連載高広伯彦講義「マーケティングの民主化」
自我も多層化するネット時代~高広伯彦が語るデジタルマーケティングの真実③
現代人は様々なSNSを使いこなしているだろう。
それぞれのプラットフォームでそれぞれのフォロワーから見られた自分がいる。
この時代、人々は多重人格化しているのだ。
この多重化に合わせマーケティングコミュニケーションを図らなければならない。
社会情報大学院大学で行われた高広伯彦講義「マーケティングの民主化」第3回目。
- PHOTO BY YUKI IKEDA
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
自分はIとmeがいる
高広そんな感じでいろんな多層性があるんですね。ちなみに『メディアオーディエンスとは何か』の中に書かれているメディアオーディエンスというものの定義をあげてみたいんですけど、ここに三つのポイントがあるんですね。
一つは、メディアオーディエンスはマスじゃないと。オーディエンスと聞くとマスな印象を受けますが、メディアオーディエンスというのは、著者のロスとナイチンゲールの定義によるとマスではなくて、構成しているもの=フォーメーションだと。
なのでひとかたまりの大きな集団ととらえるんではなくて、いろんな人たちが集まっているフォーメーションを組んでいるものだととらえる。じゃあなぜフォーメーションが存在するかというと、ある一つの解釈視点を共有している。だからメディアが変わったりコンテンツが変わったりすると、メディアオーディエンスが変わるんですよ。解釈視点が変わるから。
例えばYouTubeというものに対して、どういうふうなメディアとして使っているか解釈視点が変わって、それに対してメディアオーディエンスが存在するということです。
二つ目のポイントがも結構重要と思っています。メディアに対する関与、エンゲージメントをみんなで一緒になっても行うし、バラバラでも行う、つまりメディアオーディエンスは有機的で一つの細胞みたいに考えられる。
例えば、Twitterではみんな普段はバラバラにユーザーとしてエンゲージメントするんだけど、あるコメントがあると、みんな一斉に盛り上がってくるんですよね。でも今までのマスのとらえ方だとそうはいかないですね。マスとは一律にみんな一緒って考えです。でもこんな感じでバラバラの動きもあるんです。
最後の一つは、メディアの多層化時代のアイデンティティというテーマですね。ジョージ・ハーバート・ミードという社会心理学者が提唱したんですけど、自我=selfは、Iとmeで構成されている。自分自身が思う自分というIと、他人から見た自分というmeの両方で構成されているのがアイデンティティだという意味なんですね。
例えば私は4枚名刺を持ち、プラスSNSアカウントがあります。たとえばTwitterで、今16000人フォロワーいるんですけど、16000人から見た高広はいろんな見られ方をしているんですね。あの炎上させる高広とかですね(笑)。でもそんな自分というのが存在している可能性がインターネットの世界にあるんですね。
HyperMeという多重人格
これは私の考え方でなんですけど、少し話が遠回りになりますが、情報技術界の思想家として有名なテッド・ネルソンという「ハイパーテキスト」という概念を考えた社会学者がいます。普通小説や文章というのは線的(リニア)に全部つながっているわけなんです。スタートからゴールまで一直線につながっていますよね。このリニアに対して、例えば文章を読んでいて、気になる言葉があったら、その言葉と連携したものが次のページに出て来るみたいな、テキストとテキストが全部つながっていく状態のことをハイパーテキストっていうんです。
このハイパーテキストという概念から生まれたのが、昔のマッキントッシュに実装されていたハイパーカード。ハイパーカードというのは、自分が1枚のカードにメモしたとして、そのメモにいろんな情報を書き込んだときに、そのメモの中に書かれているキーワードに関する別のカードをクリックすると、また別のカード移ってどんどん深堀りできる。関連したものが常時まとめられる。カード間がつながっていくんです。
そしてこのハイパーカードの先が、ハイパーリンクです。クリックを押すと別のページに飛ぶやつ。実はこのハイパーテキストとかハイパーカードとかというのはデジタルの流れで生まれてきているものなんですね。
この概念を適用して、雑誌『ワイアード』に2011年6月に書いた論文があります。「ワイアード 高広伯彦」で検索すると出てきます。
内容は、HyperMeという話です。ソーシャルグラフ(=ソーシャルメディアがつなぐ人間関係)はリアルグラフと呼ばれる実際の人間関係を反映したようなアルゴリズムであるので、ソーシャルメディアは自分自身の人間関係を拡張すると考えれば、それは悪の側面とプラスの側面と両方拡張されるはずだと、ということを書いています。
この文でも、ミードの論、アイデンティティは、自分自身が考えるIと他人が考えるmeで構成されるって言及したんだけども、インターネットなどでコネクティクブな部分が増えた時代というのは、結局みなさんもインターネット上でいろんなコミュニティに入っていると思いますが、それぞれのコミュニティごとにmeが存在すると思うんです。
でもそれってバラバラじゃなくてつながってるんです。グラフ上に、ソーシャルメディア上に、インターネット上に表現されたいろんなmeというのを、みなさんは持っていて、それを自分の中で使い分けているんじゃないかと。
そしてHyperMeは、多層化するメディアの中で、属するそれぞれのコミュニティやメディアで出てくる自分です。
その自分というのは、単なる多重人格ではないんです、自分自身の中で、積極的に使われる人格があって、このコミュニティにはこの人格といったように、メディア多層化時代における積極的な多重人格が存在している。
この人格というものを考えるとですね、たとえばターゲットオーディエンスを考える、ないしは最近だとペルソナを考えるときに、じゃあ本当にそのペルソナなのか、そのターゲットのオーディエンスというのは、ずっとその状態でありつづけるのかっていうことへつながります。
このコミュニティに所属している時にその人のmeはどういう状態なのか。別のコミュニティならどういうものなのかということで、実はいろんなところに関わることによってある種のデジタルテクノロジー、デジタルプラットフォームにつくられた、多重人格性を前提にして、コミュニケーションを考えなくちゃいけないと思うんです。
なぜっていうとコミュニケーションは人間同士の間にあるコンテクストを共有しておかないと、そのコミュニケーションは成り立たないので。そこまで考えなくちゃいけないんですね。
こちらの記事は2018年04月30日に公開しており、
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写真
池田 有輝
編集
海老原 光宏
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