“知られざるブルーオーシャン”教育市場の勝算──ディズニーと手を組み、米国進出するライフイズテックの経営戦略に迫る
Sponsored「教育事業は、スケーラブルな事業成長が望めるビジネスではない」といったイメージを抱いている読者も少なくないだろう。また、同じ領域で活動するNPOが多いゆえに、「奉仕性が強い領域である」という見方もされがちだ。
そんななか、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社や株式会社ジャフコといった企業から累計約10億円の資金を調達し、ビジネスを急拡大しているのが、ライフイズテック株式会社だ。中高生向けのIT・プログラミング教育サービス「Life is Tech ! 」をはじめとした教育事業を展開している。
2019年8月には、ディズニーキャラクターとともにRPGゲームのような感覚でプログラミングが学べるオンライン教材「テクノロジア魔法学校」がアメリカ進出を果たす。ディズニーという強力なパートナーを得て、グローバル市場へ挑戦する彼らは、一体どのような展望を描いているのか。
本記事ではライフイズテック代表取締役CEO・水野雄介氏と、Life is Tech USA, Inc. CEO 兼 ライフイズテック執行役員 グローバル事業部事業部長・宮川聡氏にインタビュー。アメリカ進出までの軌跡を掘り下げ、「ラーニング・エクスペリエンス(LX)」の追求を重視し、教育事業でグローバル市場に挑む同社の勝算を明らかにする。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「当たり前に使われているサービスがない」教育市場はブルーオーシャン
2010年にスタートした「Life is Tech !」は、国内最大規模のIT・プログラミングを学習できるキャンプ・スクールだ。現在は年間約1万人が参加。ターゲットは中学生や高校生で、iPhoneアプリやWEB、ゲーム開発などのプログラミングをはじめ、最新のIT技術を学ぶことができる。
そして、2018年4月にローンチした「テクノロジア魔法学校」は、あらゆる年齢層のプログラミング初心者にとって利用しやすいサービス設計で人気を博している。「ディズニーはエンターテインメントとテクノロジーの最高峰の企業であり、この上ないパートナーだ」と水野氏は話す。今後はアメリカを起点に、さらなるグローバル展開を進めていく予定だ。
テクノロジア魔法学校の土台となったのは、プログラミング教育を受ける機会の格差を是正するために開発されたオンライン学習サービス「MOZER」だ。
ゲームのようにプログラミング学習を楽しめるMOZERの開発に際し、ライフイズテックは、元株式会社スクウェア・エニックスCTOの橋本善久氏を開発部門のトップに迎える。『FINAL FANTASY XIV』をはじめとしたRPGゲームの制作に携わっていた経験を持つ同氏が、ゲームデザインの知見をサービスに落とし込んでいった。
これらの学習サービスの提供を経て、水野氏は「あまり気づかれていないだけで、教育事業は圧倒的な可能性を秘めている領域だ」と力説する。
水野そもそも、ジャフコのような最大規模のVCなどから、累計10億円もの出資を受けている背景を考えてみてほしいです。スケーラブルな領域で、明るい展望を描けていない企業が、それだけのお金を集められるはずがありませんよね。
たとえばアメリカでは、プログラミング教育の市場だけで、日本の約10倍の規模だとも言われています。この市場は、日本でもこれからどんどん伸びていきますよ。
水野氏は日本のオンライン教育市場において、「誰もが使っているサービスがない。なぜなら、使いやすいサービスが存在しないからだ」と指摘する。
水野たとえばSNSなら、FacebookやTwitterが使われているのは、毎日使いたくなるエクスペリエンスを実現しているからです。教育領域はそうした使いやすいサービスが未登場で、だからこそブルーオーシャンなんです。
みんな“ゲーミフィケーション止まり”だった──「戦える」と確信できたシリコンバレー訪問
テクノロジア魔法学校がアメリカへ進出するきっかけとなったのは、2016年11月に宮川氏が行った、シリコンバレーへの視察だ。MOZERを持参して40社ほどの企業に訪問したり、テキサスの小学校で実験的に使ってもらったりするなかで、宮川氏は「戦える」と確信を抱く。さらに、プログラミング教育サービスのマーケットがすでに形成されていたことも後押しになった。
宮川ディズニーの力を借りられなかった2016年11月当時ですら、現地の人々から「MOZERはすごいサービスだ」と言ってもらえたし、子どもたちの反応もとても良かった。「教育」に「エンタメ」をかけ算し、教育格差の是正に挑む強力なプレイヤーも海外にはいません。どれも「成績に応じてメダルがもらえる」といった簡易なゲーミフィケーションの導入で学習を促すのに留まっているサービスばかりなんです。
その後、2017年にディズニーの日本法人から声がかかり、テクノロジア魔法学校につながっていくのだが、ライセンス契約には多大な苦労を要した。ディズニーキャラクターが登場するシーンについては企画から許諾を取り、3年をかけて開発・実装を行った。
アメリカ進出に際するライセンス契約にも1年かかったという。着手すべきことも不明瞭な状況から、条件の策定に半年、契約書が届いてから合意までに半年をかけた。
宮川海外では、ビザの取得や取引先の連絡先入手といった些細な作業ですら、日本とは比べ物にならないレベルの苦労を要します。問題を1つ見つけて調べると、付随して別の問題が5つくらい見つかるイメージ。でも、一つひとつの課題を自分たちの頭で考えて解決していく仕事だからこそ、やりきったときの充足感は他では味わえないくらい強いです。
「事業で日本を変える」ための道筋に、「教育」が見えた
プログラミングが好きで、大学時代は工学部に所属していた宮川氏。「海外で活躍する経営者になる」夢を抱き、新卒で東京海上日動火災保険へ入社した。「経営者としての基盤を築くため、大規模で多くの役割を担える金融機関に入ろう」と考えたのだ。
4年間、法人営業に従事したのち、会社の支援制度を利用してスタンフォード大学経営大学院へと留学。そこで目にしたのは、楽しそうに自分の仕事について語る人々だった。「日本もこういう社会にしたい」と思い、日本を変えるための道を模索するなかで「教育」に関心を持った。
帰国後はアメリカ、ヨーロッパ、アジアを中心とした海外事業の経営戦略に携わっていたが、転職先として教育領域に挑むスタートアップを探していたところ、ライフイズテックに行き着き、2016年の4月にジョイン。水野氏と中学・高校時代の同級生だった宮川氏は、水野氏の「海外事業に挑戦できる人を募集しています」というFacebookの投稿を見て連絡し、数週間後には入社を決めた。
宮川もともと2009年に水野から「起業するから一緒にやろう」と連絡をもらっていたのですが、当時は前職でやりたかったことが道半ばだったので断ったんです。
水野の投稿を見て、「今なら手伝えるよ」と連絡し、すぐに入社を決めました。いわゆる“イケてる”スタートアップで、海外を目指している企業はほとんどなく、自分が関心を持っていた教育事業でもあったので、「この会社しかない」と即決でしたね。
「ゲームより楽しい学習体験をつくれば良い」徹底したラーニング・エクスペリエンスの追求
ライフイズテックは、教育・ITサービスを提供するうえで、「ラーニング・エクスペリエンス(LX)」を何よりも重視している。LXとは、ライフイズテックが独自に定義する言葉であり、「ユーザーが夢中になって学べる体験」を指す。
キャンプでの講師の立ち位置から、生徒が使う机の角度まで、すべてがLXの追求の観点のもとで整備されている。水野氏は「机の角度が5度変わるだけでもエクスペリエンスが悪化し、学ぶモチベーションが阻害されてしまう」と話す。あらゆるサービスにおいて、どうすればユーザーが積極的に学びたくなるのかを考え、プロダクトに落とし込んでいるのだ。
エンターテインメントとテクノロジーの掛け合わせを重視しているのも、LXを追求する観点からだ。テクノロジア魔法学校は、「ゲーム以上にゲーム性のある教育教材をつくろう」といったコンセプトからスタートしている。子どもたちが夢中で『パズドラ』をプレイするように、楽しんで学習できる環境をつくろうとしているのだ。
しかし、「簡易なゲーミフィケーションでは、日頃から本格的なゲームを楽しんでいる子どもにとっては物足りない」と水野氏は指摘する。メインターゲットである中学生・高校生は、その傾向が特に強い。
また、一般的なeラーニングサービスの修了率が著しく低い状況もある。水野氏はそれらもすべて、LXの追求で解決できると考えている。
水野多くの学生の本音は、「宿題よりもゲームをやりたい」だと思います。ゲームの方が、自分が費やした時間に対して得られる楽しさ、つまり「体験の価値」が勝っている状態だからです。
だから、学習をゲームよりも楽しいものにしてしまえば、誰もが能動的にどんどん学んでいける。強制するのではなく、「やりたくてやる」状態をつくり出すことを徹底的に追求しているんですよ。たとえば、テクノロジア魔法学校はディテールにもこだわっていて、登場するキャラクターの声は第一線で活躍する声優の方たちを当然アサインしている。すべては、LXを追求するためです。
水野氏はなぜ、それほどまでにLXを重視するのか。その根底には、非常勤講師として高校で物理を教えていた経験がある。テストで高い偏差値を記録できる人や、スポーツが得意な人ばかりが持ち上げられがちな日本の教育環境に接し、大きな課題感を覚えたという。
水野当時、男子校で20人のクラス担任をしていたのですが、昼休みに話している様子を見ていると、ITの話をしている子が10人くらいいたんです。しかし、誰もがYouTubeやパズドラを楽しんでいる「消費者としての話」しかしていなかった。
本当はITに興味があって、自分がつくる側になりたい気持ちがあっても、つくれる環境がないし、誰からもその挑戦を賞賛されない雰囲気でした。プロ野球選手に憧れる子どもたちがたくさんいるように、クリエイターやエンジニア、起業家に憧れる文化をつくり出せれば、彼らの未来は良い方に変わると思ったんです。
IT教育に本気で取り組んでいるプレイヤーも見当たらなかったので、「価値あるサービスになる」と確信し、会社をつくりました。
海外で戦えるプロダクトを備えた、唯一無二のスタートアップ
ビジョンとして「21世紀の教育変革」、ミッションに「中学生・高校生ひとり一人の可能性を最大限伸ばす」を掲げるライフイズテック。今後、中高生の可能性を伸ばしていくために、プログラミング教育以外の領域にも挑戦していく予定だ。
2020年以降はまず、「学校自体を変えること」に挑む 。既存のビジネスモデルにとらわれない新しい学校をつくり出し、その仕組みを広げていくことで、教育の未来を変えることを志向するという。
また、アメリカを皮切りに、ガーナなど諸外国へのグローバル展開も予定している。世界の教育格差は、実は日本以上に激しい場所が多い。「アメリカもさまざまな問題を抱えており、教育格差は日本とは比較にならない」と宮川氏は話す。
宮川アメリカで日本の教育について話していると、「とても水準が高い」とよく言われます。実はアメリカですら「良い教師を雇えないから、化学の授業がない」といったケースは珍しくありません。良い教育が得られる人たちと、そうでない人たちの断絶は深い。教育事業を通じてそうした社会状況を変革し、世界をより良くしていきたい。中高生ひとり一人の可能性を最大化するために仕事をし、彼らの可能性を広げている実感を持てることが、今の仕事のやりがいです。
メルカリやスマートニュースなどの事例もあるが、日本のスタートアップがグローバル市場に挑戦する例はまだ少ない。そういった背景のなか、「グローバルで『教育』という価値を届けることに挑戦できるスタートアップは貴重だ」と宮川氏は話す。
宮川海外で戦うためには、そもそも勝ち筋のあるプロダクトを持っていなければいけないし、相応の資金力も求められます。両者を備える弊社の環境はレアじゃないでしょうか。ビジネスパーソンとしても成長環境であることを感じるし、僕たちにしか提供できない機会だと自負しています。
水野氏は理想のチームとして、漫画『ONE PIECE』の“麦わらの一味”を挙げる。株式会社SCRAPで『リアル脱出ゲーム』のディレクターを務めた経験を持つCOO小森勇太氏や、先述した橋本氏など、さまざまなバックボーンを持つ優秀なメンバーが揃う同社。加えて、「0→1の立ち上げもできるし、1→10で伸ばす経験も積める」ことの魅力を宮川氏は語る。
宮川多種多様な領域で活躍してきた優秀なメンバーがおり、あらゆるフェーズの仕事術が身につく環境です。大企業に10年ほど勤務した僕からも、組織の動かし方やマネジメント術、成果を出す術も伝えられるでしょう。
弊社の社員に求める素養があるとすれば、「教育の未来を変えたい」という強い想いです。僕たちは、共通のマインドで働いているからこそ、チームとして深い絆を有せている。スキルはなくても大丈夫ですが、熱い想いを持った人に来てほしいですね。
水野ミッション、ビジョンへの共感度は高くあってほしいですね。ライフイズテックのメンバーは、日々仕事をしている理由を聞かれると、「子どもたちの未来のため」といった言葉が自然に出てくる人たちの集まりです。
その上で、論理的思考力を備えた優秀な人であってほしい。僕たちが実現しようとする目標のハードルが高いゆえに、求められる能力も相応のものになるんです。
ふたりの話から、「教育事業はスケーラブルでなく、お金にならない」といった言説は誤りであり、大きなポテンシャルを備えた領域だと分かった。また、ライフイズテックが事業の可能性と、教育を変革する強い熱意の両輪を備えた企業であることも伝わってくる。
水野氏が言及したように、「未来を変える」ために求められるレベルは高いが、魅力的な成長環境と言えるだろう。ハードな環境での挑戦を臨む読者は、ライフイズテックの一員として船に乗り込んでみてはいかがだろうか。日本発の「教育船団」は、まさに海外へと漕ぎ出すタイミングだ。見据える世界は、圧倒的に広い。
ライフイズテック に興味がある方へ
こちらの記事は2019年08月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
校閲
佐々木 将史
1983年生まれ。保育・幼児教育の出版社に10年勤め、’17に滋賀へ移住。フリーの編集者、Webマーケターとして活動を開始。保育・福祉をベースにしつつ、さまざまな領域での情報発信や、社会の課題を解決するためのテクノロジーの導入に取り組んでいる。関心のあるキーワードは、PR(Public Relations)、ストーリーテリング、家族。
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