「事業は変えてもいいから、バッターボックスに立ち続けろ」
CROOZ小渕社長が、
弱冠21歳の起業家に伝えたい経営哲学
若手起業家を対象に投資を行うCROOZ VENTURES。同社は、昨年4月、犬のホスティングサービスを行うDogHuggyに出資をした。
DogHuggyは長塚翔吾という若き起業家が高校在学中に立ち上げた会社だ。
CROOZ社長および、CROOZ VENTURESの代表でもある小渕宏二が、どのような経緯で出資するに至ったのか、あらためて思いを伝える。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY YUKI IKEDA
飼い犬を預ける・預かるシェアリングエコノミーのプラットフォーム
まず、DogHuggyではどのような事業を行っているかを教えてください。
長塚株式会社DogHuggy(ドッグハギー)は、2015年2月、自分がまだ高校に在学している時に立ち上げました。3期目がちょうど終わったところです。事業内容は、社名と同じ名前の「DogHuggy」という個人宅で犬をお預かりするのCtoCのプラットフォーム事業を運営しています。
「DogHuggy」は、犬を飼っている人が、旅行や外出などで面倒を見られない時に、近所で預かってくれる愛犬家(ドッグホスト)を探せるマッチングサービスです。
犬を預けたいニーズに応えられる一方、犬とふれあいたい人がホストになって、時間と自分の愛犬家としての知識・ノウハウを活かせる、シェアリングエコノミーのプラットフォームでもあります。
創業後の1年は、まず犬を預かってくれるドッグホストの方とのネットワークをつくることに注力しました。2年目に入り、このビジネスが成立するものなのかを確かめるために、飼い主さんへのマーケティングを始めて、どれくらいのニーズがあるのか、実際に使ってもらえるのか、どのようにすればサービスに満足してもらえるのかを検証していきました。
現在は東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏をサービス対象エリアとしています。約60世帯のドッグホストがDogHuggyに登録されています。最初は「宿泊」だけでしたが、現在は「ショートステイ」「散歩」も依頼できるようになっています。
小渕実際、どんな人が使っているの?
長塚本当に多様で、旅行に行くときに使う方もいますし、出張とか仕事で長期間海外に行かれる方、日本在住の外国人の方が一時帰国する間預けるケースもありますね。
昨年2017年に、CROOZ VENTURESはDogHuggyに出資したということですが、どういう経緯があったのでしょうか。
長塚当社はもともとサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)の出資を受けていたんですね。2017年の春頃、ファイナンスをしていてVCさんをいろいろ探しているタイミングで、CAVの担当者の方がCROOZ VENTURESの石橋さんに当社を紹介してくださったんです。
小渕それで、こちらからコンタクトをとったんだよね。その1週間後くらいには投資委員会に来てもらって、即日出資を決定しました。
CROOZ VENTURESが投資判断をする時に何を見ているか
投資の意思決定が恐ろしく早いですね。どういう点が決め手になったのでしょうか。
小渕一つは、僕が犬好きだからです。こういうと冗談と思われるかもしれないけれど、一つの動機としては事実あって。
僕は犬を4匹飼っているんですが、そのうちの1匹が、4カ月の治療期間の末、15歳と1カ月満たず亡くなってしまったんです。それが昨年の3月のことでした。僕が創業した頃に飼い始めた犬で、自分が苦労し続けながらも徐々に会社が成長して、住む家も変わって…というのを見てきていた犬だったんです。
精神面で支えてくれた自分の分身のような存在が闘病で苦しんでいる時に、もっと飼い主が犬に「お返し」していかないといけないよな、と考えていたんですね。そんな頃に、彼と4月に出会った。
犬を大事にしながら、社会貢献して人に喜んでもらって、結果それを事業にしていけるって素晴らしいことだと思う。彼の志に共感して、応援する気持ちが生まれて出資を決めたということです。
小渕それ以外に、CROOZ VENTURESが投資をする時に見ていることは、いくつかあります。
一つ、情緒的な面では、経営者が情熱とエネルギーを事業に注ぐことができるかどうか。ゼロからイチをつくって行く過程では、カロリー消費がすごく大事なので。
それから、途中で投げ出さずに「やり切る」ことができるかどうか。それを何で判断するかというと、そこにロジカルな話はなくて、その経営者がまとっているオーラを見るしかない。
これまで何百、何千という起業家に会ってきた中で、その9割が失敗していくのを見てきた僕の経験と勘を元に判断するしかないんです。そういう僕の目で見て、彼はやりきれるだろうと思った。
そしてもう一つは、その人が「誠実」かどうかです。
「怒り」にも近い感情がDogHuggy起業の原動力になった
長塚さんは、どういう経緯でこの事業を始めようと思ったのでしょうか。
長塚一番の理由は、自分も小さい頃からが犬が好きということですね。それが高じて獣医を目指して、高校は獣医大学の附属高校に通いました。
長塚そこで、動物福祉の授業を受けて、日本社会があまりにも動物の福祉に関して遅れていることを知り、「怒り」にも近い、ある種の違和感を持ったんです。このまま獣医を目指すよりも、今すぐ直接的にアクションを起こして動物福祉の状況を変えたい、良くしたいと思ったのが、起業した一番の動機です。
小渕よく、会社のビジョンとして、前向きに「こんな世の中にしたい」という話が言われるけど、ポジティブな気持ちよりも、ネガティブな気持ち、怒りとか怨念って、やっぱり強いんですよね。こんなムカつくことはあり得ない、どうにかして変えたい、そういう想いが、いい形で情熱に切り替わって、ポジティブな方向へ進めるのはアリだと思います。たしか、投資委員会の時にも、この話したよね。
長塚そうですね、覚えています。
命を預かる仕事だから「信頼」が最も大事。ドッグホストのクオリティに力を注ぐ
飼い主が大切にしているペット、命を預かる仕事をする上で、長塚さんが大事にしていることはありますか。
長塚そういう意味ではまさに、信頼が一番大切なビジネスだと思っています。だから、最初にドッグホストの方を集めるところに最注力しましたし、現在、DogHuggyのドッグホストになっていただく方には2段階の厳正な審査を行っています。
犬の飼育についてのノウハウや思想、ドッグホストとしてご活動いただくモチベーションの源泉などをペーパーテストで1次審査して、そこをパスした方には、実際に担当がその方と顔を合わせて面談形式での審査と部屋の環境の安全性・清潔さを見極めています。そこが、サービスの信頼になってくるので。
小渕思想というと、具体的にはどういうこと?
長塚例えば犬をトレーニングする時に叱るべきか、褒めるべきか、といったことです。人間の教育と同じで、絶対の正解はないと思いますが、どんな思想を持っているのか、それを飼い主に押しつけるのかどうかを含めて、バランスが取れた考え方をお持ちかどうかを見ています。
長塚また、これまでにサービスを運営してきた中で、どんなドッグホストの方が継続して飼い主さんから預けてもらえるかがパターンとして見えてきているので、そのパターンに当てはまらない人は、審査でとても心苦しいのですが落としてしまっています。合格率は40%くらいです。
小渕結構厳しくやっているんだね。
日本を動物福祉の先進国にするために、教育・啓蒙にも力を注ぐ
長塚僕たちは「日本をどうぶつ先進国に」というミッションを掲げ、その達成を目指して事業を行っています。そのために重要なことが3つあると思っています。
1つ目は、飼い主さんと犬が暮らしやすい社会にするための「インフラ」をつくること。2つ目は、飼い主さんと犬がよりよく暮らすための知識を持ってもらう「教育」。3つめは、一般の社会の人たち──それは犬が苦手な人、関心がない人も含めてですが──に対して、動物との共生について啓蒙していくこと。この3つです。
「インフラ」という意味では、DogHuggyのマッチングサービスをつくった。これをもっと広げていきたい。そして、これから注力していきたいと思うのは、2つめの「教育」です。
そこで、現在は、犬を預かるドッグホストの方に対して勉強会を開いています。また近々、DogHuggyとしてドッグホストの資格をリリースする予定です。
小渕それはどういうもの?
長塚これは、個人宅で犬を預かるドッグホスティングにおいて必要な知識を、一通り勉強できるテキストにしてまとめよう、という施策です。
小渕それをもって、ドッグホストになりたい人に勉強してもらうというわけだ。
長塚はい。先ほど話したように、60%の方は審査を通過できていません。でも、せっかくDogHuggyに共感して、ドッグホストをやりたいと言ってくれているのに、それができないのは非常によくないことだと思っていて。どうすればドッグホストとして犬を預かることができるのか、明確な基準を設けることで、そこを目標に勉強していただいて、審査に再チャレンジしていただきたいなと思っています。
小渕ちなみに、動物病院とか、ペットショップで働いている人がドッグホストとして登録しているケースは多いの?
長塚今はそこまで多くないですね。ただ、現職ではなく、過去にそういう仕事をしていて何らかの理由で離職した方の登録は多いです。ドッグホストを増やしていく上で、注目しているターゲットです。
もともとペット業界は女性の比率が高いんですね。今、働き方改革の流れが大きく動いていますが、女性がフレキシブルに働く、社会と接点を持つための一つの手段として、DogHuggyのドッグホストはすごくマッチすると思っています。
小渕例えばなんだけど、ドッグホストの方の家で、犬が家具をかじって破っちゃった場合とかはどうなるの?
長塚今は、ドッグホストの方の家のものの損害だと保険はおりないんです。でも、散歩中に第三者の人にかみついてけがを負わせてしまったり、預かっている最中に飼い主さんの持ち物、例えばエサの器とかを壊してしまったりした時には、保険がおりるようになっています。
シェアリングエコノミー企業に適用できる、シェアリングエコノミー保険というものがあるんですね。CtoCのサービスで、ユーザーさん同士のやりとりに対して一般の保険はきかないんですけど、シェアリングエコノミー協会というところが、一括でそういう保険をつくってくれました。それを活用させていただいています。
犬の飼い主のコミュニティで、口コミで広がる
長塚今はWeb広告を中心にマーケティングを行っています。最近、徐々に増えてきているのが口コミです。ドッグホストの審査を厳しくしてまでも「質」にこだわって、信頼をつくり上げてきたからこそ「DogHuggy、いいよ」と人に紹介してもらえるのかなと思っています。 特に犬の場合は、公園とかで散歩をして他の飼い主さんと接することが結構あるんですよね。その意味でも、口コミの効果は大きいです。
小渕自分もよく犬を散歩に行くんですけど、他の飼い主さんと話す機会があります。確かに、そこで仲良くなる人がいれば、情報交換はあるかもしれない。当然みんな犬が好きだから通じるものがあるし、中には飼い主同士のコミュニティの中でもオピニオンリーダーみたいな人がいるので、そういう人に上手く利用してもらえると、もっと広がるかもしれない。
長塚登録しているドッグホストが約60世帯くらいまで伸びてきて、ビジネスとして成り立つことは分かってきました。加えて、今はシェアリングエコノミーやCtoCのサービスが増えてユーザーも拡大しているので、DogHuggyにとってもこれは追い風。
ある調査では、現在ペット保管事業の市場は630億円と言われています。ただ、実際は潜在的な規模はもっと大きいと思っています。ペットホテルという業態もあるのですが、そこは嫌だから預けないという人も非常に多いんですね。
2018年は「戌年」ですし(笑)、今年はサービスを本格的にどう広げていくのかが大きなテーマになると思っています。
ダメだと思ったら事業を変えていい。バッターボックスに立ち続けろ!
小渕社員はいま何人?
長塚正社員はいませんが、業務委託で仕事をしてもらっているメンバーが18人います。ある人は、普段は会社に勤めていて、空いている時間にうちの仕事を副業的にしてもらっていますし、フリーランスの方もいます。
職種として一番多いのは、カスタマーサポートで、それからエンジニア、デザイナー、マーケティングといったポジションの人がいます。平均年齢は、僕も含めると下がってしまうのですが(笑)、30代の方が6割くらいです。
共通しているのは、みんな「犬が好き」ということ。これから事業を拡大していくに当たって、もっと仲間を増やしたいと考えています。ビジョンでつながることが一番大事だと思っていて、犬の幸せを第一に考えながら、追求できる会社にしていきたいと思っています。小渕さんも犬好きで、犬のことを大切に考えてくださるので、愛犬家でサービスをつくっていく会社にしていきたいです。
小渕ただ、一つ伝えておきたいことがあります。今は犬が好きで、犬の幸せのために人が集まってくれているんだと思う。ただ、僕の経営哲学として、もしこの事業がダメになったら、勇気を持って事業転換したほうがいいと思うんだよね。事業を一変する。もちろん、まずは今の事業を、歯を食いしばってでもやるんだけど。
小渕なぜかというと、この会社がなくなること、長塚くんが経営をやめることが、一番よくないことだと思うから。
「やり切る」かどうかが大事という話をさっきしたけれど、それは「今の事業」をやり遂げてほしいということではなくて、長塚くんが経営を続けてほしいということなんです。
世の中に起業家ってたくさんいるけど、登記すれば誰でもなれるんだよね。僕がいつも思うのが、喜ばせる業をすると書いて「喜業家」であるべきだと。業を起こせばいいわけじゃなくて、人を喜ばせているかどうかを大切にするということ。でも、世の中の99%は起業家。
長塚くんのように、誠実で「やり切る」ことができる理想的な経営者の卵って、なかなかいないんです。だからバッターボックスに立ち続けて、「喜業家」を目指してほしい。その意味で、ミッションやビジョンは大事に持ちつつも、経営は分けて考えたほうがいいいと思っています。
「犬が好き」「犬のため」という思いだけでメンバーが集まっていると、長塚くんの元から離れてしまう可能性があるんだよね。CROOZでも、実際は乗り越えられたけど、そうなりそうな時期がありました。
やる事業が変わっても「長塚が好きだからやるよ」と思ってもらえるように、周りを巻き込んでいってもらえるといいな。経営者として一皮も二皮もむけていくときに、「長塚翔吾に惚れさせる」ということは、“技術”としてやってほしいと、投資家としては思います。
長塚心に留めておきます。バッターボックスに立ち続けて、挑戦し続けることは大事なことだと思いますし、そうすることで、後に生かせる経験が今どんどん増えていると思っています。今、こういう形で投資していただいて、チャレンジする機会をいただいているので、そこにはこだわっていきたいと思いますね。
でも、もちろん、まずはDogHuggyの今の事業を絶対成功させるという気持ちです。
小渕最初に、投資した理由を「犬が好きだから」といいました。それは事実だし、一つのきっかけではあるんだけど、仮に同じ話を他の人が持ってきたとしても、やり切ろうともしていない、誠実でもない人だったら、出資はしなかった。「事業」に投資するわけではなく「人」に投資しているんですよね、僕たちって。それだけ、長塚くんに期待をしているということです。これからも頑張って。
長塚はい。ありがとうございます!
こちらの記事は2018年02月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
畑邊 康浩
写真
池田 有輝
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