「空の産業革命を牽引する」
世界のドローンリテラシー底上げを目指す
若き起業家 FLIGHTS峠下
2016年度には国内の市場規模は353億円とされていたが、2017年度はその数字をはるかに超えて533億円に拡大が予想されているドローン市場。
急成長に伴い、ドローンオペレーターの運用能力の不足などが原因の事故が報道されることもしばしばだ。
そうした現状を憂い、業界を刷新すべくドローンサービスを提供するベンチャー企業・FLIGHTSがある。
代表を務める峠下周平(たおした しゅうへい)が起業に至る半生を聞いた。
- PHOTO BY TAKUMI YANO
学生時代はどんなことに熱中していましたか?
峠下大学3年生まで部活漬けでした。体育会航空部に所属して、グライダー活動をしていたんです。ウィンチという巻き取り機を使用して索を巻き取ってグライダー(滑空機)を飛ばすスポーツです。
東京六大学を筆頭にかなりの数の大学が参加していて、日本一を競い合っています。
大会の開催地は日本一暑いことで知られる埼玉県熊谷市。炎天下の中オペレーションを組んで、飛ばした数が多い人が勝つんですが、事故が起きると人が亡くなることもあるので、みんな真剣にやってました。
4年生になってからはレバレジーズの短期インターンを経験しました。そこをきっかけに「突き抜ける人財ゼミ」という2泊3日の会に参加して自分自身について見つめ直す機会を頂き、そこで初めて、自分の進路について本気で考えさせられることになりました。
それまでは、世間的に最も良しとされる進路をとるのが、自分の中で不文律になっていたと思います。
例えば就職であれば、商社・外銀にいくために、自分の価値観を作っているようなことです。学生は皆多かれ少なかれ、そうした点があるのではと思うのですが、その不文律に疑問を抱くきっかけを得ることができました。
とはいえ、すぐにやりたいことが見付かるわけじゃありません。何か社会に爪痕を残すようなことをしたい、20歳そこそこでどうすれば世の中に価値提供できるかなんてわからない。でもとりあえず今できることを全部やろうと思って、社会に価値提供してる人の本をたくさん読みました。
同時に、自分で手を動かしてできることをとにかくいろいろやってみようと行動するうち、IT企業の新規事業部に、JOINさせてもらうことになりました。
そこで携わらせてもらったのは、「調整さんカレンダー」というアポイント調整ツールの開発業務。一般によく知られている「調整さん」のビジネス版です。
潜在顧客のヒアリングから任せてもらい、よりよいものを作っていくことを経験したことで、世の中の人が困っていることを見付けてニーズに応え、自分でも社会に貢献できるんだと実感しました。
「調整さんカレンダー」のサービス立ち上げが一段落するころには、「こんなこともできるんじゃないか」というリストが自分の中に蓄積されていました。でもそれが会社の枠組みの中でできるかといったらできない。だったら制約を外してやればいい。そう考えて、起業準備を進めはじめました。
起業後は、ドローン操縦士の育成や派遣、機体販売などを行っていますね。
峠下自分の人生を振り返った時に、航空機を飛ばす際に必要な真剣さ、を知っている自分が「空の産業革命」と言われるドローン領域で事業を行うのはとても自然に思えました。
資金調達の際にも、学生時代のグライダー活動の経験をお話することで、「そういう経験があるなら君がやるべきだね」と出資してもらえることがありました。
一歩間違えると命を落としかねない中、粛々とやってきたからこそ、オペレータたちが運用ノウハウをいち早く取得し、マニュアルに落とし込み、さらには機体整備も確立していくことの重要性を把握できたと思います。僕たちはこの領域に対してどこまでも誠実でありたいんです。
後発の企業が同じようなサービスを出したり、うちより安い価格で出したりしてきてもクライアントが離れないのは、誠実さが伝わっているからだと自負しています。
初めに構想したのは、ドローンオペレーターのマッチングサービスです。しかし、いざサービスを構築しようとしたら、そもそもオペレーター側の運用ノウハウが確立していないことに気付きました。
オペレーターの人数も少ないし、プロを名乗る人のスキルがとても低い。中には高い技術を有した人もいるけど、そういった方に仕事を依頼してしまうと、めちゃくちゃギャラが高い。
根本的に優秀なオペレーターの絶対数が不足している状況だったので、まずは自社でオペレーターを採用・育成し、そのノウハウを元に市場に優秀なドローンオペレーターを増やしていけば良いのではないか?マッチングサービスの成功はその先にあるのではないか?と考えました。
そこで、ドローンオペレーターになりたい人を募集したら、500件ほどの応募数があったんです。でもその中でドローン運用の評価基準をクリアした人はわずかに5%程度。その5%の中から自社で4名ほど採用して、ドローン運用の会社を始めました。
そうした流れで、自社でドローン運用のノウハウを貯めると同時に、オペレーターマッチングのプラットフォーム「DroneAgent」を開始しました。
マッチングといってもそれだけでなく、運用代行やノウハウ提供まで一括しておこなっているので、一般的なマッチングよりもドローン業界に最適化された形で、世の中に価値提供できていると思ってます。
登録されているオペレーターは空撮カメラマンが15名、そのうちの幾名かはドローンによる写真測量も担ってもらっています。弊社で契約を結び、ドローンの運用代行や月50社ほどへのドローン導入をご一緒しています。
僕が創業したのは2016年3月で、その当時はドローンベンチャーってほとんどありませんでしたが、この1年でニーズがぐっと伸びました。ドローンがビジネスに活用できる、という認知が社会に少しずつ広がってきたんだと思っています。
例えば測量の分野。既存の方法より安く、成果物のレベルも劣らないので、これからもこの市場は拡大すると思います。
市場も成長し、事業もものすごい順調にいっているように見えますね。
峠下いやいや、本当に課題だらけです。
ドローンって、「提案して買ってもらった後に運用して保守も行う」というのが一連のサービスの流れになりますが、細かく分解すると、例えば自社の情報を知ってもらうときにはWEBメディアを活用したマーケティングや営業が必要だし、購入してもらった後にはサポートやカスタマイズといったオペレーションが必要です。もちろん依頼があれば保守点検も行います。
そのすべてのプロセスに今では課題だらけ。 その課題の1つ1つにしっかりと向き合い解決していくため、様々なサービスを構築しています。
今年17年3月には、業務に活用するためのドローン教習事業を開始しました。ドローンを活用した測量を行う会社や、空撮を行いたい映画製作企業が積極的に活用してくれています。
これは、国交省がいくつかのドローン講習プログラムを認可し始めたことを受けてスタートしたものです。人口集中地区や花火大会会場などでドローンを飛ばすためには事前の許可が必要なんですが、FLIGHTSの講習に参加し資格を取得することで、その許可をスムーズに取得することができます。
17年10月からはドローンの保守点検も始めます。今までお会いしたドローン業者、利用者の中で「点検の必要性」を認識している方は非常に少数でした。だから、そういうことを当たり前にできる態勢を整えていきたいんです。
最終的に、ドローンに関することならなんでも任せられる会社になりたいと思っています。
まだまだ課題だらけですが、それに比例してやりがいも大きいですね。急成長している市場なので、競合との競争ばかりに目をやらず、ドローン市場をより良くすること、にフォーカスしていきたいと思っています。
連載未来を創るFastGrower
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