誰もが自律的に動き出す、“個”が輝く組織のつくり方──リブセンス『マッハバイト』のV字回復に学ぶ、“脱・管理”時代におけるリーダーシップとは?

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高橋 宏平

20代前半は個人事業主として音楽活動に従事。その後キャリアチェンジしSEO事業を主軸とするベンチャー企業の営業職に。3年連続で年間MVPを獲得し、新規事業立ち上げなどを経て、2015年2月リブセンスに入社。転職領域のセールス責任者と、新規事業の就活領域事業立ち上げにおいてビジネス領域を組織化含めリードした後、アルバイト事業部長に就任。その後経営戦略部部長を務めた後、2021年より執行役員。現在はアルバイト事業部と転職会議事業部を管掌。

土田 泰弘

高校卒業後、営業代行会社へ就職し、独立。自社プロダクトを持つ事業会社を軸に転職先を探し、2019年10月にリブセンスへ中途入社。3カ月のキャッチアップ期間後、直販チームのプレイングマネージャーに。2020年10月にはアライアンス(代理店)グループ責任者、2023年1月からは営業統括として営業全体の戦略立案や事業運営に従事。

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リブセンス代表取締役社長である村上太一氏は、4月に公開したFastGrowのインタビューで、上場後の自身の「変化」と組織の「変化」について語った。最も大きな変化は、人に「任せる」マネジメントスタイルへのシフトと、それに伴う組織内の権限委譲の進展だったという。

しかし、それは「任せる側」から見た変化であり、実際に権限を委譲された現場の社員の目には、またその景色が違って映っているはずだ。

リブセンスの主要事業であるアルバイト求人サービス『マッハバイト』は、2期連続で過去最高の売上高を更新中。直近では前年比28.3%増の高成長だ。だが、コロナ禍の初期には厳しい状況に直面していた。主要顧客である飲食店や小売業界が軒並みアルバイト採用を凍結したためだ。

それでもわずか4年足らずでV字回復を遂げ、その勢いは今なお衰えない。だが、業績が谷底を迎えていた頃、現場では何が起きていたのか。どのような「変化」が組織に生まれ、事業の好転につながったのか。それは、権限委譲がもたらした"その後"の姿と重なり合うはずだ。

『マッハバイト』のV字回復を牽引した2人のリーダーに話を聞いた。組織の変革の裏側と、さらなる成長の先にある社会の課題への想いを語ってもらおう。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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新型コロナは創業以来最大の転換点だった

事業単体の売上高は、2018年12月期~2023年12月期の6年間で、約22億円、約26億円、約22億円、約25億円、約29億円、約37億円(2023年12月期決算説明会資料2020年12月期決算説明会資料など参照)。コロナ禍で足踏みしたものの、直近の決算では前期比28.3%増という高成長を見せ、過去最高額を記録した。このように『マッハバイト』がV字回復を遂げるまでの道のりには、リブセンス社員の並々ならぬ努力と、組織の在り方そのものを変革する覚悟があった。

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、主要顧客である飲食・小売業界は大打撃を受け、求人需要は激減した。当時アルバイト事業部長だった高橋宏平氏は、苦渋の決断を迫られることになる。

高橋『マッハバイト』の利益が落ち込み、会社全体で赤字に陥ったんです。事業ポートフォリオの見直しを迫られ、当時運営していた正社員転職サイト『転職ナビ』のサービス撤退を決断しました。

この撤退においては、どうしても少なくない非正規雇用のメンバーとの契約満了が避けられなかった。正社員の雇用を優先したというわけではなく、事業構造上、そうせざるを得なかったんです。

私は当時、どうすれば事業継続と雇用維持を実現できるのかという検討もしていました。ですが、最低でも2年は赤字のまま耐える必要性があるという試算結果となり、結果として撤退するしかなく、一部のメンバーに別れを告げることとなりました。

リブセンスは“人を大切にする”ことを何よりも重視している。高橋氏自身、その想いは人一倍強かった。正社員であろうと、契約社員やアルバイトであろうと、雇用の維持や拡大ができなくなるという判断には悔しさを強く感じていたという。

高橋もちろん、ずっと一緒に働いていきたかったです。でも、皆の雇用を守るためには時間が必要だった。あの時の判断は本当に苦渋の決断でした。そして、一人ひとりに面談で伝えることも、言葉に表せないほどつらく、苦しい経験でした。

高橋氏はこの出来事を、リブセンスにとって「創業以来最大の転換点」と振り返る。

一方、コロナ禍の只中で同社に入社したのが、現・営業統括の土田泰弘氏だ。入社からわずか1年足らずでコロナ禍に見舞われ、当時の代理店営業を行う部署のグループリーダー(GL)であった時の心境を振り返る。

土田アルバイト事業部には非正規雇用の方が多く、断腸の思いでお別れしなければならなかった。それはショックでしたし、会社の先行きにも不安を覚えました。事業モデル的に、市況の影響を受けやすい業態が主要顧客だったことが災いして、『マッハバイト』は大打撃を受けました。

一言で言えば、その頃は“カオス”でしたね。好転の兆しが見えない中で、営業の一員として目の前の数字づくりに必死だった記憶があります。

実店舗を構える飲食・小売業は、アルバイトやパートのスタッフを多く抱える。『マッハバイト』の売上のほとんどは、これら業界の求人ニーズに支えられていた。それが一斉になくなったのだ。カオスに陥るのは必然だったかもしれない。

しかし、土田氏らは決して諦めなかった。危機的な状況下でも、必死に活路を見出そうと動き続けたのだ。

土田メインクライアントの求人がどんどんストップしていく一方で、フードデリバリーなど新しい市場が急拡大したんです。そこにいち早く目をつけ、真っ先に営業をかけていった。それで何とか売上を積み上げていったんです。

その機敏な動きが功を奏し、同社は一時的にフードデリバリー業界のほぼ全ての企業の求人案件を獲得し、企業ごとのシェア率でトップを独占するまでになった。競合他社の多くの売上高がYoY40〜50%で推移する中、『マッハバイト』は70%弱の水準で踏みとどまったのだ。

土田氏はその要因を、メンバー全員の高いモチベーションと、臨機応変に動ける組織力にあったと振り返る。

土田我々の強みは、販売網が市場の“センサー”になれたこと。セールスチームがアンテナを張り巡らせ、代理店様から「ニーズがありそう」という情報をキャッチしたら、すかさずフォローに入って受注につなげる。そんな体制が早期に構築できたんです。

加えて、市場をマクロで見てさまざまな状況を想定し、どの領域が冷え込み、どこが伸びるかを常に想定し、リスクヘッジの戦略を練っていた。その両輪がうまく噛み合って、臨機応変な対応ができたからこそ、危機を乗り越えられたのだと思います。

その後、コロナが落ち着きを見せ始めると、先に示したように『マッハバイト』の業績はV字回復を遂げていく。2021年1月に執行役員に就任した高橋氏が、再びアルバイト事業部を指揮するようになったことも、追い風になったという。

V字回復の勢いに乗って、『マッハバイト』は売上高最高記録を更新し続けている。それはリブセンス全体の成長にも好影響を与えているようだ。

苦境を乗り越えられたのは、ひとえに現場社員の機敏な判断と行動力によるものだった。ただし、それを後押ししたのは、コロナ禍を機に大きく変化を遂げた組織の在り方だったのかもしれない。危機感が、改革を加速させる推進力になったのだ。

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共通のビジョンに向かって自律的に動き、成長する組織

リブセンスがコロナ禍という逆境を乗り越えられたのは、ひとえに組織の柔軟性と適応力によるものだった。権限委譲が進み、事業部単位で機動的に意思決定できる体制が整っていたことが奏功したのだ。

さらに、この危機を転機として、同社独自の人材育成方針にも変化が表れ始める。組織の在り方そのものが、大きく様変わりを遂げつつあったようだ。

そうした変化の最前線に立ち続けてきたのが、営業統括の土田泰弘氏だ。前職は営業代行の会社。リブセンスにもセールスとして入社した、いわば"営業一筋"のキャリアを歩んできた。

土田僕が初めて出社した日に思ったのは、「営業組織はどこにいるのだろう?」でした(笑)。僕のバックグラウンドからすると、リブセンスの営業組織は衝撃的だったんです。誰もスーツを着ていないし、一見すると日次や週次の行動KPIも目標に縛られていないように見えました。いわゆる“営業組織”のイメージとはかけ離れていたんです。

でも実際に働いてみると、各自が自由と裁量を持って自律的に動いている。そこにはメンバー全員が“ビジョンや事業戦略の実現状態”を共有しているからこそ、管理を強めなくても生産性を向上できるんだと気づかされました。

この感覚は、土田氏自身の成長とも深く結びついている。営業としてのキャリアを重ねる中で、ある“変化”が求められるようになったのだ。

土田前職では、「でき上がったモノを売る」のが仕事でした。でも『マッハバイト』の営業は、単なるモノ売りではなく、商品企画の要素を多く含みます。それができるようになるには、営業“以外”の知見が不可欠でした。だからリブセンスに入社して最初の1年は、様々な仕事を経験しながら必死に学んでいました。

わずか1年足らずでグループリーダー(GL)に抜擢され、その後はセールス統括として采配を振るようになった土田氏。採用企業向けの営業だけでなく、求職者の集客を担うGLも兼任するなど、その職掌は広い。

土田集客の仕事に携わるようになってからは、他媒体と提携して求職者を集めるための事業企画やアライアンスの分野にも踏み込みました。営業の経験をベースに、マーケティングなど専門外の領域にもチャレンジする。いわゆる「Y型人材」を目指したキャリアの広げ方ですね。こうした成長の方向性を示唆し、後押ししてくれたのが高橋です。リブセンスならではの育成方針だと感じました。

土田氏のキャリアを“横への拡張”へと導いたのは、他ならぬ高橋氏の助言だった。そこには「リブセンスで働くことを通じて市場価値を高めてほしい」という想いが込められている。

高橋僕が土田に伝えていたことはいたってシンプル。セールスの方針や戦略を練る上で、営業のことしか知らなかったら最適解は導けない、ということです。市場や市況、マーケティング、広告など、隣接領域の知見があって初めて「この案件を取りに行くべきだ」といった判断ができるようになる。だから土田には「営業以外の分野に踏み込むことで、セールスの仕事の質も上がるはずだ」と伝えたんです。本人も「やりたい」と即答してくれたので、集客部門にアサインしました。

ビジネスの世界で勝ち残るには、隣接領域の知識を身につけ、より大局的な視座を持つことが肝要です。視野を広げるのは戦略を「描く」ためではない。あくまで「勝つ」ために必要なことなのです。だからこそ社員には「専門領域以外にも踏み込んでほしい」と常々言っているんです。

もちろん、こうしたスキルの拡張を促すのは、何も「土田氏だから特別に」ということではない。

高橋例えば各事業部にはオペレーション/CS組織があり、BusinessOperation(BO)職の人たちがいます。その中のリーダー格の人たちは、BO×PdMであったり、BO×労務、BO×法務のようなBOを軸に他分野のスキルを掛け合わせで持つ人たちがいます。

このように「横に拡げるキャリア」を推奨している根底には、「リブセンスで働くことを通じて市場価値を高めてほしい」という会社としての考えがあります。もちろん「転職してほしい」というわけではないですよ(笑)。そうではなく、「市場価値というのは成長を測る尺度」だと捉えているんです。

なので、みんなに成長してもらう観点で、そうしたスキルの拡げ方は常に求めるし、上長としては常に提案するようにしています。

なぜそうするかというと、リーダーが成長していかないとメンバーを育てられないから。今後、描いているビジョンや戦略を実現・実行していくためには、強い「個」を社内にもっと増やす必要があります。そのためには、「外から採用する」か「中で育てる」かの二択しかありませんから、採用は採用で力を入れるとして、育成についても強くコミットしています。

大局観を持ち、戦略を構想できる“個”を増やすこと。そこにリブセンスの未来を切り拓くカギがあるのかもしれない。

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リーダーがチームの垣根を越えてメンバーの成長をサポート

リブセンスが重視している人材育成の考え方は、同社の歴史の中で脈々と受け継がれてきたものだ。しかし、近年はその色合いを一層濃くしているようだ。

高橋2015〜2016年頃、意欲あるメンバーを引き上げるために、自社オリジナルのロジカルシンキング研修を実施したことがあります。ある時、その内容を某ビジネススクールの講師に見せたところ「30万円の価値がある」と言われるほど、密度の濃いものだったんです。もちろん、ロジカルシンキングは一朝一夕で身につくスキルではありません。ただ、この研修の受講者から、後に部長職レイヤーに成長した人が何人も出たのは事実です。

最近では、メンバーの持つスキルとポテンシャルに応じて、よりきめ細やかな育成プランを設計するようになったという。

高橋スキルを持っていてもその発揮に必要な情報が与えられていない人には、情報共有の仕組みを整える。逆に情報を与えてもスキル不足で活用しきれない人には、スキルそのものを徹底的に叩き込む。私は「地頭の良さ」はそれほど重要だとは思っていません。最低限の理解力とコミットメントさえあれば大抵のことは教えればできるようになる、そういう考えのもと、より緻密にカスタマイズして育成を図っています。

アルバイト事業部では、グループリーダー10人ほどが週1回集まり、メンバーの育成について議論する場を設けているそうだ。

土田 メンバー一人ひとりの「will(目標やキャリアプラン)」と「can(現在できることやスキル)」を可視化した上で、どんな課題を与えれば成長につながるか、それによって何を得られるかを話し合っているんです。だから各リーダーは、自分の直轄メンバーだけでなく、他チームのメンバーの状況もよく把握しているんですよ。

高橋時には直属の上長以外が指導した方が、メンバーの可能性を引き出せることだってあります。私たちは、誰が育成担当者になるのが最適かをその都度見極め、ビジョン実現に向けたメンバーの成長を後押ししています。組織戦略の一環なんです。

リブセンスでは、リーダーたちが垣根を越えて、あるいは時にそれを取り払って、メンバーの成長に寄り添おうとしている。育成計画の設計から実践に至るまで、現場の目線に立ったきめ細やかなサポートを続けている。そこには、強い当事者意識を持ち、一人称で向き合おうとする姿勢がにじむ。

この姿勢こそが、自律的に動くメンバーを増やし、組織を活性化させているのかもしれない。メンバー一人ひとりの可能性に心を尽くすリーダーたち。そんな相思相愛の関係性が、リブセンスの未来への原動力になっているのだろう。

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リモートワーク下でビジョンの明確化と共有がさらに進んだ

リブセンスでは以前から、「ビジョンの実現状態」を言語化し、全社で共有する取り組みが行われてきた。ただ、コロナ禍による環境変化を契機に、その在り方にも変化が表れ始めているという。

高橋以前からビジョンの具現化イメージを共有する努力はしてきました。しかしコロナ禍を経て、より精緻に“実現状態”を言語化すること、一人ひとりへの浸透を図ることに注力するようになったんです。

なぜかと言うと、リモートワークを余儀なくされたから。それまでは、目の前でメンバーが悩んだりつまずいたりしていれば、上長や周囲が察知できた。でもリモートではそれが難しくなった。

だからこそ、リーダーは「何を実現するのか」を定性・定量の両面から示し、一人ひとりの目的意識を高める必要に迫られた。メンバーも「ビジョンの実現状態」を正しくイメージし、進むべき方向を見失わないよう、意識を持つようになったんです。今ではその成果が上がり始めていますね。

土田リモートだからこそ見えてきた課題もありました。正直、コロナ禍でのマネジメントは手探りの連続で、リーダー陣には重荷にもなっていた。でもそれを乗り越えるために「ビジョンの実現状態」をみんなで共有したことで、同じ言葉で語れるようになった。共通言語を得られたんだと思います。

とはいえ、この状態を保つには、単なる"心がけ"だけでは不十分だ。仕組み化の重要性を、高橋氏は指摘する。

高橋肝心なのは、上手くいっていない事象を見逃さない仕組みをつくること。誰かがつまずいている時、それに気づくことを直属の上司だけに担ってもらうには限界がある。別のチームのメンバーでも察知し、フォローできる関係性を築いておくことが大切なんです。

土田だから私のチームでは、メンバーを「私だけが見ている」状況を避けるようにしています。他のリーダーや部門長とも積極的に接点を持つ。それによって問題が深刻化する前に、チーム横断で議論できる素地をつくっておくんです。

一般的に、他チームのメンバーに口出しすることは、上長の領分を侵しかねないデリケートな問題だ。それがリブセンスでは自然に行われているのはなぜか。

土田各リーダーが「Y軸人材」を目指し、自身の専門領域以外にも幅広くスキルを身につけようとしているからだと思います。他チームがどんな仕事をしているのか、興味を持って知ろうとする。

また先ほど、毎週グループリーダーが集まってメンバーの育成について議論をしているとお話ししましたよね。他チームのメンバーのスキルレベルもタイムリーに把握できている。だからこそスムーズに連携が取れ、素早い問題察知やフォローにつながっているんです。

リモートワークによって失われがちな、メンバーの状況把握。リブセンスでは、意図的な情報共有の仕組みと、チームを越えた相互理解の文化で、それを補っているようだ。

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シェア拡大もあくまで“通過点”。
『マッハバイト』のこれからとは

リブセンスの人材育成方針と、コロナ禍で変化を遂げた組織の在り方。その両輪が、ポストコロナを見据えた同社の事業戦略にも大きな影響を及ぼしているようだ。

土田氏は、アルバイト求人サービス『マッハバイト』の今後の戦略について、こう語る。

土田『マッハバイト』は今、足元では順調に連続的な成長ができています。それにプラスして非連続な成長をいかに描くかがこれからの課題であり、まさに僕が今取り組んでいるところです。

これまで営業のターゲットは大手企業が中心でした。大手企業は1社で月に数千万円〜数億円単位の広告予算を持っていますし、営業1人当たりの売り上げが高いので、効率の観点でまずはそこから攻めようということでした。またコロナ以降は、足元の収益改善に注力してきた中で、自分たちが勝てる領域を見極めて勝負してきたという経緯があります。

ただ、アルバイト求人広告の市場全体で見ると、いわゆる大手企業のカテゴリに属さない企業が約7割を占めています。したがって今後、この大手企業以外の層へいかに攻め入るかが、非連続な成長に向けての一番の課題だと捉えています。

リブセンスは全国規模の営業網を持たない。その代わりに、同社独自の“掲載無料の採用課金制”というビジネスモデルを武器に持つ。顧客企業にとって初期の導入ハードルが低いのが特徴だ。

土田全国各地に営業拠点を置くのは難しい。だからこそ競合にはない「採用課金制」を活かし、営業コストを抑えたプル型マーケティングで大手企業以外の層の開拓を進めるつもりです。そのうえで採算の取れる営業の仕組みを模索中ですね。

アルバイト求人広告の市場は、既に成熟期に入っているようにも見える。確かにリブセンスの“採用課金制”は画期的ではあるものの、正社員領域を含む求人業界全体で見れば、アルバイトという採用単価の低い市場に導入するのはハードルも高い。

それでもリブセンスが、この市場でのシェア拡大にこだわるのはなぜか。その理由は、単なる数字の追求とは一線を画すところにありそうだ。

土田確かに『マッハバイト』の売上は、当社全体の6割以上を占めるまでに成長しました。ただ、業界トータルで見るとまだわずか数%のシェアしかないんです。だから今は、2026年までに目指すべき売上高の目標ラインを明確に置き、業界シェアも大幅に拡大していきたいと考えています。

もちろん、営業としてシェアを伸ばしたいというシンプルな思いはあります。でも、私たちが本当に目指すゴールは、そこではないんです。シェア拡大はあくまで通過点に過ぎません。

私たちの真のミッションは「バイトを変える。日本が変わる。」というもの。2021年に『マッハバイト』が掲げたテーマなんです。

企業にとってアルバイトとは、「安価な労働力」「いつでも解雇できる存在」という扱いになりがちだ。一方でアルバイトの側にも、「正社員になる方法が分からない」「正社員になれるとは思えない」といった閉塞感を抱える人が少なくない。アルバイト先に将来の希望を見出せずにいる。

土田そんな人たちの働き方や価値観を変えていきたい。前向きな変化を生み出していく。それこそが、私たちの役目だと思うんです。

ただ、現状の数%のシェアでは、社会に対するインパクトには限りがある。だからこそ2026年には、目標とする市場シェアを担うプレーヤーになろうと決めた。そこを目指して邁進しているんです。

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「給与が上がっていかない」。
そんなアルバイトの働き方を変えたい

日本では、非正規雇用者2,124万人のうち、パート・アルバイトが1,489万人と、約7割を占めている(総務省「労働力調査」2023年より)。雇用されて働く人約6,000万人の、4人に1人がアルバイト・パートで働いている状況だ。

そのような中で、アルバイトで働く人たちの「体験」を変えていくことは、社会にとって大きなインパクトとなるはずだ。具体的にどのように変えていこうとしているのか。

高橋例えば、「給与カーブ」の問題があります。給与カーブとは、給与を年齢別、もしくは勤続年数別に並べた時にできるカーブのことを指します。正社員や契約社員の給与カーブは、年齢が上がるにつれて給与が多くなり、50歳代前半辺りをピークに定年へ向けて下がっていくカーブを描きます。

でも、アルバイト・パートはカーブではなく平坦なんですね。つまり、数値から言えることは何年働いても給与が上がっていっていないということです。

その理由の大きなものとして、アルバイトには「経験者」という概念が薄いことがあると考えています。

高橋氏は続ける。仮にA社のコンビニで数年働き、レジ打ち・レジ締めや棚卸しのスキルを身につけたアルバイト経験者がいたとする。しかしコンビニB社に転職する際、その経験が適切に評価されることはあまりない。未経験者と同じく研修から(時給含む)という扱いを受けてしまいがちだ。

高橋いくら経験を積んでスキルを高めても、アルバイトという働き方では、それが給与に反映されない。でも、私たち求人媒体の立場なら、ユーザーのキャリアを可視化し、適切な評価につなげられるのではないか。そんな仮説を持っています。

いま当たり前とされているアルバイトの働き方それ自体に疑問を呈し、これからの時代にふさわしい“あたりまえ”を考え、デザインしていく。それこそが『マッハバイト』、ひいてはリブセンスのミッションだと考え、本気で取り組んでいこうとしています。

そう語る高橋氏は、「これってリブセンスっぽいですよね」と付け加えた。

確かに、世の中にない「あたりまえ」を生み出すチャレンジ精神は、リブセンスの企業文化そのものだろう。今はその“新しいあたりまえ”を模索し、実現に向けた基盤を築くフェーズにある。高橋氏の言葉からは、その決意がひしひしと伝わってくる。

日本の働き方を変え、誰もがやりがいを持って働ける社会を実現する。その入口に立とうとしている、リブセンスの『マッハバイト』。同社のビジョンを体現する、野心的な取り組みだと言えそうだ。

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事業創出の意義とは、「あたりまえ」を発明すること

あたりまえを、発明しよう。

リブセンスは、この言葉を会社のビジョンに掲げ、ここまで歩んできた。しかし、「あたりまえを発明できたか」と問われれば、社長の村上氏をはじめ、経営陣は口をそろえて「まだまだ」と言うのだという。

高橋リブセンスはこれまで数々の事業を創出し、世の中にそれまでなかったもの、新しいものを生み出してきました。でもそれだけでは「あたりまえを発明した」ことにはならないんですね。生み出したサービスが多くの人に使われて初めて「あたりまえを発明した」ことになる。

その意味で、リブセンスは掲げているビジョンを祖業のアルバイト事業ですら実現できていないといえる。厳しい自己評価に見えるかもしれないが、そのぶんビジョン実現への“渇望感”が、経営層からメンバーのレイヤーまで満ちている。

今のリブセンスを「すでに完成した会社」と見るか、「まだまだチャレンジの余地がある会社」と見るか。その答えは自明と言えるだろう。

土田半期に1回の全社ミーティングで、村上から時価総額をベースにした大きな目標が伝えられたんですよ。正直驚きました。今までそんな発言は一度もなかったし、メンバーもそこまで大きな数字は意識していなかったと思うので。

高橋僕が入社した2015年当時は、時価総額をそこまで気にしていませんでした。経営陣の1人に「時価総額経営はしないのか」と聞いたら「本質的じゃないから」と一蹴されたぐらいです。

それが今や、村上自ら目標達成に向けて何をすべきかを真剣に言語化している。

学生起業以来、マネジメントを誰からも教わることなく、手探りで会社をつくってきた。様々な失敗と挫折を乗り越えて、今なお変わり続けようとしている。

経営者の中でも、「自分のやり方を変えられない人」と「変えられる人」がいると思いますが、村上は間違いなく後者ですね。正しいと思ってやっていたことでも、課題を指摘されれば、真摯に受け止め「変えなくちゃ」と即応する。

だからこそ、僕ら社員も「一緒に会社を変えていこう」と心から思えるんです。

リブセンスは、新しい働き方の“あたりまえ”を生み出そうとしている。

その象徴が『マッハバイト』だ。単なる求人メディアに留まらず、アルバイトで働く人々のキャリアと可能性を切り拓くプラットフォームへと進化を遂げようとしている。

この挑戦を支えるのは、メンバー一人ひとりが高い志を持ち、自律的に行動する組織力だ。高橋氏や土田氏のようなリーダーが、領域の垣根を越えてメンバーの成長を後押しし、全社でビジョンと目的を共有する文化をつくってきた。

リブセンスはいま、時代の求める新たな価値を創造すべく、更なる変革の渦中にある。上場後も、常に自らの殻を破り、進化し続ける集団でありたいと願っているのだ。

「あたりまえを、発明しよう。」

個人の自己実現と、事業を通じた社会の課題解決の同時達成。その理想に向かって、同社は新しい時代を切り拓く先駆者として歩みを進めている。

こちらの記事は2024年04月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

畑邊 康浩

写真

藤田 慎一郎

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