未来の利益を生む“攻め”の開発が「基盤開発」にはある──ラクスル連続的M&A戦略の懐刀・“第3の開発組織”とは
Sponsored創業16年目、上場から6年が経ち、日本社会に変革をもたらしてきたスタートアップの代表格・ラクスルが今、自らを大きく変革させようとしている。
2023年8月、創業者の松本氏から元CFOの永見氏へ社長が交代。業界に大きな衝撃を与えたこのニュースの背後で、実はもう一つ、象徴的な動きがあった。印刷EC事業の開発を牽引してきた二串信弘氏が、事業部のCTOを退任したのだ。
しかし、同氏はラクスルを去るわけではない。むしろ、さらに壮大なビジョン実現のため、あえてその座から降りたのだという。もちろん、組織としてのポジティブな意思決定でもある。
新たな肩書きはDirecter of Platform Engineering──。言うなれば、“第3の開発組織”と言える「開発基盤部」を立ち上げるという。10年後以降もラクスルが非連続成長を続けるための、不可欠な役回りだ。そんな想いを、インタビュイーである二串氏は「我々が開発基盤部の立ち上げを通して成し遂げたいのは、“攻め”と“守り”の融合なんです」と表現する。
では“攻め”にも“守り”にも通ずるエンジニアリングとは、一体どんなものを指すのだろうか。そんな疑問を解消すべく、二串氏にインタビューを実施した。
事業部CTOをあえて降りたその意志や想い、創業16年目となるラクスルが今、“第3の開発組織”を立ち上げた戦略的な意図とは。
- TEXT BY AYA AJIMI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
ラクスルのプラットフォーム強化に必要だった“拡張性”と“堅牢性”
二串今回立ち上げた開発基盤部のミッションは、強固な開発基盤をつくり、プラットフォームとしての“拡張性”と“堅牢性”を高めることです。
今、満を持して最前線に立ち、プレイングマネージャーとして腕を振るって取り組む開発基盤部の立ち上げ。その意味付けや狙いを聞くと、「これこそがやりたかったことなんだ」という想いを表現するかのように、身振り手振りを交えて語る。
現在、印刷EC事業におけるカスタマイズECプラットフォームは、複数のECサイトに加えデザイン制作支援サービスや、各種基盤サービスなどで構成されている。その基盤を進化させていくためのキーワードとして出た“拡張性”と“堅牢性”という言葉に、先述の「“攻め”と“守り”の融合」の真意が隠されている。
ところで、“第3の開発組織”という言葉があるならば、当然ながら「第1・第2は?」という疑問が湧いてくるだろう。そこで、まずはラクスルの開発組織がどのような体制になっているのかを知ろう。
二串これまでラクスルには、2つの開発組織が存在していました。
1つ目は、ECサイトなどのUIを起点に顧客への提供価値をかたちづくっていく「プロダクトチーム」。最近の拡張プロダクトであるノベルティ・グッズ事業や、グループインしたダンボールワンのプラットフォーム上に見える部分の開発を担っています。
そしてもう1つは、発注と納品、決済のフローや、顧客・パートナーのデータなどを結び付けて管理する部分を開発する「基盤チーム」です。
もちろん、この2つのチームだけでも十分過ぎるほどの事業価値を創出してきたエンジニアリング組織ではあります。ですが、これからさらに連続的なM&Aでのプラットフォーム拡大を続け、非連続的な成長と変革を生むためには、やるべきことがまだまだたくさんある。そんな想いから、プラットフォーム全体の拡張性と堅牢性の向上を目的として今回新設したのが「開発基盤部」です。
具体的にはまず、ラクスルのサービスラインナップにおいてログイン時に用いるID認証基盤の統合と強化を行っています。たとえば最近グループ入りした『ダンボールワン』と従来の『ラクスル』の間では、ID連携に関わる技術仕様が古かったり、技術的負債を抱えた状態で連携しており、今後の事業成長を考えたときに拡張性に課題があります。
では、「この二つのサービスの間ではどのように統合するのがベストなのか?」「この先のM&Aまで見据えた場合に検討すべき事項は?」「そのために活用すべき技術とは?」などをゼロベースで考え、進めようとしています。似た前例は他社にもあまりないので、適切な課題設定から進める必要があり、難度が高いです。
ですがこうした取り組みが進めば、ユーザーがまだ非効率さを感じていたマイページや注文履歴などをより有機的に統合し、購買体験の飽くなき向上を図っていけます。そうすれば、ラクスルとしてさらに大きな成長ができるかもしれない。そう考えて、向き合っています。
つまり“守り”の体制を強化するんです──という言葉がここで聞こえてきそうな内容に思えるが、この言葉を二串氏が使うことはない。むしろ、ラクスルの思想として、エンジニアリングは常に“攻め”と“守り”が一体となっているのである。
利益創出はバックエンドの仕事じゃない?
そんな仕事はつまらない
しばしば、エンジニアリングにおいて使われる“攻め”と“守り”という言葉。相反し、別々の役割の概念と捉えている読者もいるだろう。
たしかに、この二項対立はイメージしやすい。“攻め”とは、新規のプロダクト開発や機能追加などにより事業を加速させること。“守り”とは新インフラ構築やセキュリティシステムの保守・運用を通して、障害や負荷を減らし、既存事業の成長を止めないこと。こう捉える場面が多くなっている。
基盤、あるいは“堅牢性”という言葉を聞いて、ラクスルのエンジニアリングは“守り”を強化した、と感じたかもしれない。しかし、二串氏らが抱くイメージは似て非なるものだ。
二串一般的には、直接的に売上をつくり事業を加速させるような仕事をわかりやすく“攻め”と呼ぶのでしょう。しかし、ラクスルではこのような区別をしないほうがいいと感じています。
「私は守りのエンジニアリングをしています」と言うと、なんだか、「稼ぐのは他のメンバーに任せている」ように見えませんか?そうなってしまうのはおかしいと思うんです。
エンジニアだって、モノを売るわけではないけれど、売上や利益の創出につながることを強く意識すべきですよね。受け身で開発するような感じになってしまうと、私は面白くないと感じます。
“攻め”と“守り”できっちり二分するのではなく、「守りの中の攻め要素」に着目することが大事だと思います。
例えば、開発環境の改善はプロダクトのデリバリースピードを早めますし、システムの継続的バージョンアップや構成の見直しはサイトの安定性を高め売上を毀損するリスクを減らします。“守り”の中にも“攻め”があって、縁の下の力持ち的に影で“攻め”を担当している。「どうやったら事業価値を高められるかな」というスタンスのほうが、私はワクワクしますね。
もちろん以前からこうした想いを抱いていたのだが、この1年ほどで、さらに強まっているのだという。
二串今回の社長交代に象徴されるように、ラクスルは今、企業として大きな潮目を迎えています。
ラクスルグループ全体としては『ハコベル』や『ノバセル』、『ジョーシス』などの内製事業が次々と立ち上がり、グロースしてきました。印刷EC事業だけにフォーカスしてみても、ダンボールワンやAmidAホールディングスのM&A、ネットスクウェアからの事業譲受などによる領域拡大を推進し、その様相が大きく変わろうとしています。
ありがたいことに印刷ECとしての『ラクスル』は、幅広い課題を解決するプラットフォームとして進化し続けています。それに伴い、これまでの在り方では解消しきれない開発課題も発生してきました。
そこで、まさに顕在化され始めた新たな難しい開発課題にいち早く対応していくために、そして今後10年以上の時間軸でスケールを続けるために、強固なID認証基盤やセキュリティ基盤を構築し続けられる体制の整備がマストだという経営判断をしたんです。
二串氏も他の経営陣も、これらの課題に気づいていなかったわけではない。以前から既存のチームが必要に応じて対処してきている。だが、事業フェーズが大きく前進する中でついに、事業部CTOだった二串氏自らがこの課題に長く深く向き合うべきだという意思決定を進めた。
二串カスタマイズECプラットフォームへの進化の過程で、ソフトウェアやアプリケーションのレイヤーでの提供価値やサービスそのものの姿が多様化・複雑化してきました。この流れは、連続的なM&A戦略に伴ってさらに加速していくでしょう。したがって、できるだけ早く強い共通基盤をつくり、良い管理や更新がされ続ける状態にする必要性が一気に高まったと認識したわけです。
事業領域が複雑化し、数多くのプロダクトチームが生まれることで、ある種の隙間も生まれてきます。我々はその隙間を埋める、全体最適を図れる存在でありたい。多様なチーム間におけるシナジーを生み出す流れをつくっていきたいと考えています。
事業が拡大したからこそ生まれてきた難しい課題の数々。それらに向き合うべく生まれたのが、“第3の開発組織”なのである。
エンジニアにしか見えない課題や価値を、組織に提言していく
ところで、なぜこの“第3の開発組織”の立ち上げを二串氏が牽引することになったのだろうか。実はその背景に、今のラクスルのエンジニアリング組織のユニークさが垣間見える。
まず、特に事業に近い部分をドライブさせる役割を担うメンバーとして白羽の矢が立ったのが、新卒エンジニアとして躍動してきた岸野友輔氏。すでにFastGrowでも3回にわたり取材を行ったキーパーソンである。これからのラクスルを担う存在として、テックリーダーシップチームを牽引し始めている。
事業成長を直接かたちづくるエンジニアリングが得意な岸野氏と、事業成長を裏から支援するのが得意な二串氏。この両輪でラクスルのエンジニアリングをさらに強固なものにする。もちろん、開発現場だけで事業成長を生み続けるわけでなく、事業責任者の渡邊建氏と、HRBPの柏山奈央氏(以前のインタビューはこちら)もこのチームに参画している。
この力強い4名が相互に影響し合うことで、より大きな力を発揮していく。そんな狙いだ。
二串先ほども言った通り、私は基盤の部分に対して強い課題意識を持っていました。ですが、事業部CTOという立場のままでは、この課題に向き合い続けるのが難しいと感じていたんです。実は正直、「どうすればいいだろう」とすら思っていた部分もあります。
そんな中、岸野がメキメキと頭角を現してきました。彼はテクノロジーの力で次々と変革を生むという、ラクスルならではのエンジニアリングを得意としており、率直に「今のフェーズなら岸野に事業部CTOを任せたほうが全体として最適だ」と感じ、引き継ぐことに決めたんです。
そうして事業部CTOという肩書が外れた二串氏は2023年8月、さっそく開発基盤部を立ち上げた。この半年ほどの間、二串氏を中心に行ってきたのが、先ほど紹介したID基盤のリニューアルに向けた企画・設計に加え、同社のシステム全体のバージョンアップ推進だ。
二串大抵の場合、新しい組織というのは、経営層や社員に存在意義を認知してもらうまで時間がかかるもの。ですが、ラクスルのエンジニアに求められるのはあくまで“変革レベルのアウトカム”ですから、そんな悠長なことを言ってはいられません(詳しくは岸野氏のインタビューを参照)。
システムの健康状態についてはエンジニア以外からは見えません。そのため、「そろそろバージョンアップを計画しないと」「リファクタリングが必要です」といった声をエンジニア自ら上げる必要があります。開発基盤部で全体を取りまとめ、エンジニアが声を上げやすいように経営に対してシステムの状態を報告したり、必要な体制をつくるといったことをしています。
ただし、まだまだ少数精鋭のチームであり、できることが少ないのも事実。これからは、開発基盤部の中での「仕組み化」に注力し、事業上のインパクトをより大きく出していけるチームにしていきます。
「ラクスルは仕上がった」は聞き飽きた。
いまだ仕組み化への道のりは遠い
ここまで見てきたように、ラクスルにはまだまだ、解くべき難しい課題が山積している。いや、ラクスルだからこそ、非常に難しい課題が山積していると表現するのが正確なのだろう。二串氏もこの点を苦笑いしながら強調する。
創業16年目を迎えるも、いまだに事業や組織の成長も著しいゆえ、仕組み化が進んだ事業・プロダクトだと認識する人も多いかもしれないが、それを同氏は否定する。
二串我々が足を踏み入れ、大きく変革していくべきレガシーな産業領域が、世の中にたくさん残っています。その一つひとつに取り組む中で、カオスな開発を楽しめる現場がこれからもずっと続いていくのだと思います(笑)。
たとえば、M&Aが続くからこそ目下の重要課題である、システムやIDの統合は、なかなか経験できるものではないでしょう。泥臭い地道な課題設定とアーキテクチャの選定、そしてひたすらコーディングを進めるというサイクルを繰り返していく現場に身を置き、道なき道を自らリードしていくというレアなチャンスがゴロゴロ転がっています。
上場後しばらく経った最近も年20〜30%の成長率を示し続けるラクスル。印刷だけでなく、物流やテレビCM、そして今後はおそらく更に別の産業も含め、デジタル化が進んでいなかった領域にメスを入れていく気概にあふれる現場が、ここにある。
事業のスケールをさらに加速させていくために、エンジニアリングの力が必要不可欠だ。特に、プロダクトのインターフェースを工夫して生み出す変化と同等かそれ以上に、基盤部分の工夫によるレバレッジが強く効いていくフェーズになるのだという想像もできる。
だからこそ、大きな事業規模と非連続的な成長が共存するこのフェーズのラクスルは、エンジニアにとってこれ以上ない刺激に満ち溢れていると言えそうだ。その証拠に、二串氏というベテランエンジニアがワクワクを隠すことなく語り続ける。
「未来の利益を生み出す」。
そんなエンジニアリングに挑まないか?
二串氏がこのチームを立ち上げたことに伴い、エンジニアの採用も今まで以上に加速している。日本企業ではまず得られない経験と業務が待ち受けるであろう、二串氏とタッグを組むこのポジションを、ぜひ具体的に紹介したい。
それは、シニアエンジニアのサーバーサイド(基盤領域)だ。そのJob Discriptionからその特徴を引用しよう。
決済プラットフォームの開発・ラクスル内EC向けの統合開発となり、新しい価値を生み出しつつサービスを止めずに進められる設計を検討し実行までお任せします。
また、これから広がっていくラクスルのプラットフォーム化推進に向けて基盤開発のリード・全体推進のアーキテクチャ設計にも携わっていただきたいと考えています。
二串ラクスルが提供するプロダクトは、複雑な構造をわかりやすく、シンプルなかたちに落とし込んだもの。だからこそ、そもそも高い技術力がなければ、求められる最低限の価値すら発揮できない環境なんです。そして、技術力の高さに応じて発揮できる価値が指数関数的に高まります。
ラクスルの大きな特徴はやはり、ビジネスと開発サイドがきちんと両輪で回りながら機能していること。そして、この規模とこの企業フェーズにあって急成長を続けているということです。
ただし、高い技術力があってこそ、ビジネスサイドと良い連携をとることができ、相乗効果で大きな価値を発揮できるものです。技術力の重要性が、さらに増していきます。
また、私がこれから取り組んでいく開発基盤部はまだまだ未熟なチームなので、テックリードやエンジニアリングマネージャーといった役割が固定されていません。そのため、特にカオスな部分が多いと思いますし、その分一人ひとりの裁量が大きく、チャレンジしがいがあるのではないかと考えています。
このように、非常にハイレベルなエンジニアたちが集まり、辣腕をふるっていくことを期待している。この思いは、組織としての考え方にも直結する。
二串もちろん、一人ひとりの価値創出もシビアに見ていきます。
というのも、事業責任者の渡邊から以前、「“守り”の開発業務を請け負うだけのチームなら不要。それは価値を創出していることにはならない」といった旨の要望をもらったんです。たしかにそうだなと。
事業成長につながるような“攻めのエンジニアリング”を、基盤というアプローチで行うべきだと考えているようなイメージです。先ほども言ったように、否応なしに対応するのではなく、未来の利益を生み出すための“攻め”の開発なんです。組織をつくって人員を配置するのであれば、常にここまでは最低限、考えていかなければなりません。
では、「採用にあたって理想とするエンジニア像はどのようなものなのだろうか」と聞くと、二串氏らしさがあふれるユニークな表現がいくつも出てきた。
二串これまでのラクスルは、プロダクトエンジニアリング──、つまり、たくさんの技術を総合的に活用して顧客の要求に合うプロダクトをつくることに注力してきましたし、それが強みでもあったと思っています。
ただこれからはそれだけでなく、特定の言語や技術に、ある意味で「偏って尖ったみなさん」とご一緒する部分を増やしたい。
先ほどもお伝えした通り、高い技術力を持つシニアエンジニアこそ、指数関数的にその価値創出が増えるような開発現場だと思います。これまでの知見や経験を活かしながら、課題設定の得意なBizDevやPdM、フロント側のエンジニアと協調して前例のない開発を進めることができる、非常に稀有な環境です。
エンジニアリングの力を試したいという想いを、ぜひ存分にぶつけてほしい、そんな環境をさらにつくっていきたい、そう思っています。
こちらの記事は2024年01月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
安心院 彩
写真
藤田 慎一郎
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