ユーザベース成長の立役者が語る、“事業家の仕事術”──BizDevは「自分が去るときに自立できる組織」を作れ
Sponsored近年、スタートアップ界隈で「BizDev」という職種を目にする機会は増えた。特に活発なのが、ビジネスモデルを確立した上場企業や、レイターステージのスタートアップ。さらに会社を成長させるため、既存事業からの「横展開」を目指し、新規事業の開発にも熱心になっている。
ラクスル株式会社も、BizDev人材を育成する企業のひとつ。取締役の福島広造氏が「再現性高く、成長事業を開発ができる人材を増やしていきたい」と語るように、事業開発をおこなえる人材の育成、発掘が急務なようだ。
参考記事:「事業家」としての生き方を知る──今求められるスタートアップ×BizDevのキャリア
そんな課題感を背景に、6月18日、ラクスルが主催を務めたイベント「Startup BizDev Meetup」が開催された。第3回となる今回は、株式会社ニューズピックス代表取締役社長COOの坂本大典氏や、スタートアップでBizDevを担う若手人材が集結。テーマごとに2部にトークを分け、BizDevの役割を問い直すとともに、いまだ確立されていないBizDev人材の育成方法に焦点が当てられた。
- TEXT BY MONTARO HANZO
「事業作り」だけがBizDevの仕事ではない
第1部はラクスル取締役COO、福島広造氏のモデレートで、ニューズピックス代表取締役社長COO、坂本大典氏の「BizDev論」が語られた。
坂本氏は、インターン生としてユーザベースの立ち上げに参画。新卒で外資系コンサルティング会社に入社するも、ベンチャーでのチャレンジングな環境を望み、株式会社ユーザベースへ出戻りした経歴を持つ。
その後、ユーザベースが提供する企業・業界情報分析プラットフォーム「SPEEDA」の商品企画、顧客対応、営業などのあらゆる業務を担当。2013年には「NewsPicks」立ち上げの中心人物として事業を牽引し、上場の功労者となり、2017年4月には取締役に就任(現在、代表取締役社長COO)した。 坂本氏のキャリアについては、以下の記事に詳しい。
参考記事:意思決定を他人に任せない。創業期のユーザベースで学んだこと【NewsPicks取締役・坂本大典氏】
創業期ベンチャーの新規事業立ち上げを経験してきた坂本氏にとって、「BizDev」に必要な素養とは何か。坂本氏は「BizDevの能力は、どの職種でも養うことができる」と前置きした上で、持論を展開する。
坂本BizDevの役割を聞かれたとき、「顕在化していない価値にアプローチし、事業へと昇華させること」と答えるひとがいますが、それだけでは不十分です。私は、自らが作り上げた事業を永続させるために、「引き継ぎ」まで責任を持って完遂することが、本来のBizDevの仕事だと思っています。
福島自分がいなくても、チームが機能する仕組みを作り上げることが必要だと。
坂本はい。BizDevの役割を一言で表すならば「事業の価値を最大化する」こと。組織のフェーズによって、自分が去るべきだと感じたならば、エゴを出さずに「引き継ぎ」に専心することが、BizDevには求められます。
例えば、私は昨年までNewsPicksの広告事業を担当していましたが、チームの拡大につれ、よりマネジメント能力に優れたリーダーが必要だと感じました。そこで、さまざまな会社のひとと話を進め、最終的にはTwitterの執行役員を勤めていた王子田克樹さんに後任をお願いしたんです。すると、これまでにないほど、組織がうまく回るようになりました。
自分が運営することに固執するのではなく、事業の価値を最大化するために、常に適切な後任者を探し続けることは、必要なスタンスだと感じています。
回りを巻き込んで、事業づくりを「3回転」経験せよ
BizDevを務める若手人材が集まったこのイベントでは「坂本氏のような会社躍進の“立役者”になるために、どのような経験を積めばいいのか」に議論の軸足は移っていった。
坂本特別な経験はいりません。私が考える、BizDevとしての成長に必要なのはただひとつ。事業の創出から引き継ぎまでを「3回転」経験することです。
私はSPEEDAのカスタマーサポート、提携先企業のデータ挿入、そして営業と、全く異なる領域のBizDevを経験するうちに、どんな事業が来ても回せる自信が付いていることに気づいたんです。
また、坂本氏はBizDevとしての成長を志向するうえで必要なことに「壁打ち相手を見つける」ことを挙げる。先述したように「自分がいなくても機能するチーム作り」を目指す必要があるBizDevでは、内省を深めることよりもむしろ、客観的な視点を取り入れることが肝要なようだ。
坂本大前提として、BizDevには自分が対処できる範囲は手を動かし、仮説検証を繰り返すことのできる「自走力」が必要不可欠です。また、自分ではどうすることもできない試練に直面したとき、上司や社外の信頼できるひとに「壁打ち相手」になってもらう「巻き込み力」も、自走力の一種だと思っています。
繰り返しになりますが、BizDevの役割は「事業の価値を最大化する」こと。自分がこなすことに固執せず、積極的に意見を求めることで、事業の成長を促すだけでなく、自分の視座を高めることにも繋がるでしょう。また、巻き込んでいける人数が多ければ多いほど、サービスの応援者が増えることになります。
もし悩んでいることがあったら、ぜひ上司に「壁打ち相手」になってもらうよう、話をしてみてください。
福島ラクスルも現在、若手のBizDevを育成しているところですが、悩みが生まれたらすぐに相談するようにと話しています。相談がなくなったら、自信を持って事業を回せている証拠ですね。
第1部の最後には、坂本氏から若手のBizDev人材に向けたメッセージが送られた。
坂本私がユーザベースで成果を出し、役員になれたのは「会社を成功させるまで絶対に辞めない」ことをミッションに据えていたのが大きいと思っています。自らの退路を断つことで、しんどい仕事に直面しても「どうすれば事業が成長させられるのか」と、常に前を向くことができました。
BizDevのみなさんも、自分がどこまでやりきるべきなのか「ミッション」を設定することで、迷いがなくなるのではないかと思っています。ミッションを強く持ち、事業を主体的に牽引できる人材が、これからの時代に輝くBizDevになれるのではないでしょうか。
会社の肩に乗り、新たな地平を目指す「BizDev」というキャリア選択
第2部のテーマは「急成長スタートアップの若手ミドル事業責任者と考えるBizDevの役割と魅力」。モデレーターにfreee株式会社で金融事業本部長を務める武地健太氏を迎え、領域の異なるスタートアップでBizDevとして活躍する若手人材とのディスカッションが行われた。
登壇したのはfreeeの花井一寛氏(写真左)、ユーザベースの山中祐輝氏(同中央)、ラクスルの高城雄大氏(同右)だ。坂本氏の言う「3回転」を今まさに実践している3人からは、自分自身への課題意識なども飛び出し、闊達に意見が交わされた。まずトピックとして挙がったのは、他職種からBizDevに移ってから変化したことだ。
山中BizDevになって変化したのは「時間軸」の捉え方ですね。BizDevになる前、私は営業のマネージャーを担当していたのですが、そのときに考えていたのは「今後3年」のトップラインを作るために、何ができるか。しかし、BizDevになってからは「5〜10年先」を考えるようになったんです。
高城時間軸に付け加えて、私が明確に変化したと思っているのは「思考の幅」ですね。BizDevになり、長い時間軸、かつ大きい予算の事業を任せてもらえるようになると、いち社員だったころには実現できなかった自由度の高い施策を実践できるようになります。職務への責任は大きくなりましたが、自分のアイデアを世の中で実現できる楽しさは、何事にも代えがたいと感じています。
若手BizDevが多く集まったこのイベントでは、これまで経験した「失敗」や、そこから学んだ知見も赤裸々に披露された。
高城僕自身、BizDevとして担当した始めのプロジェクトを2度、失敗させてしまったことがありました。しかし、それぞれの失敗で学びがあり、現在の自分にも活かされています。
1つ目の学びは「自分のエゴを出しすぎないこと」。初めて担当したプロジェクトでは、自分が張り切りすぎたこともあり、解像度の低い「仮説」を押し通し、現場を疲弊させてしまったんです。自分の夢や目指す世界に誇りを持つことは大事ですが、BizDevの任務は「事業の非連続成長の実現」。常に俯瞰した目線を持ち、ときには自分の意見を殺す瞬間も必要です。
2つ目の学びは「自分の能力に謙虚であること」。2度目に立ち上げたプロジェクトは、新規事業の立ち上げで、私が営業、カスタマーサポート、エンジニア…と現場の全ての仕事を担う必要があると思い込み、それをすべて一人でこなそうとした結果、十分な成果を出すことができずに、撤退してしまったんです。そもそも新規事業は不確定要素がたくさんありますから、「自分で何でもこなせる」と思わず、いろんな人を巻き込んでいくことが重要です。
山中弊社が提供しているSPEEDAは多くのアップデートを繰り返しているのですが、一度、1年間の準備期間を用意し、新しいツールを開発したことがありました。しかし、チームの熱量とは裏腹に、あまりユーザーに刺さらず、思ったほど使われなかったのです。
ここから得た学びとして、「出たとこ勝負は避ける」があります。長期間の準備を経ても、市場に出してみなければ、ユーザーが何を求めていたかわかりません。「完璧」を目指すよりも、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)をリリースし、細かいアップデートを繰り返したほうが、サービスは素早く洗練されていくのではないでしょうか。
花井同感です。頭のなかでは完璧な設計図ができていたとしても、必ずどこかに誤算が生じてきます。その誤算を受け止め、すばやく次のプロダクトに活かしていく図太さが求められますね。
また、イベントの最後には「起業家には味わえないBizDevならではの魅力」も議題に挙げられた。
花井BizDevの魅力は、会社のリソースを用いて自分のミッションを追求できること。起業するとお金も人脈もゼロからのスタートですが、会社では大きな規模の仕事を任せてもらえるのは特徴だと思います。もし、大きな市場でチャレンジングな仕事がしたいひとがいたら、起業家よりもBizDevが最短距離なのかもしれません。
近年登場した「BizDev」だが、前回のイベントレポートでも言及された通り、事業成長にとことんコミットすれば「なんでもあり」の職種。正解がないぶん、坂本氏が指摘した、主体的に仮説検証を繰り替える「自走心」が必要不可欠となる。
BizDevに対して「正解がないなかで施策を打たなければならない」不安を感じる人も多いかもしれないが、逆に言えば、主体的に動ける人材にとってはこれほど魅力的な職種もないはずだ。今後もBizDev人材が現れ、日本のスタートアップ界隈でさまざまな「BizDev論」が聞けるのを、楽しみにしたい。
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こちらの記事は2019年08月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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