連載FastGrow Conference 2022

上場SaaSには、「仕組み」を新たにつくるチャンスが溢れている──起業家を目指す道として最適な理由を、カオナビ佐藤が語り尽くす

登壇者
佐藤 寛之

上智大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションに入社。大手企業向け組織変革コンサルティング部門にて営業を担当。シンプレクス株式会社にて人材開発グループ責任者を務めた後、株式会社カオナビに参画。事業の立ち上げを代表の柳橋と共に行う。現在は取締役副社長COOとして、事業戦略を推進。

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近年、SaaS企業への注目度上昇に伴い、転職先としてSaaS企業を検討する人が増えつつある。だが、すでに収益の出る仕組みが出来上がったら、あとは新しいことをあまり考えずにスケールさせるのみで、面白い経験は積めないという意見も聞く。

そんな声に対し、「仕組みをつくってすぐ終わりというビジネスではない」と強調するのは、タレントマネジメントシステム『カオナビ』を展開する、HR Tech企業カオナビの取締役副社長・佐藤寛之氏。

2021年2月に開催したFastGrow Conference 2022のセッションでは、『SaaSキャリアのリアル──HR Tech×SaaSの創業者が見てきた、「仕組みを生み出す」20代人材の共通項 』と題し、SaaS企業で得られる経験やスキル、活躍する人材の共通項を聞いた。

  • TEXT BY HARUKA FUJIKAWA
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SaaS事業には仕組みを生み出すチャンスしかない

冒頭では、佐藤氏が「仕組みは、つくって終わりではない」と考える理由について、他のビジネスモデルとも比較しながら説明した。

佐藤前提として、SaaSのビジネスモデルは、メーカーや人材紹介ビジネスに非常に似ている部分があります。例えば人材紹介では、求職者を一定数集め、求人決定率を上げ、顧客満足度を高めて、収益を上げる。THE MODEL的に言うと、リード数を確保し、案件化し、顧客のサクセスをサポートし、LTVを伸ばすという方程式です。つまりモデルとしては決して真新しいものではないんです。

ではメーカーや人材紹介と何が違うのか。それは、一度モノを売って終わりでも、転職してもらって終わりでもないこと。お客様にサービスを利用し続けてもらうための仕組みを、ブラッシュアップし続けないといけないわけです。

特にHRをはじめとしたBtoBのSaaSの競争はますます激しくなっている。既存の価値提供を維持しながらも、常にスクラップ・アンド・ビルドしないと、LTVは伸びません。スピード感・切磋琢磨・つくり直しが永久に必要とされるんです。

SaaS企業で働く人は、こうした激しい競争環境において、何度も何度も仕組みを変え続ける必要がある。それは大変である一方、仕組みを生み出し続けるチャンスに溢れているとも言える。そこを楽しいと思える人には最適な環境だと思います。

SaaS企業では「仕組みを生み出し続ける必要がある」という認識があまり共有されていない背景として、佐藤氏は「THE MODELをめぐる誤解」を指摘する。

佐藤よく求人広告などで「『THE MODEL』型のインサイドセールス募集!」などの文言を見かけます。これを見ると、何か綺麗に出来上がった仕組みのなかの、一つのポジションを担うかのように捉えられると思うんです。

ですが、それは大きな誤解です。SaaS企業の仕組みは、そんな簡単に出来上がるものではありません。何年もずっとアップデートし続けるべきものです。インサイドセールスの担当者も、そのポジションでただ仕事をすればいいのではなく、新たな仕組みを考え、変えていく必要があるんです。

さらに言えば、そもそもTHE MODELはあくまで最初のエンゲージメントまでの業務分担の考え方でしかありません。短いと20日とか30日とかで新規導入が決まり、そこから3~5年ほどかけてLTVを伸ばし続ける。そのプロセスでは先ほど述べた通り、絶えず仕組みのスクラップ・アンド・ビルドが求められます。

常にぐるぐると回る渦のようなものです。創業から数年のSaaS企業で、ビジネスの形が固まっているなんてことはありえないんです。

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仕組みを生み出し続けるために欠かせない「横のつながり」

SaaS企業が「仕組みを生み出し続ける」ためには何が必要なのか。佐藤氏は「ユーザーの声を基にした改善サイクル」と「THE MODELのプロセス全体で打ち手を思考できるマネージャー」を挙げる。

佐藤SaaS事業を0から立ち上げるフェーズは、仮説を当てるフェーズなので、顧客のニーズや市場変化に基づいた意思決定だけでうまくいくとは限りません。いわば“直感”で意思決定する部分もある。

しかし、ある程度市場ができたら、ユーザーの声を拾って、現場立脚で仕組みを改善するサイクルを、高速化できた事業や企業が勝ち残るんです。

そしてもう一つ、職種を超えた改善検討を自然とできるマネージャーがいることが不可欠だと考えています。

よく「スクラップ・アンド・ビルドは経営陣や一部の企画職がやるんでしょ」と言う人がいます。もちろんそういうケースもあると思いますが、インサイドセールスからフィールドセールス、カスタマーサクセス、マーケティングなど、いろいろなファンクションを経験した現場から改善がなされることが望ましい。

「このプロダクトをこう売るなら、インサイドセールスでこう話す必要があり、マーケはこうであるべきで、カスタマーサクセスは.....」と、マネジメント層が自身の経験に基づいて思考できるようにしたいですね。そうでないと、スピーディーに本質的な改善を続けることは難しいのではないでしょうか。

カオナビでも、マネジメント層を目指すメンバーにはジョブローテーションを経験してもらうことで、縦割りのような組織を脱却し、横串での連携やコミュニケーション施策に取り組もうとしている。

佐藤視界を広げ、視座を高めていくことは、あらゆるビジネスにおいて重要。特にSaaS企業においては強く意識すべきだと思います。

だからカオナビでは、ジョブローテーションによる横方向へのキャリア形成を重視してきました。そうすることで、知見や経験を広く深く蓄積するメンバーが増え、職種の枠を超えた円滑な横串のコミュニケーションが生まれます。最近は、イシューごと・プロジェクトごとに、以前よりも大きなスケールで論点を整理し、本質的な議論ができるようになってきました。

ですが実は、上場後すぐまでの頃は非常に縦割りな組織でした。営業は営業のことだけを考え、開発の人は開発だけを考えるなど、それぞれがファンクションの中で小さく働いているだけになってしまっていた。従業員が100~150人くらいになってから、やっとジョブローテーションや横串の連携の重要性に気づけました。

アーリーフェーズの会社であれば、LTVを伸ばすためのスクラップ・アンド・ビルドよりも、まずはTHE MODEL型で一定の市場シェアを獲っていく必要がある。その状況では、多くのメンバーにジョブローテーションを経験してもらう余裕はないはず。かつてのカオナビもそうなってしまっていました。

ですが、今は違います。ジョブローテーションによって、企業をスケールさせるためのマネジメントができるメンバーを多く輩出しようとしています。このような環境で様々な立場を経験することは、いずれ起業家や経営者になりたい人にも、おすすめできるキャリアパスだと思っています。

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上場後こそ
事業戦略や組織戦略を一から生み出すチャンス

実際にカオナビではジョブローテーションを経て、マネジメント層で活躍している人も増えている。佐藤氏がいくつか実際のキャリアパスの例を挙げた。

佐藤例えば、もともとコールセンターに近いユーザーサポートを担当していたメンバーは、QA(Quality Assurance)に異動した後、リーダーを経験して、今はプロジェクトマネージャーとなっています。ユーザーサポートとしてお客様の声を大量に聞いた経験を、プロジェクトマネジメントで発揮しているんです。

他にも、セールスで最も大きな売り上げをつくっているマネージャーが、インサイドセールスやフィールドセールスを経て、現在の業務を担っています。

もちろん無理やりローテーションしてもらうことはありませんが、特に優秀なメンバーには積極的にオファーします。「絶対できるからやってみよう」と提案するのが、経営者の役目だと思っています。

こうした取り組みを見ると、まさに「一定程度出来上がった事業と組織」のように思える上場SaaS企業であるカオナビ。このフェーズだからこそ、メンバー個々人が飛び込めるチャンスは多いのだと強調する。

佐藤私たちも上場したと言えどまだまだひよっこ。事業戦略や組織戦略など、これからさらに洗練させていかなければならない仕組みはたくさんあります。

上場後は、未上場時とは質の異なる成長フェーズと言えます。イシューやタスクが次々と生まれてくるため、新たなマネジメントポジションがどんどん生まれるんです。

だから、仕組みを生み出すチャンスが間違いなく溢れているわけです。

セッションの最後に、佐藤氏は「なんとなく転職を考えているが、本当に辞めるべきなのか分からない」というキャリアの悩みを抱える人に向けて、アドバイスを送った。

佐藤大げさに言えば、現在属している組織に「解消されない疑問」があるのであれば、いつでも辞めていいと私は思います(笑)。疑問に思うことがあるなら、早く行動に出てみると良いでしょう。そうすることで新たに見えるものも少なくないはず。

特に、社内で例えば「そもそもなぜこの仕組みにしているのですか?」とか、「なぜお客さんに対してこのような回答をしたのですか?」など、「なぜ?」と質問した際に、上司が答えてくれない、もしくは「お前は理由を考えなくてもいい」という会社なら、一刻も早く辞めるべきです。

「なぜ?」を考え続けられない組織にいても、成長は不可能です。まずは、属する組織が「なぜ?」を言える環境か、そして自分自身が「なぜ?」を考えられているのかを、振り返ってみてはいかがでしょうか。

こちらの記事は2022年06月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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1998年生まれ、広島県出身。早稲田大学文化構想学部在学中。HRのスタートアップで働きながら、inquireに所属している。興味分野は甘いものと雑誌と旅行。

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