連載高広伯彦講義「マーケティングの民主化」
メディアと人の関わり方が多層化している~高広伯彦が語るデジタルマーケティングの真実②
スマートフォンにより情報量は溢れんばかりだ。
しかし、人々の時間の上限は決まっている。
ユーザーは様々なメディアと様々に付き合っているのだ。
この社会の変化にマーケティングは対応しなければならないと高広伯彦は言う。
社会情報大学院大学で行われた講義「マーケティングの民主化」2回目。
- PHOTO BY YUKI IKEDA
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
マーケしないフランス自動車
高広ではB to Bのマーケティングはどうなのか。アメリカではある人物がB to BもB to Cも関係ない、H to H=Human to Humanと書いています。
基本的にB to Bのマーケティングって、伝統的には企業間マーケティングなんで的確なロジックに基づいて合理的な意思判断に基づいて決定される。これが今まで言われて来たことです。
しかし実際には、そこには日々の営業での人間関係であったりとか、インターネットを通じたそれぞれの企業の評判だったりとか、かならずしも合理的でない部分もB to Bの意思決定に含まれてきているように考えます。
なので、B to Bにおいて買い手と売り手という表現をしますと、買い手側もマーケティングの担い手なんですね、今までB to Bは売り手側だけがマーケティングの担い手だったんですけど、買い手側も担い手になれるわけなんですよ。例えば海外では、一部の製造業で互いに口コミ的に評価するサイトがあります。
Yelpという日本だと食べログみたいなサイトがあります。これに書かれることを英語ではYelpfyといって、B to Bの企業でさえYelpfyされるといいます。つまり口コミによってB to Bも評価される時代にきている。
なので、マーケティングの担い手が大きく変化している時代にあります。じゃあ情報の変化に基づいて、買い手が変わるということに関して言うと、一般的なマーケティングコミュニケーションでは、ものが生み出されました、その売り出されたものを適切なタイミングで広報的にリリースして、適切なタイミングで広告を打っていく……と、いわゆる行動プロセスに基づいて動いていくんですが、全く無視した事例を一つご紹介します。
フランスの自動車メーカー・シトロエンをご存知ですよね?2015年にカーオブザイヤーを受賞した車「カクタス」を、日本では2016年に200台限定で受注を開始しました。この時、実車もカタログもない、店頭にはスペック表と申し込み書の2枚しかなかったんです。なんでこんな知っているかと言いますと、実際に買いに行ったからなんですけど(笑)。
実車もない、カタログもない、申し込み書のコピーしかない、2枚だけ。自分もその店頭にいったんですけど、抽選に人が殺到していました。私は買えなかったんですけど(笑)。
この車は250万円します。安い買い物ではない250万の商品を買うのに売り手側の情報がないんですよ。なのに売れているんです。
通常マーケティングとか広告を考えるときに、いわゆるファネル的にどう情報を伝えていくか戦略を練りますが、シトロエンのこの車の販売の際にはそういう情報が一切なかったんです。
情報は届くのか?
結局のところ情報の送り手・受け手というものを考えなくてはいけない時代なんです。その送り手が送り出した情報を、そのまま受け取ってくれる時代でもないですし、かつ情報を適切なタイミングで、受け取ってくれるかわかんないですよね。
マーケティング従事者はマーケティングプラン、広報プランをつくりますよね。そのプラン通りに情報を送り届けますが、情報を受け取ってほしいタイミングで本当に受け取ってくれるかどうかはわからない。
情報を受け取ってくれる例として検索を取り上げると、人はあるキャンペーンのために検索してアクセスするわけではないですよね。何らかの課題があったり、何らかの興味があって、情報を探しにいくわけです。
じゃあ検索エンジンで起きている検索クエリの中で、いったい何%が、企業が与えた広告や広報の外部刺激にもとづいて検索が起きているのかというと、“ゼロ”に近いです。この情報化社会の中では企業が情報を送るというプロセスのとらえ直しというものをちゃんとしないといけません。マーケティングも広報もレガシーなやり方をするだけじゃだめなんですね。
じゃあそれをどうやってとらえていくかっていう話なんですけど、有名な図があります、総務省の情報政策研究所のもので、これを見てください。下の方の線と上の方の線を見てもらえればいいのですが、下のほうはですね、消費可能情報量というものです。消費可能情報量は、1人の人間が消費できる量なんですけど、その総数です。
上は流通情報量で、選択可能情報量って言うんですけども自分が処理できる情報量です。
デジタルな問題で何が一番大きいかというと、情報量です。この情報量がたくさんある中で、自分たちが送りこめる情報の価値って、下がってくるわけです。
たとえばコンテンツの数が増えれば、当然人間の時間は限りがあるので、可処分時間の取り合いになります。この情報量のなかでどういう風なことをやっていくのかっていう話ですね。
選択可能情報量は、メディアの利用時間が上限ですよね。メディアの接触時間を分母としたときに、自分たちのメディアのコンテンツがどれくらい分子になれるのかが問題になります。2013~14年頃メディアの接触時間は増えているんです。増えている理由はなんなのかっていうと、スマートフォンなんですね、これ以前はずーっと伸びなかったんです。それが2~3時間単位で、メディアの接触時間が伸びました。それはスマホが理由なんですね。
スマートフォンで情報を取得するってことになれば、今度は情報のフォーマットを考えないといけない。大型のコンテンツからスナッカブルコンテンツ(手に取りやすいコンテンツ)にしなければならないんです。例えばNetflixが15分の番組を増やすとニュースが出ていました。これなんかスナッカブルコンテンツの例ですね。またどんどん情報を変えないといけないですし、当然メディアの取る手法も違う。
例として一つ象徴的な話を聞いていただきたいんですが、テレビって、もともと街頭にあったんです。街頭テレビの前ってめちゃくちゃ人が集まってみんなで見ていました。街頭テレビの次はちょっとお金のある家にテレビがあって、そこでみんなで見る。そして普及し、家族の団欒になる。今は個人の部屋にもあり、ワンセグでテレビが見られるようにもなりました。
つまりテレビの歴史は、1台のテレビに対して、目の前にいる人がどんどん減って来ているんですね。そしてYouTubeのように自分たちが好きなタイミングで見られる番組も増えている。そういう風なバラバラな環境になった時に考えなくちゃいけないことは、オーディエンスについて考えなくちゃいけないんですね。
メディアは多層化している
今みたいな話で、“情報の時代”というものを考えてみましょう。
情報の時代は日常生活の再編成と考えられます。社会学の言葉使いになりますけれども、例えば朝の通勤時間に何をするのか、あるいはちょっとした隙間の時間でLINEやメッセンジャーでやりとりするのは、コミュニケーションのあり方、情報の処理が変わってきていますよね。これはそもそも日常生活自体が再編成されている可能性が高い。
今お見せしたデータって、メディア増えてきたよなーって話なんですよ。情報が増えて来て、一つの情報の価値が相対的に落ちる。その次の話でメディアの数が増加しているわけではない。その生活のなかで、古いメディアも新しいメディアも含めて、オーディエンス側が色々自分たちに都合がいいようにいろんな使い方をしているってことがポイントなんです。
メディア業界にいると、他のメディアに負けてはいけない、となるんですけども、実際オーディエンス側からするといろんなメディアを統合的に使っているわけです。これを現実としてとらえなければいけないですね。
以上をメディアの多層化と言ってるんですけど、メディアはいろんな人々に作られている、考え方をしているわけです。これに関しては『メディアオーディエンスとは何か』(カレン・ロス、バージニア・ナイチンゲール著/新曜社)の一部からの引用です。
そうなってくるとですね、メディアのオーディエンス、メディアのユーザーである意味がひと昔前と違うんです。
ひと昔前は単純に、これはテレビの視聴者や雑誌の読者みたいな感じで、オーディエンスはメディア一つひとつにぶらさがっている単位で考えていたんですけど、今メディアオーディエンスをとらえるときには、もう一つ別の概念を加えなくちゃいけなくなってるんですね。
メディアオーディエンスという場合に、メディアエンゲージメントを定義しますが、メディアとの関与の仕方をメディアエンゲージメントとします。テレビは視聴者ですよね、雑誌や新聞だったら読者でしょうし、ラジオは聴衆、広告だったら接触する人、になるんですけども、今メディアエンゲージメントっていう概念はこのあらゆるタイプのメディアとの関与を内包する意味と考えられているんです。
なので、メディアとの関わりを持っている、つまりメディアとは多層的な使い方をされているってことは、たった一つを取り出してメディアとオーディエンスの関係性を問うこと自身全く価値がなくなっているわけです、それよりもメディアと人々の関係が、より多様になっていることを考えなくちゃいけない。
例えばYouTubeを例に挙げると、YouTubeは動画のプラットフォームメディアで、動画を投稿することもあれば、動画のオーディエンスになることもできる。YouTube周りでいろんなことが起きているんです。つまりYouTubeのメディアとのエンゲージメント度合いというのはビューワーであるとともに、ユーザーであるとともに自分たち自身がそこで作り手、メーカーかもしれない。
こちらの記事は2018年04月29日に公開しており、
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写真
池田 有輝
編集
海老原 光宏
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