【実録】組織の器はミッション次第でこうも変わる──ECロジスティクスで社会変革を目指すロジレスが、事業加速を実現できた理由
Sponsoredミッション次第で組織はこうも変わるのか──。
本取材を終え、FastGrow編集部が感じたことである。冒頭からいきなり今回の主題をお伝えする形になるのだが、本記事でロジレス代表の足立氏が語ってくれた同社のエピソードは、FastGrow全読者にとって大きな学びとなるだろう。
今でこそ「我々ロジレスは日本社会に貢献するんだ」「お客様が驚くほどのベストプラクティスをご提供して、Amazonレベルの生産性向上を実現するんだ」といった会話が同社のオフィスでは飛び交っているが、ほんの2年前までは、「ロジレスには会社として目指したい姿がなく、現場で何を大事に業務を推進していけば良いか分からない」といった声がこれまた社内から多数挙げられていたのだ。
このロジレスとは、先の物流Tech特集においてFastGrowがピックアップした、ECロジスティクス・スタートアップである。同社は、EC事業者と倉庫事業者が一つのシステムを利用し、ほぼ完全な自動出荷を実現することができるプロダクト『LOGILESS』を提供している。
具体的に説明すると、本プロダクトは、複数店舗(モール・カート)からの注文・在庫情報を一元管理するOMS(Order Management System / 受注管理システム)と、倉庫の入荷~出荷までの倉庫内業務を効率化するWMS(Warehouse Management System / 倉庫管理システム)が一体型となった“EC自動出荷システム”と言うことができる。導入実績としてはEC事業者が約630社、倉庫事業者は約130社が導入(2022年3月時点)。2021年にLOGILESS経由で年間に出荷された荷物件数は1,500万件を超える。2017年のサービス開始時に出荷された荷物の件数は20万件だったので、約5年で約75倍の成長を遂げたプロダクトである。
一見、順風満帆に見えるロジレスだが、「スタートアップとしての成長軌道に乗るまで、ロジレスはちょっと良いプロダクトが作れた“だけ”の企業。経営のことは何も分かっていなかった」と代表の足立 直之氏は言う。
そこからどのように、同社は成長著しいスタートアップへと進化できたのか。今回はその舞台裏に迫る。
- TEXT BY SATORU UENO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
会社の方針を示せず停滞する事業、
落ちる社内モチベーション
EC自動出荷システム『LOGILESS』を提供するロジレス。2017年の創業と共にサービスを開始し、繋がりのあるEC事業者や倉庫事業者に使ってもらったところ、「OMSとWMSが一体型になった業界初の便利なサービスがある」と口コミで広まっていった。当初はメンバー数が10名前後ながら、導入社数も売上も悪くないスタートを切っていったという。
足立今振り返ってみると、2019年頃までのロジレスは、高い事業ポテンシャルに相反して成長度合いはそこそこ。経営の観点で見ると決して「スピード感を持って成長している」とは言えず、むしろ全くもって停滞していたんです。
経営の意思決定が遅く、事業進捗も悪い。例えば採用活動においても2019年当時は3ヵ月に1名しか応募がなく、1年に1人メンバーが増えるかどうかといった具合で常に人員不足。こうした状況を招いてしまったのは自分を含めた経営陣の視座の低さと、当事者意識の低さが原因でした。
僕自身、経営者でありながら事業に向けるマインドが営業の域を越えず、「日々の実務で結果を出しているからいいだろう」と考えていましたし、「十数年スパンでOMS・WMSにおける業界No1を取れればいいかな」くらいに捉えていたんですね。戦略・戦術はおろか、会社として目指す方向性さえも全く示せていませんでした。
故に、メンバーたちから、「ロジレスが最終的に何を目指しているのか分からない。その影響で、現場の業務にも問題が発生している…」とアラートが多数挙がっていたんです。
「完全に自分たち経営陣が事業の可能性を狭め、ロジレスの成長を停滞させている…」と強い危機感を覚えたという足立氏。ロジレスとは社会に対して何を成す会社なのか。経営者として初めて考えるイシュー。当時2020年半ば、今からわずか2年前のことだった。
11年前、震災の動乱期に起業を決意
ここで少し時を遡り、ロジレスが世に生まれるまでの経緯を振り返ってみる。足立氏はもともと新卒で楽天に入社。足立氏が配属された楽天ブックスの部署は、楽天が在庫を持ち、販売まで行う事業部だった。在籍した3年間、足立氏はEC販売のノウハウや在庫管理の基礎を学んだ。
そんな同氏に転機が訪れたのは、2011年に起きた東日本大震災の時。未曾有の揺れと津波が押し寄せ、首都圏もインフラ機能が麻痺し、帰宅困難者が続出した。その影響を受け、その日は同僚であり現在ロジレスのCTOを務める田中 稔之氏が、足立氏の自宅に宿泊することとなった。
足立その夜、田中と今の仕事や今後の生き方について色々と話をしたんです。そして、「この状況下、いつ何が起こるか分からない。これからは自分の意志で決めた道を歩みたい」と思ったんです。そこから、何の準備もなく勢いのまま起業を決意しました。ただ、当時は今と違って「この事業で社会を変えたい!」といった使命感の様なものは全くありませんでしたが。
そこからまず足立氏は、ロジレスとは別の会社を立ち上げる(株式会社ロジレスの創業は2017年)。起業当初は創業者3名の強みを活かし、自社ブランドのEC販売・受託開発・コンサルティングで生き抜くための日銭を稼ぐ。そこに並行して、思いつきによる様々なサービスを作っては半年足らずでクローズするといったサイクルを回していた。
足立立ち上げてきたサービスには一貫性がなく、とりあえずメンバー間で話をして「面白そう!」と思いついたものを作っては出し、作っては出しを繰り返していました。世の中のニーズを読むだとか、市場調査をした上で臨むということは一切しておらず、そんなこんなで日に日に資金繰りが厳しくなっていったんです。
当時手掛けていたのは、オリジナルブランドのTシャツ、仏像、掛け軸や書籍などの物品販売。気になる品物を仕入れてはECサイト上に載せ、注文を受けたら在庫確認、そこから梱包をして伝票を印刷、配送業者に梱包済の荷物を手渡す。そうした、非常に手間のかかる作業をこなしていたのだ。この時感じたペインこそが、後のロジレスを創るアイディアの種となるのだった。
PMF先は自社!?
業務内の課題感から生まれた『LOGILESS』
足立氏曰く、日々のEC業務は“販売した商品を確実に出荷する”という同じ流れの繰り返し。
足立 いつも「なんで楽天の時のようにスムーズなオペレーションが実現できないんだろう…?」と悩みながら目の前の業務を捌いていました。出荷の作業自体は物流代行(アウトソース)という形でプロにお任せすることができるのですが、システムが理想形とはほど遠かったんです。当時は、OMSとWMSという2つのシステムを利用してオペレーションを行っていたのですが、データの受け渡しの煩わしさや、オペレーションの柔軟性という観点でやりたいことが実現できなくて。
そんななか「受注~出荷までの一連のプロセスの生産性向上を実現するために、OMSとWMSが一体になったシステムを作れないか」とふと考えたんですね。
そこですぐさまエンジニアの田中に相談すると、「面白いね。多分できると思うよ」と二つ返事で答えてくれまして、今の『LOGILESS』の種が生み出されることになったんです。
受注から出荷までの一気通貫が実現できれば、EC事業者や倉庫事業者にとっては、ECバックヤード業務にかかる工数やコストを大幅に減らすことができる。
しかし、ここで読者は「受注~出荷までのプロセス全体の効率化なんて分かりやすい課題だし、既にどこかの企業が取り組んでいるのでは?」「これまでの長い業界史のなかで誰も取り組んでいないとなれば、それはそもそも実現不可能な挑戦なのでは?」と思うかもしれない。そうした疑問に対し、足立氏は「先の楽天ブックスで、ECロジスティクスの一つの“型”を知っていたからこそ、着想できた点もあるかもしれません。しかし、僕たちには物流の業界知識がなかったから、ゼロベースで自分たちの業務内容や課題に合わせてPMFすることができた」と返す。
足立『LOGILESS』のβ版をEC事業者と倉庫事業者の方々に見せて回ったのですが、コンセプトは良いが、顧客に利用してもらうプロダクトになるには足りない機能があることを多くのフィードバックから学び、ブラッシュアップしていきました。その度に田中は、「なんて面倒なプロダクトを作ってしまったんだ…」と遠い目をしていましたね(笑)。
それでもめげずに顧客の声に耳を傾け、プロダクトの改善を繰り返した。当初は自分たちの事業課題に対して自らPMFしていた『LOGILESS』だが、徐々にEC事業者と倉庫業者全体に対してPMFできるプロダクトとなっていく。いよいよブレイクスルーの兆しが見え始めた──。そう思い始めた矢先の2020年末、冒頭に記した通り、それまで数年に亘ってつもりに積もっていたメンバーたちからの不満がついに、大爆発したのだった。
取材中に当時を振り返る足立氏は、「正直なところ『これまでと同じやり方ではSaaS系スタートアップのひとつの指標“T2D3”どころか、持続的な事業運営すら厳しい。現状維持を続けていては高いポテンシャルを全く活かしきれない』。そう薄々と感じていたんです」と心境を打ち明けた。
足立なぜなら、事業を大きく、継続的に伸ばしていく“マインド”が2年前までのロジレスにはなかったからです。それもそのはず、当初のロジレスは、自分たちのEC事業の課題解決を目的に立ち上げたもの。決して明確な想いや目標を持ってスタートさせた会社ではなかったからです。
組織として明確なミッションがなく、単に目先の業務に勤しむだけでは会社は成長しない。今振り返ると、当時のロジレスは明らかに、“社会を良い方向へ変革するために、高い目標を掲げて成長する”といった組織として体を成していなかったんですよね。
当時ロジレスにポテンシャルを感じて入社を検討してくれていた、急成長スタートアップでの経験豊富なメンバーに「ロジレス入社にあたっての懸念はないですか?」と聞いたんです。その時に、「ロジレスは良い会社だと思いますが、今は何か事情があって、あえて事業成長を抑制している状況ですか?プロダクトやメンバーのポテンシャルは抜群。より多くの人に喜んでもらって、日本社会へ大きな貢献ができる可能性があるので、もし今の事業状況が意図的でないのであれば、これは極めてもったいない…」と。当時の状況について、僕自身も同じ認識を持っていました。
大きな変革を成すためには、チーム全員が高い視座を持って、同じ方向性を見て、事業を運営していく必要がある。その重要性を再認識し、ここから一気にロジレスの改革が始まっていくのだった。
組織はこうも変わるのか!
1年前のミッション・バリュー制定で新生ロジレスが始動
今後組織が1つになって高みを目指していくためには、“ロジレスは社会に対して何を成し遂げたいのか”を明確に定める必要があると足立氏らは捉えた。そんな中で着手したのは、ミッション・バリューの再定義。それまでも存在こそしていたものの、組織には全く定着していなかったのだ。そこから、経営陣で3ヵ月の議論期間をかけ、2021年4月に新ミッション・バリューが制定される。
足立新生ロジレスの新たなミッションとして、“ECロジスティクスを変革し、日本の未来をスケールする”というメッセージを掲げました。
その背景には、われわれ日本のGDPが、生産年齢人口の減少に伴い深刻な状況に陥っているということが挙げられます。この事態はマッキンゼー社が2020年に出したレポート『The future of work in Japan』にも詳しく書かれていますが、日本は2007年からの生産年齢人口の減少によってGDP成長率が下がっており、2030年にかけてほぼ“ゼロ成長”が見込まれている状況なんです。
なかでも物流業界はこの生産年齢人口の減少が著しい領域。こうした事態を解決するには、何よりまず“生産性の向上”が急務とされており、そのための手段として“自動化こそが価値の源泉”とされています。これはまさに、ロジレスこそが取り組むべき課題であり、ロジレスだからこそ解決できると捉えています。
足立一方で、ポジティブな側面もあります。我々の事業ドメインであるEC、特にBtoCの物販領域は、市場規模が2020年度で年間21.7%成長しているんです。この物流とECが交差する分野で自分たちのプロダクトを提供し、“生産性の向上”を通じてECロジスティクスに変革を起こすことができたら、必ずや日本の社会を大きく変えることができると信じています。
そして、ここでロジレスが刷新したものはミッション・バリューにとどまらず、経営体制にも及んだ。つまり、足立氏自身が代表として最前線に立ち、経営をリードしていくことが決定したのだ。
足立この経営体制の刷新は、“ロジレスとしてお客様に高いレベルで価値発揮をでき、かつ経営を中長期で伸ばしていける体制を構築する”ことを念頭に意思決定しました。
具体的には、当社に出資しているVCの協力も得ながら、ロジレス全社員との1on1面談、経営陣3名の360度評価など、社外の客観的な目も入れつつ、事実を複眼で確認・議論していきました。
それまでビジネスサイドとして組織を率いて、“『LOGILESS』を導入してくださるお客様ともっとも近くで向き合ってきたのが僕である"という自負は持っていたんです。なので、今後もロジレスの強みである、現場解像度へのコミット姿勢をステークホルダーに示すという意味では、僕が代表を担うという選択は最適だったかと認識しています。
そしてバリューには「未来から逆算する」「フェアに共創する」「チームで価値を築く」の3つを定めました。
「フェアに共創する」「チームで価値を築く」については昔からロジレスが大事にしてきた行動を言語化してきたものですが、「未来から逆算する」はロジレスにとっては新しい価値観。それまでお客様から言われる課題を元に愚直に開発するというやり方でPMFしてきましたが、これからは本質的な課題を捉えてベストプラクティスを定義し、お客様の期待値を大幅に超えて生産性向上を実現させていくために、このバリューを入れることがどうしても必要でした。
これらの結果、今のロジレスでは「お客様の業務生産性を数倍向上させるためには、こういう新機能が必要なのではないか」「日本全体の物流生産性という観点で見ると、こういう新規施策が必要になるのではないか」というディスカッションが頻繁になされるようになったそうだ。
2019年頃までのロジレスの採用はほぼリファラルで成り立っており、足立氏たちが行っていることに「なんだか面白そう」と感じて入ってきたメンバーが大半のため、事業を推進する上でミッションを最重要視する人はいなかった。しかし、そんな背景から構成されるメンバーたちにとっても、今回のミッション・バリュー制定と浸透は、ポジティブな効果をもたらしたのだ。
足立2021年の1年間は、このミッション・バリューの制定と、それを組織に根付かせることがすべてでした。結果、今ではメンバー自身の行動もどんどん変わってきています。具体的には、それまでの“お客様の課題を受けての提案”から、自らお客様の期待値を超える価値を生み出すべく、“あるべき理想から逆算した提案”ができるようになってきたんです。
今のロジレスは、メンバーの課題設定のレベル、ディスカッションレベルが2年前と比較にならないほど高い水準になり、組織として強く一体感を感じるような成長を遂げているなと感じています。
ここで特筆すべきは、ミッション・バリューの刷新や経営体制の変更こそあったものの、ロジレスのメンバー自体はほぼ入れ替わっていないということだ。5年前のロジレス設立当社から活躍し続けているメンバーもいる。決して外部から強力なメンバーを多数招き入れ、組織構成を入れ替えたという訳ではない。もともと顧客に向き合うマインドは高く持っていた組織だが、今回の一連の取り組みで視座が飛躍的に高まり、一人一人のポテンシャルが最大限に発揮されるようになったという訳だ。
はにかんで語る足立氏の眼差しは、メンバーへの揺るぎない信頼と、未来への確かな自信で満ち溢れていた。
ロジレスが目指すは高尾山ではなく、富士山。
ゆくゆくはエベレストだ
ミッション・バリューの制定によって進化が加速したロジレス。これからどのような未来を目指していくのだろうか。最後に足立氏が見据えるロジレスの今後について、見解を伺おう。
足立これまでのロジレスは、「自分たちのサービスに喜んでくれるお客様がいるし、売上もそこそこ立っているから、別にこのままでも…」と僕自身も思っていました。それ自体を否定するわけではありませんが、『LOGILESS』というプロダクトには、より多くのお客様に喜んでいただけて、日本社会に対してもっと大きなコトを成すポテンシャルがある。例えるなら、ロジレスが目指すべき山は“富士山”(日本一)や“エベレスト”(世界一)なんです。
これまでは、目の前の顧客課題の解決がメインだったが、ミッション・バリューを刷新し、組織一丸となったこれからは違う。「今はまだ高尾山の麓にいる状況ですが、これから装備を固めて、日本一高い山である富士山や、世界に名だたるエベレストを目指していく」と足立氏は明言する。
足立2年前までのロジレスをふまえると、かなり壮大なミッションとなっていますよね。ただ、既に我々のプロダクトは社会を変える動きを起こしています。具体的には、『LOGILESS』導入によって、東西に出荷拠点を2つ設け、購入者の住所に近いところから商品を出荷できる近距離輸送の実現に成功されたお客様がいます。その結果、お客様は年間の配送コストを一千万円以上削減することができました。こういった事例を増やしていくと、物流危機の中でも特に大きな課題である長距離輸送の本数削減にも貢献できると考えています。こうした変革を、この先さらに早く、大きく仕掛けていく予定です。
日本の物流課題に対して真正面から向き合って生産性を向上させる。そしてゆくゆくは世界へ。EC企業の増加に伴い、倉庫事業者や運送事業者の生産性向上が急務となる未来は、今後世界でも必ずや起こりうる。今、日本で増え続ける喫緊の物流課題に向き合うことは、将来的に世界レベルでの課題解決にも切り込めるということ。
そして、そのための鍵はロジレスにこそ秘められているのだ──。
こちらの記事は2022年06月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
上野 智
写真
藤田 慎一郎
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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