「起業家に必要なのは問いを立てる力」
PEファンド、コンサルファーム出身起業家が語る、起業に最適なキャリア論

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原体験、マインドセット、スキル──「起業家に求められる資質」についての議論は尽きないが、本当に大切な要素は、果たして何なのだろうか。

事業創造に求められる能力を明らかにすべく、プロフェッショナルファームで海外オフィス代表や役員という立場を経験したのち、社会課題の解決を志して起業した二人を迎え、対談を行った。ゲストに招いたのは、大手戦略ファームに入社後、アジアオフィスの立ち上げ・代表を経て起業したエッグフォワード株式会社代表取締役の徳谷智史氏と、メガバンクからPEファンドを経て、MBA取得やNPO法人設立を経験したのち起業した株式会社ココナラ代表取締役の南章行氏だ。

彼らは「事業に失敗したとしても、企業が欲しがるレアな経験を持った人材になれる。起業は『負けがないゲーム』だ」と語る。華々しい経歴を歩んできた二人だからこそ分かる、起業家に迫り来るハード・シングスの実情から、困難を乗り越えるための心構え、事業をやり切るためのパッションを維持する方法まで明かされた。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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起業に適したキャリアなど、存在しない

戦略ファーム、PEファンド、MBAといったキャリアを歩んできたお二人は、起業でもっとも大切な能力や、それに適したキャリアパスについて、どういった考えをお持ちですか。

徳谷自身が本気で「何を目指し、社会の何の負を解決したいか」の課題設定と、周囲の人々を巻き込める力が大切だと考えています。というのも、そもそも起業は、自分で立てた問いを解決するための手段の一つに過ぎません。そして、社会に大きな影響を与えられるような課題を自分ひとりの手で解決するのは困難ですから、周囲を巻き込んでいく力が必要になるのです。

エッグフォワード株式会社 代表取締役 徳谷智史氏

問いの解決に向けた、強い「パッション」も大切です。起業には、さまざまな困難がつきまとう。「何がなんでも、この課題を解決したい」という情熱がなければ、ハード・シングスに直面したとき、心が折れてしまいます。

課題解決のためのスキルは、必ずしも先行しないと。

前職のPEファンドで会得した、企業買収にまつわる法務や会計などのスキルは、会社をつくる上でたしかに役立ちました。たとえば、高度な専門知識が求められるサービスの利用規約も、自分で書くことができたんですよ。しかし、極論、そういったスキルは他のメンバーの力を借りれば補えるので、必ずしも起業家が持ち合わせている必要はないと思います。

徳谷そもそも、起業に正解のキャリアを探し過ぎるのはナンセンスではないでしょうか。たとえば「起業を見据え、とりあえずコンサルタントを目指す」といった方をときどき目にします。事業分析やビジネススキルは高まりますが、必ずしもそのキャリアが起業に全て役立つとは限りません。起業家の役割が「自身で問いを立てる」ことだとすれば、コンサルタントは「他者の問いを解決する」プロフェッショナルであり、求められるスキルセットは本質的には別物だからです。

お二人はどういった「問い」を胸に起業されたのでしょうか。

徳谷学生時代から抱いていた、「人が前向きに変わっていける社会を実現したい」という使命感が原点です。自身の世界中の放浪経験から、日本は圧倒的に恵まれていると思っていました。にもかかわらず、多くの人が有名企業に入社しても、自身の価値を発揮しきれず、徐々に輝きを感じられなくなっていく。この社会構造を変えたかった。

だから、世の中への影響力が大きいと感じたコンサルティングファームに入社しました。しかし、コンサルタントは事業の伸ばし方や改善方法は分かっても、当事者として事業を動かす、もっと言うと世の中を変えるには限界があると気づき、自分で起業することを決めたんです。

私の場合は、起業前にNPO法人を立ち上げた際、「人の役に立ち、感謝されること」が大きなやりがいになっている大人たちを見て、「多くの人たちが貢献し合い、感動を与え合える社会をつくりたい」と強く思ったからです。ちょうど東日本大震災が起きたタイミングで、「生きているだけで丸儲け」と感じ、あらゆるリスクが怖くなくなったのも、起業に踏み込めた一因かもしれません。

株式会社ココナラ 代表取締役 南章行氏

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起業は「負けがないゲーム」。迫り来るハード・シングスを楽しめるか?

とはいえ、数々のリスクが伴うと思う方も多いはずです。なぜそのような生き方に踏み切ることができたのでしょうか。

徳谷僕は、自分より若くして亡くなった友人の存在が大きかった。僕も皆さんも、人生は1度きりです。やった後悔は残らないが、やらなかった後悔は後で残る。そして、時間が経てば経つほど、「やれない言い訳が増えていってしまう」と思ったんです。今の環境の延長に目指す未来がないならば、一歩踏み出すしかない。「やれない理由を探してタイミングを見計らう時間がもったいない」と考え、起業に踏み出しました。

とはいえ、「社会に変化を起こしたい」という想いが先立つ起業だったので、プロダクトやサービスの構想が明確ではありませんでした。ビジョンに紐づいた事業をゼロから創造し、軌道に乗せるまでは、予想以上に大変なことの連続でしたね。

僕は、自分のキャリアに限界を感じていたからです。PEファンド時代は、周囲を巻き込んで動かしていくことが特技で、成果は出せていたと思います。ただ、高度な戦略づくりが得意なわけではなかったし、このままでは単なる「口がうまいおっさん」として歳をとっていってしまう。そんな人を信頼して会社経営を任せる人は、誰もいませんよね(笑)。

そこで、「一生食っていける仕事はないか」「高齢になっても若者が相談したい人であるためにどんな経験を積んでおけばよいか」と考えたとき、思い当たったのが「起業」でした。どれだけ年齢が上だろうと、(ソフトバンクの)孫さんや(ファーストリテイリングの)柳井さんであれば僕も経営の相談をしたいな、と。起業家として経験を積めば、もし事業に失敗したとしても、企業が欲しがり、多くの人に必要とされる人材になれる。つまり、起業は「負けがないゲーム」だと気づいたんです。

とはいえ、苦しい時期もありました。生活費すら尽きそうで、プロダクトが未完成なままアイデアだけを持ち出して出資先を探し回った結果、偶然知り合った上場企業の社長にプレゼンして2,000万円出資してもらい何とか切り抜けたこともある(笑)。また、長く一緒にやってきた仲間に厳しいフィードバックをせざるを得ないこともあり、心を痛めたこともありました。

しかし、そうしたハード・シングスを乗り越えるごとに自分が磨かれていく感覚があり、問題が起きるとむしろ笑顔になるくらいでした。瀕死状態から回復することで戦闘力が上がっていく、『ドラゴンボール』のサイヤ人のように強くなっていったんです(笑)。

徳谷ハード・シングスを経験することで自身の幅が広がっていくのは、全く同感です。同じく『ドラゴンボール』に例えるならば、圧倒的な強さを持つフリーザやセル、魔神ブウが登場すると、序盤は強敵に思えたピッコロが怖くなくなりますよね(笑)。

僕も「お金」と「人」の問題が一番大変だと考えていて。逆にそれ以外は大した問題ではないと思います。年収が103万円以下で、税金を払う必要がないくらい(笑)、お金がない時期もありました。当時はファミレスのナプキンの裏にボールペンで図を書いて、損益計算をしていましたね(笑)。自身にお金ないのはまだ良いとして、事業としてキャッシュが回らないフェーズがあり、徐々に人が去っていく状況を乗り越えるまでは辛かったです。

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「起業するか否か」に固執しなくてもいい

そういった辛い出来事に耐えられたのは、なぜでしょう?

徳谷「失敗は成功にたどり着くためのプロセスに過ぎない」と考えているからです。挑戦を繰り返して「谷」を越えられた人だけが成長していけるので、一つひとつの失敗にこだわっていては何も始まらない。

逆に、自分が進みたい方向性を定めないまま、「今できることだけ」を手がけていては、いずれ「何のためにやっているか」が分からなくなってしまうのではないかと思います。

仕事がライスワークになってしまいますよね。僕も起業自体、誰かから強制されていたわけではなく、自分が楽しくてやっていただけなので、ストレスはまったく感じませんでした。体力的にしんどい場面はありましたが、精神面の健康が保たれていれば何のことはありません。

徳谷やりたいことであれば体力的に辛くても気になりませんけど、逆にやりたくない仕事を強制されるのであれば、1日たった3時間でも辛いですよね。想いをもってやりたいことを手がけている状態にあれば、「辛さ」は感じないのではないでしょうか。

現時点で「問い」が見つかっていないが、漠然と起業を志す人も多いと思います。何から手を付ければいいでしょうか?

目の前の物事に本気でぶつかり続けましょう。対象は何でも良いんです。抽象的な話になりますが、本気で何かにぶつかっていると、愛や憎しみのようなものが生まれはじめます。そうして積み上がっていく自分の心情を見つめることで、自分が解きたい課題にだんだんと近づいていけるはずです。

そして、「問い」が見つかったなら、ハード・シングスを恐れずに全力で取り組むこと。たしかに僕も創業当時は弱気になることがありましたが、「それでもやり切りたい」かどうかが、事業の明暗を分ける。ここまでお話ししたエピソードを聞いて、「そんなシチュエーションに追い詰められるのは嫌だ」と思うようでは、起業に伴う苦しみを乗り越えることはできないでしょう。

徳谷何かに少しでも興味を抱いたら、見切り発車でも少しずつ飛び込むべきです。興味の湧く対象も分からないのであれば、闇雲に探すよりも、世界観に共感できる起業家との接点を増やしてみるのも良いでしょう。

僕が提唱する持論に「モチベーション・シャワー説」というのがあって。モチベーションは、シャワーのように浴び続けないと下がってしまうものだなと。人間は環境の影響を大きく受けるので、ロールモデルとなる人と触れ合う機会をつくれば、徐々に自分もその人たちの生き方、考え方に近づいていけるし、自分の進みたい道も拓けていくはずです。

「起業家になるかならないか」の二択で考え過ぎず、まずは気になる人や企業との接点を創ってみる、週末に知り合いのスタートアップを手伝ってみるなど、「これいいな」と思った人や企業ととにかく接点を持ち、キャリアを切り拓いていけばよいのではないでしょうか。

キャリア形成において、「起業」は一つの選択肢として広まりつつあり、そのためにどんなスキルを身につけるかに焦点が当たることも少なくない。しかし、二人の話を受け、起業を志す者が本当に身につけるべきは、何が起ころうと事業をやり抜ける「想い」や、「世界観の強さ」なのではないかと感じられる。

今後の展望として徳谷氏は、人々の可能性が最大化された世界を目指し、「人と社会が変わるターニングポイントをこれからどんどん創っていく」と語っていたのが印象的であった。そのため、BtoB領域では企業変革を強みとした、戦略立案から人材改革を総合的にコンサルティングする事業を展開していく一方、HR-Techでの独自サービスの提供、ベンチャーファンドの組成までを幅広く行っている。最近では自社での事業開発も活発になっており、BtoC領域でも、科学的な分析によって潜在的な強みや特性にフォーカスしたマッチングを行い、入社後の活躍までも支援するハイエンド人材向け転職プラットフォーム「TURNING POINT」をリリースし、ユーザーからは大きな反響を呼んでいる。

一方、南氏は、「人の役に立てて幸せだ、という実感をすべての人に提供したい」という想いから、知識・スキル・経験を売り買いできるフリーマーケット「ココナラ」を中心に、ハンドメイド作品のマーケットプレイスや法律相談プラットフォームなどを多角的に展開している。

彼らがそうした事業に強靭な精神力を持って臨めるのは、自身の内面性に紐づいた「問い」を見つけ出したからだ。もし、あなたが漠然と起業を志向しつつも、関心領域が曖昧なままだとすれば、まずは彼らのように壮大なミッションを掲げる人たちとの接点をつくってみるのも、一つの選択ではないだろうか。その熱量に触れることで、起業家的な、能動的な人生を歩むための手がかりが見つかるかもしれない。

こちらの記事は2019年02月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

写真

花井 智子

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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