連載0→1創世記
「歯科業界を変革する」
エス・エム・エスマフィア海田率いる
グローマスの野望
歩けば歯科医院の看板を目にする。
その頻度はコンビニに近い。
競争が激しそうな業界だが、意外な課題が潜在していた。
歯科業界のコンサルティング業務を行う株式会社グローマス。
同社は年次300%で成長している。
今まで見えていなかった需要を掘り起こした創業者・海田大介と新卒で同社に入社した坂本城也。
彼らはどのような経緯でこの会社にたどり着いたのか。話を聞いた。
- TEXT BY FastGrow Editorial
「歯科業界をもっと良くしたい」。そう語るグローマス代表取締役社長・海田大介は、現在の歯科業界の人材採用に変化の可能性を感じている。
海田求人情報が、分かりやすく、正しく、新鮮な形でしっかり流通できているとは言い難い状況だと感じています。1つの歯科医院で働くスタッフ数は、5~10人くらい。毎日顔を合わせる人が固定化されやすい環境だからこそ、どんな人が働いているかは重要です。
にも関わらず、なかなかそこまで踏み込んだ求人情報は少ないのが現状です。求職者側も、どの求人が自分に合っているかわからなくなっている。自分に合った歯科医院に就職できる構造に変えられることが、業界への貢献になります。
グローマスは現在こういった問題を解決するため、「シカカラ」という歯科専門の人材紹介・求人広告サービスを運営。同サービスは歯科医師・歯科衛生士専門の紹介だけではなく、それ以外の歯科業界で働く職種の求人も扱っている。
グローマスのメイン事業は、この求人採用サービスと歯科医院の総合コンサルティング業務だ。サービス需要に気づくためにも、海田は実地を体験する。
海田友人の医院で歯科助手としてアルバイトをしました。歯科医師への器具の受け渡しや患者さんの誘導、あと受付も体験し、一通り歯科助手の業務はできるようになりました。その中で実感したんですが、みんな困ってるんです。
海田は業務を体験することで多くの問題を見つけた。歯科素人の新人の戦力化は特に難しいと気づく。
歯科医院は専門用語を使うことが多い。だが、マニュアルがない歯科医院もまだまだ多い。海田も器具の名称や歯科医師からの指示がわからず困ったという。
海田ドクターのサポートに付いても何を渡せばいいかわからない。人によって使う名称も違うこともある。かといって人に聞いていたら時間がかかって患者さんに迷惑がかかる。学校を出た20歳前後の方が働き始めても、これでは辞めてしまいかねません。
グローマスはマニュアルを作るなどといったコンサルティング業務を通して職場環境向上を目指している。
人事部という選択
現在歯科業界のために奔走している海田だが、元々はITコンサルタントとしてキャリアをスタートした。
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス(IBCS、現日本IBM)に入社。大手ガス会社や大手航空会社の基幹システム構築を経験した。
同社を4年程で退職し、若手社会人向けの研修会社を上司と共同で起業。しかしリソースが限られ、創業間もなく限界を感じるようになる。
海田今だったら、事業の作り方、伸ばし方がほんの少しは分かっているので、やりようはあると思います。だけどコンサルタントしか経験がなく、ゼロから事業を大きくするというスキルがない。これじゃ会社は成長しないと実感しました。
当時、海田はIBCSで同期だった後藤夏樹(現株式会社エス・エム・エス代表取締役社長)のつながりで、同社のマネジャー・リーダー・新卒研修や、人材育成に関するコンサルティングを行っていた。エス・エム・エス社内で働くことで彼らが事業を伸ばすための知見を持っていることに気づき、ゼロから大きな事業を作ることを学ぶために入社を決断する。
海田システム系サービスのマネジャーと人事部マネージャーの2つを提示されました。IBCSでの経験もあって、システム系サービスでのポジションの方が年収も高かったんです。しかし、やったことがない人事を勉強したい。そう思って人事部マネジャーのポジションを選びました。
入社後、海田の上司であった人事部トップが事業側部署へ異動。予期せず彼は人事部全部を見ることになった。
当時のエス・エム・エスはすでに上場しており、創業者の諸藤周平など役員と共に働く機会は稀だった。だが上司が異動したことで、棚ぼた的に海田は人事部トップに。諸藤を中心とした役員たちと働くことになる。
「この経験ですごく成長できた」と海田は振り返る。そして当時同社で働いていた中村一彰(現株式会社Viling代表取締役社長)と意気投合し、共同で起業することになった。
だが、事業戦略の欠陥に気づき断念。すでにエス・エム・エスに退職表明していた海田は「起業する」という退職理由を貫くために単独で起業。事業内容は決まっていなかった。
1年ほどエス・エム・エスなどからの業務委託を行いつつしのいでいたが、経営の相談をしていた諸藤にある時決断を迫られる。
海田事業内容を教育か歯科で迷っていたんです。そしたら諸藤さんに『今この場で、どっちにコミットするか決めよう』と言われて。
歯科を選んだら、『歯科以外の案件を全部すぐに断るべきだ!』と畳み掛けられました(笑)。さすがに契約があったのでその場で全部断ることはできなかったんですが、歯科業界に絞ったサービスだけをやっていくことに決めて、そこから何ができるんだろうかを探し始めました。
新卒の創業メンバー
第1号社員としてグローマスを支えてきた若きエースがいる。キャリア事業部マネジャー・坂本城也だ。彼は学生インターンとしてグローマスで働いてきた。
坂本インターン中のことですが、海田がたまたまマウスピース型の歯ブラシが海外で開発されたことを見つけ、それを日本で販売代理できないか模索した時期がありました。
僕は留学経験があり英語を使えたので、その企業に1通メールをしてみたらすんなりと販売代理の許可を頂けたんです。それから販売準備にのめりこみました。
その後、彼は海田と共に協力してくれる技工所との提携、料金体系の検討、Webサイトの構築などの販売準備を夢中で進め、気づけば就職まで3か月。キャリアを決断しなければいけない。そんな中、海田からあることを聞く。
坂本まだ歯科業界に業界を絞っていない時期の、大学4年生の8月からインターンを始め、3か月が経った時です。海田とランチを食べる機会があり、初めて歯科業界での人材紹介という事業案を聞いたんです。
歯科業界の現状や問題点を聞いたことがあり、絶対にこの会社は伸びると確信しましたね。その時です。この会社に入りたいと思い始めたのは。
坂本は海田に意思を伝え入社。現在では3人のチームをまとめるマネジャーだ。
成長率300%の事業
現在、歯科求人採用サービスは年次300%成長し、売上の9割を占める。創業以来の総合的なコンサルティング業務は売上こそ劣るものの、グローマスの今後の事業展開において非常に重要な業務だ。
海田コンサルティングや事務代行は、お客さんと密接に関わることができます。だからあらゆる課題が見えてくるんです。
歯科医院は全国に7万軒あるが、大手が少ない変わった業界だ。ほとんどが個人事業主なのである。そして経営者である歯科院長たちは、歯科医療のスキルが非常に高い半面、ビジネスの知識が豊富な方は多くなく、当然採用や事務、ITなどに明るくない。
さらに、「店舗を前提としているので、拡大の難易度は高く、経営合理化が進みにくい」特殊な業界構造だと海田は話す。このような状態だからこそ、様々な問題が解決できないまま放置されている、ベンチャーとして貢献がしやすいチャンス多き市場なのだ。
海田人材紹介以外の新たなサービスはいくつか目星がついています。現在コンサルティング業務の一案件としても行ってはいますが。今までは人材紹介の成長率が高く、リソースをそちらに集中させたいんです。
ようやく、強く新規への投資ができるようになったので、まさに今から更なる事業展開を目指します。
法規制や古くからの業界慣習が多い歯科業界に海田のような起業家が現れたのは正に幸運。彼の鍛えられたビジネススキルは歯科業界に効率化という救いをもたらすだろう。
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