事業の弱点を見つけ出す「BizDevのためのロジカルシンキング」を伝授──ラクスル主催BizDev BootCamp Vol.2
スタートアップの成長において、事業をドライブさせる「BizDev」の果たす役割は大きい。しかし、必要とされるスキルセットが多岐にわたるからか、BizDevの育成ノウハウはあまり体系化されていない。
そんな課題意識を背景にラクスルが呼びかけて始まった、日本を代表するスタートアップ企業群によるBizDev育成の取り組みがある──「BizDevBootCamp」だ。freee、ランサーズ 、 マネーフォワード、ラクスル、ユーザベースが5社合同で行い、各社数名の選抜者が、選りすぐりの講師陣から成長に必要な要素を学んでいく。
2回目となる今回のテーマは「BizDevのためのロジカルシンキング」。講師を務めるのは、ランサーズ取締役の曽根秀晶氏だ。曽根氏はマッキンゼー、楽天を経て、2015年にランサーズにジョイン。同社ではグループ戦略担当として、経営戦略の立案や新規事業の推進を担っている。
勉強会では、曽根氏が事業における正しい課題の分解と見極めのために不可欠だと主張する、「BizDevが身につけるべきロジカルシンキング」の全貌が明かされた。
- TEXT BY HUSTLE KURIMURA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
問題は「MECEに分解する」ことが重要
「BizDevが向き合うべき“問題”とは何か?」
勉強会は、曽根氏の受講生に対する問いかけによって幕を開けた。PDCAを高速で回し、ビジネスを推進させる「BizDev」にとって、向き合う事象を正確に見つけ出す能力は不可欠だ。
曽根氏は、冒頭の問いに対し「問題と課題の違いを明確にすることで見えてくる」と、自らの考えを示した。
曽根BizDevが解決すべき問題は、事業における「理想と現実のギャップ」。例えば、「売上を3倍にしたい」という目標を掲げているのに実績が横ばいであれば、それは事業にとっての“問題”です。
では、そのギャップを埋め、理想状態に近づけるためには何をすればいいのか。このように、“問題”から一段レイヤーを下げた、具体的な「やるべきなのに、できていないこと」が“課題”になります。BizDevがやるべきは、問題を具体的な課題に分解し、さらに具体的なオペレーションに落とし込んでいくこと。この課題を分解するフェーズにおいて効果を発揮するのが、本日紹介する「BizDevのためのロジカルシンキング」です。
その入り口として曽根氏がまず紹介したのが、事業を「MECEに分解する」技術だ。
曽根オペレーションを分解する際に、重複や抜け漏れがあると、見つかるはずの課題が発見できなかったり、たとえ見つかっても必要以上に時間や労力を割くことになってしまいます。特にスタートアップで新規事業開発に挑む場合は、少人数で複数の課題と向き合いつつ、チーム全体のスピード感も失ってはいけない。一つひとつの課題に対し「抜け漏れなく、重複もない」MECEな分解を行うことが、スピーディーで効率の良い問題解決につながるんです。
幸い、今の時代には「SWOT」や「3C」、「AISAS(アイサス)」など、様々なフレームワークが存在しています。慣れないうちは、こうしたフレームワークに頼ってみるのも手です。
曽根氏がフレームワークと合わせて活用をすすめるのが、ロジックツリーだ。粒度の大きな課題をブレイクダウンし、「ToDo」にまで落とし込む際には有効な手段の一つと言える。
このロジックツリーを利用した問題の分解に取り組むワークショップが行われた後、曽根氏は「MECEに分解」することに躍起になりすぎて、本来の目的を見失わないよう、注意を喚起した。
曽根もちろん漏れがなく、重複もない分解を常に心がける必要はあるのですが、究極的に言えば、完全に漏れも重複もなくすることは不可能。フレームワークやロジックツリーを使うと、分解や分析の作業に没頭し過ぎてしまうこともありますが、時間を無駄に浪費してしまう場合もあります。MECEにいくつかの課題へと分解することは、その後の問題解決に向けたステップの一つに過ぎないことを、強く意識しなくてはいけません。
「なぜ?」の深掘りを怠らず、解くべき課題を見極めよ
勉強会が中盤に差し掛かると、課題を分解したあとに取り組むべきこととして、曽根氏は「いま解くべき課題の見極め」について言及した。
MECEに課題を分解していくと、いくつもの課題が浮き彫りになるが、どれだけ時間があってもすべての課題を完璧に解決することはできない。曽根氏はここで、成功を収めるBizDev人材の共通点を二つ挙げる。
曽根一つは、優先順位の高い課題から照準を絞って取り組めること。たとえば「どうすればもっと商品を買ってもらえるか」を考えるとき、「機能性が劣っているからではないか」といった議論なりがちです。そういうときに「本当にそうなのか?」「それはなぜなのか?」といった疑問を投げかけるべきだと思います。
明確に定まったかに思える課題でも、一度立ち止まって3回「なぜ?」を問いかけていくと、それ以上に優先順位の高い課題が浮かび上がってくる。事業の立ち上げではスピード感も求められますが、BizDevが中心となってメンバーと問いをぶつけ合いながら、「なぜ?」を深掘ることが不可欠なんです。
もう一つの共通点に挙げたのは「強い忍耐と精神力」だ。曽根氏は、新卒入社したマッキンゼーで、目の前の課題と真摯に向き合い、どんな逆境も跳ね除ける先輩社員たちと日々を共にした。そのなかで、「誰もが煩わしいと思うことを根気強く、諦めずにやる姿勢」の重要性を、身をもって学んだという。
曽根もちろん、色々なフレームワークを知っていたり、いくつも課題解決のパターンを身に着けていたりすることは武器にはなります。しかし、マッキンゼーで常に成果を収める人間は、そういった武器をたくさん持っているのではなく、常に前向きな姿勢で仕事に取り組む人でした。
BizDevを目指す皆さんも、まずはそういった前向きに臨める環境やコンディションを、自らの手で掴まなければなりません。あきらめず前向きに、解くべき課題を見極めるトレーニングを積んでいくことが、継続的に成果を収める、唯一にして最大の近道だと思います。
ロジカルシンキングだけで止まってはいけない
今回は、ロジカルシンキングをメインに取り扱った「BizDevBootCamp」。今後も、BizDevに必要となるさまざまな要素を、それぞれのスペシャリストが講師となり、インタラクティブに学んでいく。
曽根氏は、ロジカルシンキングはあくまで必要なスキルの一つに過ぎないと語る。飛躍的な成長のためには、既存の枠にとらわれない柔軟な思考が必須であるという。
曽根ロジカルシンキングだけで考え抜いても、行き詰まるシチュエーションはしばしば訪れます。いったんロジカルシンキングを体得し型として身に着けることができたら、今度は「型破り」な思考が必要になってくる。要するに「守破離」でいう「破」の部分ですね。
ロジカルシンキングはいわゆる左脳的な思考法になりますが、右脳的な思考法との両軸を操ることによって、BizDevとしてカバーできる範囲が一気に広がります。
曽根事業のなかには「世の中に新しい価値を提供する」といった、まだかたちのないゴールを目指して進んでいくケースも数多くあります。ポジションが経営に近付けば近付くほど、言語化が難しく、長期的な問題に取り組む必要がある。
皆さんが将来、より経営者に近いポジションで事業開発に取り組みたいのであれば、右脳と左脳を往復しながら問題解決を行わなければいけません。ロジカルシンキングは強力な武器になりますが、それを身につけただけで満足しない、BizDev人材を目指してほしいです。
勉強会の第1回で講師を務め、ミスミなどで数多くの新規事業開発を経験した守屋実氏は、「仕事量を積み重ねたことで、『新規事業創出』という一つの武器を身につけられた」と語っている。この日の質疑応答のなかで、曽根氏もまた「まずは量をこなすこと。何年も挫けず、前のめりに取り組むことで、素早く正確に分解や見極めができるようになる」と述べた。
この日曽根氏が語った「誰もが煩わしいと思うことを根気強く、諦めずにやる姿勢」を忘れることなく、必死に量をこなしていくことで、BizDevに不可欠なロジカルシンキング、ひいては「推進力」を得られるのではないだろうか。
こちらの記事は2019年11月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
ハッスル栗村
1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
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