サマーインターンをあえて廃止、カルチャーフィットのために──採用は「みんなやってるから」でうまくいかない。コロナ時代に活きる“そもそも”戦略
Sponsoredリクルートスーツに身を包んだ学生たちが、合同説明会や企業説明会に押し寄せる──そんな光景は、もはや過去のものになりつつある。
世界中で猛威を振るう、新型コロナウイルス感染症。その感染防止のため、2020年には、多くの企業が新卒採用活動のオンライン化を強いられることになった。
ただし、コロナ禍における新卒採用のベストプラクティスは、いまだ不透明だ。オンライン完結で内定まで走り抜ける企業もいる一方で、オンラインでの採用活動に限界を感じ、オフライン面接を再開した企業も見られる。
この不確実性の高い状況を切り抜けるための手がかりを得るべく、二人のゲストを招いた。スローガン代表取締役として、学生向けキャリア支援サービス『Goodfind』などを通じて、ベンチャー・スタートアップを中心に多くの企業の新卒採用を支援してきた伊藤豊。そして、サマーインターン廃止、面接は90分、正社員の7割が稼働……ユニークな新卒採用活動を繰り広げる、クレジットテック市場のパイオニア企業・ネットプロテクションズの採用責任者を務める赤木俊介氏だ。
支援者 / プレイヤーとして第一線を走り続ける二人に、新卒採用市場の現在地と未来を語り合ってもらった。
- TEXT BY MASAKI KOIKE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
“オンライン映え”する人が高評価になりやすい
2020年4月に緊急事態宣言が発令されてから、半年以上が経ちました。社会のあらゆる領域でオンライン化が進む一方、少しずつ、オフラインへの揺り戻しも起きているようにも見えます。そんな2020年11月現在、新卒採用市場はどのような状況なのでしょうか?
伊藤たしかに、初対面時や最終面接時など、部分的に対面接触を復活させているケースも見られますね。ただ、全体的には、面接やインターンシップのオンライン化が引き続き進んでいる印象です。スローガンも感染リスクを最小限に抑えるため、『Goodfind』主催のイベントと自社採用の双方に関して、基本的に全てオンライン完結としています。
仮に感染が収束しても、完全にコロナ禍以前の状況に戻ることはないと見ています。学生さんと企業の双方にとって、オンライン化がもたらすメリットが大きいからです。学生さんは移動にかかる時間や労力を節約できますし、地方と首都圏の情報格差も縮まりました。企業も細切れの時間を活用して、より多くの社員との接点を用意できるようになった。
企業はこうしたオンラインならではのアップサイドを積極的に追究するスタンスでいないと、競争に乗り遅れてしまうのではないでしょうか。その点、小回りが利いて変化しやすいベンチャー・スタートアップにとっては、採用におけるいいチャンスが来ているともいえるでしょう。
その一方で、オンラインならではの難しさもありますよね?
伊藤もちろんです。まず、学生さんの企業に対するロイヤルティが低くなりがちな印象があります。一度も社員に対面で会わず、オフィスにも訪れずに内定をもらっても、自分がその会社で働くことに対してリアリティを感じづらいですし、企業に対して「採用活動でお世話になった」感覚も湧かない。そのため、内定を辞退する学生さんの割合が、増えていると思います。
また、企業にとって面接の難易度が上がっているという声も、至るところで聞きます。企業は面接で、アトラクトとジャッジ、すなわち自社の魅力のアピールと、学生さんの見極めを行っています。オンライン面接では、オフィスや社員の雰囲気といった非言語的な情報を訴求できないため、どうしてもアトラクトを手厚くせざるを得ない。結果として、ジャッジが不十分になってしまうんです。
赤木言葉として表出してこない内側の思考が見られないのは、難しいと感じています。対面であれば、たとえば手元に書いているメモを見て「何か考えているな」「筋がいいな」と判断できます。しかし、オンラインだと、発言がないだけで「この人は考えていないのではないか」といった印象を抱いてしまいやすい。結果として、自己アピールがうまい人ばかりが高評価に捉えられてしまい、ダイバーシティが下がってしまうことを懸念しています。
伊藤“オンライン映え”する人が、よく見えてしまいがちですよね。だからこそ、インターンプログラムにおいて、グループワークだけではなく1on1による深掘りの重要性が高まっていると思います。対面での採用活動のとき以上に、踏み込んだコミュニケーションを取る必要があるでしょう。
採用マーケティングをしないのは、“心のベクトル”を見るため
赤木ただ、ジャッジはともかく、アトラクトに関してはもとから重視していないので、大きな問題は感じていません。ネットプロテクションズは、「とにかく情報をフル開示して、フィットすると感じてくれた方に選んでもらえればいい」という方針で採用を進めていまして。学生さんとお話しする社員が事業・組織について包み隠さず話してくれれば、自ずと企業としての全体観も伝わると思っているので、オンラインになっても大きな影響はないですね。
伊藤ネットプロテクションズとは10年以上前からの付き合いですが、とにかくユニークなかたちで採用活動に取り組んでいますよね。一般的な企業と、同じ土俵で戦っていない印象を受けます。採用マーケティング的な発想で、競合環境を踏まえてアトラクトの方法を考え、候補者を獲得していくスタイルは取っていない。
赤木たしかに、土俵が違う感覚はありますね。複数社が集まる採用イベントに行くと、たまに他社の採用担当の方から「この学生さん、ネットプロテクションズっぽいですよね」と言われます(笑)。
伊藤わかります(笑)。後払い決済に興味があるかどうかというより、ものごとや社会に向き合うスタンスに、「ネットプロテクションズっぽさ」というものが出来上がっている。
赤木「ネットプロテクションズっぽさ」は、企業理念にある「7つのビジョン」や「5つの価値観」に集約はされるのですが、簡潔に言語化してみると次のようにまとめられるのかなと思います。
世間では当たり前と言われることに疑問を持ってしまう、生きづらいのかもしれないけれど、自分で納得解を見つけるまで考えてしまう。そして、その納得解には青臭い理想が混じっている、合理性で判断すると切り捨ててしまうような高潔さを求めてしまう。そんな人には、「ネットプロテクションズっぽさ」を感じてしまいますね。
ネットプロテクションズ「7つのビジョン」
歪みがない事業・関係性をつくる |
みんなで会社をつくる |
わくわく感を大切にする |
すべてのステークホルダーと真摯に向き合う |
違いこそを組織の力に変える |
志を尊重する |
厳しく求め、支え合う |
ネットプロテクションズ「5つの価値観」
本質を考える |
力を合わせる |
最高にこだわる |
誠実に向き合う |
自分を磨く |
伊藤スキルセットや業界が求める志向性などではなく、もっと根幹の人格的な面を見て採用を進めてきたので、そうした“らしさ”が形成されているのではないでしょうか。
赤木そうですね。世の中に対して描いているビジョンや、ものごとに取り組んでいくうえでの美学など、“心”の面を見ていくことを大切にしています。昨今はクリティカル・シンキングやイノベーション創出が重視されていますが、であればなおさら、心のベクトルが合っていることが大切だと思うんです。「イノベーション」と捉えているものの方向性が真逆だったりすると、組織が壊れてしまいますから。
赤木だからこそ、できるだけ情報を開示し、お互いのベクトルをしっかり見定められるよう心がけています。そのほうが、学生さんと企業、双方にとって幸せじゃないですか。
そのための情報をさらにはっきりと発信する取り組みも始めました。採用ブログに、新たなコンテンツ群として「シリーズ:飾らぬ採用」という連載を追加しています。1本目の記事では、新卒採用のリーダーが「求める人材要件」を解説しました。他の企業があまり発信しないような採用戦略や選考基準、事業構想を詳しくお届けしていきます。
「みんなやっている」サマーインターンをあえて廃止した理由
“心のベクトル”を見ていくため、これまで他にも採用施策を打ってきたのですか?
赤木そうですね……まず、直近の話でいえば、2020年は毎年開催していたサマーインターンを廃止しました。多くの企業がインターンを実施するようになったことで、「就職活動に有利だから」という目的だけで参加する人が増え、主体的に挑戦するスタンスの人が減ってしまった感覚があるからです。そうした受動的なスタンスの人は、このままの成長機会の提供では、どうなっていきたいのかを見極めることが難しいと思い、中止を決めました。
代わりに、ネットプロテクションズの特徴である「ティール組織」や「クレジットテック」を題材に、社会そのものを考察するプログラム「NP Reeder」をスタートしました。採用を念頭に説明をするのではなく、採用とは一見関係なさそうなものにしています。ネットプロテクションズが求めている、“そもそも論”を考えることが好きなタイプの人に、社会に対する理解を能動的に深めてもらう機会を提供したかったんです。
伊藤企業がインターンを実施するのが当たり前になり、そこまで意欲的・主体的ではない学生も焦って大挙するようになっているのは事実でしょう。そのことをいち早く察知し、別のアプローチで自分たちと合いそうな学生に接触しようとしているということですね。
例年インターン経由でいい人が採れている中で、中止するという意思決定はなかなか難しかったと思います。立ち止まって“そもそも”を考えるネットプロテクションズらしい、ユニークな取り組みですね。
赤木一回の面接に必ず90分という長い時間をかけるのも、特徴的だと思います。ネットプロテクションズは、若手であってもプロジェクトリーダーとして、自分で意思決定をしてもらうカルチャーがある会社です。裁量権を与えるからこそ、“心のベクトル”が合っているかどうかが、きわめて重要になる。根本的な価値観がフィットしない人を採用し、大きな裁量権を与えてしまうと、全体に与える悪影響が大きくなってしまいますから。
そのため、しっかりと時間をかけ、学生が用意してきた回答以上の内容を深掘りしているんです。90分でも足りないと感じることが多く、もっと長くしたいくらい(笑)。
伊藤一般的な採用面接に比べて、かなり長いですよね。大手だと15分程度の面接も多いでしょうし、30分程度で切り上げる会社も多い中、かなりのこだわりがないと取れないスタイルだと思います。
赤木それだけでなく、面接や説明会に、正社員の7割以上に稼働してもらっています。採用時にじっくりと深掘りをしたおかげで、社員の価値観が揃っているので、誰にでも出て行ってもらえるんですよ。
伊藤7割以上は、かなりすごいですね。アトラクトに力を入れている会社だと、採用に出せる社員を厳選していて、多くても2〜3割の社員しか出していないところも多いですから。
昨今では、ベンチャー・スタートアップにおいても、スキルや経歴重視の採用活動が組織崩壊を招いた反省から、カルチャーフィットを謳って採用を進める企業も少なくありません。でも、「とりあえずバリューに共感できたら」といったレベルでしか実行できていない企業も多い。ネットプロテクションズのように、じっくりと時間をかけて価値観を深掘りできている企業は稀でしょう。
ネットプロテクションズは、10年ほど前に、スキル重視の採用による組織崩壊を経験しています。そこから長い時間をかけて、採用方針を磨き上げてきた賜物だと思います。
学生は企業の情報を知りすぎている──昨今の新卒採用市場に抱く危機感
ネットプロテクションズがユニークな採用活動に取り組んでいる背景には、昨今の採用市場に対する、どのような問題意識があるのでしょう?
赤木これは「NP Reeder」を始めた理由でもあるのですが、昨今の学生さんは、会社についての情報を知りすぎてしまっていると思うんです。採用市場に多くの情報が出回るようになり、個々の会社には詳しくなっている。一方で、「なぜその企業が求められているのか」といった社会背景の理解が進んでいない。
コロナ禍に際して、オンラインで会社説明を聞けるようになって、この傾向はますます加速したと思います。もともとはどんなに頑張っても、一日に3〜4社回るのが限界でした。でも、オンライン化して空間的な制約がなくなると、より多くの説明会に参加できるようになりますから。こうして情報過多になった結果、学生さんが自分の頭で「仕事に対する価値観」などについて考えられなくなってしまうことを懸念しています。
伊藤たしかに、採用のオンライン化に伴い、学生が会社説明を聞く機会は格段に増えましたよね。でも、それは会社視点の情報だけを、断片的に寄せ集めることにもなりかねない。
僕もずっと同じ問題意識を抱いていて、だからこそ『Goodfind』では企業に、会社説明ではなく、何かしらの学びになるセミナーを実施してもらうようにしているんです。10年前から、あえて学生に私服で来てもらうようにしているのも、新卒採用の世界に変革を起こしたい想いの表れです。
最後に、今後の新卒採用市場はどう変わっていくべきか、展望をお聞かせください。
伊藤終身雇用や年功序列の崩壊、メンバーシップ型からジョブ型へのシフトといった社会のうねりが起こっているのは疑いようのない事実です。それに伴い、学生と企業の間での情報格差が、どんどんなくなってきている。すると、ブランドではなくしっかりと中身を見て、自分に合っているかを確認しながら、働く会社を探していく必要が出てきます。
こうした変化を踏まえて、既存の就職活動における慣習を、健全に壊していきたいです。ネットプロテクションズの採用活動を「理想にすぎない」「特殊な例だ」と切り捨てるのは簡単ですし、誰にも真似できるようなものではありませんが、今後はこうした方向性に行かないと生き残れない時代になるでしょう。
赤木さまざまな会社が「●●っぽい」というカラーを育んでいけるといいですよね。たまに、能力的にはすごく優秀だけれど、ネットプロテクションズには合っていない学生さんがいるときに、紹介先に迷ってしまうことがあります。自信を持って「あなたは●●っぽいね」と言える会社が増えると、人材の最適配置が進んでいき、学生さんと企業の双方にとって、よりよい世界になっていくのではないでしょうか。僕らネットプロテクションズも、フィットする学生の皆さんに迷いなく選んでもらえるように、より強固なカルチャーを磨き上げていきます。
こちらの記事は2020年11月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
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藤田 慎一郎
特別連載信用経済社会におけるプラットフォーマー ネットプロテクションズ
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