多くの企業が“日本ブランド”を自覚できていない──エンジニア不足に悩むのはもう終わり。明日から始める「開発組織のグローバル化」とは
最大、約79万人──。2030年までに、日本で不足すると言われるエンジニアの数だ。ITが浸透した現代において、ほぼ全ての企業にとってエンジニアはビジネスの要だといえる。どれだけ素晴らしい構想を描いたとしても、潤沢な資金やビジネス上の優位性があったとしても、実際にサービスを作り出すエンジニアがいなければ、全ては絵に描いた餅に過ぎない。
また、近年激化するエンジニアの採用競争は今後の人口減少によってより一層激化していくとの見方もある。では、どのように競争力を維持すればいいのだろうか?その答えはグローバルエンジニア人材の積極的な登用にありそうだ。
メルカリに始まるテックジャイアントはすでにグローバル人材の採用を進めており、その開発組織は多くの外国人エンジニアで構成されている。この流れはさらに加速していくと見られ、もはやグローバルエンジニア人材の採用は全てのIT企業に求められるものとなるやもしれない。
とはいえ、グローバル人材の採用のためには“受け入れ体制の整備”が必要不可欠だ。最も重要なのは言うまでもなく、社内公用語の英語化。とはいえ、「何から始めれば良いかわからない」「反発するメンバーも出てくるのでは」との声も聞こえてきそうなところ。
そこで今回は、AI英会話とパーソナルコーチングのサービスを提供し、2019年より社内公用語を英語化し、職種を問わず社員の15%を外国人が占めるスピークバディ代表取締役 立石 剛史氏。そして、2016年から社内公用語の英語化に成功し、50名以上のグローバル人材を抱えるHENNGE執行役員 汾陽 祥太氏のお二人にグローバルエンジニア採用の要諦を聞いてみた。
モデレーターとしてスローガン代表取締役社長である伊藤豊を加え、グローバルエンジニアの採用と社内公用語の英語化について徹底的に深掘りした。
グローバルエンジニアとの出会いとは?
多くの企業が自覚できていない「日本の魅力」
まず、グローバルエンジニアたちは、どんなきっかけで日本に目を向けたのだろうか。また、実際に一般の企業が海外の優秀なエンジニアを採用することなどできるのだろうかHENNGEが実際にグローバルエンジニアを採用するに至ったきっかけから話を聞いていくと、我々日本人だからこそ認識できていない“日本企業の強み”が見えてきた。
汾陽私たちがグローバルエンジニアの採用に至った経緯は、やはりエンジニアの採用難ですね。2014年ごろに国内の優秀なエンジニアの採用に苦戦し、当初は“苦肉の策”で海外に目を向けたところ、偶然優秀な外国人エンジニアを採用することができました。そこから注力してグローバルエンジニアの採用に力を入れていくことになりました。
気になる方も多いかと思いますが、採用できるエンジニアのレベルは総じてかなり高いです。いわゆるGAFAなどでバリバリ働いているような方や、新卒だと日本で言う東大、東工大出身者でコンピューターサイエンスの修士レベルの方が数多くいらっしゃいます。
伊藤日本国内だと、最初からハイレベルなエンジニアの方を採用するのは難しいですよね。そのため、初めは一定水準の技術力のある方を採用し、徐々に育成していくことが多いです。
そんな中、日本のベンチャー企業でも最初からハイレベルなグローバル人材を採用することができるんですか?
汾陽正直、めちゃくちゃ採用することができます(笑)。地理的な距離の近さからHENNGEはアジア地域の採用にまず着手したのですが、どの国においても日本のブランド力はものすごく高いです。
学生と話すと、「ドラゴンボール」「ポケモン」「スラムダンク」などに小さい頃から触れて育ってきている方が大半。そのため日本の文化への理解度は相乗以上に高い。
またアジアにおいては、自国で就職するよりも給与水準が高いことも要因の一つですね。言うなればグローバルエンジニアにとって、唯一の障壁が言語の違いなんです。だからこそ私たちはまず社内公用語の英語化に踏み切りました。
立石ドラゴンボールの話は非常に共感できますね(笑)。海外の方々の日本に対する愛は我々が思っているよりも強いですし、そのような方々は定着率も高いです。もちろん日本の文化に親しみのない方もいますが、オンボーディングで日本らしさを感じられるような場所に連れて行ってあげるととても喜んでくれます。
そう、踏み出してみるとわかるのが、「日本の会社」というだけでアドバンテージが実はあるという点なのだ。この事実を知らずに、「海外のテックカンパニーに採用で勝つことは難しそうだ」と考えてしまっている経営者や人事担当者は少なくないはず。
伊藤なるほど、このアドバンテージに気づければ外国人採用にも踏み出しやすいですね。実際にはどのような経路でアプローチをしていたんですか?
汾陽最初は大学の就職イベントに参加したり、Facebook広告を配信したりしていました。最先端のプログラミングに関する情報が集まるイベントに協賛し、開発部長やマネジャークラスのエンジニアに登壇してもらい、その後の交流会で採用担当がクロージングする、ということもしていました。
1人目の採用ができてから、その人の友人や元同僚に声をかけていく、つまりリファラルで採用を加速させていきました。最近だと現地の大学の教務課に直接連絡をして案内をお願いをしています。実は、海外では日本の大学よりも生徒を就職させようという意識が強いので、案内を通じて応募してくださる方も多いです。
立石我々は基本的にエージェントさんにお願いしていて、大半がグローバル人材に強みを持つエージェント経由で入社してくれています。
あとはWantedlyをはじめとした求人媒体でも英語で募集記事を書くと目立つので、自らスカウトを送らずとも自然応募が増えます。
現地の大学に直接求人を送るのはやや意外だったかもしれない。Wantedlyでの英語求人というのにも驚いた読者がいるだろうか。
今やネットを駆使し様々な方法でグローバルエンジニアと連絡を取ることができる。小さなことでも、日本企業というブランドをフルに活用しアプローチ手法を試してみると、低コストでも思わぬ応募があるのだ。まさに、始めてみないとわからないことだと言える。
社内公用語の英語化は本当に“高い壁”なのか?
導入時のリアルに迫る
ここからは最大の障壁であるイメージも大きい「社内公用語の英語化」に話を移そう。
優秀な外国人エンジニアを迎え入れるためには言語の壁を取り除くことは必要不可欠。一方で、社内で日常的に使用される言語を変えるというのはとても大きな経営判断となりうる。特に、英語化に伴い、既に活躍していた社員の反感を買ってしまい離職、なんて事態になると本末転倒。
しかし、HENNGEにおいて、その反発は思ったよりも小さかった。
汾陽英語化に伴って社員が離れてしまうのではという恐れは確かにありました。しかしこれは成長に伴う痛みなので仕方のないことだ、と覚悟を決めましたね。しかし実際には、思ったより前向きに捉えてくれる方が多く、これは大変嬉しい誤算でした。
既に日本語の話せないベトナム人エンジニアがいて大活躍していたのが大きかったかもしれませんね。IT企業にとってエンジニアとは会社の心臓ですし、実際に「英語でそのメンバーと会話できたら素晴らしい」とわかりやすく説明できたのはポイントだと思います。
伊藤特にキャリア意識の高い方にとっては、英語を話せるようになることによって市場価値が向上する、というモチベーションもありそうですね。
汾陽おっしゃる通りで、最近では「HENNGEは公用語が英語で、そのためのサポート体制がある」のが一つの候補者にとっての訴求ポイントとなり、事実に採用成果にも現れています。
立石英会話学校に行ったら多額の費用がかかるのに対して、公用語が英語の会社に入社すれば、無料で働いているうちに自然と英語力が身についていくからお金がかからない、という側面もありますよね。
成長のためにある程度の犠牲は覚悟した上で始めた英語化も、意外にも受け入れられたというHENNGE。メンバー自身の市場価値の向上、英語化に伴う具体的なベネフィットを実感してもらうことが社内で理解を得るための要点になりそうだ。
続いて話は“グローバル人材のマネジメント”に移る。すると、グローバルな組織づくりを進めるためのキーパーソンの存在が見えてきた。
立石スピークバディはまだまだ小規模なので、外国人メンバーはエンジニアやデザイナーなどの職種のマネージャーが管理しています。なので、VPoEなどの職種マネージャーが英語でコミュニケーションを取れると外国人メンバーも安心して働きやすいですよね。
一方で、実際に現場を動かすのはマネジャー。いくら経営陣がグローバル人材採用に積極的でも、マネジャー層の協力なくしては不可能です。
スピークバディではマネジャーが留学経験者だったので恵まれていた部分もありますが、そのような「キーパーソン」に対していかに経営陣が組織のグローバル化のメリットを伝えられるかが大変重要です。
汾陽ここは、HENNGEでは本当に苦労した部分です。国内のエンジニア採用で一番苦しんでいたはずの開発マネジャーに相談したところ、初めは見事に大反対されました。そこで経営陣とそのマネジャーとの間で何度も対話を重ねて決めたのが「セブ島留学」です。
1カ月間、このマネジャーには、英語習得のためにセブ島に行ってもらいました。本人が覚悟を持って臨んでくれたのもありますが、英語に対するイメージが大きく変化し、取り組みへの向き合い方が大きく変わりました。どうしても日本の大学受験では、“英語は詰め込み”と言うイメージが強いですからね。まずは英会話の楽しさに触れてもらう必要があります。
もちろん、経営陣のコミットも大切です。スピークバディさんのようにオンライン英会話を事業にされている企業では英語に理解のある方が多いかと思いますが、一般的なベンチャー企業だとなかなか英語を話せないメンバーが多い状況からのスタートになります。
だからこそやる経営陣が自らコミットし、その意義を丁寧に説明しなければならない。現場は英語なのに、経営陣が全く話せないのでは格好がつきませんからね(笑)。
グローバルな組織づくりのためにはマネジャー層の協力と経営陣のコミットメントが求められていることがわかった。全社で足並みを揃え、全員メンバーのストレス負荷を最大限減らす環境を目指す姿勢が求められている。
実際に社員の英語力をどのように引き上げたかについても聞いてみた。
汾陽2014年から今なおずっとトライアンドエラーを重ねていますが、やはりTOEICはやってよかったと感じます。まず受験して自分のスタート地点を認識して、そこからは定期的に受けてもらい成績向上のノウハウを蓄積していきます。
8年続けると社内でそれぞれのレベルに応じて効果的な勉強法も徐々に確立されてきました。TOEICのスコア向上は本人の市場価値の向上にも繋がりますから、やはり前向きに取り組んでくれる社員が多いです。
あとは最近査定にも組み込み始めており、昇格のために必要なTOEICのスコアの基準を設けています。
“文化の違い”とどう向き合うか。
活躍には必須の受け入れ体制
これまでグローバル人材の採用とその受け入れのための英語化について掘り下げてきた。ここからは急成長を志向するベンチャー企業には欠かせない仕組みやカルチャーといった組織の観点からも深掘りしていく。
立石ミーティングでも議論が白熱するとだんだん日本語になってしまったりするのでそこは意識して気をつけています。とにかく情報格差が生まれないように気をつけていて、外国人メンバーとは週次でキャッチアップのセッションを組んだり、全社のMTGでは必ず英語で話す、もしくはスライドに英語を表示する、を徹底しています。
あとは、英語で飲み会を開くなんてものもかなり盛り上がるのでオススメです(笑)。
有名な事例で言うと、弊社が英会話コーチングサービスで支援をしているメルカリさんは導入当初は通訳を導入していました。段階的に英語化に取り組む企業が多いです。
受け入れ体制という意味では「開発」「人事」「全社」と言う三つのスキームに分けて仕組みを作りました。中でも重要なのは、意外かもしれませんが「人事」。特に「ビザ取得」の管理業務です。過去にはビザがうまく取得できず働けなくなったケースもあり、行政書士の方にお願いするなどして万全の体制を整えています。
社内体制に加えて、実際にグローバル人材と働いて見えてきた、“外国人ならでは”の悩みやカルチャーの違いについて、話は盛り上がる。
立石その国出身者のコミュニティーが、日本にはあまり存在しないような場合は、苦労していますね。アジア出身者であれば、日本国内でも多く住んでいるので、友人もできますし、郷土料理が食べられる店も多いです。
しかし、あまり日本に馴染みのない地域、例えば東欧出身の方だと、なかなかそうもいかないので、社として特別なサポートを検討することも必要になってくるでしょう。
あとは、労働環境についての、出身国/地域とのギャップには気をつけないといけません。例えば北欧出身者は、そもそも残業をしないという文化を持っています。また欧米全般に言えることとして、「会社と社員の関係がドライ」という認識も強いですね。こうしたことを踏まえ、普段から働き方や関わり方についてしっかり対話することが求められます。
当然のことながら、「外国人」と一概にまとめることはできない。出身国/地域により、育った環境も文化も様々であろう。とはいえ、グローバル人材たちも決して自国の価値観が第一だとは考えていない。あくまでも“両者の対話”が必要だということだ。
また、これは決してグローバル人材だけに当てはまることではない。国籍や出自を問わず、全従業員と向き合い、問題があれば一つひとつ手を取り合い乗り越えていく姿勢が、スタートアップでも当然求められるのだろう。
「もっと早く取り組むべきだった」。
明日から英語化に踏み出すための第一歩
ここまでの話で、グローバル人材の採用や受け入れ体制について、以前よりは理解が深まったという読者もいるはず。だがそれでもやはり、英語というハードルの高さに一歩目が踏み出せない人も多いだろう。
伊藤グローバル人材の採用や受け入れ体制について視聴者も理解が進んだと思います。ここであえてお二人にお伺いしますが、今までの取り組みを振り返ってみて「もっと早く英語化に取り組むべきだった」と感じますか?
立石「もっと早く取り組むべきだった」と断言できますね(笑)。
英語化を始めた時は不安でしたが、社員は思ったよりポジティブに取り組んでくれましたし、日本人エンジニアに対してもアトラクトポイントにもなりました。
一方、組織の拡大に伴いMTGなどで本当に英語でしっかりとした意思疎通ができているか怪しい場面も散見されるのが実情です。そこは根気強さと柔軟性が必要で、英語を公用語化した後でも、適宜日本語も織り交ぜていく形がいいかなと考えています。
汾陽早いに越したことはありませんね。うちでも、もっと早くやっておけばよかったと思います。3年くらいの時間をかけてじっくり失敗を積み重ねて進めるものですし、早く英語化していれば他の会社に対してもっと大きなアドバンテージを得ることができたとも思います。
最大の利点は、本当にエンジニア採用がスムーズになったことですね(笑)。やって損したことはほとんどありません。これからは国内の人口減少にさらに拍車がかかる時代。エンジニアに限らず人材不足は進み、どの企業もグローバル人材と手を取り合っていくことになるはず。それに伴い人材の獲得競争も激化していきますから、競争力をつけると言う意味でも、もしご興味があればいち早くスタートを切られることをお薦めします。
国内エンジニアの採用競争が激化する中、いち早くグローバル化に舵を切った企業が成功を収めている。「自分の会社には関係のないこと」と一掃せず、まずは簡単にできることから始めてみることが将来の飛躍に向けた大きな種まきとなる。
また単に“英語化”といっても、社内のすべての場面で完全に英語が使われなければならないわけではない。センシティブな対応が必要な場面では、日本語を活用する柔軟性も求められるということだ。
最後に、エンジニア採用に悩む経営者・採用責任者向けに「ぜひ気軽に一度相談してほしい」と登壇した3名は語った。社内公用語の英語化をサポートするスピークバディのサービスを紹介していただいた。
立石スピークバディでは社内公用語の英語化をサポートするサービスを提供しています。幅広い社員の方にご利用いただけるのが『AI英会話スピークバディ』で、一部の社員の方の英語力を伸ばすなら『スピークバディ パーソナルコーチング』をお薦めしています。
ライザップやプログリッドのように短期集中型で、優秀な講師が揃っていることとオンラインのため安価であることが特徴です。自社や他社様の経験を活かして、グローバリゼーションパートナーとしてグローバル化の支援もさせていただいておりますので、ぜひ一度気軽にご相談ください。
汾陽HENNGEでは引き続き国内・グローバル問わずエンジニア採用を進めていますので、今回お話しした英語での開発に興味がある方はぜひお声がけください。また、プライベートでいろいろな会社の英語化のお手伝いをしてきたので、グローバル化を推進されたい方のご相談にも乗れるかと思います。
伊藤スローガンはもともとビジネス職の採用支援に強いのですが、エンジニア採用支援にも力を入れているところです。エンジニアの採用についても何かお悩み事がございましたらぜひご連絡ください。
こちらの記事は2022年06月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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