多様な経歴を持つ、2022年に就任したCTO特集──急成長するプロダクトの心臓部を任される者たちの特徴とは?
「プロダクトがプロダクトを売る時代」ともいわれる昨今、テックスタートアップにとって開発技術や開発組織の重要さは加速度的に増している。起業初期・立ち上げ初期にはPMFに向かって全速力で駆け抜け、PMFが見え始めた頃にはサステナブルな技術向上と組織拡大をバランスよく進めなければならない。そんな難しいミッションに向き合い続けるのが、CTOだ。
チームをまとめ上げ、事業の成長スピードを緩めることなく、むしろ伸ばし続けるための力こそが求められる。CEO以上に、事業成長の重責を追っていくと言っても過言ではないかもしれない。
前田ヒロ氏は「CTOの性格や強みはそれぞれ違います。どうすればアウトプットが最大化されるか、チームとして最高の状態になれるかを考える力がCTOにとって一番重要だと思います」と語る(こちらの記事から引用)。では最近就任したCTOは、どういった人物が多いのだろうか?
2022年も各スタートアップで、新たなCTO就任が見られた。その一部を紹介するとともに、FastGrow編集部が“推す”CTOとその企業を取り上げよう。
月刊『ベンチャー人事報』連載中:【連載企画】ベンチャー人事報 | FastGrow
- TEXT BY TAKASHI OKUBO
2022年に就任したCTOたち
株式会社Acompany
役員の異動(海外事業責任者ポジションの設置・CTO交代)に関するお知らせ|株式会社Acompanyのプレスリリース
田中 来樹 氏
株式会社Flaytt Securit
サイバーセキュリティスタートアップ・Flatt Security 執行役員に志賀遼太が就任
志賀 遼太 氏(プロフェッショナルサービス事業CTOを兼任)
株式会社HQ
株式会社リードエッジコンサルティング
「あらゆるモノを資産に変える」リードエッジコンサルティング、伊藤匡平氏がCTO並びNFT事業責任者に就任
伊藤 匡平 氏(CTO兼NFT事業責任者)
株式会社Shippio
Shippio、CTOに元メルカリグループ会社CTOのRyan O'Connorが就任
Ryan O'Connor(ライアン・オコナー) 氏
株式会社スペースシフト
株式会社ROUTE06
ROUTE06、CTOに共同創業者兼取締役の重岡正が就任
重岡 正 氏(共同創業者兼取締役)
GOGEN株式会社
GOGEN、CTOとして楠本朋大が就任
楠本 朋大 氏
株式会社COTEN
COTEN、社外取締役に坂倉亘、CTOに平野智也が就任
平野 智也 氏
DXER株式会社
DXER、湖山翔平を執行役員CTOに選任
湖山 翔平 氏
STRADVISION
ストラドビジョンの最高技術責任者にジャック・シム就任
シム・ジャック 氏
株式会社WE UP
WE UP、取締役CTOに門脇恒平が就任
門脇 恒平 氏
株式会社G-gen
株式会社G-gen、執行役員就任のお知らせ
杉村 勇馬 氏
株式会社ストラテジット
Priv Tech株式会社
株式会社プラゴ
株式会社トルビズオン
株式会社SmartRyde
SmartRyde CTOに Alvin Leonard が就任
Alvin Leonard 氏
ミドルマン株式会社
MIDDLEMAN、取締役CTOに脇坂友貴が就任
脇坂 友貴 氏
株式会社GO TODAY SHAiRE SALON
株式会社SIGNATE
SIGNATE、CFO及びCTO就任により経営体制を強化
宮野 恵太 氏
Micoworks株式会社
Micoworks株式会社、経営体制刷新のお知らせ
久森 達郎 氏
株式会社Rehab for JAPAN
株式会社カミナシ
カミナシ、執行役員CTOに原トリが就任
原トリ 氏
株式会社ビビッドガーデン
AI inside株式会社
AI inside 、新経営体制としてCRO・CTOを選任し収益の最大化と高付加価値なAIプラットフォーム実現を目指す
胡 為明 氏
Micoworks 久森 達郎──T2D3を軽く凌駕する“超”成長を期待させられる
「集客」から「ファン化」まで促進するLINE公式アカウント活用ツ―ル『MicoCloud』を提供するMicoworksは、CTO含む経営体制の刷新を行った。
CTOに就任した久森氏はディー・エヌ・エー、フリークアウト、日本マイクロソフトでシステムエンジニアを務め、デジタル庁の前身組織でもある内閣官房 情報通信技術総合戦略室にて政府CIO補佐官も担うなど、多種多様な技術現場を歩んできた人材だ。
プロダクトのグロース、会社の立ち上げ、デジタル庁準備など、密度の濃い毎日だったが「自分の考え得る観測範囲の外側に触れてみたい」という気持ちが芽生えたことで転職を考えた。その時にLinkedInで転職意向をオープンにしたことがMicoworksと出会ったきっかけである。事業が面白そうだという気持ちと、Micoworksから本当の手紙によるオファーレターを受け取ったことで強く惹かれたそうだ。
Micoworksは年300%という脅威のスピードで成長を続けており、いわゆるT2D3ペースで走り続けている。事業の成長とともに100人規模の組織に膨れ上がる中、どうしても様々なほころびや課題が浮かび上がった。CEOの山田氏が言うには、成長スピードを損なわずに組織を安定化させるため、そしてコアバリューとして掲げる「WOW THE CUSTOMER(徹底してお客様の感動創造にフォーカスする)」を提供し続けるためであり、今後200~300人と成長することを見越した上での意思決定だ。
プロダクトはSaaSの生命線である。MicoCloudは累計500社以上に導入され、月次継続率99.5%と顧客からの支持率も高い。しかし、目指しているのはアジアNo.1のコミュニケーションプラットフォームであり、未だ道半ばである。
久森氏は強固なプロダクト開発組織を作るため、Tech Policyを設定するなど開発に携わるメンバーがしっかりとオーナーシップを持って戦える環境作りを実行している。彼がこれまで経験してきたナレッジと、急成長を続けるMicoworksが掛け合わさった今、VCからユーザーまで多くの人々がその躍進に一層期待を抱いているのは間違いないだろう。
関連記事
Rehab for JAPAN 久良木 遼──今注目の若手CTO。科学×介護の領域で辣腕を振るう
介護領域の課題を解決するSaaSプロダクト『リハプラン』を提供するRehab for JAPAN(以下、Rehab)は、2022年1月に久良木氏をCTOとして迎えた。九州工業大学で知能情報工学を専攻した後、SIer企業で約4年働きフリーランスとして独立。その後、別の会社でも若くしてCTOを務めてきた若手のホープだ。
久良木氏が30歳になった頃にコロナが流行した。その数年前から認知症を患っていた祖母の存在も相まって「健康をどう作るか」に興味を抱き、健康寿命の大切さを知った頃にRehabと出会った。初対面の場で「エビデンスに基づいた科学的介護の実現」について熱く語る経営陣。その話に感銘を受け、自身が得意としてきた動画解析や映像解析技術を活かして貢献したいと確信。それが30代で成し遂げたい目標となり今に至る。
今回のCTO就任の背景には、Rehabがこだわるエビデンスに基づいた介護を実現するため、技術戦略や開発体制を増強し、既存サービスであるリハプランのブラッシュアップと併せて、新規プロダクトの開発やデータ分析基盤の構築が目的にある。
久良木氏が今取り組もうとしているのは、エンジニアが活き活きとエンジニアリングできる環境を作ることだ。そのためにも、開発者体験(Developer Experience)の向上が必要と考え、「エンジニアリング基盤の強化」「チームファーストな組織体制構築」「エンジニア組織文化づくり」を推進している。
「健康寿命の延伸を1秒でも早く実現するための #データ分析基盤 を構築・運用する。」をミッションに新チームを構築中です!
— 久良木遼/Q@Rehab CTO (@qchan_cto) August 26, 2022
良いものを良い組織、チームで創り上げたい #データエンジニア、#MLOps エンジニアの方お待ちしております。 https://t.co/1SqJEpfA9M
自身にしかない専門性を発揮しつつ、自身にとっては未知の領域でもある介護のプロダクトを扱う久良木氏。若きCTOが、今の日本社会の大きな課題である「高齢者の暮らし」にどのように立ち向かっていくのか期待が高まる。
Rehab for JAPANの連載ページはこちら
カミナシ 原トリ──現場を熟知した者でなければ真に強い開発組織は作れない
「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」というミッションのもと、現場DXプラットフォーム『カミナシ』を提供するカミナシは元AWSの原氏をCTOに迎えた。2022年4月に入社し、その3ヶ月後の7月にCTO就任。そんなスピード人事の背景として、「元々CTO候補としてのオファーだった」ことを本人が自身のnoteでユニークに語っている。
カミナシがCTOを探していたのはつい最近のことではなかった。BtoBのSaaSとして成長を続けていくためには欠かせない存在として、創業して1年くらいから5年ほどずっと探し続けていたという。まさに原氏はカミナシにとって待ち望んだ人材だった。しかし当の原氏は最初、転職する気は全くなかったという。だがCEOの諸岡氏とCOOの河内氏に出会い、その意向は変わった。
IC(インディビジュアルコントリビューター)として10年以上プレイヤーとして仕事を続けてきた自分に対する「CTO打診」という斬新なオファーだけでなく、経営陣2人の人柄に強く惹かれたことが大きかった。
そんな原氏の強みは、プレイヤーの目線から、プロダクトの成長に欠かせない組織体制に対する考えをしっかりと持っていることだろう。株式会社アルファドライブ執行役員CTOの赤澤氏も、そんな原氏の考えに影響され、CTOとしての心構えや役割を確信した。「経営の意思決定に技術の要素をしっかり織り込んでいくこと」それがCTOの役割だと語っている。カミナシ経営陣2人の真意の程は定かではないが、きっとこうした原氏の着眼点や影響力を期待しオファーを出したのではないだろうかと思う。そして原氏はその期待に応えるかのように、自社が抱える技術的負債の解消をするべく奔走している。
全てのSaaSに共通していることだが、創業期、成長期、安定期とフェーズが変わっていく中で最適なエンジニアリング組織の定義も変化する。こうした中で生まれる技術的負債や開発組織の課題は、経営層に技術経験がないものが多いと気づけないことも少なくない。
その点、長年プレイヤーとして地力をつけてきた原氏をCTOに選んだカミナシの戦略はきっと正しい。建設現場は2024年の上限規制に向けて、DXや働き方改革の重要度が日に日に高まっている。カミナシが建設現場の“神”プロダクトになる日はそう遠くないかもしれない。
ビビッドガーデン 西尾 慎祐──創業時からプロダクトを支えてきた一人目エンジニア
日本最大の産直通販サイト『食べチョク』を運営する株式会社ビビッドガーデンは、COO、CTO、CFOなど4名の執行役員と2名の監査役が就任し体制を強化した。CTOに着任したのは、ビビッドガーデンの一人目エンジニアだった西尾氏だ。2018年3月に入社してからビビッドガーデンの開発組織を支え続けてきた西尾氏が、肝となる開発を引き続き統括する。
ビビッドガーデンが経営体制とガバナンスを強化した背景には、やはり“急成長”がキーワードになっている。従業員は100名規模になり、開発組織は2年で約10倍だ。EC事業は、利用者にとって重要なUI/UXだけでなく、運送会社との連携などプラットフォームとしてプロダクトに求められる要素が多い。求められるものが多い上に、劇的な成長にあわせてプロダクトを改善していくのは並大抵なことではないはずだ。その様子の一端は西尾氏がCTO着任時に書いたnoteから想像できる。
巣ごもり需要によって予想以上のアクセスが発生し、様々な問題が発生した。同じ事を二度と起こすまいと採用に注力し、40人規模の開発チームを作ったが「メンバーが増えるだけでは開発がスケールしない」という次の壁に阻まれる。このままではいけないと感じ、常に事業のスピードを加速させる開発組織を作るため、技術改善も含めた対策を講じている。それが西尾氏がCTOに着任するまでのビビッドガーデンの変遷だ。
開始から5年半で登録生産者数は7,100軒、登録ユーザー数は65万人を突破したが、今のビビッドガーデンの勢いと社会課題への関心が年々高まっていることを鑑みれば、今後も利用者は増え続けるだろう。まだまだ激動のフェーズは終わらないように思える。
結果(アウトプット)ではなく、成果(アウトカム)を。ビビッドガーデンが心がける開発理念のもと、HOWに囚われずWHYを追求し成果を重視する。そんなビビッドガーデンの成長に、今後も大いに期待したい。
AI inside 胡為明(コ イミン)──AIプラットフォームの拡張とイノベーションを、技術開発で実現
読者の中ではまだ、「高品質なAI-OCRサービスを提供する企業」というイメージが強いかもしれないAI inside。もちろん今も、AI-OCRで世の中に大きな価値を提供しているのだが、文字認識AIだけでなく画像認識AIや予測・判断AIにも対象領域は広げており、グローバルNo.1のAIプラットフォームに向けた礎を整え始めている。
そんな動きを大きく加速させたのが2022年。CxO体制を一気に盤石なものとした。代表取締役社長CEOの創業者である渡久地択氏が、CPO(Chief Product Officer、最高プロダクト責任者)を兼務。加えて、元アップルの前刀禎明氏が取締役CMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)となり、元マイクロソフトの鈴木協一郎氏が執行役員CIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)に、そして元日本アイ・ビー・エムの岡田和敏氏が執行役員CESO(Chief Enterprise Strategy Officer)に就任した。
このようにユニークな体制が組まれているのだが、AIを社会に根付かせていく事業であるからには、やはり技術基盤な何よりも大切になるだろう。それを担う執行役員CTOも新たに誕生した。胡為明(コ イミン)氏だ(発表のプレスリリースはこちら)。
中国出身で2006年に来日。これまで巨大クレーンの制御システムやWebアプリケーション、認証系ミドルウェアなど、幅広く開発を経験。その後2019年にAI insideへ入社し、事業の急成長をかたちづくったエッジコンピュータ『AI inside Cube』のプロダクト開発を担った。
渡久地氏と同じく、「世界を変えたい」という想いを強く持ち、恥じらいなく堂々と口にするその姿。AI insideがグローバルNo.1になる時、胡氏は満足しているのだろうか、それとも、次なる絵をすでに描き、動き始めているのだろうか。その答えはきっと、明白だ。
私が求める世界の状態は、大きく3つです。「エネルギーをみんなに、適切利用」「貧困をなくそう」「人や国の不平等をなくそう」です。
こちらの記事は2022年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
大久保 崇
おすすめの関連記事
まだまだ希少な「事業視点を持つエンジニア」の育て方──CTO歴20年の鈴木氏に聞く組織づくり
- 株式会社ネットプロテクションズ 取締役CTO
3人のCTOが「ぶっちゃけ、爆速開発できてますか?」を語る──非連続成長続けるhacomono、10X、LayerX登壇のイベントレポート
- 株式会社hacomono 取締役CTO
「技術」と「経営」、挑む二刀流──ラクスル・新卒エンジニア第一号からCTOへ就任する岸野氏に訊く、テクノロジー×リアル産業で味わえる事業経営の妙味
- ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 CTO
これがエンジニア起点の「産業変革」のリアルだ──テックカンパニー・ラクスルのシニアエンジニアたちが実践、BizDevと共創する開発手法とは
- ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 CTO
バーティカルSaaSは“現場業務のプロ”ではなく、“業界変革のプロ”であれ──。“逆張り”で保険業界のペインに挑むhokan。CTO横塚×CPO阿部が明かす、真の顧客のペインを捉えたプロダクトの作り方
- 株式会社hokan 取締役CTO
イノベーションは因数分解できる?──オープンイノベーションをプラットフォームで実現するeiiconの「Innovation as a Service」構想。果たしてそのポテンシャルは本物か
- 株式会社eiicon 取締役副社長 Cofound
エンジニアとは、事業の“発射台”を創る存在だ──ラクスル開発TOPと考える、100年選ばれ続けるエクセレントサービスに必要なテック人材の在り方
- ラクスル株式会社 上級執行役員 ラクスル事業本部 本部長
未来の利益を生む“攻め”の開発が「基盤開発」にはある──ラクスル連続的M&A戦略の懐刀・“第3の開発組織”とは
- ラクスル株式会社 Director of Platform Engineering