「この指標しか見ない」はThe Modelでも分業でもない!CxOがぶっちゃける急成長SaaSの舞台裏
Sponsored2020年も、SaaS企業の躍進を伝えるニュースが絶えなかった。ZoomやSlackの桁違いの成長は言わずもがな。国内でもSansanやラクスがARR(年間経常収益)100億円を突破したとされる(各社IR資料より)。
もちろん「SaaSだから伸びる」ほど甘い話ではない。華々しいニュースの背後には、緻密な戦略と弛まぬ試行錯誤を重ねる立役者たちがいる。
FastGrowは2021年1月、次なる偉大な事業家を生み出すため、道を開拓してきた現役事業家の経験に学ぶ「FastGrow Conference 2021」を開催。その中のセッション「SaaS CxO ぶっちゃけTalk──業界のトップランナーが明かす、急成長SaaSの舞台裏」に登壇したのはカオナビ取締役副社長COOの佐藤寛之氏、シタテル取締役の鶴征二氏、マネーフォワード経理財務ERP本部副本部長兼スマートキャンプ取締役CFOの峰島侑也氏だ。
国内SaaS業界のトッププレイヤーからCxOが集結。急成長の舞台裏について“ぶっちゃけTalk”を繰り広げた。
- TEXT BY HARUKA MUKAI
- EDIT BY MASAKI KOIKE
“クラウドに載せただけ”でSaaSと呼ばれた時代から、
本質を考え抜いてきた
冒頭では、各社のSaaS事業の状況と「業界内で『急成長』と呼ばれるポジションに立てた理由」を共有した。
マネーフォワードはtoB、toC事業が順調に推移し、グループ全体の売上高は前年同期比58%を達成している。主力事業を伸ばすだけでなく複数の新規事業にも挑戦している点が特徴だという。
峰島氏は、2019年11月のマネーフォワードによるスマートキャンプのグループ会社化に伴いマネーフォワードにジョインした。「入社したばかりなので中立的な目線も交えてですが」と前置きしつつ、急成長の理由について語った。
峰島まず、市場のトレンドに逆らわないことが非常に重要だと思います。
マネーフォワードがビジネス向けのクラウド会計を事業展開した時期は、クラウドサービスが伸びていた。かつ会計のプレイヤーが固定化し、既存プロダクトの進歩が鈍化していた時期でもありました。新しいプレイヤーが求められていた時期に、タイミングよく展開していったんです。
もう一つ、代表の辻が経理を自ら手がけていた経験があり、現場の課題感を非常に深く理解していた点も挙げられるかと思います。
佐藤氏の率いる『カオナビ』は2012年にローンチし、2020年9月現在で1,900社以上の企業で導入されている。「最初の3年間はPMFできず悩んだが、100社を超えてから採用強化や資金調達によって一気に拡大を遂げた」と語る。
急成長の理由については、佐藤氏は峰島氏と同じく市場のトレンドを挙げた。
佐藤自社にとって有利なトレンドが起きたときに、準備ができていたのは大きいと思います。カオナビでいえば、働き方改革やテレワーク推進などHRテックを後押しする文脈が揃ったとき、その領域で主要なSaaSになっていたこと。
今では隔世の感がありますが、創業して売り出しはじめたときは「HRのツールでクラウドはダメなんじゃないか」なんて言われて。3社くらいはオンプレミスで開発したこともあります。
“ぶっちゃけTalk”と言われているので(笑)、あえて誤解を恐れずに言うと、当時はSaaSと言ってもオンプレミスのソフトウェアをクラウドに載せただけのプロダクトも多かった。現在では、SaaSがプロダクトだけを指すのではなく、カスタマーサクセスやセールス、ブランディングのあり方から変えていくビジネスモデルであると理解されています。
そうした理解が進んでいない時期から「SaaSとはどうあるべきか」を考え続けてプロダクトを磨いてきた。それはマネーフォワード様やSansan様も同じなのではないかと想像します。
シタテルは2014年に創業し、翌年に衣服生産プラットフォーム『sitateru』をリリース。2020年3月にはアパレル事業者の業務を支援するクラウドツール『sitateru CLOUD 生産支援』をローンチした。3月から11月の間にMRRは10倍成長を遂げるなど、出だしは好調だ。
今回の登壇者のなかでは、唯一バーティカルSaaSを手がけるシタテル。鶴氏は「まだ歴は浅いですが」と前置きしつつ、成長の理由として「プロダクト、顧客関係性、プライシング」の特徴を挙げる。
鶴一つは、“痒い所に手が届くプロダクト”であることです。『sitateru CLOUD 生産支援』には、シタテルが衣服生産を支援してくる中で得た知見が最大限に反映されている。競合には容易に模倣できない、社員全員の知が結集されたプロダクトです。
加えて、現在はエンタープライズのお客様が多いため、週次で定例をしながら高速で改善サイクルを回していて。お客様とも親密な関係を築けていると思います。
プライシングも競合商品よりも安く抑えていますし、そもそも競合自体も少ない状況です。
これら3つの特徴が成長につながっているのではないかと分析しています。
「とりあえず『IoT』『ビッグデータ』」からの卒業が、
ターニングポイントになった
市場トレンドや職種への深い理解、プロダクトの質、顧客との関係、プライシングなど、急成長のキーファクターが浮かび上がってきたところで、三社にとって「重要だった意思決定やターニングポイント」に話題が移った。
峰島氏が言及したのは、2019年11月のマネーフォワードによるスマートキャンプ買収だ。
峰島まず前提として、マネーフォワードは一つひとつの意思決定が攻めているように感じます。SaaSは、ある種成長が読みやすいビジネスモデルですから、ともすれば穏やかにきれいに伸ばそうとしてしまいがちです。ですが、それに甘んじずに非連続な成長を志向するマインドを持っている。だから、少しいびつでもグッと伸ばす突破力があるんですね。
スマートキャンプをグループ会社化したのも同様で、当時のマネーフォワードの時価総額に対し、スマートキャンプの規模は決して小さくありませんでした。かつ会計領域のプレイヤーではないので、それまでのM&Aに比べて、事業の親和性も高くなかった。
にもかかわらず「こんにちは」と挨拶をしてから、SaaS事業領域の拡大や両社事業の成長加速に一緒に取り組んでいこうと合意し、2、3ヶ月で決めました。そのスピード感と攻めの意思決定は、急成長に大いに寄与しているのではと感じます。
“攻め”の意思決定を挙げた峰島氏。一方、鶴氏は「流行り言葉に踊らされた経験」をターニングポイントとして共有してくれた。
鶴今から3、4年ほど前、まだクラウドサービスを展開していなかった時期。sitateruを通して縫製工場さんとのお付き合いがあったんですね。それで当時、スマートファクトリーやIoT領域での事業を探究していました。
ただ3、4年前に一旦ストップする決断をして。衣服生産をめぐる業務をスムーズに進めるためのコミュニケーションを、いかにシステムで支えるかに舵を切ったんです。
振り返ると、IoTなどの流行り言葉に踊らされて、「それによって解決されるべき課題は何か」を見失って、HOWを磨いていたなと思って。以来、HOW先行型のアイデアは「解決される課題の深さ」を慎重に見極めるようになりましたね。
「流行り言葉に乗ってしまう」という言葉に佐藤氏も大きく頷く。
佐藤私もローンチして間もない頃は、VCの方々から、とりあえず「HRテック」や「ビッグデータ」といった流行り言葉に乗っておけと促されることもありました。
起業家としては、資金調達をする際も「とりあえずSaaSって言った方が有利」といった場面にぶつかると思います。そこで過度に引っ張られすぎず、事業の軸や解決すべき課題を、ブレないように制御するのは大事ですよね。
佐藤氏が「鶴さんはどう制御しているんですか?」と尋ねると、鶴氏は「複数のお面を用意しています」と語る。
鶴まず、昔は一切制御できていなかったですね(笑)。今は、起業家としてファイナンスのためにどのキーワードを使って、どういう印象を与えるのかは意識するシーンと、事業開発において「どういう課題を解決するのか」を考えるシーンを、切り分けて考えるようにしています。いわば、複数のお面から「今日はどれでいこうかな」と使い分けている感覚です。
「ここしか見ません」では成長できない。
分業は大事、でも「越境」する人が活躍している
急成長の理由やターニングポイントを踏まえ、後半ではそれらを支える「人」にフォーカスした議論に移っていった。
議題に挙がったのは「SaaS企業におけるCxOという立場」について。急成長において、三者は社内でどのような役割を果たしてきたのだろうか。
鶴氏は「肩書きとしてはCOOだが、自ら名乗ることは少ないんです」と切り出した。
鶴僕の場合、入社時から事業全体を見ていて、その時々で“出血箇所”の多い領域を両手両足で食い止めたり、突っ走るべき領域に先頭で突っ込んでいったりしていました。必要に応じて、ファイナンスや事業開発から、営業まで担っていましたね。
一般的には、「CxO」という肩書きがつくと、ある特定のファンクションの最高責任者になるイメージがあります。しかし、少なくとも僕含め周囲でCxOと呼ばれる肩書きに就いている人は、ファンクションを超えて、何でもやって貢献している人が多い気がします。
峰島氏と佐藤氏も、自身の役割を領域横断的に捉えていた。
峰島スマートキャンプのCFOに就任したとき、アイスタイルCFOの菅原敬さんに、果たすべき役割について意見を伺ったことがあります。すると、「CxOでカバーしないといけない領域、つまり人事や組織、育成などを、CxOの特性に合わせて分け合えていたら良いのでは?」とお話しされていた。
さらに、メンターとして尊敬しているANDPADのCFO荻野泰弘さんは「CFOはCEOの一番の理解者として動け」とおっしゃっていました。競争力の源泉はCEOの時間なのだから、CEOの苦手なことを引き受けるよう先回りして動くと良いと。
お二人の話を聞き、僕自身も「CFOだから経営管理をやる」ではなく、必要であれば事業や人事、育成など何でもやること。CEOのサポート役として率先して動くことを意識し続けてきましたね。
佐藤氏は、「CxOに限らず、SaaS企業で活躍するためには、領域を飛び出ていくことが必要なのではないか?」という視点を示す。
佐藤SaaS企業は、「The Model」の導入やジョブ型の雇用、OKRの運用など、先進的な経営手法を採り入れ、分業が進んでいるイメージを持たれがちだと思うんです。
しかし、当社でも、活躍している人は、お二人のように役割を超えて「何でもやる」マインドの人が圧倒的に多い印象がありますね。
もちろん分業は重要ですが、目的や組織に応じて領域を超えていける人のほうが楽しめるし、結果的にパフォーマンスも高まるのではないかと考えています。
鶴氏も「的確な分業も重要だが、必要に応じて領域を超える気概も必要」と佐藤氏に同意する。峰島氏も「『ここしか見ません』という人は成長しづらいかもしれませんね」と語る。
峰島SaaSは見るべき指標が複数あるので、「あなたはこの指標を担当してください」と割り振られるケースもあると思うんです。
担当領域に責任を持つのは重要です。ただ、「それ以外の指標は見ない」となると、言葉は悪いですが“部品の一つ”のような働き方になってしまう。本人もつまらないと思うんですね。
例えば、担当する指標を2倍、3倍にするにはどうするかを考えて、新しい仕組みを導入してみる。達成したら「組織全体にどう広げられるだろう」と考えを広げていく。そういう思考ができる人が活躍できるのではないかと思います。
さらに峰島氏は、領域を超えて思考し行動する“人”こそが、成長の源でもあると付け加える。
峰島例えばSaaSの開示資料でMRRやARRが伸びているとき、外からは単価や導入数の増加で伸びているように見えやすいと思うんです。
でも、決してそれだけではなくて、複数の要素が混じっている。例えば、商談のチャンスを全力で掴みにいったとか。メンバーの地道な努力で伸びている面がある気がするんです。
そういう行動を一人ひとりができているSaaS企業が今後も急成長を成し遂げていくのだと思います。
「何でもやるぜ」歓迎。
職域や役職にとらわれず、前例を作りにいく急成長SaaSの流儀
セッションの最後は、三者がSaaSビジネスを手がけることの面白さについて語って締めてくれた。
佐藤氏は今後の事業としての方向性にも触れつつ、今カオナビに関わる面白さを語った。
佐藤カオナビは今後タレントマネジメントSaaSを軸に、多様なHRサービスと連携するプラットフォームを展開していく予定です。
組織としても成熟期にあり、創業者の色が濃いフェーズから、現場にも色々な機会が回ってくるフェーズに移行しつつある。先ほど話したような「ここしか関与しません」マインドではなく、領域を超えて事業や経営に携わりたい人には活躍の機会が沢山あると思います。
鶴氏は、今後国内でもさらなる成長が期待されるバーティカルSaaSに携わる面白さを強調した。
鶴現在提供している『sitateru CLOUD 生産支援』は業務支援ツールでありながら、複数業者と連携して取引できるマーケットプレイス的な機能も付帯しています。今後は『sitateru CLOUD』をプラットフォームとして、アパレル事業にまつわる多様な業務や取引を支援する機能を、ミニプログラム的に追加していきます。
バーティカルSaaSはまだ先行事例が少ないですが、自分たちが成功事例をつくる気概でやっています。ぜひ「何でもやるぜ」という方と一緒に盛り上げていけたらと考えています。
峰島氏はマネーフォワードにおける、事業の幅広さを語った。
峰島マネーフォワードは事業の数が多いのが魅力だと思っています。事業立ち上げをやりたい人にも、グッと伸ばすフェーズをやりたい人にもチャンスがある。職種的にも、to Cのアプリマーケティングからコンサルティングまで多様な会社です。色んな事業に取り組みたい人には最適な環境ではないかと思っています。
構想に市場トレンドが追いつく瞬間に備え、プロダクトを磨きつつも、決して流行り言葉に惑わされず、解くべき課題に集中する。時には担当領域のKPIを超えて、試行錯誤し続ける。
こちらの記事は2021年02月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
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