ZoomやShopifyより、あるべきPLG戦略がここに。毎日数千ユーザー増の先端事例を持つChatwork井上・福田に、成功のコツを聞く
ZoomやShopifyを始めとした海外のスタートアップで取り入れられている成長戦略の1つ、PLG(Product-Led Growth)戦略。PLG戦略とは、セールスを介さず、プロダクトを通してユーザーに価値を届け、継続利用や口コミによる顧客獲得を狙う手法だ。
日本においてPLG戦略を取り入れ、着実に成長を遂げているのが、Chatworkだ。中小企業をメインターゲットとするビジネスチャット『Chatwork』を中心に、複数の事業を展開しており、SaaSビジネスの中でも高い成長率を維持。2021年12月時点で約34万3,000社以上が利用するプロダクトだ。
2022年2月に開催したFastGrow Conference 2022では、「もはやBtoB SaaSも、セールス不要!?ZoomやShopifyも実践する、Product-Led Growth戦略とは〜Chatworkに学ぶ実践編〜」と題したセッションで、PLG戦略を導入するポイントについて、世界でも稀なPLG環境を持つChatworkにおける実践知が共有された。
登壇したのは、Chatwork取締役CFOの井上直樹氏、執行役員CSO兼ビジネス本部長の福田升二氏だ(肩書きは2022年2月末日時点)。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
PLG戦略は、流行り言葉に過ぎない。
プロダクトの性質を直視して、販売戦略を見極めるべき
冒頭に早速本題に切り込み、「なぜChatworkは、世界的にもいちはやくPLG戦略を取り入れられたのか」についてたずねると、福田氏は「後で取り入れたのではなく、初期の頃から自然とPLG的な成長を行ってきた」と語る。
福田Chatworkが進めてきた顧客開拓は、営業やマーケティング中心のセールスモデルと、いわゆる基本サービスを無料で提供し、追加の機能に応じて有料プランを提供する、フリーミアムモデルという料金体系に基づくものです。
コロナ禍でDXニーズの高まりもあり、そのニーズが中小企業にも広がる土壌が整ってきた事により、セールス力で拡販するよりも、フリーミアムモデルを洗練させた方が、効率的にユーザー数を伸ばすことにリソースを集中させられると認識できるようになってきました。そこで、フリーミアムモデルとしての顧客価値向上にリソースを割くように変化させていったところ、世間で「PLG戦略」という言葉が認知され始め、「うちでやってる戦略と近いな」と感じるようになった、というのが実態に近いです。
昨今、PLG戦略の成功例として名前の上がるZoomやShopifyも、「PLG戦略を取り入れるぞ」と考えたわけではなく、プロダクトの特性上、自然とそうなったのではないかと思いますね。セールスによってプロダクトを販売するSLG(Sales-Led Growth)戦略より、PLG戦略のほうがサービス提供側も利用者側もわかりやすかったのではないでしょうか。
PLG戦略とSLG戦略、必ずしもトレードオフではないのだが、比重をどのように考えるかは重要だ。そのためのヒントとして、「提供しているプロダクトの性質を見極めること」の重要性を、福田氏は挙げる。
福田展開するプロダクトのニーズが明確に認識されていれば、SLG戦略のほうが、顧客を獲得しやすいと感じています。例えば、リクルートが採用サービスを大きく展開できているのは、営業力ももちろん大きいのですが、すでにそういった課題認識を持つ企業が多いことや、比較的単価が大きくなる事も、要因の一つでしょう。
一方で、課題を認識できていない企業に対してプロダクトを提供する際は、むしろセールスよりもネットワーク効果を活用した方が効率が良いと感じます。
確かに最近話題にのぼりがちなDXも、その重要性や有効性を真に理解している人はまだまだ多くない。そういう段階では、そもそも企業が予算を用意しておらず、新たに予算を考えようにも費用対効果を想像することが困難だ。営業力の腕の見せ所、ということもできるかもしれないが、限界もあるだろう。
福田だからこそ、プロダクトの価値を意識しながら、市場環境を正確に分析したうえで、どちらの戦略を重視するか考えることが不可欠です。
とは言っても結局、あくまでPLG戦略・SLG戦略は流行り言葉でしかなく、それぞれの戦略の中に含まれるエッセンスを抽出し、自社のプロダクトに取り入れるべきものを一部でも良いので洗い出すことを意識するほうが、ずっと大切ですね。
毎日数千の登録を、PLG戦略起点で実現
スタートアップでは当たり前になっているビジネスチャットも、国内全体でみれば導入率は約15%(Chatwork調べ)に過ぎない。まだまだマーケット自体を盛り上げていかなければいけないフェーズにあるのが、ビジネスチャット領域の現状だ。
この領域には、海外からの競合も存在する。しかし、各社で狙っているターゲット層は異なり、それぞれが独自のポジションで顧客を開拓している段階という。
福田例えば、海外発のサービスなどを利用しているユーザーの多くは、ITリテラシーの高い大企業やベンチャー・スタートアップが中心。しかし、我々が提供しているのは、中小企業かつ、ITに馴染みのない方が中心です。
『Chatwork』というプロダクトは、ITへの抵抗感を持っているユーザーでも、簡単に操作でき、外部のユーザーとも連携しやすいため、比較的スムーズに無料で試してもらえる。
私たちのサービスは、新規ユーザーの大半が口コミによる招待経由なんです。毎日数千ユーザーが、自然と増える状況になっています。試してみて価値を感じたユーザーが、自分たちの業務を効率化させるために、周囲の企業にも「一緒に使おう」と勧めてくれる。まだ明確にDXのニーズを感じてない企業でも、周りが使っているなら……とまずは試してくれている。そこが私たちのプロダクトの強みだと思っています。
中小企業間で繋がりやすい仕組みは『Chatwork』の強みであり、同社がユニークなPLG戦略を実現できている理由の一つではないかと、井上氏は指摘する。
井上例えば、グローバルで展開するサービスが『Chatwork』のように日本の中小企業に顧客を拡大できるかというと、少し難しいのではないかと想像します。
というのも、そういったサービスと『Chatwork』では、「口コミで広がる」という点が同じでも、ネットワーク効果の種類が違うと考えられるからです。そういったサービスも、口コミによってユーザーが増えていくことは考えられますが、社外のユーザーと気軽につながって、グループチャットを始めることは、現状ではあまりやりやすくない。つまり社外との接続性があまり高くない。
それが、『Chatwork』であればSNS感覚で社内外のユーザーを気軽に見つけ、すぐにチャットによるコミュニケーションが始められる。ユーザー同士のコミュニケーションによるネットワーク効果で広まりやすいという強みは、今後長く効果を発揮する差別化につながるのではないかと感じています。
さらに、Chatworkは、2021年12月に海外公募で新株の発行を実施するなど、上場後の資金調達も活発に実施している。そんな中でも、海外の機関投資家による評価において、「PLG戦略が功を奏した」のだという。
井上PLG戦略はアメリカを中心に広がった言葉ですが、「日本でPLG戦略を取り入れている企業といえば、Chatworkだよね」という認識が浸透してきているように感じます。実際にそういった言葉を投資家からいただく機会が少なくありません。
さらに、2021年の後半からKPIが改善してきたのは、PLG戦略による実績が出始めた部分もあると思います。私たちとしても少しずつ手ごたえを感じていますし、その実績をしっかりと見ていただいている。
ただ「PLG戦略で中小企業を開拓する」というビジョンは、かなり壮大な目標です。これからどこまで実績を積み上げていけるかが大きなチャレンジであり、投資家のみなさんもそこを注視しているように感じます。
“ビジネス版スーパーアプリ”に向け、あらゆるリソースを活用へ
壮大な目標を達成するための中期目標として、2024年にシェア40%、売上100億円を掲げるChatwork。ややストレッチな目標と感じる読者もいるかもしれないが、達成に向けての戦略は「PLG戦略」だけではない。同社の特異性が大きく発揮される点として、「ホリゾンタル×バーティカル戦略」「DXソリューション戦略」の2点を改めて強調する。
福田PLG戦略で顧客開拓をしていくことはもちろん、中小企業に向けたDXソリューションの展開による非連続的な成長も見据えています。
PLG戦略によって広げたビジネスチャットを中心に、中小企業の経営を支援するさまざまなサービス機能を追加で提供していきます。売上100億円は決してビジネスチャットだけで達成するわけではありません。バーティカルな価値提供と、あらゆるDXソリューションを含めて、達成していく予定です。
井上まずは、ホリゾンタルに展開している『Chatwork』を起点に、バーティカルな要素を取り入れたい。つまり、コンサルティング営業を行い、課題解決型の提案をしていくことを第一フェーズに掲げています。その後は、バーティカルSaaSのようなプロダクトを、次々と積み上げ、『Chatwork』というプラットフォーム上で次々と統合していきます。
この取り組みは、グローバル展開をしているサービスでは難しいかもしれないと考えています。なぜなら、そうしたサービスが日本の中小企業の課題のためにプロダクトを変えることは、なかなか投資対効果に合わないから。一方で私たちは国産ビジネスチャットであり、徹底的に日本の中小企業を対象としてるからこそできる戦い方をしているわけであり、これがグローバル展開をしているサービスにとっては参入障壁になるとも考えています。
それらを達成した先には「ビジネス版スーパーアプリ」という構想も存在するという。その実現に向けて、有力な事業のM&Aや出資など積極的な投資を推進。「キャズムを超え、アクセルを踏み始めたフェーズだ」と両者は語る。
福田いまのChatworkは、世界中のどこの企業よりも洗練されたPLG戦略を体感できる環境です。私自身、この現状をものすごく楽しんでいますし、貴重な経験ができるタイミングだと感じています。
先ほどから話題に上がっている海外発の大きなSaaS企業でも、この経験を積むことができないでしょう。
さらに、これからは単なる全業界対象(ホリゾンタルな)ビジネスチャットのみではなく、より業界課題に根ざしたバーティカルなプラットフォームの構想も描いています。事業開発環境としても特異な経験ができますから、若手もどんどん成長していて、見守るだけでもわくわくしています。
井上我々が取り組んでいるようなコミュニケーション領域は、本来GAFAが取り組むようなスケールの大きな領域。そこに対して、我々のようなスタートアップが果敢に取り組んでいるのが面白い。
現在のChatworkは、上場したという環境変化を積極的に活用し、いわゆるヒト・モノ・カネが揃い始めています。私自身もCFOとしてさらに大きな貢献をしていけるタイミングだと感じ、改めて気を引き締めています。
引き続き、様々なロールでメンバーを募集しています。世界でも稀な特徴を持つプロダクトの成長とともに、自身も成長させていくことができる事業環境だと、胸を張って言えます。これからさらに、事業やプロダクトを増やし、攻めていくので、腕を振るう環境を探している方がいらしたら全力でお誘いしたいですね。
更なる急成長フェーズ、Chatworkの採用情報はこちら
こちらの記事は2022年03月09日に公開しており、
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
連載FastGrow Conference 2022
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