クラブパーティーさえ酒は不要。
ミレニアル世代でノンアルコール飲料大ヒットの背景とは?
ストレスに満ちた毎日をアルコール摂取で発散させていた時代は、もう過去のものになりつつある。
ミレニアル以降の世代では健康志向が高まっており、アルコールフリー飲料が大人気。
周りの雰囲気に流されず、自分の心身と向き合いながらドリンクを楽しむ「マインドフル・ドリンキング」の動きが広がっている。
- TEXT BY NAOKO YAMAMOTO
早朝クラブパーティーが盛況、クリーンな生活がトレンドに
スピーカーから流れるノリのいい音楽、大きなホールに点滅するカラフルな照明、身体をくねらせて踊るファッショナブルな若者達──よく見られるクラブパーティーの光景だが、踊っている人々の顔は爽やかで、ポジティブなエネルギーに満ちている。
深夜のパーティーに付き物のドラッグやアルコールは見られず、傍らのバーカウンターではオーガニック・コーヒーや果物・野菜のスムージーが提供されている。これは、「モーニング・グローリーヴィル」が運営する早朝クラブパーティーの光景だ。
2013年5月にロンドンで設立されたモーニング・グローリーヴィルは、朝6時半から10時半の間に世界各国で早朝クラブパーティーを運営し、人々の1日の始まりを激励している。2018年3月現在、その動きはニューヨーク、サンフランシスコ、アムステルダム、ベルリン、バンガロール、東京、シンガポールなど、世界24都市にまで拡大。本拠地のロンドンでは参加者が1000人以上に上る大イベントに発展しており、パーティーは翌日の二日酔いの原因ではなく、通勤前の健康的なエンターテイメントに変貌しつつある。
一方、マインドフル・ドリンキング活動を推進する「クラブソーダ」は、2017年11月にロンドンのスピタルフィールズ・マーケットで「マインドフル・ドリンキング・フェスティバル」を開催し、成功を収めた。同イベントでは、ノンアルコール飲料のプロモーションやマインドフル・ドリンキングに関する講演会、ライブ・ミュージックを提供。モーニング・グローリーヴィルとも提携し、アルコールなしのダンスパーティーも開催された。
クラブソーダはまた、オンライン・コミュニティーを運営するほか、登録メンバーにアルコールフリーの生活を支援するためのEブックレットや、アルコールに関する個人の目標設定のツール、またマインドフル・ドリンカーのためのパブ・バー情報を提供。ノンアルコール飲料のラベル付けに関するロビー活動なども行っている。
創業者の1人であるフィンランド人のJussi Tolvi氏はマインドフル・ドリンキングについて、「テレビの前でぼーっとしながら飲むのではなくて、お酒を飲むのを特別な機会ととらえて、何のためにどのぐらい飲むのかを意識しながら飲むこと」と説明。「アルコール摂取を止めたり、量を減らしたりする人は確実に増えている」と指摘している。
若者のアルコール摂取量が減少、統計でも顕著
「ミレニアル世代は健康意識が高く、クリーンな生活に関心を持っている」と言うのは、『Mindful Drinking:How Cutting Down can Change Your Life(マインドフル・ドリンキング:アルコール減量が生活を変える)』の著者、Rosamund Dean氏。
「周りのインターンやジュニアスタッフはすごくやる気があって、目がキラキラと輝いていて、エネルギーに満ちている。私がインターンだった頃は、毎日二日酔い。やっとのことで出勤していたことを思うと、自分の飲み癖を改める時じゃないか……と考えさせられた」と、英『ガーディアン』誌にコメントしている。
また、『The Sober Diaries(素面日記)』を表したClare Pooley氏も「私達が20代の頃、すべてのロールモデルとなる女性はお酒を浴びるほど飲んでいたし、私達はそれが解放されたフェミニストがやることだと思っていた。でもミレニアル世代は違う。そして彼らの影響で私達の世代でも変化が起きている」と指摘している。
実際、若者によるアルコール摂取の減少は統計にも現れており、英国統計局(ONS)によると、「Opinion and Lifestyle Survey(意見とライフスタイル調査)」で16歳以上の回答者のうち56.9%(英国の全人口で換算すると、約2900万人)が2016年にアルコール飲料を飲んだと回答。このうち16-24歳は24%と、他の年齢層に比べてアルコールを摂取する人の割合が最も低いことが分かった。45-64歳ではこの割合が46.2%に達しているのと比べるとその差は大きく、飲酒をめぐるライフスタイルの変化を読み取ることができる。
ニールセンが18歳以上のオーストラリア人を対象に実施した「消費者&メディア・ビュー(CMV)」調査(2016年4月-2017年3月)でも18-34歳のミレニアル世代では前月にアルコールを摂取した人の割合は53%となり、35-54歳(X世代)の65%、55歳以上(ベビーブーマー)の72%を大きく下回った。アメリカや日本でもミレニアル世代のアルコール摂取量が減少傾向にあると報じられており、若者のアルコール離れは全世界的なトレンドになっている。
ノンアルコール飲料が人気、新商品も続々
若い世代のアルコール離れを受け、新しいタイプのノンアルコール飲料が続々と市場に投入されている。ロンドン発の「Seedlip」はジンに似た味わいの植物製ノンアルコール飲料を発売。豆類、スペアミント、ローズマリー、タイムなどを使ったノンアルコール・スピリット「Garden108」と、オールスパイス、グレープフルーツ、レモン、オークなどを原料とした「Spice94」を高級カクテルバーやミシュラン星付きレストランなどで提供している。
同じくロンドン発の「Shrub」も、植物製ノンアルコール飲料「/shrb」を販売している。これはライムとジュニパールベリーにリンゴサイダービネガーを加えたもので、18世紀にロンドンの紳士向け雑誌で紹介されたアルコール代替品にインスピレーションを得ている。残り物のビネガーと果物・ハーブを混ぜて作られたこの飲料は、禁酒法が制定された当時のアメリカで人気を博したという。オリジナルフレーバーのほか、ライム・ジュニパー、オレンジ・ジンジャー、アップル・シナモンと4種のフレーバーを展開している。
また、オランダの双子の女性が開発した「Double Dutch」は、フレーバー付きのトニックウォーター。ザクロとバジル、ジンジャービール、キュウリとメロン、クランベリー・トニックウォーターなど、7種のユニークなフレーバーが選べる。アルコール飲料と混ぜたり、「モクテル(Mocktel)」(ノンアルコールのカクテルのこと)にしてもいいし、そのままノンアルコール飲料としても楽しめる。2016年には世界飲料イノベーションアワードで、「ベスト・アダルト・ソフトドリンク・アワード」を受賞した。
酒類を飲まない人にとって、これまでノンアルコール飲料は、オレンジジュースやコーラ、アルコールフリービールなどに限られていたが、ノンアルコールのおしゃれなドリンクが投入されたことで、選択の幅は広がっている。ニューヨークやロンドンではこうしたアルコール代替飲料を扱うバーやレストランも増えてきており、周りがアルコールを飲む中でも「浮かずに」雰囲気を楽しむことができるようになってきた。
ロンドン大学、豪クイーンズランド大学などが2017年に実施した「グローバル医薬品調査」によると、21カ国の回答者72000人のうち32.9%が向こう12カ月でアルコール摂取量を減らしたいと考えているという。モチベーションはいろいろだが、自分の身体の声を聞きながら、仲間とゆっくりお酒を楽しむマインドフル・ドリンキングは、アルコール摂取量を抑える一助となることだろう。ミレニアル世代を中心に始まったこの動きは、今後も年齢層を超えて拡大すると予想される。
企画・編集:岡徳之 Livit
こちらの記事は2018年04月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
次の記事
執筆
山本 直子
連載GLOBAL INSIGHT
26記事 | 最終更新 2018.06.28おすすめの関連記事
「人生かけて勝負する経営者は魅力的」──アクセンチュア・マネジングディレクターから特殊冷凍ベンチャーへ。デイブレイク取締役に訊くCxO採用の鍵
- デイブレイク株式会社 代表取締役社長 CEO
「労働集約」型産業の変革こそ、日本再生の最適解──“食”のオイシックスと“介護”のヤマシタTOP対談。AIを駆使した産業DXの最前線に迫る
- オイシックス・ラ・大地株式会社 代表取締役社長
急成長スタートアップが陥る『成長スピードと組織の成熟度のアンバランス』を克服せよ──メルカリ・ネオキャリア出身者が語る、X Mileの“メガベンチャー級”のオペレーション構築術
- X Mile株式会社
日本発・グローバル規模で成長を続けるスタートアップ企業5選
“移民版リクルート”目指し、ブルーオーシャン市場で成長率350%──LivCo佐々氏が描く「外国人が暮らしやすい日本」実現までの道筋とは
- 株式会社LivCo 代表取締役
【トレンド研究】外国人材紹介事業──TAMは今の4倍超へ。HR産業の最後のブルーオーシャンがここに?
隠れテック企業「出前館」。第2の柱は32歳執行役員から──LINEヤフーとの新機軸「クイックコマース」に続く、第3の新規事業は誰の手に?
- 株式会社出前館 執行役員 戦略事業開発本部 本部長
【トレンド研究】デリバリー市場の裏に潜む革命──クイックコマースと最新技術が変える「生活の新常識」
- 株式会社出前館 代表取締役社長