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“無駄”で世の中から悲しみを無くす?トピカ麓俊介は動画で人の感情を震わせる起業家

インタビュイー
麓 俊介
  • 株式会社トピカ 代表取締役社長 

1989年兵庫県出身。中学1年からプログラミングを始め、ホームページ制作やアフィリエイト、ネットゲームなどを個人で開発。2009年に新卒でECサイト開発・運営会社に入社。2010年からは株式会社ポケラボにて、ゲーム開発に従事。プログラマー、ディレクター、プロデューサーを経験。株式会社セガと協業で作った『運命のクランバトル』は年商20億円規模のヒットとなった。2016年5月に株式会社トピカ設立。

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今ウェブメディアのトレンドの一つは分散型動画メディアだ。とりわけアツいのが料理系。自分ではアプリをダウンロードしていない人も、友人の「いいね!」によってSNS上で存在を認知していることだろう。様々なメディアもこぞって「簡単においしく作れるレシピ」を紹介しているが、唯一男性をターゲットにしたメディア「GOHAN」がある。運営するのは若干28歳の社長だ。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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引きこもりの天才!?

GOHANは男に向けてガッツリ飯を紹介。フェイスブック、インスタグラム、ツイッターなどのファンは総計50万を超える。運営するのは2016年5月創業の株式会社トピカ

代表取締役社長の麓俊介氏(28歳)は、「世の中から寂しさをなくす」ことをミッションとしている。なぜ、そうしたミッションを掲げるに至ったのか。その原体験は彼の阪神淡路大震災にある。

兵庫県・宝塚市出身の麓氏が被災したのは幼少期だ。一家で暮らしていた団地も被害を受け、安全性が確立されるまでは小学校の体育館に寝泊まりすることとなる。

近所のスーパーには連日長蛇の列。インフラが止まって風呂で汗を流すこともかなわなかったため、身体を拭くためのウェットティッシュを買い求める人も多かったという。食事は自衛隊が配給するおにぎりと飲み物。

用意していただけることはありがたかったですが、当時5歳の僕には全然おいしく感じられなくて、世の中ってなんて不公平なんだろうと思ってました。祖父母やいとこは普通の生活ができてるのに、僕たち家族は炊き出しやカップ麺ばかり。遊び場も破壊されたし、友だちも怪我をして遊べる状態ではありませんでした。

辛い生活を続けるうち感情の起伏が激しくなり、遂には、人が悲しんでいる姿を目の当たりにすると自身の内にも同じ悲しみが溢れるようになった。

ところが、そのまま多感な日々を過ごしていた小学校3年生のころ、両親が養父市に家を購入して引っ越しが決定。都会育ちの麓氏は田舎暮らしになかなか馴染めず、次第にひきこもるようになり学校に行かなくなる。

オンラインゲームの世界の住人になってたんです。昼はその世界の人たちとゲームを通して遊んで、夕方友だちが部活から帰ってきたら一緒に遊ぶ生活。一切勉強しなくなったんで親がファイナルファンタジーXIを解約してしまいました。

それでも諦めきれなかった麓氏は、貯めていたお年玉でPC版ファイナルファンタジーXIを入手しようとするも、PCのスペックが足りないことが判明。ところが、がっかりしながらPCをいじっていた矢先、PCがあればゲームで遊べるだけじゃなくゲームを作ることもできるとわかった。

提供:株式会社トピカ

そこで、一念発起してCGIの扱い方を独学。無料のオンラインサービスのオープンソースをダウンロード後、改変してネットに公開するや少ないながらもファンがついた。

その瞬間、ビビビッときました(笑)。プログラミングもできるし人を喜ばせることもできる。当時はITバブルまっただ中で、テレビをつけるとIT業界の人がよく出ていて、自分もあの世界にいけるんじゃないかと思いました。

同時に、自分が作ったゲームを楽しみにしている人がいるという状況が生まれたことで、「自分は人の悲しみを減らすためにプログラミング能力を身につけたんじゃないか」と思うように。

僕が作るサービスによって、彼女にふられたとか仕事行きたくないとか、そういったネガティブな感情を世の中から消したい。それこそ僕の存在価値の証明になると考えたんです。

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ソーシャルゲームの世界へ

高校卒業後、単身上京して就職。そこである日、当時流行の兆しが見えていたソーシャルアプリを作るべく、社内で新規事業の公募が始まった。

それによって時代の流れを知った麓氏は、地元にいたころ寝ずにゲームをやり続けていた自分が活躍できる時代が到来したと直感。

そこでソーシャルゲーム専門の会社に転職することを決意。タイミングよくポケラボがアメリカのVCから10億円の資金を調達したというニュースを知る。すぐに先方に連絡を取り採用までこぎつけて、ほどなくして自分のゲームを作る機会を得た。

しかししばらくは失敗が続く。プロダクトマネージャーとして開発したゲームもローンチ1か月以内にクローズするなど、思うように結果を出せなかった。

しかしまたも転機が訪れる。社内で、老舗のゲーム会社セガと共同で制作する企画の公募が始まったのだ。

すぐに手を挙げた麓氏がプレゼンの場に持ち込んだのは、ストーリーではなく、ゲームのシステムそのものだった。

百戦錬磨のゲーム会社に世界観なんて提示しても勝ち目がないと思ったんです。

そこで「今からソーシャルゲームが売れる魔法の方程式を話します」からプレゼンをスタートしていかにマネタイズするかを熱弁。締めくくりの一言は「この方程式を使えばどんなゲームでも売れます」だったという。

提供:株式会社トピカ

プレゼン相手は、セガ社の経営陣3名。大物を前にひるむことなくプレゼンしきった22歳は、チャンスを掴みとり、その日のうちにセガ社内で誰もが知る存在となり、プレゼンから1か月後の2011年1月にはプロジェクトがキックオフとなった。

その後、2012年10月にグリーがポケラボと戦略的資本業務提携を発表。買収後もしばらくは同社に所属していた麓氏だったが、コンテンツがリッチ化していわゆる「ゲーム屋」が活躍するようになると、「自分はゲームの世界の人間じゃないのでは?」と自問自答するようになる。

バリバリやってたころにはさぼってる同僚に『ふざけんな』って思ってたのに、気付いたら“ふざけんな側”になってたんです。腐ったままいても価値がないなと思い、それで、次どうするか何も考えずに辞めますって言ったんです。

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“話題がはじまる場所”を開設へ

そこからしばしぶらぶらしながら、自分のスキルと市場のニーズが最大値で交わる接点を探っていた麓氏だったが、5月に動画市場に目をつけすぐさま会社を設立。

7月頭にはテーマを料理に定め、さらに「女性向け動画メディアは既に伸びている。男性×料理なら今からでも伸ばせる可能性がある」と目標を設定。わずか3週間でGOHANを立ち上げ、そこからブラッシュアップしていった。

しかし麓氏は、「GOHANはあくまで、会社のビジョンを遂行するためのひとつの方法」と語る。会社のビジョンは「トピカ」の名に込められているというが、この言葉は氏が敬愛する哲学者・アリストテレスの著書タイトルから採っている。

トピック(topic=話題)+(アルファベットの最初の一文字である)aをつなげ、『話題が始まる場所』を表しているんです。世の中から寂しいという感情をなくすため、人が楽しめる、話題となるものをたくさん創る会社にしたいんです。

話題が始まる場所を提供するためには、人がどんなことに対して悲しい感情を抱くかを追求することが必須。

今後はGOHAN以外の自社メディアも立ち上げていくし、GOHANで培ったノウハウを他の会社にも提供することで、数えきれないくらいのサービスを作りたいと考えています。創業初期の会社ってお金も人も少ないからできることが限られてるけど、協業という形であればより多くのサービスを世の中に提供できますよね。

TOPICA WORKS
提供:株式会社トピカ

GOHANは立ち上げから1年間経ち、ユーザー数が順調に伸び、マネタイズに向かっている。更にそこで得たノウハウで、食品会社の映像制作や雑誌媒体のソーシャルマーケティングも担う。

提供:株式会社トピカ

今年6月には4100万円の資金調達を実施した。更にドライブを掛けていくようだ。

そして麓氏が世の中に生み出したいサービスを一言で表現すると「エンターテインメント」だ。

一般的な定義ではなく僕が思うエンタメは、マジで無駄なもの。昔って娯楽は貴族にしか許されなかった。労働者階級は遊ぶ時間なんてないけどそれでも生きていけるんだから、本来は人間にとって不必要なものですよね。でもこの“無駄”を突き詰めた先にあるエンタメこそが、世の中から悲しみをなくすことに役立つかもしれないと思ってるんです。

なぜなら、「人って自分が本当にほしいものをわかってないものなんです」と麓氏は言う。

めちゃくちゃ糖度が高いトマト、めちゃくちゃコクがあるお茶ってなくても生きていけるけど、その糖度とかコクに出合ったときの感動ってひとしおですよね?僕はそうした感情のデータを集めて、最終的に『テレビつけたら自分が見たい番組!出演者全員面白い!ザッピング不要!』みたいな生活を作りたいんです。

サービスを生み出すだけではなく、自らの考えを多くの人に発信することにも余念がない。

今やってる仕事が自分の可能性にミスマッチしている人は、今すぐその環境を飛び出したほうがいい。環境ってすぐ変わりますしコントロール難しいですから。だから自分が生きがいを感じられる場所を探し続けたほうがいい。転職しても起業してもいいから、そこだけがあなたの世界だと思ってとどまらないでほしい。思ってる以上に“動く”ってコストがかかるからすごく大変だけど、その一歩が必ず人生を豊かにしてくれます。

麓氏自身の人生がその言葉をしかと体現しているが、今後はその経験をもとに、さらに多くの人の背中を押していく存在となるに違いない。

写真提供:株式会社トピカ

こちらの記事は2017年11月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

編集

海老原 光宏

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