優勝商品は海外への「挑戦権」──80名以上が参加した“EastgateHackathon”、主催者の展望に迫る
2019年3月16日〜17日、一般社団法人Eastgateと、Facebookのコミュニティ支援プログラム「Developer Circle」、世界中でハッカソンイベントを手がけるDoraHacks社が共催するハッカソン「Eastgate Hackathon」が開催された。
優勝者は海外のハッカソンに招待され、渡航費と現地ネットワークが与えられるこのイベントには、チャンスを求める国内のエンジニアが数多く参加。今回取材したデモンストレーションでは、Product Founderの増井雄一郎氏、Coral Capitalの澤山陽平氏、Tablyの及川卓也氏、DayOneTechのAntty Sonninen氏らを審査員に迎え、参加者が実装したサービスの審査が行われた。
ハッカソンのファシリテーターを務めた森本詢氏は、開催の背景に「日本にはGoogleのような、テックサイドが牽引する企業が少ないことに危機感を覚えた」と語る。本記事ではハッカソンの様子と、森本氏へのインタビューを併せて紹介する。
- TEXT BY MONTARO HANZO
2日間でアイデアを実装。優勝者には海外ハッカソンへの挑戦権
Facebookの「いいね!」ボタンが社内ハッカソンから生まれるなど、新たなアイデアや技術革新が生まれる場として認知されるハッカソン。
今回開催された「Eastgate Hackathon」は、Facebookアプリを開発するオープンソース「Facebook Developers」の使用を条件に、経験値を問わずに参加者を募集。実装を目標にした初参加者から、本気で海外を目指す経験者まで、80名近くのエンジニア、デザイナー、プロジェクトマネージャーが参加した。
筆者が伺ったのはハッカソン2日目の午後。会場はアイデア出しから実装を終え、デモに向けたプレゼンテーションの準備を進めているところだった。準備を進めるエンジニアに話しかけると「昨日から30分しか寝ていません」と笑顔。表情からは疲労が読み取れたが、それ以上にプロダクト開発への熱量や迫力を感じた。
今回のハッカソンは「Facebook Developersの使用」だけが条件となり、自由度が比較的高かったようだ。「チャットのハイライトを抽出し、アルバムを作成するAI」、「感情を“天気”で表現し、世界中でシェアするソーシャルサービス」、「住んでいる地域の“課題”をシェアできるアプリ」など、個性的なサービスが数多く紹介された。
各チームに許された発表時間はプレゼン4分、質疑応答2分。チームの代表者は、2日かけて実装したサービスの魅力を、たった数分でプレゼンしなければいけない。発表を控えて緊張する一方で、各チームのユニークなプレゼンを楽しむといった雰囲気のなか、デモンストレーションは進められた。
最優秀賞となる「EG AWARD」に選ばれたのは、VR上に表現された世論を“移動する”ことで、「フィルターバブル」を実体験するVRアプリ「Bubblexit」だ。開発チームは、海外ハッカソンへの挑戦権として、渡航費120万円を獲得した。
東京開催のハッカソンに日本人が「9人」。国際的なプレゼンスが低下するなかで感じた危機感
ハッカソン終了直後、主催を務めたEastgate代表の森本詢氏に話を伺った。海外への挑戦権をアワードとして設定した今回のハッカソンには、どのような意図があったのだろうか。
「Eastgate Hackathon」開催の経緯から教えてください。
森本開催のきっかけは、前職のスタートアップコンサルに務めていた頃に遡ります。あらゆるスタートアッププロジェクトを見るなかで、マーケットインな事業アイデアは投資を受けやすい反面、ディスラプティブなインパクトが生まれづらいことに課題を感じました。プロダクトアウトなイノベーションを起こせる仕組みを作りたいと思うようになったんです。
そういった課題認識を持ちながら市場を俯瞰すると、プロダクトアウトなイノベーションが生まれていない背景には、日本の技術者たちがグローバルなエコシステムにアクセスできていないことがわかってきました。海外のエンジニアの多くは、果敢にシリコンバレーなどの最先端の現場に飛び込んでいる一方で、日本人の話題はあまり耳にしません。
たしかに、日本人エンジニアからは「スター」が生まれていない印象を受けますね。
森本僕は昨年、グローバルコミュニティの「DoraHacks」が東京で初めて開催したハッカソンを手伝っていました。そこには14歳のチュニジア人や、16歳のアメリカ人など、若い外国人が自費で渡航費を払って参加していたんです。しかし、東京開催にも関わらず日本人は9名だけ。日本にはグローバルのエコシステムにアンテナを張っているエンジニアが少ないと実感しました。
このままでは、「日本」というエコシステムに将来性がないと判断され、グローバルにおける優先度が下げられてしまう。実際、EastgateHackathonで使用したFacebook APIの中にも、日本では未公開なツールがたくさんありました。日本にいるだけで、使える技術が制限されてしまうんです。こうした機会損失に危機感を持ち、日本のエンジニアがグローバルでプレゼンスを示す機会を作りたいと感じていました。
そんな想いをもっていた矢先、今回の審査員を務めていただいた「Developer Circle」の大森貴之さんと出会いました。大森さんも同じ課題意識を感じており、日本のディベロッパーが世界で活躍するための道筋を作ろうと、今回のハッカソンを企画し、活動を継続させるためにEastgateを設立したんです。
「Eastgate」から、日本人エンジニアの挑戦がはじまる
アワードとして「海外のハッカソン出場権」を設定したのはなぜでしょうか?
森本「日本のエンジニアがグローバルでプレゼンスを示す」を目的にするなら、海外のトップエコシステムで通用するハイレベルなチームにアプライしてもらわないと意味がありません。だからEastgate HACKATHONではよくある「ものづくりを楽しもう」というテーマからは一線を引き、「活躍の舞台を世界に広げるチャンスを勝ち取る」をテーマとし、プライズを「渡航費用」に留めました。
このプライズは、海外のハックイベントに出場できるかどうかさえ保証するものではありません。「どこにも行けなければ賞金を受け取ることさえできない」という制約を設けることで、本当に海外でチャンスを勝ち取れる実力と情熱を持った人たちに集まってもらいたいという想いがありました。
2日間に渡るハッカソンが終了し、率直にどのような感想をお持ちでしょうか?
森本率直に、すごくいいイベントができたんじゃないかととても誇らしいです!審査員の皆さんはじめ、お力をくださった方々には本当に感謝しています。
2日目の午前中、プレゼンが完成しているチームが少なくて不安でしたが、なんとか全チームがデモをやり遂げることができて安心しています。「海外ハッカソン」というこれまでにないチャンスに向かって、寝る間も惜しんで開発に取り組むエンジニアの姿には胸を打たれました。
優勝者や優勝プロダクトについても満足しています。彼らが海外のビッグイベントで大きく躍進したら、それが日本のエンジニアに夢を見せると思うので、どのイベントに挑戦するかも含めてとても楽しみです。
僕らの最終的な目標は、日本のエンジニアが、当たり前のように世界で活躍している状態を作ることです。今後もエンジニアに対するグローバルへの機会提供を進めていきたいですね。
こちらの記事は2019年06月04日に公開しており、
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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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