加茂 倫明
株式会社POL
代表取締役CEO高校時代から起業したいと考え、国内外のベンチャー数社で長期インターンを経験後、東京大学工学部在学中の2016年に株式会社POL設立。「研究者の可能性を最大化するプラットフォームを創造する.」をビジョンに、理系学生向けキャリアプラットフォーム「LabBase」等を開発/運営中。
ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
以下の3冊はバイブル的に読み返しています。
自分がどういった会社をつくりたいかをすごく考えさせられた書籍です。自分は、短期的な成功を収めたいのではなく、まさにビジョナリー・カンパニーをつくりたいんだなと。自分が創りたい会社像の解像度を上げてくれた一冊です。
僕らは「LabTech」という大きな市場を事業群で攻める形なので、単一事業の戦略というよりも、事業間のシナジーであったり、そのストーリーを考える上で戦略思考の参考にしています。
ファーストリテイリングの柳井さんが経営者の条件を書かれた書籍ですが、自分が出来ていないことが多くて、自分に喝を入れるために読んでいます(笑)。
加茂 倫明氏の回答
プロダクト開発や事業づくりにおける「失敗」を教えてください。また、その経験から得られた学び、もしくは今だったらどう回避するかなども教えていただけると幸いです。
加茂 倫明氏の回答
LabBaseは業界の水準と比較して「プロフィール充実度」や「返信率」などのユーザーのエンゲージメントがかなり高いとお聞きしました。このエンゲージメントは何がもとで生み出されているのでしょうか?
もちろんグロースハック的な側面で改善を繰り返していることも影響しているとは思いますが、より本質的なポイントは2つあると思っています。
1つ目は、「泥臭さ」によって獲得したエンゲージメントです。プラットフォームビジネスが初期に必ず通る「鶏卵問題」を解消するために、僕らはひたすら研究室に通っていました。泥臭く学生に声をかけて、一緒にプロフィールを書いたりもしましたし、結果的に他のサービスを使っていない層も「LabBase」だけは使っているという状態になりました。ネット上だけの無機質な繋がりではなく、対面での人間的な繋がりを今でも重視しています。
もう1つは、「ターゲットの特異性」だと思っています。理系の学生は、研究室の推薦によって就職先を決める文化が根強いです。さらに、自分の研究を評価されたいという思いや、スキルを活かしたいという方が多いことも特徴で、「LabBase」ではESではなく、このあたりが評価されてスカウトが来るというサービスを提供しており、この体験自体がユーザーにとって価値の高いものになっていると思います。重要なポイントだと思うのですが、戦略やグロースハック以上に、まさにこの「ターゲットと提供価値の特異性」によって大部分が決まるのではないでしょうか。
加茂 倫明氏の回答
研究開発や科学技術の領域を「LabTech」と定義し、はじめからその領域全体を狙われているように思うのですが、創業当初はどのくらい先まで見据えていたのでしょうか?また最初に理系学生の就職支援事業から始めた理由も教えていただきたいです。
今見えている構想の7割ほどは創業初期にすでにありました。当時から理系学生のキャリア支援「だけ」をしたいわけではなく、根本的には社会全体に大きなインパクトを与えるようなことをしたいという想いがあったため、足元の事業や取り組みの延長にどういう大きな絵を描けるか、という発想は初期から強く持っていたためです。僕自身、そのような大きな構想がないとワクワクできない性格というのもあると思います。
また就職支援事業から始めたのは、身近に困っている学生がいたからです。ここは100%逆算して戦略的に選んだわけではなく、目の前にあった課題を解決したいと思い、始めたという要素が強いです。一応、研究領域の中でもキャリア事業が、最も事業が立ち上がるスピードが早いという点も、意識はしていました。
加茂 倫明氏の回答
未公開の新規事業で受注をしたというツイートを拝見しました。どのような事業を進めていらっしゃるのでしょうか?可能な範囲でお聞きしたいです。
社会人経験のない学生起業家でありながら、なぜ現在までの成長を遂げることができたのでしょうか?何か成功要因があれば知りたいです。
まだまだ成功はしていないですが、運と仲間、そしてビジョンの3つは大事だなと感じています。中でも良い仲間との巡り合わせや繋がりは特に大事にしていて、僕は運がいいと感じる要素の一つです。良い仲間がどんどん加わり、助けてくれているおかげで前に進んでいる、という感覚は強くあります。
学生起業は、言うならば初期値ゼロの状態からのスタートなので、どれだけ人を巻き込めるか、そして助けてもらえるかが重要です。そのためにも、大きくて良い旗を立てること、つまりビジョンが大切になってきます。もちろん巻き込む上で人が良いというのは大事かもしれませんが、それだけでは人はついてきません。小さい良い旗ではなく、大きくて良い旗を掲げることが大事です。
加茂 倫明氏の回答
事業案/タネを思いついた時に、一旦検証してみようと思うアイデアの条件と検証してこれはいけるんじゃないかと実装を考える条件を具体的に伺いたいです(例えば現在のメインで取り組まれている事業の場合)
「経営者として覚悟を持ってやりたい人がいるか」と「会社全体のストーリーにリンクするか」の2つです。
前者に関しては、実は今取締役の松崎が立ち上げている新規事業の一つに、初期アイデア段階では僕があまりPOLがやる意義や勝てるイメージを持てなかったものがあります(笑)。それでも、しっかりと責任と権限を移譲し、僕もほとんど関与していない状態で今順調に事業が立ち上がり始めています。本気で取り組み、コミットする覚悟を持った責任者がいるか、というのは重要な要素だと感じました。
また僕らは「LabTech」という一つの大きな市場を、複数の事業群で攻める形で戦っています。その意味で、会社全体の戦略ストーリーの中で、その事業アイデアがどのように紐づくかというのは意識しています。もちろん単体での収益性もしっかり考えますが、事業横断で将来的に資産となるような事業もあり得るので、そこはバランスを見て判断していますね。
加茂 倫明氏の回答
現在複数の事業を運営されており、さらに新規事業もたくさん仕込んでいらっしゃると思うのですが、単一事業のグロースにフォーカスしないのはどのような戦略なのでしょうか?また、このフェーズで複数事業に取り組むうえで、組織運用上気をつけていることやポイントなどあればご教示いただきたいです。
複数事業展開しているのには、3つ理由があります。1点目は、研究領域の市場特性です。この領域は19兆円という大きな市場があるものの、非常に複雑で重層的な上に、特に大きなプレイヤーも存在していません。最終的にこの領域でNo.1を取ることから逆算すると、まずは自分たちの市場に対する「学習」がすごく重要だと思っています。複数の事業アプローチで学習と模索をすることで、研究領域の深いインサイトを得ようというのが、複数の事業を展開する1つ目の理由です。
2点目は、山の登り方という観点です。単体事業だけでなく研究領域全体をPOLとして抑えにいくというゴールを目指す上で、複数事業のシナジーを活かすことができるというのは大きなメリットになります。例えば、企業と研究者をマッチングする「LabBase X」と理系学生向け就職支援サービス「LabBase」は相互にメリットがあります。前者の事業は「LabBase」に登録してくれている修士博士の方に技術調査をクラウドソーシングできることが事業の肝になっていますし、逆に「LabBase X」をやっていることで、学生や研究室からすると、ただの就職支援の会社ではなく、研究を支援する会社という認識をしていただけるので、「LabBase」もよりスムーズに使っていただきやすいという形です。
最後は、組織戦略として「経営者をいかに増やせるか」が重要だと捉えているからです。事業群で戦っていくことも考えると、強い事業家/経営者が多く必要になるので、そういう人材をどんどん生んでいくためにも、意識的に独立採算制的にPL責任を追う部署を増やしています。その上で、最近気をつけているのは「干渉しすぎないこと」です。裏を返すと「責任の所在を明確にしておくこと」とも言えますね。責任を明確化して結果を評価することが大事だと思っています。