SEOは“普通”が勝つ?
ウェブライダー松尾が明かす、
アルゴリズムと共存するコンテンツ制作の要

インタビュイー
松尾 茂起
  • 株式会社ウェブライダー 代表取締役 Webプロデューサー 

1978年奈良県生まれ。関西学院経済学部を卒業後、京都の制作会社に勤務し、大手舞台の音楽制作などを担当。その後、25歳でフリーランスのクリエイターとして独立し、アーティストの演奏サポートや楽曲制作の仕事を請け負う。また自身のピアノ演奏を録音した「ピアノフレーズ集」をWebで販売し、検索集客を意識したWebマーケティングのノウハウをパッケージ化した商品「賢威」を開発・販売を始めたところ、多くのユーザーから支持され、2010年「株式会社ウェブライダー」設立。Webコンサルティング業の傍ら、様々なWebコンテンツをプロデュース。「松尾シゲオキ」名義では作曲家・ピアニストとして活動。

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時流に合わせてSEOに成功する企業は多くとも、検索アルゴリズムの変更を経ても尚、長期にわたりSEOで成果を出し続けている企業となると限られてくる。

ウェブライダーがその希少な存在であり続けている根底には、代表取締役である松尾茂起のコミュニケーションに対する考え方がある。

彼の「人を傷つけたくない」という想いは、メディア作りにどのように反映されているのだろうか?

  • TEXT BY MISA HARADA
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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PVよりもCVRを重視する理由

“PV至上主義であるべき”という意見に対し、松尾さんは、どのように考えていらっしゃいますか?

信頼さえ勝ち取れば、Webメディアは絶対に失敗しないと思います。もちろんPVはすごく大事だとは思うんですが、「そのPVを生み出してくれたユーザーから本当に信頼を得られているか?」という視点が必要ではないでしょうか。

だから私としては、PVよりもCVRを重視しています。100人に1人しか信用してもらえなかったら、たとえ10万PV、5万ユーザーを獲得したとしても、商品は500個しか売れない。

一方、100人のうち10人に信用してもらえたら、1万PV、5千ユーザー集めるだけで商品は同じ数売れる。つまり、信頼できないサイトのために時間を無駄にしてしまう人も少なくなる。

CVRを重視するということは、そのサービスを本当に必要とする人をしっかり呼び込んで、その人たちに信頼してもらう筋道を立てるということです。

どうすれば人に信頼してもらえるのか、どうすれば人に無駄な時間を過ごさせないか、人を傷つけないかということを愚直に考えていきたいと思っています。

人を傷つけない、とはどういう意味でしょうか?

ビジネスというより、私自身の生き方の話になるんですが、できるだけ人を不幸にしたくないというか、『嫌われたくない』という思いがあるんですよね。だから、最大公約数的なもの、“普通”ということにすごく興味があります。

クリエイターの中には、“普通”を嫌う人も多そうです。

“普通”を意識するには、相手の気持ちになって物事を考えなければなりません。大多数に響くコンテンツをつくりたいのであれば、世の中の多くの人たちの気持ちを意識する必要があります。だから、ひらめき重視でアーティスティックな作品を生むのとは、また別のレイヤーで“クリエイティブ”な苦労があります。

たとえば『沈黙の~』シリーズ(松尾の著書)で、なぜ主人公が筋肉ムキムキなのかとか、なぜこのような展開で話が進んでいくのかとか、私はすべての要素がそうなっている理由をしっかり言えるんです。

(左)『沈黙のWebマーケティング −Webマーケッター ボーンの逆襲− ディレクターズ・エディション』松尾 茂起 (著)上野 高史 (イラスト)エムディエヌコーポレーション
(右)『沈黙のWebライティング —Webマーケッター ボーンの激闘—〈SEOのためのライティング教本〉』松尾 茂起 (著)上野 高史 (イラスト)エムディエヌコーポレーション

なぜなら“普通”を意識するためには、物事をロジカルに考える必要があるからです。この考え方は、大学卒業後に入社した舞台音楽の制作会社に叩きこまれたのかもしれません。

舞台の現場では、役者さんの演技に合わせて曲を作っていくんですが、「この曲はなんとなくこのシーンに合うと思って作りました」という説明は許されないんです(笑)。

「きみの“なんとなく”という感覚はみんなと異なるかもしれない。“みんな”が感動するためには何が必要なのかを言語化しなさい」と何度も言われてしまって。

なぜそのテンポを選んだのか、なぜそのようなメロディーなのか、といったことをひとつひとつをロジカルに説明することが求められました。

とくに若い方の場合、「面白いものを作るためには、とにかく尖らなければ」と考えがちですが、“クリエイティブ”と“普通”は両立できると。

そうなんです。みんながもっと“普通”のものを極めようとすれば、世の中のぎくしゃくしたものは絶対減らせると思うんですけど、今は世の中が逆に進んでしまっている。ソーシャルメディアが流行しているせいで、みんな目立ちたくて仕方ないんですよ。

だからTwitterで不必要な人格攻撃に走ったり、Facebookでフェイクニュース(偽造したニュース)を流したりしてしまうんです。言葉遣いひとつとっても、注目を集めるための言葉も乱用されていますよね。

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“最大公約数的な幸せ”を考えればGoogleアルゴリズムが見える

ウェブライダーのように、SEOをずっと得意分野とし、成果を上げ続けられる企業は珍しい気がします。その秘訣はなんでしょうか?

SEOを意識する前に、これからの未来、どのような検索結果が求められていくか考えることでしょうか。現状のアルゴリズムだけを追っていると近視眼的になってしまって、『中古ドメインの評価が落ちた』とか『リンクが通用しなくなった』とか、Googleのアルゴリズム変更にいちいち頭を抱えることになってしまいます。

私たちは、「世の中の人たちの最大公約数的な幸せは何か?」をまず考えるんです。おそらく今だったら、時間を最適化してあげることでしょうか。

お金よりも時間が大切な人が多い世の中だと、何か調べ事をしたとき、満足できる答えが迅速に返ってくることが喜ばれますよね。その考えをコンテンツに反映したら、Googleも評価してくれました。もし今後、モノをどんどん買うことこそが幸せである、という世の流れが来るのであれば、情報サイトよりも商品を購入しやすいようなインターフェイスに優れたECサイトが検索上位に来るんじゃないでしょうか。

SEOと聞くと、「アルゴリズムの隙間を突く」というイメージを持つ方もいますが、それは全く違うと。

はい。検索エンジンではなく、ユーザーを見ろ!ということです。世の中の人たちの行動心理、今何が求められているのかということを考えたら、Googleのアルゴリズムがどこにいきたいかが自然と見えてきます。そうすればアルゴリズムの変更で一喜一憂する必要はありません。

SEOに対するそのような考え方は、何かルーツがあるんでしょうか?

私は前職の音楽制作会社を辞めた際、「これからどのように生きていこう」と悩んでいた時期がありました。そのとき、当時ベストセラーだった『ウェブ進化論: 本当の大変化はこれから始まる』という本をたまたま読んだんです。そこからインターネットに興味をもって、独学でSEOを勉強し始めて、自分がピアノ演奏したCDをネット販売してみたら、ものすごく売れたんです。

それを見た他の人からもアドバイスを求められるようになった、というのがウェブライダーの前身です。最初は薪ストーブを販売している会社さんをお手伝いしたんですが、その会社のWebサイトも検索結果で上位表示して、薪ストーブがとてもたくさん売れたんです。

そのような体験を経て、検索エンジンで露出すれば、ある商品を求めている人に自分の商品を知ってもらえるということに感動したんです。

プッシュ型マーケティング、プル型マーケティングという言葉がありますが、プッシュ型は、極端な言い方ですが『買ってくれる人以外には嫌われてもいい』みたいな印象をおぼえてしまって、自分としてはしっくりきませんでした。

その点、プル型であるSEOは、悩みを解決したい人が検索エンジンの先にいて、その人が求めているものを届けると、とても幸せな関係が築けます。そのプロセスにすごく感動したからこそ、検索エンジンを介したマーケティングに興味をもちました。

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校閲・推敲支援ツール「文賢」はブルーオーシャンを切り開いた

ウェブライダーでは2017年10月に校閲・推敲支援ツール「文賢(ブンケン)」をローンチしましたね。これはどのようなサービスでしょうか?

日本語としての単純な誤りを指摘してくれるだけでなく、「2,000を超えるたとえ表現が用意されているので、面白い文章を書くことができる」といったユニークな機能が搭載されています。

文賢(ブンケン)紹介動画 | vimeo

言葉には、こういう場合は、こんな言葉の選び方をした方が、相手との関係が良くなるという“型”があると思っています。その型を提供できるツールがあれば、すごく求められるんじゃないかと考えました。

商売って結局“人対人”のコミュニケーションだから、言葉の紡ぎ方ひとつでお互いの関係性が大きく変わってしまう。情報をシンプルに伝えた方が相手の時間をとらなくていい場合もあるかもしれないけれど、逆にいろんな言葉を活用して、深く情報を伝えた方が相手の心に響く場合もあるじゃないですか。

個人的には「文賢」はある種のブルーオーシャンを切り開いたと思っているんです。校閲・推敲をサポートするツール自体はたくさんありますが、それらのツールの多くは、自分たちの手でコンテンツを手がけてこなかった人たちが開発したツールではないのかなと思っています。

だから、これまでにいろいろなコンテンツをつくり、伝えることを日々突き詰めて考えているウェブライダーなら、新しい切り口のツールを生みだせるんじゃないかなと。

だから「文賢」には、日本語としての単純な誤りを指摘してくれるだけでなく、「2,000を超えるたとえ表現が用意されているので、面白い文章を書くことができる」といったコンテンツの内容を充実させる機能が搭載されています。

文賢|たとえ表現機能

その他にも、「一般的には漢字で表記する言葉だけれど、この場面だったら、ひらがなの方がいいよね」みたいな提案をできるようにしています。

コンテンツ作りのためのサービス開発となると、エンジニア探しには苦労されたのではないですか?

そうですね(笑)。実は「文賢」は1人の女性エンジニアが中心になって作ってくれたんですが、彼女は元々、小説を書いていて、言葉を活かした仕事がしたいと言っていたんです。

自らコンテンツを生み出し続けていたエンジニアがうちに来てくれたのは、本当に奇跡的なことでした。彼女がいなければ絶対に「文賢」は生まれなかったと思っています。

エンジニアも、言葉に興味があることを重視して採用されているのでしょうか?

言葉ももちろんですが、コミュニケーションに興味があることを重視しています。ロジカルでありつつも、人間が抱えている複雑な感情を愛せる人。「人間の感情って不器用だよね」と言いつつも、その不器用さに愛おしさを感じられるかどうかを大切にしています。

ウェブライダーは、テクノロジーを介入させることで人間同士のコミュニケーションを促進していきたい企業です。その考えを突き詰めていくと、愛を持った人工知能を作ろうという話になるのかもしれませんが、正直、私としてはその分野にも興味があります。

愛を持った人工知能、ですか。

たとえば「今日ちょっと彼女とケンカしちゃってさー。仲直りしたいんだけど、LINEでどんなメッセージを送ったらいいんだろ?」みたいな質問をしたら、「今のタイミングでLINEのメッセージを送るのは止めたほうがいいです」とか「メッセージが冷たく見えるので、文章の最後にビックリマークを入れてください」というところまでアドバイスしてくれるAIです。最終的には「文賢」をそういうものにしたいんですよね。

コンテンツ作りやSEOが目立ちますが、ウェブライダーという企業の根底には、あくまでコミュニケーションを大事にする姿勢があるんですね。

ウェブライダーの経営理念は、「すべての人をヒーローに」。あなたという存在を世の中から見つけてもらうためのお手伝いをしますよということなんです。ヒーローになるには不必要に誰かを傷つけてはいけないと思うんですよね。

だからこそ、言葉やコミュニケーションというものが非常に大事になってくる。そこを私たちのツールやサービスがサポートしていければいいな、という気持ちで事業を行っています。

こちらの記事は2018年02月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

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