連載高広伯彦講義「マーケティングの民主化」
attentionではなくトリガー~高広伯彦が語るデジタルマーケティングの真実④
ネットが発達したことによりユーザーは検索で自ら学習する。
そして誰もが作り手にもなった。
企業が売り手の価値観でマーケティングしようとすればするほどユーザーが離れていく時代だ。
そんな中どう企業はコミュニケーション設計をすればいいのか?
社会情報大学院大学で行われた高広伯彦講義「マーケティングの民主化」最終回。
- PHOTO BY YUKI IKEDA
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
attentionマーケは通用しない
高広アメリカのマーケティングエージェンシーのファウンダー、トム・マーティンが2013年に、Self-educating Buyersという言葉を提唱しました。これは何かと言いますと、買う側がものを買うプロセスにおいて、自分自身を教育していくということです。
今までマーケティングやPRって、マーケットをeducationしようだとか、消費者をeducationしようだとか、あるいは広報担当者だったらパブリックやインベスターをどういう風に使って教育していくのかという発想だったんですね。
でもそうじゃなくて、今の世の中消費者は、知らないことは検索で調べる可能性が高い。自らを教育するんです。
そうなってくると、そもそも企業のコミュニケーションだったり、PR活動だったりというのが今まで情報を伝える活動であったのが、Self-educating Buyersというユーザーが自分で学習する時代においては、自己学習するための教材・マテリアルを提供することが今の時代のマーケティングなんじゃないかという考え方なんですね。
今まで話したことを背景にすると、企業はAIDMAとかAISASとか、A=attention(注目)から始まるマーケティングコミュニケーションばかりやっていていいのかってなるわけです。
いろんな人が多層化したメディアを使って情報を集める。そんな背景でのマーケティングコミュニケーションはどうあるべきかを考えなければいけません。
Moment of Truthという考え方
これに対する解答の一つはGoogleが2011年に提供した、ZMOT(Zero Moment of Truth)っていうものです。ZMOTの考え方は、人がなんらかの刺激(=トリガーになるもの)を受ける。例えば家の水道管が壊れたとして修理が必要、検索をして、水道管業者のレビューを見て、いろんな人の意見を聞いて、どこの水道管業者にするのか決める。この中に水道管業者がattentionするタイミングってありましたか?ないんですね。
当然いろんなビジネスの形態によりますけど、attentionから始まるような、マーケティング方法ってすでにないとも言えるかもしれません。
これは2012年に『一橋ビジネスレビュー』で用いた購買プロセスの図なんですけど、
もともとP&Gが、お客さんは商品棚(Shelf)を見て数秒でどの商品を買うか決めている、という独自リサーチのもと、消費者とブランドの最初の出合いの場所をFMOT(First Moment of Truth)と名付けました。P&Gは「棚」をとても重要視していたわけですが、ネットで情報が得られやすくなると、「棚」に立つ前にたくさんの情報を人々は得ていたりする。その段階がZMOT。
First Moment of Truthの次に、Second Moment of Truthとして実際に商品を購入して、その商品が消費者の期待に耐え切れているだろうかどうかというのを解決する瞬間があり、その次にThird Moment of Truthというその商品についてレビューする、シェアする第三の瞬間があると購買プロセスはとらえられています。
こういうプロセスを考えていくと、attentionから始まるというより、トリガーに当たる部分がattentionだったのかな?ということにすぎないわけです。刺激がトリガーになる要素って、企業が広告で何か起こすんじゃなくて、ユーザー・買い手サイドで、勝手に起きているにすぎない。
勝手におきているトリガーに対して、幾分企業側が行うattentionがあるかと思うんです。このプロセスに基づいてマーケティングのモデルを考えなくちゃいけないんですけど、このモデルの中で、これ全部買い手側で起きている。これを行うことができるようになったのはデジタルなんですよ。
じゃあそうなってくるとデジタルテクノロジーは、やはりマーケティングコミュニケーションの概念を根本的に変える可能性が高い。
例えばそもそも、情報の作り手は誰か。もうみなさんがわかっているようにですね、情報は自由に作ることができる。しかも情報へのアクセスが誰でもできる。
ユーザーが最高のマーケッター
『Advertising Age』という世界で最も有名な広告業界誌では、毎年Agency of the Yearとしてその年最高のベスト広告代理店を決めるんですが、2006年のベストエージェンシーは、なんと「Consumer」だったんです。
これは何かというと、見た方がいらっしゃるかと思いますけれども、メントスコーラの動画だったんですね。
コカ・コーラの中にメントス入れるとプシューッてなるという、動画です。コカ・コーラがどれだけ高価なCMを流しても、コカ・コーラを飲む人は簡単に増やせないんです。ところがメントスコーラでコカ・コーラの売り上げが15%伸びたんですね。ここに企業側がコントロールしたコミュニケーションって何?という話になると、ないんですね。
もう一つ面白い話があって、僕はこのケースが大好きなんですが。
この2人はですね。マックナゲットがめっちゃ好きで、2人でマックナゲットを称える歌作ったんですね。2006年3月にYouTubeで公開されて、いろんな人がこのラップを真似て、100に近いマックナゲットラップが作られました。「マックナゲット ラップ」で検索していただければ、いろいろ出てきます。
このムーブメントのあとに、何が起きたのかというと、なんとマクドナルド社の目に留まり、30秒に編集され、CMとして流されたんです。このプロセスに広告代理店いないんですよ。
GoogleにいたときYouTubeの仕事をやっていたんですけど、当時電通のクリエイターと議論になったことがありました。1人の優秀なクリエイターが、100人の素人がつくったコンテンツに負ける時代が来る、という。
情報の量が単純に多いだけじゃなくて、その作り手の数が増えていることにより高い質のコンテンツが出てくる可能性が高くなっている。皆さんがコンテンツを作る側、メディア事業者だったら、そこを考えなくてはいけないし、広報担当者からすると、ニュースリリースが埋もれるということを考えなくてはいけないし、広告担当者だったら、広告が埋もれることを考えなくてはいけないです。
なぜ埋もれるのか。それは素人作の方が面白いから。
バズではなくコネクト
だからそれを前提にしたコミュニケーションのあり方を模索する必要があります。そうすると、バズるコンテンツを作ろうとなるかもしれません。バズの法則をテーマにした記事があると思いますが、うまくいった事例の共通点を探しただけで、絶対に再現しないんですよね。
実際には、デジタルの世界で重要なコンテンツというのは、そのコンテンツそのものが面白いかどうかだけなんです。なので、そのコンテンツそのものがどういう方法で配布されていくのかディストリビューションを考えていかないといけないんですよ。
その時にもし興味があれば、日本語訳はないんですがこの本を手にとってほしいですね。『Making is Connecting』というイギリスの社会学者デヴィッド・ガントレットが書いた本です。彼は今イギリス系メディア研究者のなかで一番イケていると僕は思っています。
彼が『Making is Connecting』で言っているのは、作るという行為が繋がりを作っているということ。例えばFacebookでは投稿したメッセージがなければ、他の人が見ないから繋がらない。YouTubeの動画が流れていますけれども、動画を見ないと当然つながらない。Instagramもそうです、なんでもそうです。インターネット上のものはなんでもそうです。つまり作るって行為が繋がりを作っているのではないかと考えられる。
バズを狙いにいくというよりは、いかに繋がりができるコンテンツを考えるかっていうことが大事です。
例えば今のプラットフォームは、レコメンデーション機能が大体ついているんです。Facebook投稿に関して言うと、あるアルゴリズムに基づいて、出てくるコンテンツって変わっていますよね。YouTubeは関連動画がでてきますよね。実は人と人との繋がりだけじゃなくてコンテンツとコンテンツの繋がりも今のコンテンツを中心にしたソーシャルメディアのプラットフォームは持っているわけです。
ガントレットの言葉を一つピックアップしてみると、今までのメディアのオーディエンスって、sit back and to be told。つまり椅子に座って話を聞いている状態だったんです。でも今のオーディエンスは、making and doing。作って何かしている、これが今のオーディエンスの考え方ということなります。
まとめると、デジタルのテクノロジーは以下の変化をもたらしました。
- 情報量の増加、attentionを集めることが困難に
- Aから始まる購買行動・情報行動からの変化
- オーディエンス(買い手)自身に情報コントロール権がある
- オーディエンス自身が情報の作り手になる
- オーディエンスの行動が情報になる
- オーディエンス自身が自らを教育し続ける
このあたりをおさえていないとデジタル時代のコンテンツビジネスとかPRとかマーケティングというのを理解できないと思う。
冒頭にお話しましたけど、1947年にアンリ・ルフェーヴルが消費者から使用者へという概念を出したんです。彼がこの概念を出してから70年経って、僕らはついにその時代を目の当たりにしているんです。
最後にずっと言ってきたことを一つにまとめると、
売り手の、売り手のための、売り手によるマーケティングから、
買い手の、買い手のための、買い手によるマーケティング、
という方向に移ってきている。
これがマーケティングの民主化ということです。
こちらの記事は2018年05月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
写真
池田 有輝
編集
海老原 光宏
連載高広伯彦講義「マーケティングの民主化」
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