VALUは救世主か破壊者か?
開発者・小川晃平インタビュー
破壊的イノベーション。なんて心地よい響きだろう。SNSとクラウドファンディングを掛け合わせたようなウェブサービス「VALU」はその評判誉れ高い。
俄然注目度はうなぎ上りだ。サービス開始は5月31日であるにも関わらず、先の国会閣議後の記者会見で、麻生太郎財務・金融相がこのサービスについて見解を述べたほど。個々人の価値をトレーディングカードのようにトレードすることができるサービスだが、なぜこれほどまで多くの人が話題にしているのだろうか。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
ユーザー数は7月31日時点で約4万人。反響の大きさについて運営元である株式会社VALU代表取締役の小川晃平氏自身驚いているという。
「サービス開始前には、どんな人にどんな風に使ってもらえるか測りきれないところがあった」と言い、人気ぶりのみならず、予想だにしなかったユーザーたちのVALU活用方法に、日々対応に追われている。
VALUを簡単に説明すると、ユーザーのSNSフォロワーを解析し、時価総額を算出。そして「VA」(サービス内の模擬株式)として発行し、トレーディングカードのように他者に買ってもらうことができる。取引通貨はビットコイン。買い手は発行者の将来性や優待に対し、支援をするわけだ。
世間的認知度も高まった今、VALUを取り巻く現状はどのような展開を見せているのか。
暗号通貨の難解さに加え、毎日何らかのニュースが舞い込むVALU。様々な印象を抱きつつ、くしくもビットコイン分裂後の8月、YouTuberヒカルのVALU騒動があった翌日に小川氏に時間をもらった。
「個人が活躍する時代」のニーズに合っていた
サービス開始2か月で約4万人が登録した理由はなぜでしょうか?
小川時代背景に合っていたんでしょうね。今は「個人の時代」と言われていて、会社の肩書とかのバックグラウンドなしに個人が活躍する社会になってきています。
小川だから、クリエイターや実業家でVALUを活用してくれている人が多いのはもちろん、普通のサラリーマンのユーザーもいます。しかも、自分をアピールする才能に長けた人は、たとえば一般企業の営業職であっても時価総額(発行VA数×VA単価)をどんどん上げています。
一方で、(VALU上で)目立たないサラリーマンがいるのも事実です。サラリーマンでも企業の顔になってるくらいの人はVALU主(=VALUにおける株主)にとっては魅力的ですが、そうでなければ注目してもらうのは難しい。それを救うべきなのか、それはそれでよしとするのか、今は検討中です。
でも、そういう人にとってVALUを使ってみることが意味がないかというとそんなことはなくて、「自分の売りはなんなんだろう?どんなアピールをすれば注目度が上がるんだろう?」って考えるきっかけになってるとは思っています。
では、反対に目立っているのは?
小川買い手に向けて、「わたしが書く小説の一節にあなたを登場させます」なんてユニークな「優待」を用意してる人は増えています。
最近だと、あるイラストレーターさんが「LINEのスタンプにあなたの似顔絵を取り入れます」とかありました。自分の似顔絵スタンプがあったら確かに使いたくなるじゃないですか。
あと、アーティスト同士のコラボレーションが増えていることも興味深いですね。絵を描いてる人がVALUを通じて文章がうまい人と出会って一緒に作品を作ったり。
そういうマッチングは他のSNSでは起こらないし、非常にVALUっぽいと思います。しかも、コラボレーションに興味ある人が集まってオフ会が開催されることもあって、会場では料理が得意な人がケータリングを担当するなどしてるようです。
ビットコインが生んだ人間臭いネットコミュニティー
注目度が高いユーザーはどんな工夫をしていますか?
小川VALUのタイムラインにはツイッターとかインスタグラムなど他のSNSでの投稿も表示させることもできますが、やっぱり人気が高い人は活発に投稿しています。
「今どこどこにいて何してます」っていうのがわかるから、応援するほうも具体的なアドバイスを送りやすいのでしょう。
中には、注目してもらうために自分のセクシーショットをアップしたりするアイドルやモデルがいて、そうすると「自分の価値が下がるから止めた方がいい」と注意する人がいます。
これは実際に支援しているわけだから、支援相手の価値が下がると自分の資産価値が下がることもあって、みな真摯にアドバイスするんでしょうね。ちょっとした監視社会というか、昔ながらのコミュニティーを再現してるイメージといったらわかりやすいかもしれません。
東京だとこういった文化は廃れてますが、地方だと、子どもがなにか悪いことしたら近所のおじさんが怒ってくれるみたいなとこありますよね?家の近所で悪い人間が育ったら自分の評判にも傷がつくっていうのもあるかもしれませんが、近い感覚です。
インターネットの進化にともなって人間が孤立化していく中で、VALUでは非常に人間臭いコミュニティーが生まれてるってとてもおもしろい。
若さゆえに、目標が曖昧なままとりあえず海外に行きたい!というユーザーもいるんですけど、そういう子に関しても温かく見守ってるVALU主が多い気がします。
結果的に大きなことを成し遂げられるかは別として、その行動力に支援するというか。まだ地に足がついてはいないんだけど、大胆なことをやる後輩って刺激になったりします。それと同じ印象です。
飲み会をデジタル化した
やりたいことは明確でなくてもいいのでしょうか?
小川別にいいんじゃないですか。自分が何やりたいかわからないから、それを探すために海外に出ますという人もいますし、そのお金を支援してくださいという人もいる。それがいいのか悪いのかはさておき、それに共感してくれる人がいるのは別に悪くないと思います。
だって、今やりたいこと何?って訊かれて答えられない人なんてざらにいるけど、でも、そういう人にも応援してくれる人っていっぱいいますよね?
たとえば後輩とかに「今何がやりたいのかわかんない」って人いっぱいいませんか?それで飲みに行ってその席で「お前これやれよ」って会話するのも楽しい。そういうのをインターネット上で再現できるって悪くないと思います。
飲みに行ってご馳走することをデジタル化してるイメージと言いますか。身のまわりの世界だとおごってくれるのは先輩だけど、VALUでは例えば著名な実業家。
彼らが自分の発言に目を付けてくれたら、すごいチャンスになります。
今のスタートアップ業界とまったく同じ構造です。有名な方から支援してもらえると、支援された側のクレジットも上がり、さらに支援者が増えるっていう。
それって今までは個人ベースではできなかったことだから、VALUによってそれが可能になったら、それこそ「個人が活躍する時代」に近づいてますよね。
SNSは個人の決算報告書
才能があってもSNSが不得手な人は不利なのでは?
小川確かに売り出しにくいと思います。でも、SNSの駆使が求められることはある程度当然と思っています。
理由は、ちゃんと情報公開して、「自分はがんばってます」ってしっかり報告することは、支援してくれる人に対しての報告義務みたいなものでしょう。
企業の場合は決算報告書みたいなものがあると思うんですけど、その代替機能としてあるのがSNSなんじゃないでしょうか。
今後、がんばってる人へ向けてより自分のことを表現できる選択肢を増やすため、投げ銭機能の付いたライブストリーミング機能の実装を考えています。アーティストやタレントの方はこれで自己表現が更にしやすくなると思います。
一方で、ITに詳しくない人や、各種SNSでこれまで発信してこなかったため発行できるVA数が少ない人でも快適に使えるよう、アプリ化することや、VAを分割できる仕様にすることを決定しています。
リスクはどうでしょう?
小川デメリットはあります。一番のデメリットは、1回変なことすると社会的信用が崩れていくことです。
でも、個人名出して社会的信用をかけてやってるってことをまだ十分理解してもらえていないので、そこをどう啓蒙していくかは改良の余地があると思っています。
またビットコインの価値が急減するリスクはありますけど、国発行の通貨リスクと変わらないのでは?というのが正直な印象です。通貨としての歴史があるかないか。
今の為替変動相場制は1971年のニクソンショックが発端とするとそれから46年です。ビットコインは2009年誕生の8年。それほどの開きでもないと思いませんか?まだまだ信用度でいうと劣るかもしれないけど、そろそろ基軸通貨が変わってもいいころだと思っています。
VALU発シンデレラストーリーを作りたい
今後どんなユーザーが現れてくれたら理想的ですか?
小川まったく無名の人がVALUきっかけで有名になってくれたらうれしいですね。SNSで全く影響力なかったけど、VALUでは2~3年後にトップクリエイターになっていた、みたいなシンデレラストーリーを期待しています。
海外展開もしたくて、「子どもに勉強道具を買ってあげたい」という発展途上国の人が出てきてもうれしいですし、極端な話、レディ・ガガとかスーパースターがMV出演の優待を用意するとか使い始めたら最高におもしろいですね。
そうなるとVALU主は一生そのアーティストを応援し続けるはず。そこまでたどり着けるかどうかはさておき、想像は膨らませています。
こちらの記事は2017年08月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
松本 玲子
編集
海老原 光宏
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