成長とは、変化量である──自分史上最高の変化を遂げ続けるための思考法を、GCP湯浅エムレ氏・POL加茂氏の経験談に学ぶ
「成長したい」という想いを持ってスタートアップに入社し、手探りの中、どのようにスキルを身につけていけばいいのかと漠然と悩んでいるビジネスパーソンは多いのではないだろうか。実際にスタートアップで活躍し、成長するためには何が必要なのだろうか。
2022年2月、FastGrow Conference 2022では、『20代は必見!起業家/経営者の実践例から、“成長”を最大化する方法論を探る』と題したセッションを開催。
登壇したのはPOL代表取締役CEO・加茂倫明氏と、グロービス・キャピタル・パートナーズのディレクター・湯浅エムレ秀和氏だ。日々の苦労のなかで成長を重ねるスタートアップの経営者と、葛藤や失敗を乗り越える起業家を見てきた投資家、それぞれの立場から語る。
立場が違う両者が共通して話すのは、「成長とは変化量の最大化を図ること」だ。その真意を、湯浅氏と加茂氏の経験談から探りたい。
- TEXT BY HARUKA FUJIKAWA
事業家にとっての最大の成長は、変化量で決まる
まずはマイクを握ったのはPOLの加茂氏。同社は「研究者の可能性を最大化するプラットフォームを創造する.」をビジョンに、理系学生向けのキャリアプラットフォーム『LabBase』を開発・展開している。
同氏は、学生時代に起業を果たした経験を踏まえ、事業と自らの「成長」について語った。
加茂起業家・経営者としてミッション・ビジョンを掲げ、走っていく。その際、企業の成功・失敗を分けるのは、創業時よりもどのくらい変化することができたか。そういう仮説を持って、これまで挑戦をしてきました。
つまり、自分自身のことや事業の内容を高め続けられるか、アップデートし続けられるか。私は学生企業ですから、全く社会人経験がない地点からスタートし、そこからスポンジのようにいろんなことを吸収しようと取り組んできました。
また各フェーズでは、自分の変化を迫られ、そこでいかに真っ直ぐに自分をアップデートできるのかどうか試されてきたと、今振り返ると感じますね。失敗談としては、30人程度までメンバーを拡大してきたころのことが印象深いです。チームの力を最大限引き出すようなマネジメントをする役割になるべきでしたが、目先の営業にフォーカスしてしまい、メンバーからネガティブなフィードバックをもらったことがありました。会社規模が大きくなるにつれ、自身の役割を変化させることを、常に意識する必要があると感じています。
続いてマイクを握るのは、グロービス・キャピタル・パートナーズの湯浅氏。同社は、日本の独立系ベンチャーキャピタルで、湯浅氏自身は国内ITスタートアップをメインに投資する。
大きく成長する企業・起業家を見極めるために、どのような基準で投資を検討しているのだろうか。
湯浅アーリーステージの企業に投資する際には、スナップショットでみた経営者の優秀さや経験よりも、必要な成長を続けられそうかどうかをポイントとして重視します。
例えば、事業の戦略や施策のフィードバックを受けて、いかに事業プランをアップデートできるか。そのフィードバック前後の変化率をみています。それができる起業家は、今後も課題と向き合って、超えていく原動力を持っていると判断します。
また、どのように変化率を測るのかというとそれは簡単で、ミーティングを繰り返せばいいんです。1回目のミーティングでは、企業の現状、つまり“点”しか見えませんが、2回目になると、1回目から何が変わって、どのようにアップデートされたのかが分かる。つまり“線”になります。ミーティングを3回、4回と重ねると、その線が上を向いているのかもしくは横ばいなのか、下を向いているのか、傾向がわかるようになるんです。
そこで加茂氏が湯浅氏の意見を受け、「確かに、私たちも変化率を大きくするために行動量を増やしてきた」という。
加茂まさに、シード時に出資してくださった前田ヒロさんにも同じことを言われました。「現在の凄さより、大事なのは変化量。複数回のミーティングを通して、どれほどアップデートされるのかを見るよ」と。
なので、当時はどうにかして変化を生み出そうとしていました。まだ大した成果もなく、語れることは少なかったので、ひたすら初期ターゲットとなる学生や企業に会いに行く。企業にはプロダクトが正式にリリースする前から、使ってもらう了承を得て、契約書もしっかり書いてもらって、それを実績として前田さんに見せる。死に物狂いで行動していましたね。
掲げるビジョンと自分の想いが重なり、知的好奇心が高まる
複数のミーティングを経て、その企業とミーティングを重ねることによって、変化率を予測すると語った湯浅氏。そこで、「それ以外で変化率を見るポイントはあるか」と加茂氏が聞いた。
湯浅まずは、知的好奇心や探究心があるかどうか。フェーズが変わったら起業家としての役割はどう変わっていくのだろう、自分たちの事業ドメインや業界はどう変化していくのだろう、海外にはどのような事例があるのだろう、などの疑問を持ち続けられるかどうかを知りたいですね。自分の知りたいことをひたすら調べて、多くの人に話を聞き、仮説をぶつけて検証していくことができれば、各フェーズで必要なナレッジを貯めていくことができます。
あとは組織を動かしていく力。例えば、ミーティングを経て「次回までにここを進めましょう」となった際、経営者だけで解決できないことも当然出てきます。そのイシューに立ち向かう際に、いかに現場の社員を巻き込んで、数字を作ってもらったり、資料を作ってもらったりできるか。社員と接する様子から、起業家のマネジメント能力やリーダーシップの有無を見ています。
湯浅氏の発言をうけて加茂氏は「人によって知的好奇心のメリハリはあるかもしれない」と続ける。
加茂広い分野で何に対しても好奇心がある人と、そうではない人がいると思っています。ある分野では知的好奇心を発揮するがここの分野ではしない、そこにもグラデーションがありますよね。実は、私はあらゆることに対して知的好奇心が強いかというと、そんなことはありません。
私は会社の掲げるミッション・ビジョンに対しては、心からやるべきだと思っているので、湧き上がる知的好奇心や探究心がある。当然のように良くしたいと思っています。
一方で、見せかけのミッションやビジョン、チャレンジを掲げている企業だと、知的好奇心を高めづらいと思います。起業家自身は、本当に自分がやりたいと思っているものに向けて走ることができているのか、改めて考えてみてもいいかもしれないですね。
湯浅氏も加茂氏の言葉に同意する。
湯浅自社のサービスやプロダクトがマーケットに合っているのか、つまりプロダクトマーケットフィットの話かもしれません。実現したいことに対して、誰になんと言われようとこの課題を解決する、という想いが強ければ強いほど、自分でどんどん探究していくし、必要なものを集めてくる。知的好奇心を創出するドライブになると思いますね。
変化を最大化するためには、自身の“吸収する力”が鍵に
湯浅氏は、さらに成長を後押しする要素として「吸収力」を挙げた。いかに周りの言葉を吸収できるかどうかがポイントだという。
湯浅投資家から「あなたが取り組んでいるテーマだと、もしかしたらこういうアングルがあるかもしれない」「こんな山の登り方があるのではないか」と提案が出てきたとする。全ての提案を吸収するべきとは思いませんが、それが成長のために必要なものであれば、次のミーティングまでに吸収し、事業プランをアップデートしていくといい。
私の投資先にestieという企業があります。創業者の平井瑛さんと出会ったころはまだ、当時データベースをつくっている途中で、プロダクトとしては全然出来上がっていませんでした。しかしミーティングで私たちが「この商業不動産の業界で価値を出すにあたって、どの辺りにキーサクセスファクターがあるのか」とぶつけてみると、ディスカッションのなかでどんどん彼の思考がブラッシュアップされていく様子が見て取れたんです。
もちろん、私たちも含めて、誰かが答えを持っているわけではないので、その思考や仮説が正しいかどうかはまったくわかりません。しかしその時点で立てられる素晴らしい仮説だと感じましたし、結果、その企業は良い方向に進んでいっています。
ここから両者の話題は「吸収力を高めるポイントは何か」に話が広がる。まずは湯浅氏が自身の見解を述べる。
湯浅常に問いを持っていることは重要かもしれないですね。
自分が何をわかっていて、何をわかっていないのか。それらが整理されてくると「これってどうやるんだろう」とふと考えたときに新たな仮説が見つかるようになっていきます。
もしくは、誰かに会った際に、仮説をぶつけてみたり、リサーチしてみたりする。そうして自分の問いをどんどん深掘りしていくと、学びになり、吸収され、思考が深まっていくんです。
続いて加茂氏がコメントする。
加茂吸収力を高めるのに必要なのは、“謙虚さ”かなと。謙虚さを失ってしまうと、吸収できないし、成長の機会を潰してしまいかねない。
私の場合も、創業期はもともと何の知見もない状態で、分かっていないことが圧倒的に多かった。謙虚にならざるを得ませんでした。
最後に両者は今回のテーマ「成長」について触れながら、今後の展望でセッションを締めくくった。
加茂私自身も変化量はまだまだ足りないなと思っています。それこそ創業初期に比べて、今それ以上にアップデートできているかといったら、まだまだだなと。今回のイベントを機に、また改めて起業家として成長を最大化するために、変化率を高めて、事業の発展を推し進めていきたいと思います。
湯浅今日は私から見る経営者の成長や変化について話していましたが、当然私たちベンチャーキャピタリスト自身も成長していかないといけません。
「停滞は衰退の始まり」だと思っているので。目線を上げて、日々のチャレンジを続けていきたいですね。
こちらの記事は2022年04月27日に公開しており、
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1998年生まれ、広島県出身。早稲田大学文化構想学部在学中。HRのスタートアップで働きながら、inquireに所属している。興味分野は甘いものと雑誌と旅行。
連載FastGrow Conference 2022
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