成果主義より、定性的マネジメントが重要な局面がある──D&I経営のヒントを、マクアケ坊垣にスローガン伊藤が聞く
SponsoredSDGsやESGという言葉も、聞かない日がなくなってきた。「ジェンダー・ギャップの解消」「女性活躍」「多様性の受容」……これらは企業にとってのみならず、社会的な関心事だ。
世界経済フォーラムが2021年3月31日に発表した世界各国における男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数で、日本の順位は156カ国中120位。このランキングは、下位になればなるほどジェンダー・ギャップが大きいことを意味する。つまり、日本は世界の中でも大きなジェンダー・ギャップを抱える国なのだ。
これまでの日本企業は「男性優位」な組織になっていることが一般的だった。社会的な要請によって大企業もジェンダー・ギャップの解消に動き出しているが、いまだ男女間に横たわる隔たりは小さくない。そして、大企業と比較してフラットな組織を作っているとされるスタートアップとて、この問題とは無関係ではない。
FastGrowもこの問題意識のもと、2021年1月に開催したFastGrow Conference 2021で「スタートアップ・ベンチャーにおけるダイバーシティをどう考えるか?」と題したセッションを開催。登場したのは、「応援購入」プラットフォームである『Makuake』などを手掛けるマクアケの共同創業者/取締役である坊垣佳奈氏と、カンファレンスの主催であり新卒向けキャリアサイトである『Goodfind』などを展開するスローガンの代表取締役社長・伊藤豊だ。
管理職の47%が、常勤役員7名中3名が女性だというマクアケ。ジェンダーフリーな組織はいかにして築かれたのだろうか。「組織を変えたければ、まず経営から変わらなければならない」と語る坊垣氏に組織変革のポイントを聞いた。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- EDIT BY YUTA TANAKA
多くのスタートアップが抱える「ジェンダー・ギャップ」という問題
本セッションを企画したのは、他ならぬ伊藤自身だ。なぜ「ダイバーシティ」をテーマに据えたのか、まずは企画の意図を語った。
伊藤スローガンを創業した経緯に関係があるテーマなんです。私たちのミッションは「人の可能性を引き出し才能を最適に配置することで新産業を創出し続ける」。日本企業の伝統的なコーポレートカルチャーに問題意識があり、それを刷新したいと考えたことがスローガンの創業につながっています。
旧来の日本企業のコーポレートカルチャーを象徴するのは「シニア」「男性」「画一性」というキーワードでしょう。しかし、これらのキーワードが支配的な環境では、人の可能性を十分に引き出せないのではないかと思っていたんです。そういった環境を刷新していくためには、キーワードを「若者」「ジェンダー」「多様性」に置き換えていかなければならない。
『Goodfind』や『FastGrow』といった事業が、若者と企業、とりわけスタートアップの架け橋となっている自負はありますし、実際に今では多くのスタートアップで若者たちが活躍しています。しかし、ジェンダーや多様性といった観点ではまだまだだと思っているんです。ここに、スタートアップ全体としての伸びしろがある。
特に、ジェンダー・ギャップの存在はスタートアップにおいても根深い問題だと捉えています。女性だけではなく、男性も関心を持つべきテーマだと思っていますし、関心を持つだけではなく、リテラシーを高めなくてはいけないと考えているんです。
大企業は、ジェンダー・ギャップの解消に取り組む動機が大きい。なぜなら、SDGsやESG投資といった社会的な要請があるからですね。しかし、スタートアップにはそういった外圧がかかりにくいので、意識しづらいというのが実情だと思います。
ところが、アメリカではゴールドマン・サックスが女性役員がいない企業のIPOは支援しないことを表明するなど、スタートアップにとっても身近な問題になりつつある。
何より、すべての人が大きな裁量を持ち、いきいきと活躍できる魅力的なフィールドであるはずのスタートアップにおいて、ジェンダー・ギャップがあるということは、すごくもったいないことだと思っているんです。少しでもジェンダー・ギャップの解消に動く企業が増えたらいいなと思い、このセッションを企画しました。
パネリストとして登壇するのは、マクアケの坊垣氏。「ジェンダー・ギャップの解消、女性活躍というテーマを誰に語っていただこうかと考えたとき、坊垣氏が真っ先に頭に浮かんだ」と述べた伊藤。その理由はこうだ。
伊藤女性社長の会社や、女性向けサービスを展開している会社は、社員の女性比率が高い傾向にあります。そんな中で、マクアケは特に女性向けのサービスを展開している会社ではないにもかかわらず、多くの女性が活躍しており、管理職の女性比率も高い。そういった意味で、多くの企業にとっての参考になるのではないかと考えたんです。
そして、坊垣氏は共同創業者としてゼロからマクアケの組織づくりに携わって来られた。このセッションのテーマを考える上で欠かせない人物だと思い、お声がけさせていただきました。
経営判断を下す場に女性がいなければ「女性が働きやすい環境」は築けない
マクアケは製品やサービスを購入することを通して生産者を支援する「応援購入」のプラットフォームである『Makuake』などを展開している。伊藤が紹介したように、マクアケのサービスの対象は女性のみではない。実際、ユーザーの60%は男性だそうだ。しかし、同社では多くの女性が活躍している。坊垣氏は、具体的な数字をもってその事実を説明する。
坊垣社員の約50%は女性で、女性比率の方が高い部署もあります。また、7名いる常勤の役員のうち、3名が女性です。これは非常に高い割合ではないかと思います。
そして、管理職に占める女性の割合は47%となっています。ある調査によれば、日本企業における女性管理職の割合は平均7.8%とされているので、これもかなり高い水準だと言えるでしょう。マクアケの女性管理職の内1名はシングルマザーとしてお子さんを育てながら働いていますし、最近日本国籍を取得した外国生まれ・外国育ちの女性マネジャーもいます。かなり多様性に富んだ環境だと自負しています。
組織内のジェンダー・ギャップを解消するためには、マネジャー以上の役職における女性比率を高める必要があると指摘する。その理由は、経営判断に女性の意見を直接反映させなければ、女性にとって働きやすい環境を構築することは困難だからだ。
坊垣ボトムアップ型の組織を作ったとしても、組織運営などに関する重要な判断を下すのは結局、役員陣であることが多い。どれだけメンバー層の女性社員にヒアリングをしても、最終的なジャッジを下すのが男性だけになってしまっては、男性目線の決定に偏ってしまうと思うんです。実際、経営の意思決定の場に私がいなければ、女性メンバーにとっては喜ばしくない決定になってしまっていただろうなと思う場面はこれまでにもありました。
たとえば、子育てのために時短で勤務する際の給与設計を決定したときのこと。最終的には、時短だからといって基本的には給与額は変えず、あくまでも成果によって評価し給与額を決定する設計になったのですが、私がいなければ「時短であれば、給与を減らそう」という判断になっていたかもしれない。もちろん、この制度は男性にも適用されますが、依然として女性の方が多くの時間を子育てに割いているのが実態ですよね。そんな女性たちの立場から、彼女たちに代わって意見を反映させられる私がいたからこそ、現在の制度設計ができたと思っています。
伊藤働きながら子育てをした経験のない男性だけで経営判断を下していると、子育ての実態が分からないからこそ「一般的にはこういった制度になっている」「他社がこうだから」と、女性にとって不利な制度をそのまま導入してしまうのを容易に想像できます。経営判断に女性が関与するからこそ、女性にとって働きやすい環境が実現できるのですね。
外部のリソースを頼ってもいい。まず、女性役員を誕生させよう
マクアケは共同創業者として坊垣氏がボードメンバーにいたからこそ、女性にとって働きやすい職場環境を構築することができた。しかし、もちろん女性の共同創業者がいる企業ばかりではない。現時点で女性役員がいない企業は、いかにしてジェンダーフリーな環境を整えていくべきなのだろうか。
坊垣もちろん、女性を役員として登用することは有効な選択肢の一つでしょう。しかし、現実的に難しいという企業も少なくないと思います。そういった場合は、社外取締役として女性を招聘することも考えるべきでしょうね。
当然、女性であれば誰でも良いというわけではありませんし、人選は難しいと思います。どんな経歴の方が良いか、どんな経験を持った人にお願いをするのか判断に迷うでしょう。ですが、女性が活躍できる環境をいち早く構築するためには、社外取締役をお願いする方の経歴や経験にこだわりすぎてはいけないと思うんです。なぜならば、女性で経営経験を持っている方は大変少ない。これは私の感覚なのですが、男性の1/10ほどではないでしょうか。
繰り返しますが、誰でもいいと言っているわけではありません。しかし、貴重な存在である経営経験を持つ女性がいれば、細かな経歴などにはこだわりすぎず、まずは社外取締役をお願いしてみる。女性役員がいることで、次の女性リーダーの育成にも良い影響が生まれ、次の女性役員を育てることにつながると思うんです。
一般論として、コミュニケーションを通して調和を図ろうとする女性は多い。率直に言って、人を押しのけてまで出世したいと考えている女性は少ないと感じています。私も「坊垣さん、野心バリバリでしょ」と言われることがあるのですが、そんなことはないんですよ。昔からお金や地位、肩書には興味がなくて、やりたい事業を立ち上げた結果として今のポジションにいるだけなんです。
とはいえ、取締役という立場にあるからこそ語れることもある。今の立場にいなければ「ポジションが上がると見える景色が変わるよ」「チャンスが広がるよ」と、女性の部下に伝えることはできません。もちろん全ての女性社員が管理職以上を目指すべきだとは思いませんが、上の立場を志す女性がいた場合、彼女を引き上げるため存在は必要なんだと思います。
そういった意味で、現状は社内に女性を引き上げる存在がいない企業は、外からでもいいので引き上げ役を招いてみるのも良いと思うんです。
環境を変えるには、まず経営が変わること──坊垣氏の話からは、そんな示唆が得られる。
そのビジョン・ミッションは本当に「自分たちの言葉」になっているか
続いて、伊藤からこんな質問が飛んだ。
伊藤女性はコミュニケーションを大切にするというお話がありましたが、組織としてコミュニケーション面で気を配っていることはあるのでしょうか。女性が活躍できる組織とそうでない組織のコミュニケーションの差異についてお考えがあれば教えてください。
そう問われた坊垣氏は「まだまだ理想とは乖離している部分もあるが」としながらも、特に意識している点をこのように説明した。
坊垣数字ではない定性的な目標を立て、その目標達成を促すコミュニケーションをすること。つまり、ビジョナリー経営を徹底するようにしています。女性が仕事に対して求めているのは、成果を出すということよりも、やりがいや貢献性です。なので、数字至上主義な経営ではなかなか頑張ってもらいにくい面があります。常に「その仕事は誰に、どんな風に役立っているのかな」という点を丁寧に説明することが重要だと捉えています。
現在のミッションは「世界をつなぎ、アタラシイを創る」なのですが、これは元々ビジョンとして設定していたものなんです。全員で言葉を出し合い、最後は有志のメンバーで決定。その後「これはビジョンではなく、ミッションだよね」ということで、ミッションに変わりました。
その後、ミッションの上位概念としてのビジョンを「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」としました。そして、ビジョン・ミッションに紐づく行動指針として「Makuake Standard」を制定しました。
7つの行動指針を決めたのですが、その中に「崇高をめざそう。」があります。あまり企業の行動指針などでは聞かない言葉ですよね。ずるをしない、ごまかさないといった個人の在り方が会社の在り方を決めると思っています。常に真摯に仕事に向き合う集団であろうという想いを、この独特のワーディングに込めたんです。
ビジョンも、企業が掲げるものとしては長くて覚えづらいですよね。しかし、とてもマクアケらしい言葉だなと感じていて、その「らしさ」が大事なのではないかと思っています。ビジョンやミッションを綺麗にまとめようとしすぎるがあまり、どこかで聞いたことのあるようなものになっている会社は少なくない。荒削りでもいいから、自分たちがやりたいことを、自分たちの言葉で表現したビジョン・ミッションになっていなければ、ビジョナリーな経営はできないと思っています。
スタートアップの経営層に求められるのは「時代の感覚」を掴むこと
マクアケでは定量目標だけではなく、「Makuake Standard」に即した定性目標を立て、行動指針に見合った行動ができたかどうかを評価しているそうだ。7つある行動指針ごとに「この項目はとても意識できていた」「この項目に関してはもう少し出来ることがあったのでは?」とフィードバックをしている。
ビジョン・ミッション、そして行動指針に基づく評価制度を運用することで、マクアケのカルチャーはその独自の色をさらに濃くしていく。
坊垣若手が組織文化をどうしていきたいのかを考え、主体的に行動してくれることが増えてきました。たとえば、部署ごとにスローガンを考え、それをポスターにして掲示するプロジェクトを始めてくれたんです。
最近ではオフラインの交流がなかなかできないので、オンラインでのコミュニケーションを増やそうと、有志のメンバーが数人で社内向けのオンライン番組を配信し始めたんです。新しく入った社員を呼んで経歴やプライベートな人物像を深掘りするなど、コミュニケーションの活性化に大いに役立っています。
数字ではなく、会社が目指す姿でマネジメントする──そんなマクアケの考え方は、採用にも表れている。「ビジョンへの共感」を採用における最重要項目に挙げる会社は少なくないだろう。マクアケもその1社だ。ビジョンへの共感度合いを測るのは難しいが、坊垣氏はある質問を投げかけることによって、会社とのマッチングを見ているそう。
坊垣面接の際「『月100万円給料を出すから、何やってもいいよ』と言われたら、何をしますか」という質問をしています。つまり、「人生をかけてやりたいこと」を聞くんです。
そんな問いを投げかけられたとき、多くの人は答えに悩む。悩んだ結果出す答えは、その人が普段隠している想いだったり、かつて諦めてしまった想いだったりするんです。その想いがマクアケのビジョンやミッションと合致するのであれば、その方とのマッチングは悪くないと判断しています。
セッションが終盤に差し掛かり、坊垣氏は改めて「組織を変えるために、まず経営層から変わること」の重要性を強調した。時代の最先端を走り、社会に変革をもたらすことが期待されるスタートアップ。そんなスタートアップに、伊藤が挙げた旧来の日本企業を象徴する「シニア」「男性」「画一性」といった言葉は似つかわしくない。
坊垣時代が変われば、人々の感覚も常識も変化する。スタートアップはその時代の変化についていく、あるいは変化を生み出す立場にいなければならないと思っています。そのためには、組織として常に感覚も常識もアップデートし続けなければなりません。
経営判断の場に若手を、そして女性を入れていく。そうすることで、会社として時代の感覚を掴むことが大事だと考えています。
こちらの記事は2021年04月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
編集
田中 佑太
連載FastGrow Conference 2021
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