物流の内製で急成長するギフトEC『TANP』の勝ち筋をCOO中内氏に聞く

インタビュイー
中内 怜
  • 株式会社Gracia 代表取締役/COO 

1997年生まれ、神戸市出身。東京大学経済学部経済学科2019年卒業。大学入学後に家庭教師の斡旋事業を立ち上げる。その後2016年4月より株式会社Candleにて最年少で営業統括としてジョイン。同社営業の立ち上げを担い、数ヶ月で売上を数倍に。その後2016年10月に、Candle社は上場企業であるCrooz社に事業売却し、Crooz社の経営陣直下で引き続き営業統括として販路を拡大。2017年3月にCandle社を退社し、2017年6月に株式会社Graciaを創業。

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圧倒的な急成長を続ける、toCサービスを展開する企業がある。ギフト特化型のECサイト『TANP』を運営するGraciaだ。

2019年8月には、グロービス・キャピタル・パートナーズをはじめ複数の投資家から、シリーズBラウンドで約5億円の資金調達を実施。彗星のようにその名を轟かせた。サービスは順調に成長を続け、2019年12月には昨年同月比で約4倍を売り上げている。

同社が急成長を遂げたのは、いかなる要因からなのか。本記事ではGracia共同創業者/COOの中内怜氏にインタビューし、これまでの歩みと今後の勝ち筋を掘り下げた。浮かんだのは「3つの競合優位性」だ。

  • TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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家庭教師の斡旋事業から、Candleでのインターン。そして、起業へ

「大切なひとときを彩り、人のつながりを豊かにする」をミッションに掲げるGracia。人生に大きな影響を与えるような、素晴らしい瞬間を届けたい想いから生まれたのが『TANP』だ。

特徴は、ギフトを贈るシーンや、相手との関係性ごとに商品を検索できることにある。また、閲覧・購入データに基づいた商品レコメンド、LINE@を利用した無料のコンシェルジュサービスによって、「ギフトを贈りたいけれど、何を買えばいいのか分からない」という悩みも解決する。

メッセージカード、リボン、名入れといったギフト特化型ECならではのオプションも充実しており、購入者の8割が利用するという。

Gracia創業までのストーリーを遡ると、中内氏が大学一年生のときに手がけていた家庭教師の斡旋事業にたどり着く。中内氏は同級生である斎藤拓泰氏とともに、ゼロからビジネスを起こす経験を積むべく、事業をスタートした。

家庭教師の斡旋事業を選んだ理由は、二人が東京大学に在学しており、優秀な学生を紹介しやすかったからだ。しかし、ビジネスどころかアルバイトの経験もほぼなかったこともあり、この事業が大きく成長することはなかった。

その後、二人は急成長企業のなかで経営を学ぶべく、Candleでインターンを始め、1年ほど在籍したのちに同社を後にした。

株式会社Gracia 代表取締役/COO 中内怜氏

「自分たちで事業をやるなら、腰を据え、10年から20年かけて取り組める課題に挑戦したい」

二人は起業準備に入り、さまざまな事業領域を検討した。大きな波が来るであろうVR/ARやブロックチェーンに関する事業は、技術的なハードルが高い。ゲーム事業も検討したが、そもそも強い興味を持てなかった。

議論するなかで、『TANP』の構想が生まれたのは、斎藤氏の父親の誕生日がきっかけだった。

「プレゼントを買えないまま、当日を迎えてしまったんです。斎藤は、今からでも用意したかったけれど、そもそも何を贈れば父が喜ぶのか分からず、調べても答えが出なかった」

斎藤氏が悩みを話すうち、二人は「もしかすると、これは大きな課題かもしれない」と考えた。

中内僕も女性の友人から「彼氏の誕生日に、何を贈ればいいのか迷う」と相談を受けることがありました。普段の生活から、ニーズを実感していたんです。

そこでプレゼント関連の検索量を調べてみると、結構あったんです。かつ、検索結果を見ていると収益化できていそうなプロダクトが見つからず、競合も少なそうだな、と。

ギフト市場を調べると、10兆円を超える規模だった。矢野経済研究所の調査によると、伸び率としては小さいが、年間あたり約1,000億円以上と、金額としては大きく伸びている。さらに、ギフトの事業を手がけることは、自分たちの想いとも合致した。

中内僕も斎藤も、人を喜ばせたい想いが強く、サプライズやプレゼントがとても好きでした。一人ひとりの人生に素晴らしい体験を提供し、社会における幸福の総量を増やしていける事業をしたい想いもありました。

探していた条件をすべて満たしたアイデアが生まれたので、「いきなり大成功することの方が少ないし、とにかく一度やってみよう」と、プロジェクトが動き出しました。

コロプラネクストが運営するコワーキングオフィス「TheRoots」にて、二人は事業計画書を固めていく。当時はコロプラネクストに所属しており、現在はチャットフィクションアプリ「Balloon」を提供するFOWD代表の久保田涼矢氏からサポートを受けた。

資料が完成すると、イベントやSNS、友人を伝ってエンジニアを探していく。それと並行し、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家へプレゼンに通う日々がはじまった。そして、独立系VCのANRIからの投資が決まり、2017年6月1日、Graciaは設立された。

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「大切な友人からのギフト」をヒントに、0→1を達成

斎藤氏はCEOに、中内氏はCOOに就き、取締役/CTOに林拓海氏と、もう一人のエンジニアが加わり、Graciaはスタート。9月1日には完成したECサイトを公開した。しかし、思うように商品は売れなかった。

最初の3ヶ月は、数えられるほどの決済しかなかった。しかも購入者の欄に並ぶのは、創業メンバーやその親族の名前ばかり。無風の状態は、さらに続いた。

中内12月になっても、「クリスマスなんてこの世にない」くらい売れませんでした。それでも、苦しさはあまり感じなかった。その時点での僕たちのサービスは、理想の状態からほど遠かったので、とにかく機能の改善に必死でしたから。

売上が伸び悩んだまま年を越し、2018年1月の半ばに、中内氏は誕生日を迎えた。この日が、事業の転機となる。オフィス宛に、中内氏の地元の友人から大きなダンボールが送られてきた。箱を開けると、ハート型の緩衝材やバルーン、写真付きの手紙、花まで添えられたプレゼントが入っていた。

実際に中内氏が受け取ったプレゼントの写真
提供:株式会社Gracia

中内友人たちが3人掛かりで用意してくれたそれは、僕を喜ばせるために考え抜かれたものだと分かりました。本当に嬉しかった。メンバーたちも「すごい」と盛り上がっていました。

そこから、自分たちの商品がお客様の手元に届いたとき、今のままで満足してもらえるのかを議論しました。「商品がただ届くだけでは、ギフトとしての嬉しさが足りない」という話になり、TANPでもラッピングなどのオプションを始めることになりました。

当時のGraciaは、ANRIが運営する渋谷のインキュベーション施設「Good Morning Building by anri」に入居していた。中内氏と林氏はその日のうちに渋谷ロフトへ向かい、市販のラッピング用品を購入。自分たちでラッピングを施して写真を撮り、サイトにオプションとして選べるように用意した。そこから、商品の売れ行きが目に見えて変わり始めた。

オプションが指定されれば、経営陣とインターン生で渋谷ロフトで調達し、手作業でラッピングして商品を送る。メッセージカードは、送られてきたテキストを手書きしてつくった。1月の売上は、それまでと比べて大きく伸びた。

2月には、オプションに関する作業のオペレーションを整備していった。売上は目を見張るほどに伸びていく。そして3月、ホワイトデーがやってきた。ギフトの品数や追加オプションの種類も充実してきたタイミングだった。

中内ホワイトデーのキャンペーンを打ち出すと、3月の売上は2月からゼロが一桁増えました。『TANP』にとって、最大の節目と言える1ヶ月でしたね。やっと「ビジネス」と呼べるサイズになり、0→1が終わったのだと実感しました。

ここから、『TANP』はますます加速する。蓄積された注文データを参照すれば、顧客のニーズがはっきりと浮かび上がるからだ。メッセージカードの内容や注文時の備考欄からも、細かなニーズが汲み取れる。

データをもとに数々の施策を実行し、4月から5月にかけて、さらに売上を伸ばしていった。5月には母の日を迎え、ホワイトデーがあった3月の倍以上の売上を叩き出した。そして、2018年10月には約1.2億円の資金調達を実施。プリンタや名入れ用のレーザー機といった機材への設備投資に力を入れ始めた。

堅実に成長を積み重ね、2019年8月には約5億円もの資金を調達。Graciaは一気に知名度を上げ、採用活動も加速した。それまでは20代前半のメンバーが中心だったが、徐々に多様性が生まれていった。

ギフトを通じて人の幸福について考え抜けるメンバーが揃うのが、組織の特徴だという。人数は現在、業務委託のメンバーを含めて100名程度で、月に2名ほどのペースで採用を進めているそうだ。

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最大の競合優位性「内製されたロジスティクス」

早々にGraciaが好機をつかんだだけに、ギフト市場は大企業が攻めてきてもおかしくない、魅力的なマーケットに思える。そのような状況で、『TANP』が成長を続けている背景には、3つの競合優位性がある。

まず、「ロジスティクス」。『TANP』のギフト配送は個別対応が数多く発生するため、通常のECサイトと比べて難易度が高い。たとえば、メッセージカードにはテキストだけのものもあれば、写真を印刷しなければいけない場合もある。

Graciaでは発送や物流作業を外注せず、自社拠点を持ち、ロジスティクスの内製に踏み切った。商品のきれいな梱包はもちろん、「値札をきれいに剥がす」といった細かやかな配慮への期待に応えられる倉庫事業者やEC業者が見つからなかったのだ。

中内物流を自社でやっているからこそ、マーケティング部門と密に連携できます。紙袋やお花の同梱といった、それまでなかったオプションのご要望に、即座に応えてこれたんです。

ABテストやお客様の反応をマーケティング部門が確認すると、ロジスティクスへすぐ依頼を飛ばし、1日単位で検証を積み重ねていきます。その過程で、ロジスティクスを競合優位性として確立させていく方針に舵を取りました。

ロジスティクスの拠点の様子

物流コンサルタントの知見を借りながら、現在の自社システムを構築していった。苦心したのはコストカットとパフォーマンス維持のバランスだ。機材、システム、マニュアル、作業者と、原因になり得るポイントから生産効率のボトルネックを見極め、改善していく。

たとえば、ギフトにリボンをかけるためには、作業者の習熟度を高める必要があった。そこで、誰でも簡単に取り付けられるゴムバンド付きのリボンを採用。メッセージカード用のプリンタやレーザー機の速度が遅ければ、費用対効果を見たうえで新機材も導入した。

こうした地道な改善の結果、創業時から同じ拠点を利用しながら、一日の最大発送件数を伸ばしてきた。前回の資金調達時には一日最大1,200個を発送と公開されていたが、2019年のクリスマスには一日に2,300件の発送を達成。12月の売上は、昨年同月比で約4倍をマークした。

今でも週2日ほど、徒歩10分の距離にある2つのオフィスを行き来しているという中内氏。時にはアルバイトやパートのメンバーとともに、注文された商品のピッキングも行うことがあるそうだ。

中内アルバイトやパートの方たちと一緒に動くことで、その役割において重要なポイントや楽しさが分かり、業務フローを改善する方針が見えてくるんです。

倉庫の奥の方にしまわれている商品を見つけるためには、現場の勘が必要になってくるんですよね。それが見つかったときの快感も、大きなものだと分かりました。

中内氏はロジスティクスにさらなる磨きをかけるため、他企業からのインプットにも積極的だ。カメラや家電をレンタルできるECサイト「Rentio」や、CROOZが運営するファッションECサイト「SHOPLIST」などの倉庫の見学にも赴く。

中内ロジスティクスは、時期に合わせた改善が必須です。自社よりも規模が大きい企業さんの倉庫に伺うと、ラインがいくつもあり、自動化が進んでいる様子が見られます。

『TANP』とは在庫の保有量がまったく違うので、フローも異なり、そのまま真似しても良いラインにはできません。だから、色々なフェーズの企業さんを訪問し、現場を参考にさせてもらっているんです。

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他では取り扱えない商品を、日々改善の現場から発送

「商品」も競合優位性になる。本来、百貨店などの実店舗でしか販売されていなかったブランドの商品を、『TANP』は多数扱っている。

それが実現できたのは、通常のECでは難しい店舗と同レベルのラッピングを行い、ブランドの価値を毀損せずに発送できると判断されたからだ。

中内「本当に百貨店と同じレベルのラッピングで発送できるの?」とよくご質問をいただくのですが、むしろ『TANP』の方がお客様のニーズに応えられる場面は多々あります。

ECだからこそ、実店舗以上に豊富なオプションを揃え、あらゆるご要望にお応えできるんです。

要望に応えられる現場は、ロジスティクスのメンバーたちの熱意があってこそだと中内氏は強調する。アルバイトやパートのメンバーからは、日報を通じて改善のアイデアが日々、提案される。

「お客様に商品を届ける最後の接点」を担う意識を一人ひとりが持ち、「どのような状態で届いたら嬉しいか」を真剣に考え抜いているという。

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データドリブンなマーケティングと、ギフト特化のプロモーション

そして、3つ目の競合優位性は「マーケティング」だ。2020年2月現在、「プレゼント」や「バレンタイン プレゼント」などのキーワードでGoogle検索の1位を獲得しており、他にも複数のキーワードで上位に食い込んでいる。

Graciaのマーケティングを後ろ支えするのは、ペロリ創業者/newn代表・中川綾太郎氏やHotspring代表・有川鴻哉氏、終活ねっと代表・岩﨑翔太といった錚々たる経営者たちだ。「彼らに借りたSEOの知見が、伸びている要因として大きい」と中内氏は話す。

2020年1月には、地方限定のテレビCMもリリース。プレゼントを購入する場が少なく、購入率が高い地方の顧客へのさらなるリーチを狙うのはもちろん、いずれ首都圏でテレビCMを流すことを考慮したテストマーケティングの観点もあるようだ。

中内他社が模倣しづらい、ギフトに特化したプロモーションを次々に打ち、先行的に施策を打っていくことで、データを貯めています。お客様に『TANP』を知っていただく機会を増やし、サイト内でのレコメンドの精度も高めていくことで、勝ち抜けると考えています。

今後の事業展開を問うと、百貨店などの実店舗にしか置かれていないブランドをさらに拡充していき、「良いギフトを買うなら『TANP』」と認知されるための取り組みに力を入れていくという。

そのために、顧客の幅広い要望に応えられる、これまで以上にギフトに特化したロジスティクスの構築も行っていく。ロジスティクス拠点の移転も視野に入れているそうだ。そして、引き続きデータを蓄積していき、プレゼントのレコメンドやマーケティングにおける最適解を探っていく。

中内将来的には、自社ブランドのギフト製品をつくることもできると思っています。僕たちには、プレゼントを贈るシーンや相手との関係性ごとに、どういったギフトが選ばれるかのデータが、かなり貯まっていますから。

こちらの記事は2020年03月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

岡島 たくみ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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