日本発・グローバル規模で成長を続けるスタートアップ企業5選

かつてのトヨタやソニーのように、海外市場を席巻するような事業展開を狙うベンチャーやスタートアップが増えている。

その理由は、ITの急速な発展によって、ひと昔前と比べてグローバル市場へ進出しやすい環境になったからではないだろうか。さらに、少子高齢化によってこの先縮小していくであろう国内市場に対して、グローバル市場、とくにアジア新興国の市場は拡大し続けている。「生き残るためにも、日本よりもはるかに大きなマーケットで勝負がしたい」、企業がこのように考えるのはごく自然なことだろう。

では、具体的にベンチャー、スタートアップとしてどのように海外展開を果たしていくべきなのか。すでに先行している企業たちの事例を基に学び、貴社の海外展開に役立ててほしい。

  • TEXT BY KOTOMI MIZUMOTO
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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台湾の半導体メーカーとタッグを組み、現場DXを促進──ソルブレイン

『グロースマーケティング』を武器にデータドリブンで顧客企業の事業成長を生み出すソルブレイン。FastGrowでは度々その事業モデルを紹介してきたが、同社の進化は止まることを知らない。

昨今では『Chip to Cloud』なるソリューションを用いて、ハードウェアデバイス(チップ)からクラウド(インターネット上のデータセンター)へデータを収集、送信、処理する仕組みを開発し、『グロースマーケティング』の提供価値を強化。これにより、顧客企業は自社の事業上の意思決定や予測を精度高く行うことが可能となり、結果として持続的な事業成長を実現できるようになる。

そのソリューション提供の際たる例が、海外は台湾の老舗半導体メーカー・VIA Technologiesとの提携だろう。

PJの詳細は守秘義務のため開示できないが、このコラボレーションはとある国内大手企業向けの現場DXにおいて生まれた。具体的には、ソルブレインがオンライン / オフラインを問わず顧客の現場データを吸い上げ、生産性向上におけるボトルネックを抽出し、解決策を実行していくといったソリューション提供の流れの中で、本コラボレーションに対するニーズが顕在化する。

本PJの実施にあたり最適な半導体デバイスを探す中、ソルブレインは当初国内メーカーに相談を持ちかけるも、同社の開発方針に適う企業は見つからなかった。そこでソルブレインは海外に目を向け、台湾・VIA Technologiesの開発クオリティや連携スタンスならスピーディに事業連携できると判断し、提携を決意。

両社はさっそく相互の開発チームをダイレクトに繋ぎ、連携をとりながら開発を推進。時差もほぼ発生せずスピード感を持って開発が進み、描いていた通りの課題解決を顧客に提供できたという。VIA Technologiesにしても、自社のプロダクトを活用したソリューションの絵を描けるようなパートナーを探していたということで、両社の出会いは理想のマッチングとなった。

半導体デバイスを用いて現場情報をデータ化・クラウドに集約する『Chip to Cloud』は、DXが進んでいないリアル産業においては必要不可欠な存在となりうる。今回の実績を皮切りに、今後も多方面に進出していくことが期待されるだろう。

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創業当初からのグローバルな組織構築で爆発的に成長──ジョーシス

続いてはジョーシス。ITデバイスとSaaSの統合管理クラウドを運営する多国籍企業であり、ラクスル株式会社の取締役会長・松本恭攝氏が2021年に立ち上げたスタートアップだ。

情報システム部門のアナログ業務を自動化し、さまざまなツールやデバイスに分散している業務を一元化することで、ノンコア業務の効率化とセキュリティレベル向上をサポートする。

2023年9月にはシリーズBで135億円の資金調達を実施し、累計資金調達額は179億円にも及ぶ。この資金調達によって、エンタープライズ事業の強化および北米やAPACなどグローバルでの事業展開を強化していく。

こうしたジョーシスの拡大成長の要因とは一体──。

その理由の一つが、創業当初から力を入れているグローバルな組織構築だ。

ジョーシスは立ち上げ段階から日本発のグローバルソフトウェア企業を目指してきた。(参考:「ジョーシスの今とグローバル展開」by Yasukane Matsumoto)

現在は米国、インド、日本、シンガポール、ベトナムに100人以上の従業員を抱えており、人材流動の激しいシビアなグローバル市場で経験を積んできたビジネスパーソンたちが在籍している。

このジョーシスのグローバルな組織体制を象徴するのがテクノロジーチームである。実は、ジョーシスの全社員の7割はインド人で、開発の拠点もインドに置いている

松本氏は日本国内のエンジニア人材不足の課題を乗り切るため、2020年7月にラクスルの開発拠点をインドに設けた。一般的に日本企業の多くは親日のベトナムに開発の発注をすることが多いなか、インドを選んだのは「インドのテック人材はシリコンバレーのテックジャイアントや大企業で働いた経験があり、マネジメント経験のある人材が豊富だから」とのこと。(参考:『「インド「で」日本向けSaaSを開発して成功モデルに―、ラクスル松本代表に聞く』)

ハイエンドな開発にも対応できるインドに開発拠点をつくることで、高い技術力を持った人材を確保する。また、松本氏は「インドはアメリカのゲートウェイであり、インドに入るとアメリカは近づくのではと思っています」と考えており、グローバル展開するには欠かせない体制だと言えるだろう。

今後はポストコロナ時代のグローバル・ビジネスの進化を支える業務システムの構築に専念し、2025年末までに100ヶ国以上でITアウトソーシング・サービスを提供することを目指す。「Redefining IT operations for new-age businesses, globally.(=新時代のビジネスに向けて、ITオペレーションをグローバルに再定義する)」をミッションに掲げ、これからの世界的なインフラを作るために、ジョーシスの強みを活かした多国籍なチームで世界中でサービスを展開し続ける。

創業当初からグローバル規模の企業を目指して構築してきた多国籍な組織体制。これが同社の急成長に寄与してきたことは間違いないはずだ。世界で活躍したいのであれば、まずは自ら世界に目を向けること。このマインドこそグローバル規模で成長を続けるために必要なのであろう。

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国や時代を問わない本質的な「コミュニティ」の課題と向き合う──コミューン

コミューンは、「あらゆる組織とひとが融け合う未来をつくる」をビジョンに掲げ、企業向けのオンラインコミュニティ運営をサポートするコミュニティサクセスプラットフォーム『Commune(コミューン)』と、カスタマーサクセスチームの業務の生産性向上を実現する『SuccessHub(サクセスハブ)』を提供するスタートアップだ。

同社のプロダクト『Commune』は自社に最適なコミュニティをノーコードで構築できるプラットフォーム。コミュニティデータを活用して企業とユーザーのコミュニケーションを個別最適化し、良い相互作用や共創関係を生むことで事業の成長を後押しする。

2022年春からはアメリカにて『Commune』のサービス提供を開始する。日本国内では競合こそいるものの、標準的なCRM(顧客関係管理)ツールの立ち位置を獲得しているといえる。しかし、世界に目を向けると話は変わる。国内の競合以上に『Commune』を脅かす存在となりうる外資系プロダクトが多く存在しており、これに危機感を覚えたコミューンはグローバル市場により一層力をいれた。

結果、プロダクトリリースから5年で日本を代表する大手企業からスタートアップ、さらには自治体や教育機関に選ばれ、海外企業もふくめて数百社に活用されている。

コミュニティサクセスプラットフォームとして国内で安定したシェアを獲得するも、現状のポジションに甘んずることなく、生き残りをかけて、世界への挑戦を決意したコミューン。この決断が、日本だけでなく海外の企業にも選ばれるサービスへ成長させた大きな転機となり、今後のグローバルスタンダード獲得への第一歩となることを期待したい。

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温室効果ガスを可視化し、アジアの脱炭素経営支援をリード──ゼロボード

SDGsの取り組みが重要視される昨今、グローバル市場では2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするネットゼロを目指す流れによって、産業構造の急速な変革が迫られている。

目まぐるしいスピードでこれまでの産業の在り方を変えていかなければならないなか、企業の脱炭素経営に向けた取り組みを支援するのが2021年に設立されたスタートアップ、ゼロボードだ。

ゼロボードが提供する『zeroboard(ゼロボード)』は、GHG(温室効果ガス)排出量算定・開示・削減を支援するソリューション。専門的な知識がなくても、活動量を入力するだけでGHG(温室効果ガス)の排出量を算定でき、各種環境法令に対応したレポート・報告書に掲載するためのデータを出力できる。

「Zeroboard Sustainability Platform」構想の図示(同社コーポレートサイトから引用)

2023年にはタイに本社を置くTHS Innovationsと脱炭素経営支援のパートナーシップ覚書を締結。今後はタイの日系企業のみならず現地法人に対しても脱炭素経営の支援を拡大し、製造業のサプライチェーンが集まる工業国であるタイでのカーボンニュートラル化を後押しする。2024年1月時点でタイにおける事業パートナー数が20社以上に拡大し、国境を越えた協働を推し進めている最中だ。

今後は国内外のサービス導入企業をさらに増やすことで、アジア全土での脱炭素経営支援をリードすることを目指す。最終的な構想は「サステナビリティ経営全般のサポートを行う総合的なプラットフォームになること」である(オリックス「気候テック・スタートアップ「ゼロボード」が起こす日本企業の脱炭素経営革命」より引用)。日本から世界へエコシステムの輪を広げることに挑戦していく。

これまで「脱炭素経営」に対する効率的なソリューションを持っていなかった企業にとって、『zeroboard』はまさに革命的なプロダクトだ。日本やアジアのみならず今や世界中の企業が同じ課題を抱えている。環境問題への関心が世界的に高まり続けるなか、ゼロボードが世界を代表する日本企業となる日はそう遠くないはずだ。

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BPaaSモデルで国内ブランド企業のアジア市場進出を後押し──AnyMind Group

AnyMInd Groupは2016年にシンガポールにて創業し、東南アジア・中東地域を中心に事業を展開するテクノロジーカンパニーだ。「Make Every Business Borderless(急成長するアジア市場のビジネスインフラへ)」をミッションに掲げ、ブランドコマース事業とパートナーグロース事業を提供する。

ブランド企業や個人向けのECブランドの企画から運用を一括でサポートするプラットフォームの開発や、自社プラットフォームを活用したブランド成長支援で事業を展開。ソフトウェアとオペレーション支援を組み合わせた「BPaaS(Business Process as a Service)」モデルで、企業の生産性向上を手助けする。

FastGrowカンファレンス2024に登壇時のスライド

2024年3月、アジア全域への越境EC展開をサポートするBPaaSモデル「グローバルECソリューション」の提供を開始。コロナ禍の影響で越境ECが注目され、伸び続けるアジアのEC市場への進出を試みるブランド企業が増加。しかし、海外への輸出は法律や規制への対応で手続きが複雑だったり、現地法人とのつながりが必要となったりとハードルが高く、苦戦する企業が多い。そこで必要とされるのが「グローバルECソリューション」だ。

ECマネジメントプラットフォーム『AnyX(エニーエックス)』や海外配送自動化プラットフォーム『AnyLogi(エニーロジ)』をはじめとしたプラットフォームと、従来のECサイト・モールの運営やマーケティング支援に加え、AnyMInd Groupのローカルネットワークを活かした体制で、輸入対応を含む現地での商品流通業務まで包括的にサポートする。

世界的に見ても高い成長を続けるアジアのマーケット。CEOの十河氏は2024年2月に実施したFastGrow Conferenceに登壇した際、「今後もビジネスの中心はアジアになる」とし、韓国を筆頭にグローバル展開している企業が増えていることから、「アジアの受け皿になりたい」と今後の展望を語った。

注目度が高まる越境ECの課題を、素早くキャッチし事業に落とし込むことで急速な成長を遂げたAnyMInd Group。今回のサービス提供を皮切りに、国内のみならずアジアでの存在感を強めていくことは間違いない。

こちらの記事は2024年04月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

水元 琴美

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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