競合ひしめくキャッシュレス業界での挑戦「お金を支払う煩わしさを無くしたい」──三井住友カード渡邊氏が考える、キャッシュレス業界の未来とそこに見る勝ち筋
Sponsored大企業は若手に仕事を任せない?国内に1万社以上ある大手企業を十把一絡げにくくる時点で、大した根拠もなく「ベンチャー=若手が活躍できる」と盲信しているのだろう。極端な話、企業規模と若手の裁量度合いは関係ない。そこにあるのは、あなたに任せれば事業を伸ばせるのか、伸ばせないのかの2択だけ。
若手だろうが、強い意志と能力があり、未経験だろうがポテンシャルが見出せるのであれば、会社は仕事を任せるもの。とはいえ、「社運をかけた主力事業は任されないでしょ?」「結局は全部上司の手柄なのでは?」などと疑念が拭えないあなたに、実例を踏まえてその是非を証明していこうと思う。
今回紹介するのは、読者がイメージする"大企業"の本丸であろう金融業界に属する、三井住友カード。サービスのユーザーとしてはもちろん知っているが、働く先として若手が裁量を持って事業を推進していくイメージは、湧きづらいのかもしれない。
そんな同社に当初は明確なビジョンなく新卒で入社した人物が、その後Twitterの共同創業者ジャック・ドーシー率いるシリコンバレーのベンチャーと協業し、今では会社を代表する、いや社会のインフラをひっくり返すほどの役割を担っているとは、想像しがたいものである。是非、その背景にある同社の若手登用に関する考え方を踏まえつつ、決済インフラの未来についても共に知見を深めていきたい。
- TEXT BY MARIKO FUJITA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
「大手だから?若手だから?そんな議論は知らない」
事業を伸ばす力が有るのか無いのか、問うのはそこだけ
我々も日々の生活のなかで身近に活用しているキャッシュレス。この決済端末の革新に取り組み続けてきたキャッシュレス決済の立役者、三井住友カード・決済プラットフォーム部の渡邊 威王氏によると、20代の成長環境としての同社の魅力について「やる気と能力さえあれば、年次に関係なく大きな仕事を任せる点が特徴」といった見解を持っていた。
渡邊最近も若いメンバーが入ってきていますが、任せられるものはどんどん任せています。見方によっては押し付けているのかもしれないですが、そういう中でもやる気と能力がある人はドンドン伸びていきますよね。
あとは、現時点では能力的に少し足りなくても、高い意欲があって「いずれはできるようになりそうだな」とポテンシャルを感じたら、迷わず任せるようにしています。
渡邊学生の方々にはよく理解していただきたいのですが、会社は個人の成長のために、わざわざ環境を用意するわけではありません。全ては事業発展のためです。ただ、若手本人に意思や主体性、能力があれば、成長を期待して大きな仕事も任せるし、必要ならサポートもします。シリコンバレーに出張に行きたいなら、新人でも行かせます。もちろん、相応の成果は求めますけどね。そうしたプレッシャーの中でこそ、新しい何かが生まれると思っていますので。
もちろん全ての会社がそうだとは言えないが、少なくとも当社では事業を伸ばす人材にこそプロジェクトを任せます。年齢だけで仕事の裁量をコントロールするなんて、事業を担う立場としてはナンセンスに感じますね。
「下積みをしてからでないと、面白い仕事は任せてもらえない」「20代のうちから新規事業開発に携わるなんて不可能だ」──もしかしたら、大手金融企業にそんなお堅いイメージをお持ちの読者もいるかもしれないが、年次に関わらず大きな仕事に関わることは可能であり、全く前例のないプロジェクトにも果敢に取り組める。三井住友カードはそんなチャンスが掴める場であるとのことだが、具体的にどういった事業で、どんなチャンスが掴めるのか、彼のキャリア変遷とともに詳しく追っていこう。
明確なビジョンを持って三井住友カードに入社した訳ではない
──が、5年後にはTwitterの共同創業者ジャック・ドーシー率いるベンチャーとタッグを組むワケ
渡邊氏が新卒で三井住友カードに入社したのは、2007年。2005年頃まで続いた就職氷河期とリーマンショックのちょうど間の時期にあたり、就職活動は比較的ラクな世代だったそうだ。
そんな社会的背景もあり、渡邊氏は「就職活動はかなり漠然とやっていました」と、当時のことを振り返る。
渡邊その頃はまだ日本のメーカーにも元気があって、極めて就職がしやすい時期でした。そんな時代の中、当時の僕は「サラリーマンをやるのは一時的なこと。とりあえず適当に就職して、将来は起業しよう」などと考えていました。「モラトリアムを延長したい」というような、どこか甘い考えを持っていたのかもしれません。
そうしてなんとなく金融業界を受け始め、内定をもらった数社を比較検討して三井住友カードを選びました。当時、弊社が「iD」というおサイフケータイのサービスをリリースしていて、それが比較的面白そうだなと思ったのと、銀行は自分には合わなさそうだと直感的に感じたためです。
なので正直なところ、明確なビジョンを持って三井住友カードに入社したというわけではありませんでした。
入社して最初に配属されたのは、クレジットカードの営業部署。毎日街中の飲食店や小売店を回り、加盟店の新規獲得に奔走する中、とあるニュースが業界に大きな話題を呼んだ。Twitterの共同創業者であるジャック・ドーシーが新たに立ち上げた決済端末「Square」が、サービス提供を開始したのだ。
「Square」とは、Bluetoothやイヤホンジャックを通じてスマートフォンやタブレットと接続できる、白い小型の決済端末だ。クレジットカードや交通系電子マネー、Apple Payなどのキャッシュレス決済に対応することができ、POSレジや売り上げデータの分析など、その他の機能に連携することもできる。
また、「Square」の導入コストの安さや入金スピードの速さ、どこにでも持ち運べる利便性は、従来の決済端末にはなかった魅力であり、キャッシュレス決済の新たなステージを切り開くプロダクトとして注目を集めた。
国内でも、「なんとかこのビジネスを日本にも展開できないか」と業界各社が沸き立つ中、渡邊氏の元にも、そんな話が舞い込んできたという。
渡邊 私がこのプロジェクトにアサインされたのは、当時この分野に精通している社内でも数少ない人間の一人だったからだと思います、加えて、今思えばですが、私以外も20代~30代前半のメンバーが中心でしたので、当時の上司に、新しいモノは若いメンバーに任せたい、という意向があったと思います。
大変だったのは、その後Squareのメンバーと共同で日本版アプリを開発するプロセスだ。
Squareの開発メンバーが開発拠点である大阪に来日し、合宿のような形で開発がスタートしたが、当時の三井住友カードにとってシリコンバレーのスタートアップと提携することは、「水と油が交わる」ようなもの。お互いのカルチャーギャップは非常に大きく、当初はほとんど会話が噛み合わなかったという。
渡邊まず、開発手法が全然違いました。向こうはトライ&エラーが当たり前。一方、こちらは設計書を全部つくってから動くのが当たり前といった真逆の風土で、システムテストはもはや儀式のような位置付けでした。また、コミュニケーションはすべて英語ということもあり、その辺りの基本的な開発プロセスやチケット(各自のタスク)を擦り合わせるのに、非常に苦労しました。
他にも細かいギャップを挙げだしたらキリがありません。たとえば、申し込み画面で性別を選択する項目をつくるときのこと。当時はジェンダーに関する国内の議論も今ほど活発になってはおらず、僕たちの感覚からしたら、性別は男性と女性の2種類でした。ところがシリコンバレーは日本よりずっと進んでいて、性別の種類が複数あったりする。そこで、「日本は何種類つくるんだ?」「2種類じゃまずいんじゃないか?」みたいな議論が起こってくるんです。
そうした人種や国の違いから来るギャップも含めて、1つずつディスカッションを通じて解消していきました。時には議論が白熱し、口論のようになることもありましたが、両社の開発メンバーで京都に観光に行ったり、飲みに行ったりする中で、最終的には打ち解けることができました。結果、プロジェクトが終わって数年経った今でも、定期的にみんなで集まるくらい強い結びつきが生まれましたね。
こうして数多のハードルを乗り越え、2013年の5月に日本版「Square」がリリース。初日で多数の申し込みが入り、たしかな手応えが感じられたという。
ここで改めて問いたいのは、シリコンバレーのスタートアップと業務提携という、社内でまったく前例のないプロジェクトを最後まで進められた要因は何だったのかという点だ。また、当時20代後半という若手の立場でプロジェクトを主導することに対して、プレッシャーやストレスはなかったのだろうか。渡邊氏は当時を振り返り、こう語る。
渡邊率直なところ、「はやくやらなきゃいけない」という焦りの気持ちが大きかったですね。実はその頃、競合他社が類似の決済サービスを続々と出し始めていて、うちは完全に出遅れた形になってしまっていたのです。。
ただ、スマホ決済のビジネスを一番最初に作ったのはSquareであり、言ってみれば本家本元。そのため、メンバー全員が「我々こそが本物だ」という想いを持っており、その強い意識こそが出遅れながらもプロジェクトを最後まで進められた要因だったと思います。実際にリリースした際も、メディアには「真打ち登場」といった扱いで取り上げていただきました。
もちろんプロジェクトを進める中で、プレッシャーや苦しみを感じることはありました。ただ、それ以上に「楽しい」という気持ちの方が大きかった。なぜなら「自分は世の中を変える大きな仕事をしているんだ」という強い実感がありましたし、世界中からシリコンバレーに集まってくる一流の人材、それも自分とほとんど変わらない世代の人たちと一緒に仕事ができ、刺激的な毎日を送ることができたからでしょうね。
現状の"負"と、"異国の文化・価値観"から
イノベーションが生まれた
リリース後も引き続き「Square」の担当を続けていた渡邊氏は、年に1〜2回、現地調査も兼ねてシリコンバレーへ出張に行くように。そんな“シリコンバレーの定点観測”を続けていく中で、三井住友カードの新型決済端末「stera terminal」の原型となるプロダクトに出会う。
渡邊2016年頃からですかね、「Point」というAndoridOSの決済端末が出始めてきて、「これは面白い」と感じました。これまでの端末は独自OSやLinuxが主流だったので、これは色々夢が広がるなと。実際アメリカ以外の国も短期間でAndorid端末に切り替わっていきましたね。
渡邊「Android OSを採用しているメリットはアプリをインストールすることでさまざまな機能を追加できるという拡張性もあります。
「Square」はBluetoothやイヤホンジャックでつなぐことで、「タブレットを決済端末にする」という発想でしたがこのモデルはその逆、「決済端末にタブレットを搭載している」ようなイメージです。
ちなみにこれまで国内で主流だった旧来の決済端末は20年近くほとんど変わっていなかった。
旧来の端末の問題点は本体機とICカードを差し込むリーダー、電子マネーのリーダーライター(非接触でICチップと通信を行う機能部分)、サインパッド(電子サインの記載部分)といった部品がそれぞれ独立しており、「端末が邪魔だ」という声が上がっていた。くわえて、近年急速に普及したQRコード決済には既存の端末では対応することができず、さらにもう1つ端末を追加しなければならないといった不便があった。
こうした状況を受けて、社内でも「端末のモデルを刷新していく必要があるのではないか」という議論が出始めていたのだった。
渡邊それから、西海岸の大手銀行と、と情報交換をしていた際に、「アクワイアリングのビジネスで最も注力している部分はどこか」と聞いたことがありました。すると、「端末ラインナップに決まっているじゃないか」という意外な答えが返ってきたんです。
日本では、各社が同じような決済端末を置きあっていますが、アメリカでは決済端末こそが差別化すべき要素であり、競争力の源泉になっている。それならば、自分たちもオリジナルな端末を持った方がいいんじゃないかという話になって、「新しい端末をつくる」という方向性へと進んでいきました。
シリコンバレーにおける新たな端末の登場と、国内における端末モデル刷新へのニーズの高まり。この2つの事象が同時に起こったことで、「stera terminal」の開発プロジェクトが動き始めた。
渡邊当初は市場にある端末を仕入れるということも検討していました。しかし我々には「決済端末で競合との差別化をはかる」という目的もあったため、独占でやりたかった。また、調べていくうちに、海外製のAndorid端末を日本で展開するにはいろいろと超えなければならないハードルがあることもわかってきて、自前でつくった方がよりクオリティの高い端末になりそうだということになりました。。
そこで、日本国内における決済端末市場で圧倒的なシェアを誇る国内メーカーとタッグを組み「stera terminal」の新規開発が始まったのです。
こうした「端末を1からつくる」という新たな取り組みについては、社内で知見や経験を持っている人はおらず、手探りで進めなければならない難しさはあったが、2020年7月、ついにリリースへと漕ぎ着けた。
渡邊これまでは既製品の端末を買うことしかなかったため、、仕様を1つずつ決めていくような開発のプロセスはこれが初めて。何万回にも及ぶ細かな意思決定の場面があり、一筋縄ではいきませんでした。ただ、その分自分たちで考え、選択し、決めていけるといった自由度には充実感がありましたね。
また、開発・設計段階で営業部に定期的なレビューをおこなって、どんな端末なら売りやすいか?とか、これまで端末の不満などを幅広く意見聴取しました。
そういった意見の全てが反映された訳ではありませんが、例えば7インチという大きめのディスプレイを採用し、説明書がなくても操作できるようなわかりやすいUIを実装することで、これまでの決済端末にはなかった使いやすさを実現するなど、「stera terminal」は当社のノウハウや思いが結集された端末になったのではないかと思っています。
途中でコロナ禍の影響もあり、リリースまで4年近くの歳月がかかりましたが、「steraが1台あれば決済はもちろん、お店に必要な機能がすべて完結する」という理想の端末をつくることができました。
現在「stera terminal」ではすべての機能が解放されているわけではなく、2022年中頃までにかけての段階的な機能リリースを予定している。
キャッシュレス社会の普及は必然。
若手に期待するは、社内外を巻き込み、
自社の豊富なデータ資産を活用した次なる挑戦
刻一刻と状況が変わる、国内のキャッシュレス市場。2つの新型決済端末を市場に投下し、この業界の革新を主導してきた第一人者として、渡邊氏はこれからこの市場をどのように見ているのだろうか。また、今後どのようなことに取り組んでいくのだろうか。
渡邊経済産業省はキャッシュレス決済の比率について「2025年までに40%」を目標として掲げていますが、今のペースでいけばこの目標はおそらく達成されると思います。そして、キャッシュレスの普及は一度このあたりで頭打ちになり、「その後の打ち手をどうするか」が次の大きなテーマになると私は考えています。
そうなると、よく言われていることではありますが、「データをどう活用するか」こそが今後の差別化要素であり、これから考えていかなければならないテーマになると思います。
また、僕個人としては「お金を払っている」と感じさせない決済環境がつくっていけたら面白いなと思っています。「気がついたら買い物が終わっている」みたいなイメージです。たとえば今、コロナ禍の影響で、飲食店のメニューをスマホから注文できる「モバイルオーダー」が増えてきていますけど、あれも1つの「払っている感のない仕組み」だと思っていて。そんな仕組みをたくさん考えていく必要があると思っています。
その際、これを決済端末で実現する必要性は必ずしもありません。我々のミッションは、”Have a good Cashless. "。あくまで最適な決済インフラを整えていくことなのです。
また、今後も業界のイノベーションをリードしていくにあたって、三井住友カードが持つ独自の強みについて訊ねると、出てきたのはやはり「シリコンバレー」というキーワードだ。
渡邊私が関わったこれまでのプロジェクトを振り返ってみて、我々の強みだと思う点は、シリコンバレーの会社とパイプがつくれていた部分だと思います。「Square」も「stera terminal」も、シリコンバレーが起点になって始まったプロジェクトですし、先ほど申し上げた世界観も、やはりグローバルな流れを追っている中で出てきたものですから。
弊社ではシリコンバレーに拠点も置いており、定期的に情報を仕入れていますが、このあたりは他のカード会社にはない特徴だと思います。
このように、目的に応じて国内外問わずパートナーと連携する外向きの姿勢と、絶えず新たな挑戦を推進していく風土は、読者のような若手ビジネスパーソンこそ求めるところではないだろうか。
ぜひ、就職活動中の皆さんには「ベンチャー・スタートアップ=若手から活躍できる、裁量権が大きい」「大企業=年次が上がらないと、やりがいのある仕事は任せてもらえない」などという二項対立に陥らず、それぞれの会社の強みやカルチャーを見極められるようになってほしい。
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こちらの記事は2021年07月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
藤田マリ子
写真
藤田 慎一郎
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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