いずれバーティカルSaaSがホリゾンタルSaaSを凌駕する!?──EC物流のロジレスと食品流通のクロスマートが確信する産業DXの未来
SponsoredバーティカルSaaSと聞いて、どんな印象を抱くだろう──。
会計クラウドサービスやビジネスチャットツールなど、業界問わず利用されるホリゾンタルSaaSに対し、ある特定の業界課題の解決に特化したこのバーティカルSaaS。特にニッチな業界となると、「TAMが小さくない?」「そこに活路はあるの?」といったネガティブなイメージを持つ読者もいるかもしれない。
しかし、「そう思われているうちがチャンス」としたり顔で業界変革を目論む起業家たちが今、我々の目の前にいる。
彼らは一見、読者には馴染みの薄い“EC物流”と“食品流通”という領域で、バーティカルSaaSを展開するスタートアップ経営者だ。そう、ロジレス代表・足立 直之氏とクロスマート代表・寺田 佳史氏である。
ロジレスは、EC事業者と倉庫事業者を繋ぐシステムを一元化し、受注から出荷まで、ほぼ完全な自動出荷の実現を提供する『LOGILESS』を展開。現在、EC事業者が約800社、倉庫事業者は約150社が導入。EC物流業界の変革に取り組む急成長スタートアップである。
一方、クロスマートは飲食店と卸売業者の受発注を一元管理するプロダクト『クロスオーダー』を提供。ロジレスと同じく、従来のアナログな受発注業務をデジタル化によって効率化。全国35,000店舗の飲食店がアクティブに活用している。同社は直近2023年1月にシリーズBラウンドで5.3億円の資金調達をしたばかりで、(参考)こちらも飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
彼らは、「我々が進めている受発注のインフラ化は、初手に過ぎない。本当の事業機会はその先にある」と口をそろえる。その様は、まるで自分たちにしか見えていない財宝の在処をほのめかすようだ。
本記事では、バーティカルSaaSで業界のDXを担う両社の対談から、業界を変革するスタートアップとしての心得や、そこにある魅力的な事業機会について話をうかがった。
- TEXT BY YUKO YAMADA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
複数のステークホルダーの課題を同時解決。
2社に共通するプロダクト構想
これまで何回かに渡ってFastGrowの取材に登場している両社だが、今回初の対談が実現した。クロスマートの寺田氏は、ロジレスが手がける事業の着眼点や、複数のステークホルダーを意識したプロダクトづくりに「勝手ながら親近感を抱いていた」と親しみを込めて口を開く。
寺田ロジレスさんのインタビュー記事は熟読しており、足立さんのことはよく存じています。僕らクロスマートが手掛ける食品流通と同じく、EC物流という領域も普段の生活ではなかなか接する機会がありません。しかし、課題多き領域であることは間違いない。そこに対して取り組む姿勢に、どこか他人事ではない感覚を抱いていたんです。
中でも、あるインタビュー記事の中で、「ミッション・バリューが定まらず組織的にも一枚岩になりにくかった」「採用が苦しかった」と赤裸々に語られる足立さんの様子を見て、すごく素直で正直な方なんだろうなと感じていました。
少しはにかんだ様子を見せる足立氏は、クロスマート寺田氏に対する印象を次のように話す。
足立泥臭いことを厭わず、「顧客目線を獲得するために、現場の声に耳を傾ける」というスタンスで、100人以上の飲食店経営者や卸売業者にヒアリングをされているとクロスマートさんのインタビュー記事で拝見しました。
その中で印象に残っているのが、顧客から良質なインプットを得るために、飲食店の方と友達になるという企業姿勢です。現場に深く入り込んでいるという自信がなければこうした発言はできないはず。良いサービスをつくるために現場にコミットされている姿は率直に素晴らしいなと感じています。
互いに称賛し合う二人。領域は違えど、どこか戦友にでもあったかの様な雰囲気を醸し出す。事実、このロジレスとクロスマートには明確な共通点が存在する。それは、ワンプロダクトで複数のステークホルダーに向き合っているという点だ。
ロジレスであれば、EC事業者と倉庫事業者。クロスマートであれば、飲食店と卸売業者。それぞれ業界に特化したバーティカル(特定の業界に特化した)SaaSとして、2つの顧客の課題を同時に解決するという難度の高いソリューションを提供している。
「バーティカルがゆえ、業界の慣習や商習慣に合わせてベストなプロダクトがつくれる。その使い勝手の良さから、チャーンレート(解約率)は極めて低い。これはホリゾンタル(業種に関係なく、特定の業務に使われる)SaaSには真似できないことであり、ここに僕らの勝ち筋がある」と彼らは言う。
驚くべきことに、このロジレスとクロスマート、それぞれが現在進めている“受発注のインフラ化”は、あくまで両社にとって事業プランにおけるフェーズ1に過ぎないのだという。このフェーズ1でシェアを獲得できれば、フェーズ2、フェーズ3ではよりダイナミックな事業展開が可能だと自信をのぞかせる。
具体的には、クロスマートの場合、フェーズ1で培った卸売業者とのネットワークや受発注データを活かしたメーカーサンプリング事業を仕込んでいるとのこと。飲食店とも多数繋がっている同社であれば、流通網は既に確立しているため、実現もしやすい。
ロジレスも同様に、倉庫事業者と共に新たな事業創出を模索しているとのこと。その詳細は追って良きタイミングでお届けするが、確かに事業モデル上、フェーズ1で業界のインフラポジションを得てしまえば、その後は如何様にも事業を発展させることができる。ロジレスとクロスマートは、ホリゾンタルSaaSや他のバーティカルSaaSには成し得ない難度の高いプロダクト展開をする中で、その先に確かな事業機会を見据えていることが分かる。
そんな先々有望なビジョンを描く両社だが、フェーズ1で自社のプロダクトを業界のインフラとして普及させるべく、どんな取り組みをしているのだろうか。
特に、現場起点・顧客起点にうるさいという両社である。この後どんな生々しい現場トークが繰り広げられるのか、楽しみにみていきたい。
倉庫側1年半、EC事業側に1年半。
顧客解像度を上げるべく現場に常駐
早速話題は、今回の対談の軸ともなる“両社のプロダクトづくり”へと移っていく。スタートアップにおけるプロダクトづくりでは、しばしば「顧客ドリブン」「現場ドリブン」といった言葉を耳にするが、ロジスレ・クロスマートにおいてはどうなのだろうか。
「そもそも、“顧客ドリブン”なプロダクトづくり以外に、他の◯◯ドリブンってあるんでしょうか?(笑)」と、口火を切ったのがロジレスの足立氏だ。
「アーリーフェーズのスタートアップが唯一、光明を見出せるとしたら、それは顧客の課題を解決できるプロダクトづくりしか考えられない」と主張する。そんなロジレスが展開する『LOGILESS』は、OMS(受注管理システム)とWMS(倉庫管理システム)の2つが一体化したシステムである。
もともとEC物流の業界では、注文や在庫情報を管理するOMSと、倉庫の入荷や出荷・在庫を管理するWMSは別々のシステムで開発・管理されることが多かった。つまり、ロジレスは“これまでの業界慣習にはない取り組み”を推し進めているのだ。
この構想に至ったきっかけは、足立氏の前職までの経験にある。もともと起業前は楽天でEC事業を手がけており、まさにこのOMSとWMSにおけるベストプラクティスを肌感で掴んでいたのだ。そしてその後、ロジレスの前身となる企業を立ち上げた際に、足立氏はカルチャーショックを受ける。世の中のEC物流に携わる事業者は、楽天在籍時にみた理想型とは全く異なり、極めてアナログかつ非効率な手段で日々の受注〜出荷業務を行っていることを目の当たりにするのだ。
「OMSとWMSを一元管理できれば、EC物流に携わるすべての人々がもっとスムーズにオペレーションを回せる様になるのでは…」。そう考えた足立氏は、楽天時代の同僚であったエンジニア・田中 稔之氏(ロジレスCTO)に声をかけ、2017年にロジレスを立ち上げる。
新卒で入社した楽天で、EC販売や在庫管理などの基礎を学んでいた足立氏と田中氏。しかし、実際にEC事業者(OMS側)と倉庫事業者(WMS側)が具体的にどんな課題を持っているのかまでは、創業当時は解像度高く掴めてはいなかった。そこで、よりリアルな現場の課題をその目で確かめるべく、直接現場に足を運んでいったのだ。
足立ロジレス創業当初は、倉庫事業者さんの現場に週2〜3回ほど、1日中お邪魔させていただいておりました。現場の方たちと一緒にピッキングや梱包作業をして、お昼ご飯も一緒に食べる。同じ時間を過ごすことで倉庫事業者さんと打ち解けていきながら、「今、どんなことに困っていますか?」「何が解決できたらラクになりますか?」と現場の声に耳を傾けていったんです。
そこで、倉庫事業者に向けてプロダクトが解決すべき課題の核を捉え、同じアクションをEC事業者側にも取っていった足立氏。そうして創業から約3年間、徹底した顧客理解に努めた。だが、創業から6年目となる今でも、現場を起点としたプロダクトづくりの姿勢は変わらない。
ロジレスでは、入社したメンバーは一定期間現場に入り、実際に倉庫業務を通して現場の理解を深めていくといったカルチャーがあるのだ。
足立僕らがあまりに「現場を見せてください」とせがむので(笑)、ある倉庫事業者さんが“ロジレス研修会”なるものをつくってくださったんです。ロジレスの新メンバーが直接現場に入って『LOGILESS』の使用感を確かめるだけでなく、実際に倉庫業務を体験して現場のリアルを肌で感じとる。今ではうちのカルチャーの一つになっています。
「現場作業ってこんなに大変なんだ」というリアルな体験まで経験しなければ、顧客の本質的な課題やニーズに気付くことはできません。そういった場を倉庫事業者さんの方からも進んで提供してくださることはとてもありがたいですよね。
クロスマートも同様、『クロスオーダー』立ち上げ時に現場の解像度に課題を感じていた。そこで、執行役員の1人が広島のある顧客先に行き、1ヶ月間常駐し現場を理解することに努めていたという。(参考)
寺田僕らは一点集中で取り組みましたが、ロジレスさんは“現場に入り込む”ということを習慣化し、会社のカルチャーにまで昇華している。それは本当に素晴らしいことだと思います。僕たちもロジレスさんを見習って真似してみようかな(笑)。
顧客の現場に蔓延る課題を知ろうとする場合、ただ一方的に話を聞きにいっても、信頼関係が築けていないとなかなか本心を打ち明けてくれることはないだろう。では、どうすればいいか。それはプロダクト提供側の方から進んで現場を理解しようと努めることである。
現場の人たちと同じ目線に立たなければ、相手が何を求めているのか、想像すらできない。ロジレスが創業当初から変わらず現場に足を運び続ける理由は、現場で働く人たちの本心に触れ、本質的な課題と常に向き合うためなのである。
顧客解像度を上げるだけでなく、改善フィードバックの速さも見逃せない
現場起点の姿勢はクロスマートも負けていない。同社には3つのバリューが存在するが、その1つに“現場”がある。セールスもCSも、エンジニアもデザイナーも職種問わず、顧客解像度を上げるために徹底した現場主義を貫く。
会社のバリューにさえも“現場”というキーワードを盛り込むほどだ。そこに対するこだわりは並々ならぬものがあるはず。なぜクロスマートはそこまで現場にこだわるのだろうか。
寺田そこはやはりロジレスさんと一緒です。我々が解くべき課題やその答えのヒントは、顧客が持っているからに他なりません。顧客とのやりとりの中で見えてきたものに対し、僕らが仮説を立て、「こういうことですか?」と課題に対する答えを見つけにいく。
そういったプロセスでは、飲食店や卸売業者の人たちと話すことが一番の近道になります。商売上は我々からすると“顧客”である方々ですが、感覚的には食品流通業界の負を共に解決していく、“パートナー”だと思っていますね。
飲食店から卸売業者への発注方法は、未だ6〜7割がFAX。日本の飲食店は約60万店舗あるとされるが、その内の約40万店舗が今なお、FAXや電話で発注をしている。デジタル社会と言えど、未だレガシーな業界にはこのような非効率が残っているのだ。
紙や人件費などあらゆるコストを削減し、外食産業の食品流通を滑らかにすること。そのようなレガシー領域の変革においては、現場の人たちの悩みに寄り添い、顧客目線に立つこと。そして、地道に信頼を獲得していくことが重要なのだろう。
そんなクロスマートでは、徹底した現場主義・現場理解のためにあらゆる手段を尽くしている。その1つが、現場の経験者をチームの一員として採用していることだ。業界内で長く事業に携わってきたメンバーがチームにいれば、より解像度の高い知見が得られるからである。「なるほど」と思わず手を打ちたくなる取り組みだ。
「顧客から『便利になった』と言ってもらえなければ、僕たちに存在価値はない。だからこそ、現場起点のプロダクトづくりにこだわる」と寺田氏は熱を込める。
寺田また、プロダクトを提供するスタートアップにとって重要なことは、提供後の改善サイクルも素早く行っていくことです。そのためには、現場で得た顧客からのフィードバックをスピーディにプロダクト側に共有できる仕組みが大事だと思っています。
そこで僕たちは、顧客と直接やりとりしているCSやセールスメンバーからエンジニアに向けて、プロダクトの改善フィードバックを共有する定例会議を毎週実施しています。その会議では、顧客からのお褒めの言葉や小さなクレームも含めて頂いたフィードバックはすべて書き起こし、一つ一つ丁寧に解決するようにしています。
顧客解像度を高めるだけでなく、顧客からのフィードバックをいかに素早く改善に繋げられるかも、プロダクトドリブンなスタートアップでは必要不可欠。ここで、ロジレス足立氏から寺田氏に向けて、「クロスマートさんでは、改善サイクルを素早く回す上で、毎週の会議以外に何か工夫していることはありますか?」と質問が投げかけられた。
寺田僕たちは社内フィードバックにおいて“カジュアルさ”を心がけています。例えば、クロスマートのSlack上には“user voice”というチャンネルがあるのですが、ここでは定例会議に挙げるほどでもない顧客からの些細な一言でも気軽に投稿できるようにしています。
そうしたユーザーの声を社内に届けてくれたメンバーに対し、「共有してくれてありがとう」の意を込めて“スタンプ”で称賛する文化があるんです。重々しく改善案をドキュメント化して社内共有するよりも、カジュアルに「A社さんからこんな声を頂きました!」と顧客の声を届けてくれる方が、エンジニア側も素早くプロダクトに反映できると思っています。
「なるほど!」と膝を打つ足立氏。これまでプロダクトの改善ミーティングには若干の重々しさがあったというロジレス。フィードバックを素早く回すため、今後は顧客の声を“カジュアルに社内に届ける”ことを意識したいとコメントを返した。
顧客の日常業務を支えるインフラ・プロダクトだからこそ、UI/UXにこだわる
顧客の声に耳を傾け、プロダクトを磨いていく。ロジレス、クロスマート共に一貫して“現場の声”を重視し、スピーディに改善アップデートを図っていることが分かった。
とはいえ、すべての声をプロダクトに反映するのは不可能なはず。その判断基準について、「顧客の課題として緊急度が高いものから優先して対応する」と彼らは口をそろえる。
足立例えば現場で、「文字が小さくて読めない」といったプロダクトへのフィードバックは、業務に支障をきたすレベルですよね。こういった内容は、優先度を上げて対応すべきものです。なぜなら、クロスマートさんとも共通していますが、我々のプロダクトは、顧客が毎日休みなく使うサービスだからです。
プロダクトが顧客の日常業務に密接に入り込んでいる、それこそインフラ化しているがゆえに、我々のプロダクトに問題があると顧客の業務が止まってしまいます。そういった意味では、絶対に失敗できないといった緊張感が常にありますよね。
ですので、常にプロダクトの改善は緊急度の高いものから即対応できるよう、頂いたフィードバックに対しては、「この改善要望は、お客様の今日明日の出荷に関わることですか?」と必ず確認するように徹底しています。
対し、寺田氏からは、「顧客の声を聞いていないと、自分たちでは想定することすらできなかった課題に出くわすこともある」と述べる。
寺田僕らテクノロジーを武器にしたスタートアップであれば、最新のスペックを備えたPCで仕事をするのが当たり前です。しかし、レガシーな産業における顧客の場合、必ずしもIT機器のスペックが最新であるとは限りません。中には、「これはいつの時代のPCなんだろう…」と思うような、画面解像度が粗く、また動作の遅いPCが使われているケースがままあります。
すると例えば、自分たちのPC環境ではプロダクトのインターフェースが正しく綺麗に表示されていたとしても、顧客のPC環境によってはまったく見えづらいといった事態も起こりうるんです。この問題に気付いてからは、定期的に顧客先に行って、顧客のPC画面上で我々のプロダクトがどのように表示されて動いているのかをチェックするようになりましたね。地味な点ではありますが、顧客にとっては非常に重要なことです。
泥臭いとはまさにこのこと。足立氏も同様に、『LOGILESS』を立ち上げた当初、自分たちが思い描いていた前提と現場の前提の違いを目の当たりにしたことがあった。
足立僕らは当初、“インターネットありき”でプロダクトをつくっていました。ところが、倉庫事業者の事務所にはインターネット環境があるものの、実際に作業をする倉庫現場ではインターネット環境が無いところがほとんどだったんです。そこが盲点でした。例えば、バーコードを読み取って在庫管理を行うハンディターミナルという機器があるのですが、この事実を知るまでは、僕らの中ではインターネットを用いる仕様が前提だったんです。
足立「インターネットが使えないって、どうすればいいんだ…」と社内で議論した末、「ハンディターミナルはインターネット環境がなくても使えるようにしよう」と意思決定を下しました。具体的には、在庫管理に用いるデータをあらかじめハンディターミナル内にインストールさせておくことで、オフラインのままでも倉庫で機器を使用できるようにしました。
オフライン下でも問題なくプロダクトと連動した業務推進ができるようにする。この改善は、ロジレスにおいて過去の意思決定の中でも1,2を争う大きな決断だったと足立氏は振り返る。
バーティカルSaaSと言えども、「ウチはこの仕様でプロダクトを提供しているので、お客様の方で多少業務スタイルを変えていただく必要があります」と、プロダクトの仕様に顧客をアジャストさせるケースも少なくない。
しかし、このロジレスやクロスマートはどうだろう。そんな姿勢は微塵も見当たらない。顧客のために、とことん汗をかく。このように、業界が持つ特性や現場の使い勝手に合わせて柔軟にプロダクトを改善していけるのは、単に顧客現場に深く入り込んでいるからではない。
「顧客の困り事を一つでも多く解決したい」「少しでも日々の業務がラクになってほしい」──。そう心の底からピュアに想うことができているからであろう。
「お陰様で、年末年始は家族と過ごせます」。
現場から届く、変革の未来を感じさせるメッセージ
現場起点で改善サイクルを素早く回していく両社。プレスリリースで発表していないものも含めると、そのプロダクト・アップデートの回数は膨大なものになる。そしてこうした改善のための取り組みは、今なお続いているのだ。
寺田『クロスマート』を導入する前の卸売業者においては、昔から使われているオンプレミス型*の基幹システムを導入している企業が多いんです。この場合、汎用性のあるSaaSと異なり、自社の業務環境に個別最適化させたシステムであるため、いざ改修しようとすると何週間〜何ヶ月といった期間と、何十万円〜何百万円といったコストが発生してしまうんです。
一方、僕らの『クロスオーダー』はクラウド上で日々アップデートしていくことができる。ある週に顧客から要望を頂いたとして、翌週明けに「直りましたよ」と話をすると、「なんでこんなに早く改善できるの!?これまでの常識では考えられない」…と感動されるケースが少なくありません。
単に顧客の生産性を向上させるだけでなく、プロダクト導入前に掛かっていた時間的コストや経済的コストも大幅に削減し、顧客に価値を提供しているクロスマート。ロジレスも同様に、プロダクト導入によって顧客のライフスタイルにまでポジティブな影響を及ぼしている。
足立ここまでいくつか事例をお話してきたように、我々のプロダクト・アップデートは、顧客の声から生まれることが殆どです。そしてその目的は、顧客の業務効率を上げ、生産性を高めていただくこと、これが一丁目一番地です。
しかし、それだけでは満足しません。ロジレスとしては、顧客の生産性向上はもちろんですが、その先にある、業界で働く方々の豊かな生活にも良い影響を及ぼしていきたいと考えています。
最近もまた、一つ新たな機能を追加実装したんです。それは、ある顧客からの相談がきっかけでした。聞けば、「お伝えした様な機能が『LOGILESS』にあれば、日々の生産性が8倍は向上します。でも、その機能実装が難しければ、年末は従業員ふくめ不眠不休で働かなければいけないんです…」とのこと。
足立その相談を聞いて即、CTOの田中と話し合い、「あのお客さんを何とか年末に寝かせてあげよう」という気持ちで、急ぎプロジェクトを発足しました。
顧客から相談を受けたのがある週の金曜日でしたが、週末のうちに何とか機能をアップデートして週明けに提供したところ、心の底から感動していただけました。「ロジレスさんのお陰で、本来10日かかる業務が2日に短縮できました…!これで年末年始、家族と過ごせます。本当に、本当にありがとうございました!」と感極まる様子で──。
僕らの手によって、EC物流業界で働く方々の生活すらも豊かにできるんだということを身をもって体感した印象的な出来事です。
ロジレスやクロスマートが各業界のリーディングカンパニーとして君臨できているのは、難度の高い優れたプロダクトを提供しているからだということはもはや自明の理。しかし、その所以はそれだけではなかった。どこまでも顧客の幸せを願う、熱い想い。これこそが両社を業界No.1たらしめる理由の源泉ではないだろうか。取材が進むにつれ、そのような印象を抱かずにはいられなかった。読者もきっと今、同じ気持ちを抱いていることだろう。
すべての顧客ニーズに応えるな。
特定の深刻な悩みにフォーカスし、後は脇におけ
さて、エモーショナルな話をした後だが、ここからはまたビジネス目線で両社の特徴を紐解いていこう。徹底した現場起点でのプロダクトづくりを行う両社であるが、業界のインフラたるプロダクトを生み出す上で重要なことは何か。その問いに対し寺田氏は、「向き合う顧客をとことん絞ることが大事だ」と述べる。
寺田一つのプロダクトに対し複数のステークホルダーがいる場合は尚更ですが、すべての顧客ニーズに応えようとしてはいけません。それをやってしまうと結局、誰に対しても中途半端で使いづらいプロダクトになってしまいます。
まずはプロダクトの戦略を立てるために、複数とはいえどちらのステークホルダーに軸足を置いて課題を解決していくのか決断することです。
『クロスオーダー』で言えば、飲食店と卸売業者の双方に使っていただくプロダクトで、もちろんどちらにとってもメリットがあることが前提ですが、やはり軸足はしっかりと定めています。
一方、足立氏は「顧客ニーズにも深さがある。本当に困っている人を見つけ出すことが大事だ」と述べる。顧客の悩みにもグラデーションがあるとするならば、その中でも最も深刻でコアな悩みを持っている顧客を探して向き合うべきだと。
足立EC物流業界において、「ちょっと困っている」と感じている人たちはたくさんいます。しかしそういった人たちの話に耳を傾けてみると、例えば「FAXでのやりとりは不便だけど、別にこのままでも良いかな」といった声もあるんですよ。そういった温度感のニーズから本質的な課題を見つけられるかと言うと、正直難しい。
特にプロダクトを立ち上げる際は、その課題が顧客にとって深刻であり、かつ改善することによるインパクトが大きいものでなければいけません。何なら顧客すらも自分で気づけていないような本質的な課題設定ができなければ、業界のインフラとなるようなプロダクトを生み出すことはできないと思います。
僕たちはロジレスを立ち上げた際、運良くEC事業者側と倉庫事業者側の中でも本当に困っている人たちと出会うことができました。例えば、「エンジニアが辞めてしまってシステムが止まってしまう…」「とにかく人手不足で、従業員は朝の4時から働いている…」「このままでは仕事をすればするほど利益が減っていく…」などです。
そういった背に腹を変えられない状況で救いを求める人たちが、いったい何に困っているのか。何を必要としているのか。プロダクトをつくる上で、そこに本質的な答えがあると感じていますし、そこに早期にアプローチすることができたことは運が良かったですね。
両社が短期間で著しい成長を遂げてきたのは、顧客設定と課題設定が芯を食っていたから。このどちらもセンターピンを押さえていたからこそ、今日のポジションがある。ぜひ、これからプロダクトづくりを始めるもの、またはプロダクトの方向性に悩んでいるものは参考にしてみてほしい。
「競合は存在する。
それでも、僕たちには勝ち筋がある」
急速な業界変革を実現するプロダクトづくりの要諦を学んできたが、読者の中にはぼちぼちこのような疑問を感じ始めているものもいるかもしれない。「両社が優れたスタートアップであることは分かった。だが、それぞれ大きな市場を持つ業界であり、競合も少なくないのでは?」と。
たしかに、大きく捉えればこの2社は物流と食品だ。決して競合不在ということはないだろう。しかし、足立氏と寺田氏からは、どこかそうした点に対する懸念の色は感じない。どこか自信すらも感じさせる雰囲気さえあるが、実際はどうだろう。
「確かに大手の競合はいる。それでも、僕たちに勝ち筋はある」と寺田氏は言葉を強めた。
寺田事業を始める前は、「著名な大手企業がサービスを展開している食品流通の領域には、スタートアップが入り込む余地はない」、そう考えていました。しかし、その企業のプロダクトをよくよく調べて見ていくと、「構造的に卸売業者が不利を被っている」「大手企業にとってはスピードや採算の観点で着手できないが、スタートアップの立ち回りなら覆せるポイントがある」と気づき、参入を決めました。
寺田その大手企業は、僕らと同様、飲食店と卸売業者向けにサービスを提供していますが、その中でも飲食店側に軸足を置いて事業を拡大させてきました。ところが、実際に現場で話を聞くと、既存の仕組みでは飲食店側にとってメリットがある一方、卸売業者にとってはベストなものではないことが分かったんです。
そこで僕らは大手企業の既存のプロダクトとは違う戦略で、「卸売業者と向き合う」と決めてプロダクトを磨いてきました。表面的には似た様なサービスに見えるかもしれませんが、そもそも向き合っている顧客や課題が違うんです。
一方、足立氏は「OMS側(EC事業者)にもWMS側(倉庫事業者)にも競合はいる。しかし、このEC物流という市場で、自分たちより何年も前から支えてきた先輩企業らと戦って打ち負かそうとは思っていない」という。なぜなら、EC物流業界とは、これまで多くの企業たちが何十年にもわたって課題を解決しようと取り組み続けてきた領域だからだ。
足立僕らができることは、これまで先人の方たちが考えてきたアイデアを汎用化して、民主化、標準化していくことです。
OMS(EC事業者)とWMS(倉庫事業者)の一体化においても、何もロジレスがゼロから発明したものではありません。過去には類似のサービスもありましたし、一体化が理想だと分かっていても実現できない複雑な理由がたくさんあった。
それらを先人の方たちが一つ一つ解決してきてくれたお陰で、今のロジレスがあるんです。なので、今後も業界のプレイヤーたちとは手を取り合って、顧客と共に良いEC物流の世界をつくっていきたいと思っています。
一見すると大手企業が参入しているため、切り込む余地はないと諦めかけたクロスマート。しかし、表面的な印象で終わらせず、入念に調べていくことで立ち入る隙を見つけた。「そこに市場はない」「既にレッドオーシャンだ」、そんな言葉を振り切る勇気を同社は与えてくれる。
一方、ロジレスは先人たちが築いてきた英知やアイデアを集めて、それらの集大成かのごとく、プロダクトに反映させた。足立氏のコメントからは、業界のプレイヤーたちに向けたリスペクトすら感じさせる。どちらも学びあるスタイルを取っており、明日のスタートアップ経営に活かしたいエピソードだ。
バーティカルSaaSは拡大傾向。
業界のベストプラクティスがつくれる今が狙い目
業界横断型のホリゾンタルSaaSと、業界特化型のバーティカルSaaS。今回は後者を代表してロジレスとクロスマートにその魅力や実態を語ってもらった。最後に、あらためてこのバーティカルSaaSの現状と今後を総括し、筆を置きたいと思う。
近年、SaaS市場を盛り上げてきた多くは、あらゆる業界をターゲットとしたホリゾンタルSaaSである。SlackやZoom、Salesforceなどを見ても分かる通り、それらは一気に世界中に広まり規模を拡大させていった。
一方、バーティカルSaaSを展開するには業界・業種に対する深い知見が必要となる。業界のトレンドや商習慣を深く理解していなければ課題解決が容易ではなかったため、ホリゾンタルSaaSの方が先に脚光を浴びる形となった。
しかし、SaaS市場が普及するにつれて、競合が多いホリゾンタルSaaSは汎用性が高い分、他プロダクトとの差別化が難しくなってきている。事実、海外に目を向けると、すでにSaaS市場が成熟しているアメリカではホリゾンタルSaaSの市場に比べ、バーティカルSaaSの市場が拡大を見せている。
バーティカルSaaSとして現場起点で改善を繰り返しながらプロダクトを磨いてきた足立氏は「今、業界のベストプラクティスを顧客と共につくっている」と確かな手応えを感じている。
とはいえ、バーティカルSaaSのターゲットとなる企業は、業界によってはアナログ主体で事業を行っていたり、地方を拠点に事業を展開していたりする。つまり、首都圏で最先端のテクノロジーを用いて活動するスタートアップとは情報リテラシーの点で格差があるケースも少なくない。そんな中、スタートアップがこうしたレガシーな産業を本当に変えられるのだろうか。ホリゾンタルSaaSが一気にスケールしたように、バーティカルSaaSも爆発的に伸びていくのだろうか。そんな問いに、足立氏は次のように答える。
足立くり返しになりますが、業界のベストプラクティスが見つかれば、一気にブレイクする可能性を秘めていると思っています。
バーティカルSaaSでは、プロダクトづくりにおいて顧客解像度を上げるための時間が一定必要です。なぜなら、そこには長年にわたって引き継がれてきた業界特有の商慣習や文化があるからです。表面的には、「〜という課題があるなら、こうすれば良いのに」と思うことがあっても、業界の歴史をふまえると、口で言うほど簡単に刷新することはできないといった事情もあります。
だからこそ、顧客の現場に入り、顧客が見ていること、感じていることを追体験する必要があるんです。顧客が感じている課題と共に、顧客が業界と共に積み上げてきた経験や想いにもリスペクトを示すことで、初めて“パートナー”となって一緒に変革を起こしていける同志になるのだと思います。
例えば、ロジレスが取り組むEC物流領域には、倉庫事業者という、業界に対して大きなインパクトを与える存在がいます。そんな倉庫事業者がロジレスのプロダクトや想いに賛同してくれて、1社、また1社と導入が進んでいけば、一気に業界のスタンダードになるチャンスがあります。近い将来その瞬間は確実に来ると思っています。ぜひ、楽しみにしていてください。
国内のEC事業者数は5万〜10万件(楽天出店企業5万社)と言われるが、すべてのEC事業者を含むと20万〜30万件だとも言われている。一方、ECの物流を手がけている倉庫事業者は5,000件ほど存在している。この数値のギャップを見れば、いかに倉庫事業者が大きな力を持っているかが分かるだろう。
一方、寺田氏は「生意気なことを言うと…」と前置きをした上で、「いずれバーティカルSaaSがホリゾンタルSaaSを凌駕していくと思う」と冷静に話を繋いでいく。
寺田業界にとって最も使いやすいサービスをつくる。バーティカルがゆえ、かゆいところに手が届く。それはホリゾンタルSaaSの戦略では絶対になし得ません。かつ、僕らクロスマートが扱っているアセットは全国の飲食店の注文データ。この受発注データを保有して次に取れる事業展開はたくさんあります。
いずれ、メーカーや卸売業者と共に“クロスマートの日本酒”や“クロスマートのポン酢”をつくり、飲食店に流通させていくことができたら面白いなと思っています。こうしたメーカー機能を持った事業展開も視野に入れています。外食領域において圧倒的なシェアを取る、それがクロスマートの目指すところです。
地方には、まだまだ全国に知られていないが優良な食品メーカーが多い。例えば日本酒の『獺祭』は、今でこそ誰もが知る有名な銘柄だが、もともとは山口県にある小さな酒屋が蔵元だ。「クロスマートのマーケティング力があれば、地方のヒット商品を生み出すこともできる」と寺田氏は確信している。
このステークホルダーとタッグを組んで新たな事業を展開する計画は、ロジレスもまた然りだ。今はまだ語るタイミングではないが、いずれFastGrow上でも取り上げていきたい。
「受発注のインフラ化は初手に過ぎない」という彼らの言葉を、今一度思い出したい。その言葉通り、第2の矢、第3の矢が放たれるのも時間の問題だろう。顧客の声に耳を傾け、業界のインフラたるべく価値と信用を積み上げていった先には、無限の事業機会が待っている。ロジレスとクロスマートは、その未来を確かにその目に捉えているのだ。
こちらの記事は2023年01月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
山田 優子
写真
藤田 慎一郎
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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【みずほ銀行コラボ企画】「顧客が僕らの事業を守ってくれた」──飲食SaaSのクロスマート・寺田氏にみる、ステークホルダーと共創する事業経営とは
- クロスマート株式会社 代表取締役
【実録】組織の器はミッション次第でこうも変わる──ECロジスティクスで社会変革を目指すロジレスが、事業加速を実現できた理由
- 株式会社ロジレス 代表取締役 CEO
ロジレスが事業成長を続けられる理由とは?──Coral Capital、ALL STAR SAAS FUNDらが認めたそのポテンシャルに迫る
- 株式会社ロジレス 代表取締役 CEO
起業家とCVC、理想的な提携検討のかたちとは?事業会社からの調達法の“いろは”を語り合う座談会【イベントレポート】
- 凸版印刷株式会社 事業開発本部 ビジネスイノベーションセンター 戦略投資部長
「デリバリーこそ、テックジャイアントに勝てる領域だ」──出前館の新代表・矢野氏が語る、業界No.1を狙う経営哲学
- 株式会社出前館 代表取締役社長
「広告の限界、感じてませんか?」──電通、Amazon出身者らが集ういつも.の“EC×事業プロデュース”にみる、マーケ人材のネクストキャリア
- 株式会社いつも 上席執行役員 事業推進本部長