成長・拡大する組織は理念で結べ──社員2,000名超を擁するオリックス生命に学ぶ、多様性ある組織のマネジメント方法

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インタビュイー
飯田 英人

1996年国内生保に入社。営業支社および本社での営業推進業務を経験。その後、買収・合併等を経て外資生保に20年近く勤務し、保険商品の企画・開発や収益管理、営業社員チャネルの販売戦略等を担当。2018年オリックス生命に入社し、主に会社全体を俯瞰する立場で経営戦略の企画・推進を管掌している。

古澤 健太

2017年オリックス生命保険に新卒入社。約3か月の研修を経て、人事部に配属。主に新卒採用・内定者フォローを担当し、2021年3月から社内研修も担当。現在は主に新卒採用・内定者フォロー・新入社員研修・キャリア支援を担当。

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企業選びにおいて、理念を最重要視している学生は少ないだろう。なぜなら、理念は抽象的ゆえにどこか似通っており、企業を選ぶ決定打には至らないためだ。それよりも、事業モデル、経営者の力量、経済的リターンなどを重視している学生の方が多いのではないだろうか。

しかし、理念を軽視してはいけない。組織が持つ力を最大限かつスピーディーに発揮するために必要となるものが、この理念だからだ。

もし君が「次世代のユニコーン企業をつくりたい」「時価総額数十億円〜数千億円の企業の経営者になりたい」と野望を抱いているのであれば、ここで理念の重要さを知っておくべきだろう。今回は、オリックス生命の事例をもとに学んでいく。

2021年に設立30周年を迎えたオリックス生命は、2019年にグループの企業理念とは別に、自社独自のオリックス生命理念を策定した。現在、この理念浸透プロジェクトの責任者であり、保険業界でのキャリアも長い経営企画本部管掌役員の飯田氏。そして、2017年に新卒でオリックス生命に入社し、現在は新卒採用と社内の育成開発を担当している人事部の古澤氏。この両名をインタビュイーとして迎え、理念策定の道のりや、理念が事業や組織に与えるインパクトについて伺っていこう。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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社員個々の多様性を尊重するためにも、1つの指針が必要だった

設立時より、オリックスグループの企業理念のもとで事業を進めてきたオリックス生命。

「オリックスは、たえず市場の要請を先取りし、先進的・国際的な金融サービス事業を通じて、新しい価値と環境の創造を目指し、社会に貢献してまいります」という企業理念は、確かにグループ会社であるオリックス生命にも先進的な保険商品・サービスの開発、提供という形で浸透してきた。

そして、多様化するお客さまのニーズに合った保険商品は、販売チャネルの一つである保険代理店にも受け入れられ、オリックス生命の急速な成長に繋がってきた。そんな喜ばしい状況の一方、課題が見えてきたと飯田氏は語る。

飯田事業規模の急速な拡大に伴い、2014年からの5年で社員数がおよそ2倍を超える規模になりました。保険会社からのキャリア採用者だけではなく、他業界からの採用もあり、社員のバックグラウンドは多種多様です。

また、保険会社と言っても、日本企業と外資系企業とでは文化が異なります。 そうすると何が起きたか。

「そもそもオリックス生命は何を実現するために存在するのか」という基本的なところですら、考え方がばらけてしまう様子が見られるようになったのです。

そうした状況も踏まえ、人の生死にかかわる生命保険事業を営む会社として、グループの企業理念とは別に、当社固有の理念を制定し、社員のマインド醸成と意識統一を図る必要性がありました。

拡大を続ける組織にとって、共通した価値観は各自の意思決定において極めて重要な指針となる。オリックス生命の理念策定の根底には、対外的な面だけではなく、内側にいる社員たちに向けて、という想いがあったのだ。

その想いは、理念策定の手法にも表れている。同社は2,000名を越える組織にも関わらず、社長を始めとした経営陣ではなく、有志の社員たちに理念策定のプロジェクトを任せたのだ。その方針を決めた社長の想いについて、飯田氏は次のように説明する。

飯田理念は、1度策定した後は会社の絶対的な判断基準として存在し続けます。その理念を長きに渡り実践し、会社の将来を担っていくのは社員たちです。

一般的な会社の理念は設立時に掲げられるものであり、我々のように後から理念を策定するのは珍しいでしょう。だからこそ、社員参加型で納得感のある理念を目指したかったというのが社長の考えでした。

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理念制定により、組織全体の意思決定が加速

組織の急激な拡大に伴い、多種多様な社員が共通の価値観を持つ必要があると考えたオリックス生命。果たして、オリックス生命理念を策定したことで事業や組織にどのような変化が表れているのだろうか。古澤氏は、自身が感じている変化について、次のように述べた。

古澤会社として目指す方向性が明確化されたことで、社員間での合意形成にかかるスピードが速くなったと感じています。意見が食い違ったときも理念に立ち返り、「あるべき姿はこっちですよね」と共通の価値観に照らして議論することができます。

   

そんなオリックス生命は、理念と合わせて行動規準を新たに策定している。理念という抽象度の高い指針だけでなく、具体的な行動規準も設けたことで、「オリックス生命理念を体現するために社員一人ひとりが取るべき行動が明確になっている」と飯田氏は語る。

飯田理念はどうしても抽象的な表現になってしまうため、解釈に多少の差異が生じます。そこに行動規準を加えることによって、組織として統一された考え方のもとにアクションを取れるようになりました。

実際、お客さまに対してはもちろん、社員それぞれにとってのステークホルダーへの向き合い方にも変化が見られます。オリックス生命が目指す“お客さま視点”、“お客さま本位”の意識が根付いてきたと感じています。

このように、理念および行動規準の策定によって既存社員に明確な変化が見られたというオリックス生命。なんとそのポジティブな影響は新卒採用のシーンでも起きているとのこと。一体どのような変化があったのだろうか。

古澤他の会社からの内々定を辞退し、当社の内々定を即承諾してくれた学生さんがいました。即承諾してくれた理由を尋ねてみると、まさにこの理念が決め手になったとのことでした。

その学生さんは、もともと保険に対して押し売りのイメージがあり、「お客さまにそういうセールスはしたくない」という明確な意思がありました。しかし、オリックス生命理念を表した絵にある「お一人おひとりの想いに共感し、心地よい距離感で寄り添う存在」という言葉をきっかけに、当社の事業に対する在り方に共感してくれました。

古澤とはいえ、理念に事業が伴っているかどうかは別の話。その学生さんは、説明会や面接の場で、我々が実際にどんな価値観で仕事をしているのか、本当に社員が一貫性を持って働いているのかを確認してきたのでしょう。結果、「オリックス生命が1番自分に合っている」ということで即承諾に繋がりました。

学生さんが理念に共感していただけたことは嬉しいですし、何より理念が持つインパクトを体感できました。

理念を策定したことで、社員一人ひとりが共通の価値観を持って事業に向き合う環境を用意することができた。結果、意思決定のスピードが向上しただけでなく、組織力が高まったといえる。

そのインパクトは社外にも波及。自社の未来を担う優秀な学生の採用にまで至っているというのだから、まさしく値千金の取組みとなった。

しかし、こうした理念や行動規準は当然ながら“策定すればよい”という話ではない。中身が肝心となることは言うまでもないだろう。そこで、ここからはオリックス生命の具体事例をもとに、どのような想いやメッセージが事業や組織を好転させるのか深掘りしていきたい。

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理念で会社のあるべき“指針”を、行動基準でその“体現方法”を明示

オリックス生命が掲げた理念は「想いを、心に響くカタチに。」──だ。この言葉に込めた想いについて、飯田氏は保険業界の仕事の特性も踏まえ、次のように説明する。

飯田生命保険の業務に携わる上で最も大事なことは、社員がお客さまの想いに共感し、寄り添うことだと考えています。

というのも、生命保険の場合、保険にご加入していただいたのち、そのお客さまとの接点はそれほど多いわけではなく、次に接点があるのは保険金や給付金の支払いというケースも考えられるビジネスです。

飯田保険金や給付金の支払い時は、基本的にお客さまやお客さまのご家族が大変な状況に置かれていると想像ができます。1枚の請求用紙の裏にあるお客さまの状況や想いにいかにして寄り添い、適切な対応ができるかが非常に大切なことであり、我々の真価が問われる部分だと考えています。

保険業界にもデジタル化の流れがあり、オリックス生命でも各種手続きの利便性向上や、業務効率向上の取組みを進めています。それも非常に大切なことです。しかし、その一方で忘れてはならないのは、お客さまの想いに寄り添うというウェットな部分です。そうしたマインドで仕事をしていこうという想いが理念に込められています。

この理念をいかに日々の行動に落とし込んでいくかを表したのが、先ほど触れた行動規準だ。オリックス生命が掲げた行動規準は以下となる。

私たちは、

・「聴く」ことを大切にします。

・何事も他人事ではなく「自分事」としてとらえます。

・「変える」と「変わる」を大切にします。

・考え抜いて「より良いもの」をつくります。

これらは、言い換えると“インプット”、“シンキング1”、“シンキング2”、“アウトプット”に分類することができ、飯田氏は「このプロセスを順に踏むことで理念に沿った価値提供ができる」と述べる。

飯田まずはインプットでお客さまの話を“聴き”、その上でどうすべきかをお客さま視点で“考え”、最後に“アウトプット”に繋げていくということを示しました。一見、当たり前のように見えるかもしれませんが、組織が大きくなればなるほど、立場によって見える景色や考え方にも差が出てきます。そんな時、社員一人ひとりが一貫性を持った行動ができるかどうかは、こうした“当たり前の規準”が組織に浸透しているかどうかにかかっているのではないでしょうか。

行動規準という言葉だけを聞くと、穿った見方をすれば「会社特有のルールに縛られるの?」「自由がなさそう」と感じる読者もいるかもしれない。しかし、それは早計というもの。今回オリックス生命が掲げた行動規準はあくまでスタンス、在り方にフォーカスしたものであり、決して「〜においては常に〜せねばならない」という縛りを設けるものではない。

むしろ逆。つまり、事業を推進する上でこの基礎さえ押さえておけば、あとは君の意志に沿って果敢にチャレンジすることが可能ということだ。考えてみてほしい。ルールやスタンスがなく、経営者の一存で会社の行く先が変化する環境と、指針となる柱が組織の中心に添えられ、そこを起点に社員個々が自由に飛び回れる環境。君ならどちらを選ぶだろうか。

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公募メンバーによるプロジェクトを実施

前述のように、オリックス生命理念・行動規準は有志の社員を中心としたプロジェクトで策定された。では、具体的にどのように進めていったのだろう。

飯田プロジェクトがスタートしたのは2018年5月。まずは有志を募りました。応募者は49名。そこから実際にプロジェクトメンバーになったのは23名です。年齢や性別もさまざま、本社や全国各地の支社からバラエティ豊かなメンバーが揃いました。

飯田私は本プロジェクトが佳境に差し掛かろうかというときに様子を見ていましたが、キャリアのバックグラウンドも業務内容も全く違うメンバーが納得しながらプロジェクトを進めていくのには難しさがあると感じました。これは、公募式でやってみたからこそ分かったことですね。理念には予め正解があるわけではないため、メンバーたちは生みの苦しみを味わったのではないかなと思います。

議論を重ね、理念の案が出来上がったのは同年7月のこと。ここで一旦、経営陣に提示するも、このときの案は残念ながら差戻しされている。果たして、何が懸念となったのだろう。

飯田メッセージがややプロダクトアウトな印象を受けたためです。議論の中では「お客さまへの寄り添いが大切だ」という話は出ていましたが、形として出てきた言葉は「お客さまにとってわかりやすく、価値のあるものを提供していきます」といったものでした。もちろん大切なことですが、理念で重視したいのはオリックス生命で働く社員のマインドです。その点を再考してほしいという判断になりました。

差戻しを受け、メンバーは再検討。最終的に今の形に仕上がったのは同年9月のことだ。そこから、理念を体現するための行動規準を策定する。「“寄り添う”とは何なのか」とディスカッションを重ね、今の完成形に至った。

全社を挙げて策定した企業理念と行動規準。その効能は先に挙げた通りだが、これらを携え、今後オリックス生命はどこに向かうのだろうか。最後に、両氏には同社が見据える今後の保険業界と、そこで活躍しうる人材についての見解を述べてもらった。

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下地は整った。次の30年に向け、若き力を発揮せよ

2021年4月、オリックス生命は設立30周年を迎えた。理念策定は、あくまでも組織の拡大により理念の必要性が増したタイミングだったからであり、節目を機に実施したわけではない。

加えて、飯田氏は「生命保険業界には100年企業もいる。我々の30周年はまだまだ業界内では若い」と語った。そんなオリックス生命の特徴について、飯田氏はこう語る。

飯田保険業界は、レガシーであり保守的であると思われがちですが、オリックス生命はそういった企業ではありません。

30周年の歴史の中でも、急成長したのはここ10年〜15年のこと。まだまだこれから先の未来を切り開いていかなければならないですし、そのためのレールも盤石に定まっているわけではありません。

次の30年、日本社会は人口の減少もあり、保険業界を取り巻く環境も厳しくなっていきます。その中で成長し続けるためには、全ての社員がお客さまに寄り添い、常により良いものを目指して挑戦することで、お客さまに新しい価値を提供し続けていく必要があり、そのためには「オリックス生命理念」の実践が最も重要だと考えています。

古澤さまざまなバックグラウンドの社員が活躍している環境があり、固まった伝統やしきたりはありません。

古澤ですから、自分の想いをぶつけられるチャンスがあると考えています。また、他の業界に比べて、安定して働いていける。と学生さんに思われがちですが、多様化するお客さまのニーズに合わせて、我々も常に変化しなければなりません。そのため、成長・変化志向の学生さんにとっては、非常にやりがいのある環境だと思います。

これからオリックス生命に入社する人に期待したいことは何なのか。どういったチャンスがあり、何に取組めるのか。その疑問に対し、飯田氏は「我々の想像の範疇を超えていってほしい」と答える。

飯田技術の進化により、これからの社会はますますスピードをあげて変化していくでしょう。ブロックチェーンやメタバースなど、これまでにない新しい技術や概念が次々と出てきています。

こうした技術は何もテクノロジー業界だけでなく、我々の保険業界においても変化をもたらすと考えています。例えば、保険金の新しい支払方をはじめ、営業社員や保険代理店の募集人、銀行の窓口などが中心の販売チャネルにも、オンラインでの対面など非接触のコミュニケーションが増える他、AIのアバターを使った顧客体験など、さまざまな変化が起きています。

飯田そんな未来を見据えると、これからオリックス生命で活躍していただける人は、“これまでの保険”という固定概念に縛られない挑戦ができる方です。我々が予想だにしない発想で、保険業界に変化をもたらしていただきたいと思います。

ただし、そうした中でも忘れてはならないのは「お客さまへの寄り添い」です。デジタル化を進めて効率化を図る際にも、根底にあるのはお客さまにとっての利便性の向上。そこで、今回お話をさせていただいた理念への共感が重要になってきます。そこに共感いただければ、オリックス生命は若い皆さんにとって素晴らしい舞台になると思います。

「オリックス生命にとって、理念とは最上の概念」だと語ってくれた飯田氏。サービスのデジタル化を中心とした業界をリードする挑戦も、向かう先が曖昧なままではポジティブな結果には繋がりづらい。理念とは、いわば会社として向かうべき方向を指し示すコンパスのようなもの。それを手に入れたオリックス生命は、ここから先、さらに飛躍的なスピードで成長していくことができるのだろう。

理念ひとつで会社はここまで変わる。そして、そこで掲げる想いが企業にとって的を射ていればいるほど、事業の成長や組織の結束、そして採用への貢献と、ポジティブな影響を引き起こすドライバーとなることが理解できたかと思う。本記事によって、読者の企業をみる視点に変化を起こすことができれば幸いである。

こちらの記事は2022年03月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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