スタートアップとして「若手の抜擢」にこだわり続ける──新卒採用を本格化させたLayerXの想い
「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに、法人支出管理サービスやFintech、AI・LLM事業を展開するLayerX。昨年、FastGrowで公開した代表の福島良典氏への連続インタビュー『デジタル社会実現のカギは、若い世代の“感性”──LayerXが「身の丈を超えた挑戦」の機会を提供するワケ』『LayerXが生み出すのは、事業を創る“人”たち──想像を超えた企業になるための経営論』では、「身の丈を超えた挑戦をする若い世代を抜擢し続ける」というLayerXのスタンスが明らかとなった。
「若い世代の“感性”が次世代のソフトウェア開発の要である」と考える同社は、若い世代を継続的に育成/抜擢していくため新卒採用を本格化。福島氏は「若い人にこそBtoBのスタートアップへの就職を勧めたい」と語る。では、そもそもスタートアップの魅力とは?そして、その中でもBtoBに目を向けるべき理由とは?
2024年2月に行われたFastGrow Conference2024では福島氏に加え、新卒採用責任者の一ノ宮翔氏を招いたセッションを実施。FastGrow編集長西川ジョニー雄介のファシリテートによる取材内容のさらなる深掘りにより、LayerXが抱く「若い世代への期待」がよりくっきりと浮かび上がる場となった。
- TEXT BY HARUKA TAKAGI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「スタートアップ×BtoB」の環境で、身の丈を超えた挑戦を
──2023年の取材(前編、後編)で福島さんは「スタートアップの世界にもっと若い人に飛び込んできてほしい。本来もっと人がいても良い場所だ」と話していましたよね。まずはその理由を、改めて教えてください。(西川、以下同じ)
福島理由は二つあります。
一つ目は「身の丈を超えた挑戦ができるから」です。私自身は学生起業でスタートアップを始めたのですが、営業力も開発力も何もないところからのスタートでした。全部自分でやるしかないという状況が、私を成長させてくれました。追い込まれると、すごいやる気が出て成長しますよね?私も学生時代、一番がんばれたのは留年がかかったテストでした(笑)。
スタートアップで働いていると、「私がなんとかしないと、この事業が終わってしまう。できるかどうかはわからないけど、やるしかない」という、身の丈を超えることを求められるシーンがたくさんあります。人は追い込まれた状況が一番成長すると思っていて、だからこそそういう経験を多く積んでしてほしいと考えています。
そして、どこでそれを経験すべきか?という問いへの答えが、二つ目の理由です。つまり、「得られるチャンスの総量が大きい領域」を選ぶべきなんです。
福島それは、10年前であれば間違いなく「スマートフォン×BtoC」でした。この頃に生まれて大きくなったBtoCアプリの企業がいくつか思い浮かびますよね?
さらに時代を遡って考えてみましょう。たとえば私がもし100年前に生まれていたら飛行機を、200年前なら蒸気機関をつくっていたと思います。人間は皆、生まれる時代を選ぶことはできないので、その時代で最も拡張していきそうな領域に身を置くことを選択するという発想をしたほうが長期的に成長できるはず。つまり、“上りのエスカレーター”に乗った状態で、自身の成長にレバレッジをかけるべきなんです。
今は間違いなく、BtoB SaaS(*1)やAI・LLM(*2)、Fintech(*3)です。こうした領域で次々と新しいトレンドや発見が生まれてビジネスが拡大し、領域そのものが発展しています。
時代を先取りした企業の一次情報を取りに行くべし
──ここ最近はコンサルティングファームや大手総合商社も業績が好調です。それでも、スタートアップのほうが良いのでしょうか?
福島そうだと思います。なぜなら、スタートアップでは自分にチャンスが巡ってくるからです。これも重要な論点として説明したいです。
一般的な考え方として、コンサルティングファームや大手商社では入社2〜3年後に事業責任者として抜擢される可能性は高くはないでしょう。なぜならすでにビジネスモデルが確立している産業であり、中堅やベテランのメンバーも多いからです。そのような場所では、若手に大きなチャンスが回ってくる可能性が相対的に低くなります。
つまり、自分に経営の意思決定に関わったり事業責任を担ったりするチャンスが巡ってくるまでに時間を要する可能性が高いんです。業績好調で機会が生まれていることは重要ですが、そこに加えて「若手に大きなチャンスが回ってくるか」も重要です。
──福島さんの指摘する三つの話には納得感がありますが、一方で具体的なイメージを持つのは難しいように思えます。一ノ宮さんは普段学生や新卒社員と関わることが多いと思いますが、その中で感じることはありますか?
一ノ宮仰る通り、明確にイメージできている学生は多くないと思います。なぜなら、得ている情報に偏りがあるからです。
私が就活生だった頃から数年経ってしまっているので、今の学生さんはどんな情報を目にしているのだろうと学生目線でリサーチしてみたのですが、目に入ってくるのは就活人気ランキングや就職偏差値といった、数年前と変わらない企業ラインナップの情報だったんですよね。その中に、次の時代のトレンドやそこで勝負するスタートアップの情報はほとんどありませんでした。
そんな状況なので、解像度が粗いのも頷けます。業界全体の課題として、もっと就活生や若手世代に歩み寄った情報発信をしていくべきだと感じています。
しかしながら、近年のスタートアップエコシステムの盛り上がりに比例して情報発信は増えてきており、SNSなどを駆使して自ら情報を得てこの世界に飛び込んでくる若い人がいることも事実です。
就活生向けにキュレーションされた情報に満足するのではなく、自ら能動的に動き、一次情報を取りに行ってほしいです。
福島新卒で就職するということは、少なくとも3年、長いと10〜20年、その会社に自分の時間を投資することになります。そんな大事な意思決定なのに、リサーチが甘くなってしまっていませんか?
もし私が就職活動をするなら、SNSや社員に会えるサービスを駆使して、自分の足で一次情報を得る努力をすると思います。
若い感性の“当たり前”がイノベーションの鍵になる
──「強い企業になるには、若手を抜擢し世代交代し続けることが重要」だという点も取材時に強調されていました。LayerXでは、どのように抜擢やアサインを考えているのでしょうか?
福島年齢に関係なく常にフラットに比較して、野心や実力がある人に機会を提供するようにしています。
つまり「若い人ばかりを抜擢する」ということではないんです。年齢を重視して意思決定することはほとんどありません。
ただし、多くの企業で一定以上の年次の人に新たなチャンスが集まりがちな中で、スタートアップはそうあるべきではないと思っています。明日潰れるかもしれない、どうなるかわからない会社なのですから、使えるものはすべて使って勝負しないと企業として生き残れません。だから年齢や経験にとらわれず、ベストな人にベストな機会を提供して、ベストな事業をつくろうとしているんです。
その結果として、若手の抜擢事例が生まれているわけです。
──その一方で、若手だからこそBtoB領域で躍動できるという考えもあるんですよね?
福島現代において、BtoB領域でベストな事業をつくるためには「若い世代が持つ感性が欠かせない」と考えています。ここでいう「若手」の定義は、青春をスマートフォンと一緒に過ごしている世代を指します。
たとえば、皆さんがスマホでウェブサイトやアプリを開くとき、画面遷移までに数秒かかったり、PC向けの画面構成だったりしたら、すぐに閉じますよね。信じられないかもしれませんが、BtoBの世界ではこのような事象が至る所で“当たり前に”起こってるんですよ。IoTが普及し、AIの活用が問われるなど現代の働き方は大きく変わっていくべきなのに、働き方は変わりきれていないんです。
一方で、そんな働き方をしている人たちも、プライベートでは当たり前のようにLINEやNetflixを使っています。UI/UXが優れていて直感的に操作できるBtoCのサービスは幅広い世代に普及しているのに、BtoBでは広がっていないんです。ここに大きなギャップが生じています。皆さんが“当たり前に”思っている体験は、BtoBの世界ではイノベーションと捉えられるものなのですが、それが十分に実装されていない。ここに、みなさんに“当たり前”に備わっている感性でイノベーションを起こすチャンスがあるんです。
みなさんが持つイノベーションの鍵を“感性”と表現しましたが、これはもう能力ではなく生まれた時代の問題なんですよ。なので、僕らは世代交代しなければいけないと考えているんです。
一ノ宮ですが、そういう機会が目の前にあっても、「自信やスキルがまだ足りない」と躊躇してしまう人も少なくありません。これは本当にもったいないと思います。そもそも「できる/できない」で考えていても何も前に進まないので、やってみるしかないんです。もちろん失敗もすると思いますが、大事なのはそこから何を学ぶかです。何が足りなかったのか、次はどうしたらいいのかの解像度が高まった先には、成功があるはずです。臆することなく前に出てきてほしいですね。
──ちなみに、BtoBスタートアップの中でも特にLayerXでこそ得られる成長というのもありますか?
福島社内メンバーが書いて共有している意思決定に関するドキュメントから、ものすごい量の知見や情報をインプットできることかなと思います。
LayerXが他社と違うのは、情報発信の多さと内容の濃さです。「情報の透明性」を大切にしていて、経営会議を含む会議の議事録は(人事情報や一部のセンシティブな情報を除いて)全て公開していますし、Notionを使って社内ブログのような形での発信も盛んです。誰もが早く正しい意思決定をできたり、その意思決定の背中を押せるよう、会社の中の情報をとにかく透明にしてみんなのノウハウをシェアしようとする姿勢が、LayerXの大事なカルチャーの一つなんです。
私だけではありません。たとえば一ノ宮が新卒採用で気づいたことや課題をまとめて書いているドキュメントもあり、それを読むと市場動向や就活生のインサイトが把握できたりします。他にも、テクノロジーについて「このサービスではこのアーキテクチャの設計に苦労した」といったメンバーの苦労とそこに向き合った痕跡が見られるメモもあります。これら全て誰もがアクセス可能なので、いつでもどこでも学びや刺激を得られるんです。
社内にあるノウハウを全部吸収できたら相当なビジネスパーソンになると思います。とても有用な情報が常に流れているのは、LayerXならではだと思います。
一ノ宮もはや福利厚生と言っても過言ではありません。福島さんの頭の中が覗けたり、社内にいる各領域のスペシャリストのアウトプットだけではなくその意思決定の背景まで見ることができたり、そんな機会はなかなかないですからね。
先人たちの試行錯誤の跡を、好きな時に好きなだけインプットできるのはありがたいです。社員が口を揃えて「圧倒的な知的好奇心が満たされる環境」だと言うのも頷けます。
キャリアのスタート地点は“どこでもいい”。
自ら判断することが重要
──お二人のような先輩からこうしたお話を伺っても、「1社目のキャリアとして、大企業とスタートアップのどちらを選ぶべきか」と悩む人は多いと思います。そうした方々に向けて、アドバイスをいただけますか。
福島身も蓋もない言い方をすると、どちらでもよいと思います(笑)。なぜかというと、スタートアップであっても成長しにくい環境があるかもしれませんし、大企業でも成長機会が豊富な会社もあります。結局は自分の人生なので、自分で考え抜いて、納得できるほうに行くのが良いと思います。
ただ、就活に関する二つの迷信をお伝えしたいです。一つ目は、「新卒じゃないと大企業には行けない」という迷信。そんなことは絶対にないので信じなくて良いです。最近はスタートアップで活躍した人が大企業に行くケースを多く見聞きします。
もう一つは「スタートアップなら成長できて、大企業にいると停滞する」という迷信。先ほど「経営や事業責任を経験するまでに時間がかかる」というようなことを私も言いましたが、大企業で若手が抜擢されることだって当然あります。
繰り返しになりますが、勝手に視界に入ってくるそれらしい情報ではなく、自ら探して一次情報を得て考えてみてほしいです。最も良いのは、企業の人に会って実態を見たり聞いたりすること。OB訪問やカジュアル面談を駆使してロールモデルを見つけ、自分が憧れる人が多い企業に行くのが良いと思います。入ってから頑張ることも重要なのですが、入るまでの意思決定も同じくらい大事ではないでしょうか。
一ノ宮どんな組織に所属していようが、成長している人は成長しています。大事なのは、自分のキャリアにオーナーシップを持っているか、それだけだと思います。
──最後に改めて、「スタートアップ×BtoB」という場に若手を呼び込みたいという福島さんの想いを聞かせてください。
福島この会場に来られている学生さんのように若い世代のみなさんには、ぜひスタートアップに挑戦してほしいなと思います。
私が学生の頃は、学生起業どころか、スタートアップでインターンをするという人もすごく少なかった。ほとんどの人が、外資系コンサルティングファームや商社、広告代理店といった花形と呼ばれる業界を志望していたと思います。
ただこの十数年で「メガベンチャー」と呼ばれる企業も生まれてきて、スタートアップでインターンする学生さんも増えてきました。ですが、それでもまだまだ少ないと思っています。
LayerXはスタートアップの中でも、BtoBやFintech、AI・LLMといった、学生さんからすると馴染みの薄い領域での挑戦をしています。そういった領域でも若い皆さんの感性は非常に求められていますし、成長の幅も大きい環境だということを知っていただけると嬉しいです。
ぜひ皆さんの、スタートアップへの挑戦をお待ちしています。
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【LayerXの新卒採用ページ】
こちらの記事は2024年03月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
髙木 晴香
1998年生まれ。徳島在住のライター・編集者。地元のタウン誌の出版社でプランナーとして週3日勤めながらフリーランスとしても活動中。
写真
藤田 慎一郎
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