10代の人工知能プログラマーなど、次の時代を担う
若きZ世代デジタルネイティブたち
- TEXT BY GEN HOSOYA
「真のデジタルネイティブ」が生まれる時代へ
「デジタルネイティブ」という言葉が登場して久しいが、この言葉が持つ意味は時代とともに変わりつつあるようだ。これまではスマホやタブレット、ソーシャルメディアを使いこなせる若い世代というニュアンスが強かったが、今ではプログラミング、アプリ開発、ウェブ制作、ハッキング(エシカルハッキング)などのスキルを持つ若い世代という意味に変化している印象があるからだ。
実際、14歳の人工知能プログラマーや11歳のハッカーなど、デジタルスキル・知識を持つ子どもたちは増えており、メディアでも取り上げられることが多くなっている。今回は、そのような子どもたちがどのような教育を受けているのか、なぜ若くしてここまでスキルを高めることができたのか、など「真のデジタルネイティブ」が育つ環境を考察してみたい。
2003年生まれ、世界最年少のIBMワトソンプログラマー
日本では2020年までに5万人近い人材不足(経済産業省)になるといわれている先端IT(ビッグデータや人工知能分野)人材。ビジネスパーソンのスキルアップや学校教育での人材育成などの対策が議論されているのが現状である。
一方海外に目を向けてみると、10代で活躍する人工知能プログラマーが登場し、若い世代をけん引し、人材の裾野を広げているようだ。
インド生まれでカナダ在住のタンメイ・バクシさんは世界最年少のIBMワトソンプログラマーとして注目を浴びる10代プログラマー。2003年生まれのバクシさんは、5歳でコーディングを始め、9歳のときにiOSアプリを開発した。12歳の頃に、人工知能ワトソンを使った自動質問回答ロボットを開発し、最年少ワトソンプログラマーと呼ばれるようになった。
バクシさんは自らさまざまなアプリケーションを開発する一方で、YouTubeを通じて多くの人々に人工知能やプログラミングの知識を共有しているYoutuberでもある。現在、チャンネル登録者数は18万4000人で、これまでに200万回以上視聴されている人気チャンネルだ。動画トピックは「ワトソンの活用方法」「ニューラルネットワークについて」など、高度な内容を扱っている。
若干14歳の少年がここまで高度な知識・スキルを持つようになった要因はどこにあるのだろうか。1つ見えてくるのは「環境の重要性」だ。
バクシさんの父親はトラッキングシステムを開発する企業で働くコンピュータープログラマー。バクシさんが当初コンピューターに興味を持ち始めたころ、プログラミングの基礎を教えたのは父親だった。しかし、一度基礎を学んだバクシさんは自宅にあるプログラミング関連書籍やインターネットを活用して自身で知識・スキルを高めていったという。
興味を持ったことに対して基礎の教育ができたこと、そして基礎から応用に発展させたいという本人のやる気をサポートする書籍やツールが揃っていたこと、などが重要であると考えられる。
13歳、14歳だと通常なら中学校に通っている歳であるが、バクシさんは学校に通わず自宅学習している。生活の軸であるプログラミングを中心に、自身が学ぶことを自身で決める柔軟性が与えられている点も重要と考えられる。
独学、授業で、人工知能を学ぶ高校生たち
人工知能分野ではバクシさんのほかにも、英国の高校生マイケル・ボバー・イリザールさん(16歳)や米国の高校生ケフヤ・コッパラプさん(16歳)など、エンジニアコミュニティーで名が知られる10代プログラマーがいる。
イリザールさんは人工知能に関してインターネットの情報で独学し、その知識・スキルをさらに高めるためにデータサイエンス・コミュニティー「Kaggle」に参加。そこで開催されるさまざまな大会で入賞したことでコミュニティー内で名が知られるようになった。
彼が関わったプロジェクトには、コンピュータービジョンを使ってYouTube動画800万本を分析し、正確なタグを生成するというものなどがある。
一方コッパラプさんは、糖尿病網膜症の症状を眼球の状態から見つけ出す人工知能システムを開発したことで天才女子高校生として注目されるようになった。コッパラプさんは高校の授業でコンピューターサイエンス、コンピュータービジョン、人工知能を学んだという。
さらに自らのプロジェクトを進めるだけでなく、人工知能やデータサイエンス分野で活躍する女性を増やしたいという思いから「Girls Computing League」という組織を立ち上げ、そのCEOを務めつつ、ワークショップを通じて知識の共有を行っている。
遊び感覚で覚えてしまう? 若きハッカーたち
人工知能だけでなく、情報セキュリティー分野でも活躍する若い世代が増えている。
11歳のルーベン・ポールさんは自身を「エシカルハッカー」と呼ぶ情報セキュリティーのプロだ。2017年5月にオランダで開催された World Forumでは、サイバーセキュリティーに関するスピーチを行っただけでなく、その場でハッキングデモを行い会場を驚かせた。
ポールさんがITに興味を持ち始めたのは6歳の頃。父親からスマートフォンが動く仕組みを教わり、その基礎知識を基に自身でハッキングやアプリ開発を行うようになった。8歳のときには、Prudent Gamesという会社を立ち上げ、ゲームを通じてサイバーセキュリティーを学べるアプリを提供開始している。
9歳のベッツィー・デイビスさんは2015年当時7歳のとき、VPNプロバイダーのキャンペーンで、公共WiFiにつながっているスマートフォンやラップトップにハッキングするデモを行い、10分ほどでハッキングする手腕を披露した。デイビスさんは、オンラインのハッキング講座を見ながらハッキングの知識を得たという。
現在ではYouTubeだけでなく、オンライン講座のUdemyなどでも機械学習やハッキング講座が開設されており、無料または低価格で知識を習得できる環境が整ってきている。今回紹介してきた子どもたちはこうした情報を楽しみながら吸収し、ITスキルを高めているようである。ゲーム感覚で学習するため、集中力を持続し、吸収率を高めることができるのだろう。
バクシさんのようにYouTubeで自身の知識・スキルを共有している子どももいることから、今後は同年代で同様の知識・スキルを持つ子どもたちがさらに増えていくことも十分に考えられる。「真のデジタルネイティブ」たちがつくっていく世界はどのようなものになるのか、今後が楽しみである。
[トップ]Photo by Kelly Sikkema on Unsplash
こちらの記事は2017年12月28日に公開しており、
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シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。
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