常に“インパクトベース”で考えよ──ラクスル福島・Chatwork福田と考える、「これからのBizDev」
BizDevの認知は上がってきた、だが、やはり深くは浸透していない──。
そんな課題意識からFastGrowは2023年2月、ラクスル・Chatworkという2大上場ベンチャー企業とともに、オンラインイベントを開催した。題して、「これからのBizDev──新規事業の進め方と、経営人材の育成手法」。両社の事業成長だけでなく、日本経済全体の成長や発展まで見越した視座の高い議論が繰り広げられた。
この記事は前編として、パネルトークの第一部の、ラクスル上級執行役員COO / SVP of Raksulの福島広造氏と、 Chatwork取締役COOの福田升二氏による対談をお届けしたい。
イベント開始直前まで、裏側でSaaS談義を楽しんでいたこの二人。登壇時に共通して語ったのは、「アウトプットでしか評価されない」「採用も育成も難しい」ということ。具体的にはどういうことなのだろうか?さっそく読み解いていこう。
【後編はこちら】
BizDevは、事業責任者ではない。
「価値創出」に特化したロールだ
──まずは大前提として、BizDevという職種の認識やそれをとりまく昨今のトレンドについて、お二人の意見を教えてください。
福島FastGrowで初めてBizDevをテーマとしたミートアップを開催したのが2019年でした(当時のイベントレポートはこちら)。その時期と比べるとかなり認知が広まって市民権を得たと感じます。
UXデザイナーやデータアナリストなど、新たな付加価値が生まれるのと同時に職種が生まれるパターンですね。
今問われているのは、「BizDevの先に何があるのか?」でしょうね。おそらくそれはCxOになると思うので、ラクスル社内外でいかに事業経営者を増やしていくかが私自身のチャレンジです。
福田ベンチャーにとってBizDevは必要不可欠なので、キャリアの選択肢としてベンチャーが良い意味でコモディティ化してきたことによってBizDevも認知されてきたのかなと思います。
ただ、「事業開発をしたい!」と言う人は多いですが、事業開発もM&Aも、会社の成長のための手段でしかなくて、個人的にはそこまで崇高なものとして捉えていません。
また、BizDevとしてのケイパビリティの定義がしにくく、領域やフェーズによっても適性がそれぞれ違います。総合格闘技のような感じで、漠然と目指すのはやや難度が高いはずです。
──難度はやはり高いと思いますが、その前提の上で、BizDevとして成果を残していくために考えなければならないのはどういったことになりそうでしょうか?
福田だからこそ、自分の強み・ケイパビリティを認識することは大切だと思います。それが活きる形で事業開発をやっている会社を選んだ方がいいし、構造や領域に共通点を見出して、自分に合ったプロジェクトを選ぶことがポイントになると思います。
福島ケイパビリティを定義しづらい、というのはすごく共感できます。ほとんどの職種は機能やスキルを軸に考えられていますが、BizDevはそうではありません。まさに総合格闘技で、いかにプロジェクトをマネージして結果を出すかというアウトプットやインパクトベースのキャリアであり、ロールなんです。
現状はまだ解像度が上がっていない人が多いので、どうしてもスキル軸で考えて「何を学べばBizDevになれるか?」という感じになっています。たいていの職種は、スキル軸で捉えますから、しょうがないのですが、そうじゃないキャリアなんだということを伝えたいですね。勉強してスキルを積み上げれば良いという話ではないんです。
課題を設定して、チームでアウトプットを生み出して初めて認められるというのが、難しい点であり、面白い点でもあります。まずは機能ベースからアウトプットベースあるいはインパクトベースへと価値観を転換させることが大事ですね。
あと、たまにあるのが「事業責任者になりたいのでBizDevをやりたい」とか「P/L責任を持ちたいのでBizDevをやりたいです」とかいうケースです。しかし、そういうポジションで求められる事業や組織のマネジメントともまた少し違うと考えています。マネジメント力やリーダーシップは、大企業でもスタートアップでも同様に求められるような一般的なものです。BizDevはそれとは異なり、「この世界に新しい価値を生み出すこと」を指すと考えています。
組織をまとめたいのか、大きな事業の責任を持ちたいのか、新しい価値を生み出したいのか、などを切り分けて考えた上で、新しい価値の創出に志向がある方がBizDevに向いていると思います。
福田BizDevをやりたいという人は茨の道に飛び込んでいるようなイメージがあります。福島さんの言う通り、まさしくアウトプットでしか評価しづらいので、比較的Up or Outの色が強い職種かと思います。
多くの人が外から見ているほどキレイなものではないと思いますね。
福島でもその上で強調したいのは、「どんなフェーズのどんな事業でも伸ばせる」という人はいないはず。自分の得意なことを見極めて、自分がいかに価値を生み出すかにこだわり続けることが求められますね。何の事業でもどのフェーズでも伸ばせるという人はいませんからね。これを面接で見極めるのは難しいんですけどね(笑)。
“3周目”に早く行き着く環境に、身を置くべし
──ここまでで確認したような定義、あるいは期待役割のもと、ChatworkさんとラクスルさんではBizDev人材を輩出しようとしていると思います。実際の採用や育成はどのように取り組んでいますか?
福田先ほど、開始前に裏で福島さんから「ChatworkさんではBizDevっていらないんじゃないか?」と言っていただきました(笑)。なぜかといえば、それはChatworkの事業がマーケットイン的なスタイルをとっているからだと考えます。
『Chatwork』のプロダクトが最初にできた頃を思い出すと、LINEさえ生まれる前で、まわりからは「うまくいくわけがない」といわれていましたが、粘り強く取り組んできて一定の成功を得ることができました。一見、プロダクトアウト的ではありますが、背景について時代のトレンドから分析するなら、マーケットを捉えることができていたと言えるのではないかと思うんです。
今後、Chatworkで挑戦していくのは、さらに洗練させたマーケットイン的・戦略的アプローチの新規事業です。例えば、「すでに市場で一定程度認められているエンタープライズ向けの事業を、サイズダウンさせて新たに事業化する」というように、世の中の事例からアナロジーで考えることが多くなります。
つまり実は、ものすごいインキュベーション力が必要な事業を生み出していくぞ、と言っているわけじゃないんです。戦略がシンプルな分、その後の改善につながるFBが得られやすいんですね。
福島ラクスルのBizDev人材は、4~5年前は5人くらいでしたが、今は数倍規模に拡大しています。ですがまだまだ足りず、今後、全社で売上1,000億円を突破するために、50人は必要だと考えています。会社としては積極的に育て、組織を拡大したいところです。
ただ、福田さんや岡田さんのように適性のある人材の絶対数がそもそも多くなく、いたとしても既に事業の柱として活躍されている方ばかりで採用はかなり難しいので、育成をメインで進めていくんだという必要性と覚悟感を持っています。
育成においては、とりあえず3周やってみるということを大切にしています。1周目はとにかく経験、2周目は前回のFBを活かして修正して、3周目くらいからようやくちゃんと成果が出始める。ここで初めて、自分の得意な領域やフェーズがわかってくるものだと思っています。
だからこそ、ラクスルではどれだけ早く3周してフルインパクトを出せるようになるかを意識して制度を設計しています。1~2周目は事業ポートフォリオの観点からチャレンジをコントロールして、成功確度の高さをそこまで求めないようにしています。いわば、事業ポートフォリオよりも人材ポートフォリオを重視しているということですね。
──福田さん、頷きながらお聞きしていたと思いますが、共感する部分も多いですか?
福田そうですね、Chatworkでも近い部分があります。
BizDevというのは、企画までは割とスムーズに進むんですが、そこからお客様に受け入れてもらって「価値」を創出するまでが大変です。特に、お客様を探して連れてくるフェーズが最も大変な印象を持っています。
でも、Chatworkの場合は既にかなり多くの中小企業のお客様が母集団として存在しているので、大変なフェーズをショートカットできて、福島さんがおっしゃったような周回のサイクルを早く回せます。
成功を構造的に捉えることは難しいですが、失敗はその原因を合理的に特定することが比較的容易です。だからこそ周回サイクルを早く回して、場数を踏めるようにすることが一番だと思います。その中で偶然うまくいく人もいれば、うまくいかない人もいるわけですね。
「数百億円規模の事業を立ち上げてくれ」というよりは、「一つひとつはそこまで大きくなくてもいいので、良い事業をたくさん生み出していこう」というのがChatworkのBizDevのスタイルですね。
「人材輩出企業になる」というくらいの気概を
──中長期の成長計画を達成していくために、なぜBizDevを採用・育成していこうと考えているのか、その背景について、ラクスルさんとChatworkさんのお考えをお聞きできますか?
福島日本においては事業の成功/失敗を云々言う以前に、チャレンジの機会自体がまだまだ多くないと思っています。一方で、その機会さえあれば成長していけるハイポテンシャルな人が非常に多いはず。
だから、ラクスルでは機会提供に力を入れていきます。ラクスルにいる人にとってもハッピーだし、機会をたくさんつくれる事業ポートフォリオを持つことがラクスルの優位性にもつながると考えています。確率よりも、まずは打席数をイメージしていますね。
私自身、この考え方で5年ほど取り組んできて、この2年くらいの間にラクスル出身でCxOになった方が6-7名くらいいるんです。そういった形で、日本の産業全体にも貢献していきたいですね。
福田会社の目指すところや戦略は外部にも明確に打ち出していて、それを実現していく人材の採用・育成をしていきます。ただ福島さんがおっしゃったように、カギは特に、事業開発(BizDev)人材に対する機会提供ですね。
ChatworkはSMB向けにスーパーアプリを実現させようとしているので、たくさんの事業責任者やプチCxOのような存在がたくさん必要になるんです。そこに向けて、事業開発(BizDev)人材の育成は戦略上マストですね。
数年後には「Chatwork出身の人が欲しい」と引き抜かれるくらいの人材輩出企業になっていたい。中途だけではなく新卒にも力を入れて、しっかり機会提供することを愚直にやっていきます。
──ここで一つ、視聴者の方からの質問にお答えいただければと思います。「お話を伺っていると、やはりある程度リソースがあり新規事業開発の余白のある企業であれば事業開発の経験を社内に提供させやすいのかと思いました。質問ですが、貴社の事業開発とアーリーフェーズスタートアップで0からの事業開発とでは得られる経験にどのような違いがあるのでしょうか?事業開発経験を得たい方々が、アーリーフェーズのスタートアップに今後流れるのではと思いまして」とのことです。
福田難しい話で、プロコン(Pros & Cons)ありますよね。まず、Chatworkではマーケットイン的な事業開発をしており、ある程度構造化されているので再現性があります。そして、リソースが担保された状態で進めていけるので、FBを得やすいとは思います。
一方でアーリーフェーズでは、資金・人員のリソース、あるいは一人ひとりのケイパビリティが比較的乏しいはずです。そんな中で数周すること自体が難しいですから、意味のあるFBを得続けるのは難しいかもしれませんね。しかし、一発当てるとインパクトが大きい。なので、何を求めるかですね。
福島リソースやキャッシュがあってもできないという会社も多いです。なので、「そもそもの会社としてのスタンス」が一番重要です。
ラクスルではグロースのフェーズにある事業も抱えているので、アーリーフェーズの事業開発でも自然と、次のフェーズを前提にしたり、参考にしたりしながら進められます。結局のところ、立ち上げを超えてグロースのフェーズに進まないと意味がありません。ここまで見えているかどうかによってアーリーフェーズでのアプローチも大きく変わってくるんです。
ラクスルのような環境では、そこを意識できるので、これが大きな強みかと思います。
──もう1つ、「成長機会のために打席に立つのは良いが、事業の見極めが出来ず、ズルズル売上が上がらず続いてしまうリスクがあると思います。事業の継続判断はどのようにやられているのでしょうか?明確な撤退基準などは使っているのでしょうか?」といただいています、いかがでしょうか?
福島事業家の心が折れた時と、停滞している時ですかね。逆に、結果が出ていなくても、チャレンジしたいという気持ちが残っていて、仮説が進化しているなら中止することはありません。
福田規模感によって異なる部分もありますが、福島さんのおっしゃったこととほとんど同じです。一番は気持ちの部分で、そこが伴わなくなっていくと、グロースしないサイクルにはまってしまうことになるので、そうなると撤退ですね。
うまく構造的に捉えて進捗できているものを終わらせることはないですね。初期仮説がミートしているか、ミートしていなくてもしっかりピボットできているか、そうした部分がポイントです。
超大企業だと売上が5,000万円の新規事業ならやる意味がないよね、となってしまうこともありますが、まだChatworkはそのフェーズではないですね。
2人の掛け合いが速いテンポで進み、濃い議論が続いた第一部。あっという間に予定の30分が過ぎ、超過してしまった。
もちろん、ほかにも多くの質問が出た。後編の記事に、福島氏・福田氏の質疑応答も収録しているので、ぜひ合わせてお読みいただきたい。
更なる急成長フェーズ、Chatworkの採用情報はこちら
こちらの記事は2023年02月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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