ラクスルからCxOが続々誕生、その理由こそ「BizDev」にあり──COO福島が、“次世代のCxO輩出企業”への道筋を、ハコベルCEO狭間と共に語る

インタビュイー
福島 広造

ITコンサルティング会社を経て、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。企業変革/テクノロジー・アドバンテッジ領域を担当。2015年ラクスル株式会社へ入社。全社の取締役COO及びRaksul事業CEOを経て、現在はストラテジックアドバイザー。

狭間 健志
  • ハコベル株式会社 代表取締役社長CEO 

1985年生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了後、ベイン・アンド・カンパニーの東京オフィスに入社。多岐にわたる業界の日系・外資系クライアントを担当。2017年8月、ラクスル株式会社へ入社。執行役員ハコベル事業本部長などを経て、セイノーホールディングスとのジョイントベンチャーであるハコベル株式会社 代表取締役社長CEOを務める。

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時代を代表する企業には多くの優秀な人材が集まり、その後には次代を担う企業を創っていく。このような事業家人材を、「○○マフィア」と呼ぶような流れがあるのはご存知だろう。世界で一番有名なPaypalマフィアたちはLinkedIn、YouTube、Yelpを生み出した。今も話題に挙がらない日はないイーロン・マスク氏も、SpaceXを立ち上げ、TeslaやTwitterのグロースを担う。日本にもリクルートやエス・エム・エス、サイバーエージェントなどの出身者が起業してできた会社が多くある。

それらを超える存在になろうとしているのがラクスルだ。取締役COOである福島氏は、意図して「ラクスルマフィアが、BtoBの事業家として多く輩出される未来」を描いている。その鍵となるのが、「BizDev」なのだ。

ようやくここ1年ほどで、BizDevとは何か?という疑問はだいぶクリアになってきた日本のスタートアップ界隈。だが依然として、キャリアパスや成長論といった「具体的なBizDev観」を描くことができるビジネスパーソンは多くない。

では誰に語ってもらおうか、やはり福島氏だろう。ということで本記事では、「なぜラクスルから、経営人材が次々と輩出されていくのか」を徹底的に深掘りした。全スタートアップパーソンが知るべき、経営人材への成長論をここにまとめよう。

  • TEXT BY TOSHIYA ISOBE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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WhyからHowへ。BizDevに関する世間の認知の変化

福島BizDevに関する論点は、WhyからHowへと変化していますね。

「なぜBizDevが必要なのか」よりも、具体的なキャリアパスや、組織のつくり方、価値の出し方に関心が移った印象です。

まずはこうした福島氏の所感を基に、BizDevという職種の概観から話を進めていこう。

BizDevの存在が、FastGrowを読んでいるスタートアップパーソンには広く知れ渡っていると思う。実際、BizDevの認知拡大の中心人物ともいえる福島氏が、半ば感慨深げに語る。

福島「UXデザイナー」とか「データアナリスト」といった、ここ数年で新しく生まれた職種がありますよね?そのようなものの一つとして、BizDevも遜色ない認知を得られてきたと実感しています。

ラクスルでも少し前までは、採用面接のうちの多くの時間をBizDevそれ自体の説明に費やしていた。そこに大きな変化が生じている。BizDevに関する前提が擦り合った状態で会話ができるようになったという。

とはいえ、BizDevという職種は、職務領域が厳密に定まっているかというとそうではない。そんな状況をラクスルのBizDevを経て、今年8月、ハコベルのCEOに就任した狭間氏は「職務領域が曖昧な状態こそが良いことだ」と真剣な表情で語る。

狭間セールスやオペレーションマネージャーのような存在とは異なり、ジョブディスクリプションを具体的に書くことが難しいという、良い意味での曖昧さが、他職種とは一線を画す大きな特徴ですよね。

そんな存在を採用し、育成していかなければ、非連続的な事業成長を続けることは難しい。だから、認知が広がったことがまず、非常に喜ばしいですね。

これから事業をつくっていったり、非連続な成長を新たにかたちづくったりする必要のある企業では、特定機能のスペシャリティやマネジメント経験だけが必要になるわけではない。それよりも、事業の価値を最大化させていくため、目的意識を高く持ち、手段を固定せず、柔軟に戦って成果を創出し続けること。そういった仕事を求められるのが、BizDevなのである。

そんな曖昧なポジションであるBizDevは、ラクスルだけでなくスタートアップ全体で広がってきている(各企業の求人からの分析はこちらの記事を参照)。

福島氏もそんな広がりを歓迎しており、意外にもラクスルに新たな学びを還元させていると語る。

福島例えば10Xさんだと、事業領域は限られていますが、エンタープライズの顧客企業を対象に、ディープダイブして価値を出す動きをされていますよね。

メルカリさんだと、日本郵政さんとのアライアンスをすることで事業成長の大きなきっかけを新たにつくる動き方をしています。

こうした動きから我々が学ぶところも多いですね。「ラクスルのBizDevでもっとこう言うことができるんじゃないか」とよく考えています。

企業・事業特性やマーケットによって、BizDevの動き方は大きく異なる。狭間氏が話すように、「BizDevといえばこれ」というのがわかりづらいことこそが、BizDevらしさでもある。

正解のない状況の中で、価値を出し続けるための一手を打てるかどうかが重要である。一見不明確な役割に強い興味関心を抱き、他責思考になることなく思考し続ける。そんな存在だという認知が、じわりと広がってきているのだ。

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ラクスルにおけるBizDevは、経営者への登竜門

BizDevが市民権を得たのはわかった。そんな時代において、今や30人以上ものBizDevが在籍し、多種多様な活躍をしているラクスルにおける最新状況をここからは確認していこう。

福島ラクスルのBizDevを一言でいうと、「曖昧な状況を整理して括ることで、新たな価値を出す人」に集約されますね。

ラクスルの祖業である印刷事業において、もともとは商品開発のような職種に近い動きをしていました。それが徐々に変化・洗練され、業界や産業という大きな舞台で価値創出を行っています。

例えばノバセル事業ではADKマーケティング・ソリューションズと業務提携を、ハコベル事業ではセイノーホールディングスとジョイントベンチャーの設立をそれぞれ既に行ってきました。これらは10Xさんのような事例から学びを得て、エンタープライズ開拓のBizDev活動をしたような格好ですね。

ラクスルはデジタル化が進んでいない伝統的な産業・業界に、インターネットをはじめとしたテクノロジーを持ち込むことで、大きな変革を図る会社だ。

伝統的な産業の領域では、長く存在する会社が大きな影響力を持つことが多い。そういった会社の事業構造を深く理解し、ウィンウィンの関係を構築してタッグを組むことは、大きな変革を起こし続けるための有効な手段となりうる。

だから、それを最前線で担うBizDevは、あらゆる選択肢の中から非連続な価値を生み出す手を打てる存在でなくてはならない。

ラクスルの採用ページでは「数年後のあるべき姿を描き、その実現に向けてビジネスモデルを策定したり、必要な経営リソースを調達したりしながら、事業成長・変革をリードすることがミッション」と紹介される(採用ページからキャプチャして引用)

そして最近では、経営人材の育成という観点で大きな意味を持つようになっていると、福島氏は強調する。

福島今はBizDevとして価値を発揮してほしいというだけではなく、「CxOや事業経営者の登竜門」としてBizDevのポジションを位置付けています。いわば道場のようなものですね。

ずっとBizDevをやっていてほしいということではありません。もっと大きなチャレンジとして、事業を経営する存在になってほしい。それを当たり前にしていきます。そもそもそういうポテンシャルがないと採用には至りませんが(笑)。

実際に、3年ほど前にBizDevとなったメンバーたちの多くは、CxOになっているという事実がある。

新卒なら5年以内、中途なら3年以内にCxOになってもらうことが常に目指される。どう見てもハードな環境だが、事業家を目指す若手ビジネスパーソンにとってみれば最適な選択肢に思える。

そんなラクスルのBizDevの特徴が「『あなたのKPIは?』と聞かれて答えられない人がいないこと」だとこの2人は語る。責任感を強く持ち、誰よりもその事業に強くコミットし続ける立場になるのだ。言葉にしてしまうと「なんと当たり前のことを」と感じるかもしれないが、ラクスルでそれを続けるのは簡単なことではないはず。

福島BizDevは、非連続成長の持続という成果を100%求められます。事業成長の責任を持つので、変化点を生み出せるかどうかでしか評価されません。そのポジションで背負うべきミッションにどこまでも忠実であることが必要不可欠なわけです。

狭間ラクスルのBizDevが負う責任は、すべて「結果」で判断されます。なので、各々がどの指標を追っているのか回答できなかったり説明できなかったりする人はいません。

職位によって見ているレイヤーは異なるものの、自分がどんなミッションに対して貢献するべきか、全員がきっちりと理解しているはず。そういう意味で、純度の高い役割なんだと思いますね。

福島それと、付け加えるなら「しっかり失敗できる環境である」というのも大事ですね。明確なKPIを持っているからこそ、自分で失敗して、自分で改善していく。

打席に立ち、バットを振った上で、打てたか打てなかったかを自己責任ですべて確認する。変化点を生み出せたかどうか、常に意識していくのだ。これがBizDevの純度・強度の高さであり、事業の強さの秘訣だ。

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優秀な人の1周目より、凡庸な人の3周目が、BizDevとして大きな価値に

ここまで読んだあなたはBizDevの現状、そしてラクスルにおけるBizDevの概観は掴めてきたと思う。だが、本当にたった3年で経営人材になることができるのだろうか?そこでここからは、「成果」と「成長」をテーマに、福島氏、狭間氏から聞いた知見をシェアしたい。

BizDev組織をつくってきた福島氏に、BizDevとして成果を生み出すコツを聞くと「1周目よりも3周目」という回答を得た。

福島BizDevは、知識量ではなく経験量が積み上がることによって成長角度が大きく高まる、累積的価値が非常に大きなポジションです。

ものすごく優秀な人の1周目のチャレンジよりも、そこまで優秀ではないかもしれないけれどチャレンジは3周目という場合のほうが、うまくいくはずなんです。

だから、素早く積み上げることを意識してもらいたい。量を担保してほしい。その中でももちろん、一つひとつを本気でやり切る。強くコミットして素早く1周まわり、次に進めるかどうか。ここが極めて重要です。

素早く経験を積み上げられる動きはBizDevとして成果を出せる大きな要素だと言えそうだ。これに加え、心構えにも話が及んだ。

福島我々がBizDevに対してできることは機会提供です。打席は提供するし、相談をしてもらえればだいたいのことは応えるようにしています。

一方で、一つひとつへのやり切り、コミットしようとする心構えに関しては、外部から与えるのが難しいものだと思います。やり切りの強弱は明確に差分が出てくるところで、ここは環境ではなくとにかくその人次第。あとで獲得できる能力ではなく、心構えになります。

狭間こうした姿勢を当社では「オーナーシップ」と表現しています。それを見抜くのが採用活動のキモだと思います。

きちんとオーナーシップが発揮される環境づくりとして、お金やキャリアを含めた報酬できちんと応え、打席数・打席の質・打率を高めることに怠らず向き合っています。ラクスルを通じてメンバーの人生が変わったのか、他社では成し得なかったかもしれない成果を出し成長できたのか。そんなことをいつも考えていますね。

私はCEOとしてこれから、一人ひとりのオーナーシップを最大限に発揮してもらうために、役職をどんどん渡していきたいと思っています。

評価を気にする人、成功したいではなく失敗したくない人、価値を出さずに言い訳する人。こういった人はBizDevにとって重要なやり切りへの心構えに疑問符が残るというわけだ。

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打席数・打席の質・打率をすべて意識し、すべて高めよ

成長の話が続く。狭間氏は、BizDevの成果創出のためには「自身のさらなる成長しかない」と回答。そして成長は、「打席数・打席の質・打率という3要素の掛け合わせにこだわることが不可欠だ」と語る。ここまでの話で、打席のメタファーが何度か登場していることに気づいた読者もいると思うが、狭間氏が説く打席数・打席の質・打率の3要素について深掘りしていきたい。

打席数は、いかに試行回数があり、バットを振るかを指している。どんなに優秀と言われる人であっても、最初から成功できるわけではなく、試行し続けることが大切というわけだ。

次に打席の質とは、「絶対に負けられない戦い」に主要メンバーとして打席に立ち、緊張感・ひりひり感を持って勝負に向き合うことを意味している。加えて、その試合の難易度は自分の実力以上であることが望ましいという。

狭間例えば一個上のレイヤーが抜けている状態なんかがいいですね。メンバーレベルならマネージャーではなくて部長と直接、マネージャーなら役員や社長と直接対話するような状況に身を置くことが理想です。上がいるとどうしても自分も甘えてしまうし、上も少し厳しい状況になると手を差し伸べてしまいがちです。上がいないと自分が背伸びするしかなくなるので、それが望ましい状態ですね。

これは会社を選ぶときの具体的な指針として受け取れそうだ。

そして最後の打率は、成功確率のことを指している。成功と失敗から学びながら成功と失敗の方程式を構築することで、それを高めていくのだ。そのための環境として、ラクスルには魅力があるという。

狭間人が本当に反省し学ぶのは、やはり自分の失敗からだと思います。しかし、そんなバイアスを理解し他人の失敗をも自分ごととして捉え、自分の経営の筋肉にすることも重要です。

ラクスルでは失敗体験をきちんと言語化・共有する文化があるので、周りに経営者が5人いればそれだけ追体験できます。

狭間氏が常日頃実行していることは、他人の思考を「意思決定の採点」に使わせてもらうことだという。「このシチュエーションにおいてこういう意思決定をしました。福島さんだったらどうしていましたか?」といったかたちで、まわりの先輩や他の事業の経営者に相談するのだ。一つの事象から振り返るパターンを、自分の思考プロセスや言語以外から獲得することで、引き出しを増やしている。

ラクスルにはいくつもの事業やプロダクトがあり、産業や事業のフェーズはそれぞれ異なる。だがBtoBのプラットフォームという仕組みを伝統的な産業に取り入れる考え方は全事業で共通だ。

ハコベルの物流領域で直面している課題は、数年前に印刷領域でラクスルが直面した課題かもしれない。だからこそ、事業経営者ごとの会話は実りのあるものになる。こうした会話によって、さらに組織力を強くする効用も生まれている。

狭間経営者同士の会話を積み重ねていくと、思考が揃ってくるんですよ。背景知識や言語が近づくので、コミュニケーションコストが圧倒的に下がっていくことを実感しています。

福島切磋琢磨できる環境があることは大きいです。事業経営者が近くにいてディスカッションできる環境があるのは嬉しいことですね。

自身の事業に向き合っている隣には、別産業での課題に取り組んでいる経営者がいる。このような環境で目線の高い会話ができる環境は多くはない。CxOや事業部長に気軽に相談できるようなラクスルのグループとしての強さが垣間見える。

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次代の人材輩出企業へ、ラクスルはさらなるチャレンジのフェーズへ

福島氏は、経営人材の輩出をすることに野心を燃やしてきた。同氏が公開しているnoteでも「ラクスルを母体に事業家集団を創りたい!」と述べているように、人材輩出への高い志を持っている。そこにはどんな背景があるのだろうか。

福島事業責任者のような経営に近い役割に、未経験者をアサインするのは難しい。一方で経営人材の生み出し方というのはなかなかパスがなく、「鶏が先か卵が先か」で、正解はないのが現状だと思っています。

特定機能のスペシャリストを事業責任者にアサインした場合、やはり経営というレイヤーにおいてはうまくいかないケースも見られる。スタートアップはファウンダーがCEOであることがほとんどなので、経営者人材を育成する仕組みは整いにくく、人材プールへの供給源が極めて少ない。

福島日本の産業界における課題は、よく言われている「スタートアップが足りていないこと」だけではないと思います。それ以上に、「フェーズごとの経営者が揃っていないこと」が重要な課題としてこれからもっと深刻になっていく。

そんな時代にあって、得意を活かして経営していける人材を増やしていくためのヒントが、「ラクスルのBizDev」にはあると思います。

BizDevは経営へ上がる壁を越えやすい職種です。その壁を乗り越えていく経営者人材としてバリューを出せる人になってもらう。多様なフェーズを担って日本、世界を変えるプロの経営者をラクスルマフィアとして輩出していきたいと考えています。

起業家輩出企業、といえばリクルートやサイバーエージェントなどが思い浮かぶ。

福島時代をつくるような事業をしている企業は当然、その次の時代の人材輩出企業になっていきます。少し前の「インターネットサービスの時代」のそれが、リクルートやサイバーエージェント。

これからラクスルは、「BtoB・テクノロジープラットフォーム」の時代をつくり、圧倒的な人材輩出企業になっていきます。

ある一つの企業というのではなく、産業や国という単位を現実的に捉えて、変革を牽引するのがラクスルの視座の高さである。これからBizDev出身のCxOたちが手掛けていくチャレンジと未来に、さらなる刺激を受けること間違いなしだ。

こちらの記事は2022年12月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

磯部 俊哉

写真

藤田 慎一郎

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