ゼロイチは、「連鎖」が不可欠になる時代だ──Speee創業者・大塚が語る、「石の上にも7年」の“事業経営”論

登壇者
大塚 英樹

1985年、埼玉県生まれ。メディア関連事業の会社を創業し、2011年に譲渡。同年、25歳で株式会社Speee代表取締役に就任。2015年にAERAの「日本を突破する100人」に選出。Speeeは「デロイト トウシュ トーマツ 日本テクノロジー Fast50」7年連続成長企業上位ランクイン。Great Place to Work®️ Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」ランキング上位連続受賞などがある。2020年7月、東証JASDAQ(スタンダード)上場。

伊藤 豊
  • KMFG株式会社 代表取締役社長 
  • 株式会社エルテス 社外取締役 
  • 一般財団法人ルビ財団 代表理事 

1977年栃木県宇都宮市生まれ。2000年に東京大学文学部行動文化学科(心理学)を卒業し日本アイ・ビー・エムに入社。2005年にスローガン株式会社を創業し2022年2月までの約17年間代表取締役社長を務めた。2022年には東京大学出身の上場企業創業者有志を中心に立ち上げたUT創業者の会ファンドを立ち上げ、現在もファンドのジェネラルパートナーを務める。2021年から経済同友会のノミネートメンバーに選出され、教育改革委員会副委員長を務め2023年より経済同友会会員。著書に「Shapers 新産業をつくる思考法」。2023年3月にKMFG株式会社を立ち上げ、スタートアップ向けのアドバイザリー業務を中心に提供開始。また、財団・NPOの立ち上げも準備中。

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「0→1(ゼロイチ)」を担える人材になりたい──。

そんな想いを強く持つ若者がここ数年、増え続けている。「新たなものを自らの手で生み出す」ということへの憧れが、強まっているようだ。

もちろん、ゼロイチへの取り組みが増えること自体は喜ばしい。だがそんな中で、若者のビジネスにおけるチャレンジが、その一辺倒になってしまっているのではないかと警鐘を鳴らし、発信と行動を始めた起業家がいる。Speeeの共同創業者であり現代表の、大塚英樹氏だ。曰く、「ひと昔前のゼロイチの考え方でやっていると、すぐに行き詰まります」。どうやら、起業や事業創造、事業開発の進め方自体を、大きくアップデートすべき時代が訪れているようだ。

同社が提唱する「事業経営」をテーマに、大きな社会課題の解決と、その先に描くスタートアップエコシステムへの貢献についてじっくりと語ってもらうセッションを、2022年8月のFastGrow Conferenceで企画した。本記事は、そのレポートである。聞き手は、大塚氏と起業家としての出自が近い、スローガン創業者の伊藤豊。

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コモディティ化する“起業”。
今こそ捉えなおすべき「ゼロイチ」の定義

大塚起業してからの15年間、自ら事業をいくつも立ち上げ、育て、そして同時にいろいろなベンチャー企業の成長を見てきました。なので今日は、起業家・上場企業経営者という目線と、ベンチャー界隈での業界人という目線から、お話ができればと思っています。

──私たち二人は、ベンチャーキャピタルから資金を調達して事業を進めてきたような起業家ではない点が、今で言うと少しユニークかもしれません。そんな立場として話をしていきたいです。まずは、「起業がコモディティ化している」という向きについて、どう思いますか?

大塚まず大前提として、国が政策として支援をしているし、産業界もイノベーションの創出を支援していこうという機運が高まっています。とても良い風潮だと思います。私達が起業をした時代とは比べ物にならないくらい変化してきたと思います。私が「起業がコモディティ化している」と言っているのは起業が後押しされている風潮に対して対してアンチテーゼとか、水を差すとかそういう話ではなく本当にシンプルに、この社会では現時点でもかなり起業そのものはしやすくなっているし、もはや起業が珍しくもなんともないよねと。

このイベントの参加者なら、5人くらい集めれば、起業や独立を経験したことのある人が見つかりそうですよね。

この状況自体を見ると、「経済社会が発展していっている」ということだとは思います。

──そうですね。少なくとも発展はしている。

大塚とするとこれから、「なぜ起業が必要?」「なぜイノベーション創出が必要?」といった、もう一歩進んだ議論を深めるべき。なのでこうしたタイトルとアジェンダを今回は、伊藤さんと一緒にご用意してみました。

私が感じる前提を、マクロ・セミマクロ・ミクロに整理してまずはお伝えします。

マクロな話は、よく言われてはいますが日本がこの30年もの間、十分な経済成長をしていないということ。これがなんとも深刻で、世界で見てもかなり下位。横に並ぶのが、内戦をしてしまっているような国だそうです。

そのマクロの状態を踏まえて、セミマクロな話では「この状況を打破するためにはイノベーションによる新産業の創造が必要!」と、そしてそのためには「まずは起業する人を増やそう!」という声がたくさん上がってきたという歴史がある。結果、起業先進国として遠い先を行っているアメリカと比べると、まだまだ動きが遅く、数も少ないという実態はあるものの少なくとも「起業家のダウンサイドを減らす支援も増えてきているしVCの生態系も急速に整備されてきてきた。結果、いい意味で冒頭のコモディティ化してきたという話にも通じるところだと思います。

最後にミクロな現場感覚の話で、起業の数は増えて、やりやすくなっているけれど、本当の目的である「イノベーションの創出が必要!」「大きい事業を創る」というところにまでに当初の思惑通りにはまだ至っていないということ。これから増えていかなければいけないのは「大きな課題解決力を持つ事業開発」の事例創出なのかなと。それが増えていかなければ、日本のスタートアップエコシステムの成長は足りなくなっていくのではないか。そういう流れで課題認識をしています。

──日本でも最近はVCが発展し、投資額が増えてきた。起業増加への貢献は大きいですね。でも、数こそ増えましたが「本当に大きくなるの?」と、質が問われるようになってきました。その背景にあるのは、VCの立場から好みやすい事業スタイルという話。ゼロイチフェーズで、ワンプロダクトにリソースを固め、大きなスケールを図る、というモデルですね。でも本当は、もっとほかのかたちもあるはずですよね。

大塚VCも、起業家も、大手企業によるスタートアップとのコラボレーション事業も、さまざまなプレイヤーの参加が増え、投資を受けやすい状況にはなってきています。

その中で、投資フォーマットとして固まってきたのは、伊藤さんがおっしゃってくれたように、リターンが読みやすいものです。

一方で、このフォーマットに入りにくいビジネスモデルの発展は、なかなか思うようにいかなくなっていると言えるかもしれません。「大きな課題を解決しよう」という側の多様性が、生まれにくくなっている。

──そうですね。

大塚アップサイドが豊かな領域のほうが、投資フォーマットは進化していきやすいはず。アメリカのような英語圏ではじまるホリゾンタルなサービスなら、世界で広がりやすいので、投資検討がどんどんなされていきますよね。

その一方で、ローカルな課題をバーティカルに解決するような事業では、投資フォーマットがなかなか発展しにくい。こういう領域で課題解決に向き合っているチームに対する支援はまだまだ発展とか成熟が必要な部分かもしれない。

実際、Speeeが産業DXを目指してさまざまな事業をやっている中で、この問題を少なからず感じますね。

セッション開催中の様子

──デジタルと相性が良いホリゾンタルな事業領域はたしかに進みやすくて、そうじゃないところは残されてしまっている。でもこれから解決されていく、と期待できるんでしょうか。

大塚そうですね。この領域が事業機会としてダメというわけでは決してなく、課題解決が温存されて残ってしまっているだけだと思うんです。

日本では、業務オペレーションが複雑でプレイヤーが多くて、サイロ化し、バリューチェーンが長くなっている巨大産業があります。これが硬直化という大きな課題を生んでいる。ある意味では産業が安定しているとも言えて、そのままでもプレイヤーはしばらくの間は誰も損しません。

ただ、デジタル分野はどんどん進化している。DXが温存されてしまっている業界のエンドユーザーは豊かな体験の機会損失がどんどん生まれている可能性があります。

ローカルの巨大産業におけるDX未遂あるいはDX負債とも呼べる巨大なイシューの解決を、どのように解消し、次の世代に渡していくべきなのか、考えなければなりません。

──ワンプロダクトでスケールさせるゼロイチとは大きな違いがある、ということなんでしょうか?最近も「ゼロイチを経験したいです」という若者は増えているように感じます。

大塚私は小さい頃から「起業したい」「経営者になりたい」と思っていました。ゼロイチへのあこがれを持っていました。今も、起業家という存在が、社会でもっと「尊い者」として見られるべきであるという感覚を持っています。

ですが、事業開発を俯瞰的に捉えると、まだまだ誤解が多いことに気が付きます。ゼロイチ、イチジュウ(1→10)、ジュウヒャク(10→100)という昔からの分類が、「事業は線形に伸びる」というイメージを抱かせ、その流れの中でバトンを渡していくのが仕事だと捉えられてしまっている傾向が強いと思います。

経営や事業開発に10年以上取り組んでみると、そういうものではないとわかってきます。各フェーズで、ゼロイチのような仕事を繰り返す必要性がどんどん生まれてくるんです。競争や変化が激しいVUCAの時代なので、事業のライフサイクルが短縮化されています。その中で、ひと昔前のゼロイチ、イチジュウみたいな考え方でやっていると、すぐに行き詰まる。

昔は、ゼロイチ、イチジュウ、ジュウヒャクという役割分担のおかげで仕事が割り当てられ、助けられていた人が多くいました。ですが、より大きな課題解決を図るためには、イチジュウフェーズでも大きな再投資をしたり、あえてS字カーブをつくったりという取り組みだって必要じゃないですか?長くやっていればそれを肌感覚でつかめるようになるのですが、世間一般には、特に若い人の中にはまだまだ認識が弱い印象があります。

事業群をつくっていくことが産業DXの有用なアプローチの1つであり、その為には、事業開発の連鎖、つまりゼロイチを組み合わせるという取り組みが必要な場面は少なくありません。ワンイシュー・ワンプロダクトが最短距離の場合もありますが、課題やイシューの種類によってはそうじゃないこともあるんです。

つまり、ゼロイチが多様化していて「起業“こそ”がゼロイチ」「スタートアップこそがゼロイチ」というのはステレオタイプだなと思うわけです。

──直線的にゼロイチ、イチジュウ、ジュウヒャクと進むという話は、わかりやすいフレームワーク。これに当てはめて、「自分はゼロイチが得意」と言い聞かせやすい。でも、それが当てはまるものばかりではないわけですね。

大塚このフレームワークから抜け出したアプローチでなければ手掛けられない事業領域があるのだと思います。一例として、当社もアプローチしている産業DXがあるのだと思います。

──日本でローカルな事業領域で挑戦しようとしても、ワンプロダクトではなかなか変えていけません。いくつもの事業を組み合わせることでようやく、DXが実現し始められるはずということですね。ですがワン・イシュー、ワン・プロダクトにこだわってしまう危険性があり、それでは機会を逃してしまう可能性があると。

大塚はい。産業DXの実現には産業全体をリデザインしてエンドユーザーに全く異なる体験を提供できるようにすることが不可欠だと考えています。

以前までは私も、ローカルの巨大な課題もGAFAMのようなグローバルメガプラットフォーマーがいずれ解決するかもしれない、だったらローカル(自国)のプレイヤーは一体何をするべき役割なのだろうか?などと思っていた時期がありました。ですが最近は、そんなことは起きないと感じるようになってきました。国内の巨大産業に向き合っていると、本当にとても複雑なので、GAFAMくらいのグローバル企業が日本のような成熟した一国の難題に積極的に踏み込んでいくような投資はおそらくそう簡単に実行されません。少なくとも優先度は高くはないでしょう。

一時期言われていたようなGAFAMとどう戦うのかみたいな話ではなく、相手にもしてもらえない課題領域があるという危機感の方が強い。

なので日本国内で、こういった領域に挑戦する人材を増やして、GAFAMとは異なる経路でアプローチしなければ、進まないと思うんです。

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「ゼロイチ」を組み合わせ、動的な再成長を描け

──ここまでいただいたお話を前提として、じゃあどうすればいいのか?という点をもう少し具体的にしていければと思います。キーワードになるのが、Speeeさんの掲げる「事業経営」という言葉ですね。

大塚いわゆる事業責任者の役割は、事業ミッションを作り、計画に落としこみ、P/Lを組んで、リソースをマネジメントして実行していくことですよね。でも、このアプローチを愚直に繰り返せばいいようなスタティックな展開だけでは、巨大産業のDXという未開の領域で解決に向かっていくのが難しい。

常に探索を続けてサービスラインナップを広げ、かつ、事業全体のポートフォリオを組み換えかえていく。そんな変数の多い取り組みを続けることで初めて、大きな課題解決に手が届いていくような感覚があるのです。自社のリソースだけでなく、社外のリソース・社外のネットワークも広く使い、動的にオープンに事業を発展させていくような舵取りをしてほしい。そういう人材を増やしたい。

ひと昔前の経営は、もっと閉じた世界で、ゆったりとした時間軸で事業リソースを考えていくものでした。そうではなく、さまざまな境界を超える大きなロードマップで、ゼロイチを組み合わせ、動的な再成長を創り出し、課題解決力を強めていく。必要に応じて外部の起業家・事業家ともコラボレーションしていく。このようなことができる、新しいDX時代の事業経営者の存在がもっと必要なのだと思います。

──対比するとしたら、「経営は経営者に任せ、事業責任者は運営だけをする」という従来型の仕組みとは異なる。そういうかたちで、アップデートしてきたということでしょうか。

大塚そうですね。事業をただ運営するだけでは、変化に対応し、新たな発展を創出できません。本で読んでわかるような事業責任者のふるまいだけではおそらく、緩いんです。経営視点を当然のように取り入れて、事業開発の連鎖を生むことで、産業DXのような大きな課題解決もできるのだと思います。

──経営者が事業責任者に対して、経営者のようになって欲しいという想いを持っている企業はあると思います。でも想いがあるだけでうまくいくわけではないと思います。Speeeさんはどのような違いを意識してやっているんですか?どうすればうまくいくんですか?

大塚そうしなければ自分たちのミッションの実現に至らない。つまりSpeeeにとっては必須条件だと思っています。故にSpeeeの経営OSのような部分に、このような考えを組み込んでいくことが必要なのかなと。そうすればOSの上に載るアプリケーションにあたる、様々な制度や仕組みが違ってくるのだと思います シンプルですがこれに尽きるかと。

この積み重ねが結果的に大きな違いになるのだと思います。

事業責任者から事業経営者になると、日常会話で使う言葉や見ている視点や時間軸も全く異なるものに変容します。

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「2~3年修業したい」では身に着かない。
「最低7年」をSpeeeが推す理由

──大塚さんのおっしゃることを実践していこうと考えても結局、経営者が事業経営者を信じきれないと、「自分がやったほうがいいんじゃないか」「自分がやったほうがうまくいく」と考えてしまいそうです。任せるのが特に難しいような仕事でしょう。どういう人材になら任せられるとか、任せきれない時にどうすべきかとか、そういったイメージはあるものですか?

大塚「大きな課題解決をしたい」という意志は、私個人の欲を超えて「会社としての巨大な欲」になっています。そんな前提を踏まえれば、「私の力量ですべてを推進することはできない」と考えるようにもなります。なのでだいぶ前から、多くの事業経営者に任せながら、各領域の事業開発の連鎖に着手しています。

そうのような実践から、ようやく知見と経験がたまってきた。

「こういうメタファーを持って、こういう意思決定の経験を乗り越えていくと、、事業経営者として大きな仕事が進められる人材になっていける」というようなイメージを持ててきたのがここ数年です。

今では、当社でDX時代の事業経営人材を志す人には、どのような職種からスタートしたとしても、複数の事業フェーズ、事業モデルで多様なゼロイチを経験し、事業経営のOSをインストールできるような仕組みが整いはじめています。

事業経営の実践経験がつめている若手人材がまだ社会にあまりいません。価値とは「希少性」ですから、当然、価値の高いキャリアにもなると思います。多様なコラボレーションを通じて事業開発を連鎖させることができる人材を当社が欲しいから必死に育てる。そしてその人材はこれからのスタートアップでも、大企業の事業開発の現場でも求められている。仮に当社を卒業していったとしても、多方面で活躍する人材の排出に貢献できる。

セッション開催中の様子

──7年って絶妙ですね。やっぱり、これくらいは必要ですよね。

大塚そうなんですよね。本当は1−2年でできるようになるよ。と言いたいところですが。

──多くの人が、2~3年で最短で経験したい、と考える。7年は長い、と感じられそう。このギャップをどう思いますか?

大塚2~3年単位での大きな環境変化を積み重ねるキャリアが合う人ならそれはそれでいいと思う。ですが、2−3年で体験できるものはとあるモデルのとあるフェーズに限定されているということも理解しておく必要があると思います。

例えば、Speeeのような多様な事業が次々に生まれている環境で7年、事業経営人材を目指していくと、新規事業の立ち上げみたいなものだけではなく、拡大成長期の事業マネジメントや事業の踊り場の過ごし方なども経験することになる。結果、異なる事業フェーズでも強みを発揮し、そのフェーズに即した活躍ができるようになると思います。別にSpeeeでなくてもいいんです。7年くらい、事業経営への道を真剣に歩んでいくとかなり熟達してくるし、0➠1がもっと身近になって、その0➠1を過大評価したり、自分には関係無いものと過小評価することが減ると思います。ビジネスがもっと楽しめるようになるということを知ってもらえたらなと。

私自身、事業開発というものを、もっと小さくつまらないものとして見てしまっていた時代があります。でも最近になってようやく気づいてきたんです。やっぱり、事業を大きくする楽しさって、そんなにつまらないものじゃなかった。長く取り組んでいくと、さまざまな組み合わせによってものすごく大きな価値が創出できるかもしれないという高揚感を感じることがあります。自分の手で、実践を繰り返していくと少しずつわかるようになるんですね。

例えて言うなら、PS5のゲームの体験の豊かさとか、VR体験の豊かさって、ファミコンやってるだけの人には言葉で伝えることができない。それくらい言葉では伝えづらいが全く違うものであるという感覚があります。

──2~3年って、何でも新鮮で、習熟していくラーニングカーブがわかりやすい。でも最初の坂を上り切ると迷子になりがちです。本当はその先にもっと面白い坂があるかもしれないし、場合によっては自分で坂をつくりだすこともできるはず。にもかかわらずなんとなく2~3年で、環境や志を変えてしまう。

大塚はい。これは、我慢して7年近くやっているとその後に良いことがあるよ!とかそういう修行みたいなことではなくて、事業経営の奥行きや楽しさの体感しはじめるのは、正解が分からないものに対して意思決定をし、様々な組み合わせを駆使して成功に導くときに芽生えると思っています。

「これが事業経営の楽しさかぁ〜」というのが感じられてくる時がある。一度、そういうものが分かってくるとそういう仕事の仕方から離れられなくなる。たくさんのレバー(変数)を多く手元に用意して、特定のレバーを強く握って勇気を持って引く感覚。その経験を通じて、いっきに視座があがるというか視野が広がる。そして「次やったらもっとうまくやれるかも」という感覚が残る。とはいえその実践はそう簡単ではなく、多くの変数を手元に用意して引けるようになるまでは、さすがにある程度の期間は必要だと思っているのです。私の経験だとそれがだいたい7年くらいかなと。

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OSを更新できなければ、事業成長も止まる。
それがDX時代のスタートアップのあるべき姿

──VCとは異なる文脈で、スタートアップエコシステムを考えて、事業を多角化してきたのがSpeeeさんのユニークなところだと思います。いま改めて、この現代社会においてどのような貢献ができると考えているのか、お聞きできますか?

大塚立体的に事業をつくって伸ばしていけるような人材は、年齢もキャリアもだいぶ上の人に偏ってしまう。でもそうなると、その人の情熱が、どちらかというとプレイヤー側というよりティーチャー側に回るタイミングかもしれない。それでは、変革速度も十分ではなく、もったいないのかなぁと。

私自身もまだまだその道の過程にいるので、偉そうに言いたいわけでは決して無く、もっと現場に近いところで高い視座を持ち、情熱を発揮できる若い人を増やしたい。若い人にこそ、DX時代の事業経営というOSを組み込んで、スタートアップでの0➠1に縛られず、様々なフェーズでの0➠1フェーズで活躍してほしい。

新卒から7年じっくりとキャリアを積み重ねて、30歳ごろに事業経営というOSを備えることができれば、そこからのキャリア発展はたくさんあります。それこそ、そこから大きなスタートアップを生み出していくことも期待できる。

──大塚さんの実体験を基にした独自の「事業経営」というモデルが、日本のスタートアップで認知されて、取り入れてもらえると変わっていくのではないかと感じました。質問が来ています。すでに別のカルチャーがある企業でも、「事業経営」を取り入れられるものでしょうか?と来ています。いかがでしょうか?

大塚可能だと思います。掲げているミッションとマッチしていることと、事業経営を試行錯誤していく理由があればできると思います。

──創業者が自分でやりたいと思う気持ちが強かったら難しそうですが、そうではなくやはり創業経営者こそが「自分だけではできない」と考えることが大事なんですか?

大塚ドメインの深い知識やイシューへの解像度は、事業責任者レイヤーのほうが経営者よりもあるというケースは少なくないと思います。それを理解せずに経営者が出ていっても、良い解決策は生まれないと思うんです。

ただ私の場合は、私自身の能力がたいしたことないと認識しているので自分がすべき意思決定領域にはとことん執着をしますが、任せるべき領域にでしゃばりすぎないほうが得策であるというだけかもしれません。ディスカッションはたくさんしますけどね。

──それくらい謙虚になってしまうくらい、チャレンジを続け、失敗もしてきたから、ということですよね。

大塚まあそうなのかもしれませんね、15年もやっていればたくさん失敗してますからね。発展が止まりそうだった事業が、市場の捉え方や、組み合わせの仕方次第で生まれ変わったように発展していくという経験を何度かしているんです。

今振り返ると、過去の自分の経営OS(市場の捉え方や組み合わせの考え方)だったら、この事業の成長は止めてしまっていたかもしれないなと思います。「危なかった...」と冷や汗をかくフェーズがありました。この体験は大きかったですね。

もし、こういった経営者の経験が語られずに、いろいろな人が多くの場面で事業経営としての熟達ではなく、事業管理の熟達に終始してしまい、それがゆえに、事業がもつポテンシャルを開放しきれないようだと、本来もっと大きな解決にまで到達することができた事業が未完のまま縮小していく。本当にもったいないなと。

──最後に、事業を担っていきたいという意識を強く持つリスナーのみなさんに対してメッセージをお願いします。

大塚今日は自分たちが考える「起業のコモディティ化」「0➠1の多様性」と「事業経営」という考えを話させてもらいました。今所属している会社で、おもしろくないとか、伸び悩んでいるなあとか、キャリアの発展がつまらないなあとか思い始めたとしたら、チャンスかもしれない。その時に、もう一度事業を経営していくような目線で自分の仕事を捉え直してみると、すごく違った広がりとか、多様な編集軸が見えてくるかもしれない、そこにもゼロイチは潜んでいるんです。

ステレオタイプの0➠1ではなく、多様な0➠1の経験を積んでいくことで、大きな解決を牽引するDX時代の事業経営人材を生み出したいと思っています。をそして、これからの若いビジネスパーソンにも事業経営者というOSを是非組み込んでもらえると、これからのビジネスや社会課題の解決がもっと楽しくなるのではないかなと思うのです。Speeeは事業経営を通じた大きな解決を目指しています。一緒に熟達していける環境だと思います。このことをぜひ、知ってほしいですね。

こちらの記事は2023年03月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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伊藤 豊
  • KMFG株式会社 代表取締役社長 
  • 株式会社エルテス 社外取締役 
  • 一般財団法人ルビ財団 代表理事 
公開日2021/10/29

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