく見ていくと、ベンチャー経験者は社長になっているという回答者もちらほら。内訳を見ると、起業・独立だけでなく、子会社の社長というケースがある。

このように、経営層への道を若いうちから切り開いてきた例が見られる結果となった。

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短期的な年収アップに、ベンチャー経験は必ずしも関係ない

さて、どちらかといえば役職よりも「年収」に関して他にも興味深い回答が集まっている。このセクションではさらに個別に見ていきたい。

結論から言うと、転職で年収が上がるパターンと昇進で上がるパターンがある。ベンチャー経験の有無には関係なく、とにかく目の前の仕事で成果を出すことが昇進に繋がるといえそうだ。

ベンチャー経験者
「事業責任者に昇格」

昇格による最大年収上昇額 100~149万円
年齢(回答時) 25歳
勤務先(現在) 上場ベンチャー

昇格理由
足元の業務で成果を出していた。

ベンチャー経験者
「プロダクトマネージャーに昇進」

昇進による最大年収上昇額 100~149万円
年齢(回答時) 27歳
勤務先(現在) 上場ベンチャー

昇進理由
突出するような営業成績はなかったが、堅実な営業成績と、様々な横断プロジェクトでの成果を評価され、営業ながらもチームの立ち上げや未領域へのポジションチェンジを繰り返すことができた。そのおかげで、若手ながら幅広い経験ができ、マネージャーにも抜擢されるようになった。

ベンチャー経験者
「執行役員に昇格」

昇格による最大年収上昇額 100~149万円
年齢(回答時) 27歳
勤務先(現在) 未上場ベンチャー

昇格理由
多様な経験を積み、粘り強く組織に貢献し続けたため。

ベンチャー非経験者
「チームリーダーに昇格」

昇格による最大年収上昇額 100~149万円
年齢(回答時) 26歳
勤務地(現在) 日系その他

昇格理由
チームをリードし、団結を生み出す能力が評価された。

ベンチャー非経験者
「エグゼクティブアシスタントに昇格」

昇格による最大年収上昇額 200万~299万
年齢(回答時) 24歳
勤務地(現在) 外資系

昇格理由
長年の勤務を経てエグゼクティブアシスタントに昇格。入社以来、常に自分の職務を全うし、経験から学ぶことを心がけている。

また、以下のように、経営陣との距離の近さや裁量の大きさによって昇格が早まるのはベンチャーならではだろう。

ベンチャー経験者
「マネージャーに昇格」

昇進による最大年収上昇額 300万円以上
年齢(回答時) 31歳
勤務歴 日系大手
未上場ベンチャー2社

昇格理由
早期に経営陣との仕事機会があり、最速で昇進が認められた。

ベンチャー経験者
「CTO &事業責任者への昇進」

昇進による最大年収上昇額 300万円以上
年齢(回答時) 28歳
勤務歴 未上場ベンチャー5社

昇進理由
ポジションを越えてタスクを巻き取り、卓越した成果を出し続けたことで経営層からも部下からも信望を集めた。また、他社から高額のオファーを貰ったことを材料に交渉を行った

一方、転職によって年収が上がったパターンはベンチャー経験者に顕著だ。もちろん、日本のベンチャー企業全体で見れば給与水準がまだあまり高くないという理由もある。だが一方で、ベンチャー経験を武器に、高年収を勝ち取ることができる可能性は十分にあることは確かなようだ。具体的には、裁量をもって幅広い業務を経験したことで、より高収入の職種に転向したケースが目立った。

ベンチャー経験者
「コンサルタントへの転向」

転向による最大年収上昇額 300万円以上
年齢(回答時) 35歳
勤務歴 未上場ベンチャー2社
外資系
未上場ベンチャー

1社目(未上場ベンチャー)で幅広い業務経験があり、コンサルタントとしてお客様先で一人で対応することを信頼してもらうことができたため。

ベンチャー経験者
「コンサルティング会社への転職」

転職による最大年収上昇額 100万~149万
年齢(回答時) 27歳
勤務先(現在) 未上場ベンチャー4社目

新規事業立ち上げの経験を元に新規事業コンサルの会社に転籍した。

ベンチャー経験者
「外資コンサルティング会社への転職」

転職による最大年収上昇額 200〜299万円
年齢(回答時) 27歳
勤務歴 上場ベンチャー

1社目(上場ベンチャー)でSaaSのCSと経営企画を経験し、財務・経理×IT×コンサルの経験を若手ながら積むことができた。

幅広いスキルを身に着けられるのはベンチャー企業特有の傾向といえるだろう。やりがいはもちろんのこと、ビジネスパーソンの血や肉となり、将来的なキャリアの選択肢を広げるのは間違いない。

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全てのビジネスパーソンに告ぐ。
まずは目の前の仕事にコミットせよ!

以上の通り、アンケート結果からは、ベンチャーパーソン特有のキャリア形成や年収の傾向が見えてきた。執行役員やCxOに比較的早期に就任する傾向や、広範なスキルを糧に転職で年収が上がるパターンがあることが分かった。

もちろん、ベンチャーを経ないキャリアの利点も大いにある。5年目以下ではベンチャー経験者よりも500万円以上の年収帯の割合が高いことから、コツコツと年収を上げていく傾向はあるといえよう。いずれにせよ、目の前の仕事を全うすることが、昇進、ひいては年収アップに繋がるとは全ビジネスパーソンに言えそうだ。

こちらの記事は2023年06月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

齊藤 彩

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