新規事業を“形だけ”にしないために。
アフラックに学ぶ、コアバリューを体現するオープンイノベーション

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大企業の新規事業は、既存事業とのシナジーを生み出せず、“形だけ”になってしまうことも少なくない。その要因のひとつとして、企業理念やビジョンが反映されていないことが挙げられるだろう。

では、企業理念やビジョンに紐づいた新規事業はいかにして可能となるのか。そのヒントは、アフラックがローンチしたSNSサービス『tomosnote(トモスノート)』から得られるかもしれない。

tomosnoteは、「がん経験者支援プラットフォーム」の第一弾として生まれたSNSサービス。「出会う」「記録する」「共有する」「情報を得る」の観点から、不安や悩みを抱えるがん経験者と家族をサポートするものだ。

2017年のがんによる死亡者数は、国内で約37万人。罹患者数は110万人を越えるとされており、「国民病」とも呼ばれている。その現状に立ち向かうべく、アフラックが創業50周年に向けて策定した「Aflac VISION2024」で掲げた「『生きる』を創るリーディングカンパニー」への第一歩として、tomosnoteが生み出された。

「患者の声」に耳を傾け、多数のステークホルダーを巻き込みながら、サービス開発は推進された。その経緯を紐解くと、コアバリューを体現する新規事業づくりのポイントが浮かび上がってきた。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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事業アイデアの源泉は、「生きるための保険」のリーディングカンパニーだから知る“患者の声”

1974年に日本へ進出し、国内初のがん保険を発売して以来、市場をリードしてきたアフラック。現在、がん保険・医療保険をはじめとする「生きるための保険」の保有契約件数は国内トップ。日本で最も、がん経験者の実情を知る企業とも言えるだろう。

アフラックはtomosnoteを作る出発点として、数多集まったがん経験者の声に目を向けた。中でも、患者たちの「同じような経験をした患者に出会いたい」へのニーズだ。

がん経験者は、身体、こころ、お金、仕事など、さまざまに不安や悩みを抱えている。とりわけ、医療技術の発達により入院する期間が短くなり、患者同士の交流の機会が減ったことで、「孤独」は深刻な問題となっている。

「同じ抗がん剤を服用している患者と、副作用について情報交換がしたい」「情報が膨大で、本当に必要な情報が分からない」……それらを共有できないまま、孤独を感じてしまう患者は少なくない。

だからこそ、似た経験を持つ者同士がつながり、情報交換やコミュニケーションを取る場があれば、多くのがん経験者の救いとなるはずだ──そんな確信がアフラックにはあった。

救いの場をつくることが、がん保険のトップシェア企業として果たすべき社会的責任であり、自らのブランドプロミスである「『生きる』を創る。」につながると考えたのだ。

そうして生み出されたtomosnoteは、がん経験者が自身と近い状況にある人を見つけたり、想いや経験をつぶやく場となっている。がん経験者であれば、誰でも匿名でコミュニティに加わり、治療法や生活に関する情報と出会える。

tomosnoteには、「近しい人と出会う」「悩みや治療の記録を書く」「気持ちや経験を共有する」「お役立ち情報を知る」といった機能を実装。ローンチ後も「体験談インタビュー記事の配信」や「掲示板」を追加するなど、拡充させている。

実際のサービス画面。ユーザーが気持ちをつぶやいたり、情報交換が行われたりしている。

がんの種類や診断時期、家族構成などをもとに、「似た境遇で少し先を行く」患者とのマッチングを実現している。その出会いが、行動の指針や目標を与えてくれるのだ。

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若手主導で新規事業が生み出されるのがアフラックらしさ

tomosnoteは、アフラックが2018年8月に設立した「アフラック・イノベーション・ラボ」から生まれたサービスだ。新規事業の推進を目的としており、以前にFastGrowでも中核を担う若手社員へ事業創出のリアルを聞いた

オンライン申し込み専用の健康増進型保険「アフラックの健康応援医療保険」の商品化をはじめ、Fintechを活用した新サービスの開発にも力を入れている。

最短5分で保険料を受け取れる「即時支払いサービス」や、生命保険業界では初めての「現金受取サービス」も開発。保険金の返金などを、セブン銀行ATMやセブン‐イレブンのレジで、24時間365日受け取れるようにしたものだ。

tomosnoteの原型となったアイデアも、同拠点内のプロジェクトチーム「新たな価値の創造タスクフォース」から生み出された。

「新たな価値の創造タスクフォース」は、「現行の生命保険ビジネスの枠組みに捉われず、中長期的な発想でイノベーションを検討すること」を目的に据えていた。社内公募で集まった新規事業案をチームで審査し、経営陣との協議を経て、事業化を進めるアイデアを決定した。

新事業候補を選定する際に最も重視されたのは、コアバリューの中核を成すアフラック創業時の想い「がんに苦しむ人びとを経済的苦難から救いたい」の継承だった。また、コアビジネスであるがん保険との親和性なども考慮し、選定が行われたという。

その7つのアイデアに、tomosnoteも含まれていたのだ。推進チームを設け、ローンチを目指してプロジェクトが動き出した。

出展:Pixabay

tomosnoteの原型となるアイデアを生み出し、サービスの企画・推進を担当しているのは、2009年の新卒入社メンバーだ。アフラックに限らず、大企業であれば「若手」とされる入社7年目のメンバーが、新規事業を生み出したのだ。現在は3名からなる少数精鋭で、新たな価値を生み出すために奮闘している。

コアバリューを体現する新規事業の創造は、バリューを提供すべきユーザーの声に耳を傾けることから始まる。既存の生命保険事業では満たせていないニーズを汲み取り、形にしていく。

その際に心がけるべきは、自社のみで手がけようとしないことだ。業界内外のあらゆるステークホルダーと共創していくための“巻き込み力”が必要になる。

「『生きるための保険』のリーディングカンパニー」として、新たな商品を生み出してきたアフラック。見据えるのは、「『生きる』を創るリーディングカンパニー」への飛躍だ。tomosnoteは、その取り組みのひとつに過ぎない。社会を巻き込みながら、アフラックの「『生きる』を創る。」ための挑戦は続く。

こちらの記事は2020年03月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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